【完結】ファイアーエムブレム 烈火の剣~軍師と剣士~ 作:からんBit
ハングは以前よりハウゼン様亡き後はキアラン領をオスティアに統治をしてもらうように話を進めていた。有力者への根回しや、仕事の引き継ぎ作業も既にあらかた終えている。
葬儀やそれにまつわる雑務を終えれば、キアラン城はすぐに以前と変わらない落ち着きを取り戻していた。
唯一変わったことといえば、ハングとリンディスが同じ部屋で寝て、同じ部屋で起きるようになったことぐらいであった。
「ハング、今日は訓練場に付き合って」
「はいはい、どこへでも付き合うよ」
ハングがリンディスと共に訓練場を訪れると、ケントがちょうど休憩を宣言するところだった。
「これはリンディス様とハング様」
「俺に『様』なんかつけるなよ」
「いえ、ハング様は今やキアラン侯爵夫人です。これぐらいの敬称は当然でしょう」
「・・・名目上だ。それももう終わるんだし、せめて『殿』にしてくれないか?どうにもこそばゆい」
「ご命令とあらば従いましょう」
「・・・俺、ケントを怒らせるようなことなんかしたか?」
「いえ、そういうわけではありません」
ハングはセインが『あいつは頭が堅すぎる』と言っていた意味を最近ようやく理解してきた。
周囲を見渡していたリンディスであったが、探していた人物がおらず、ケントに尋ねる。
「ファリナ姉さんは?」
「ファリナなら巡回に出ています。もうじき戻ってきますよ」
その時、別の場所で訓練をしていたセインが戻ってきた
「おおお!!リンディス様おベらナアア!!!」
登場するなり退場してしまったセイン。
キアラン城に雇われているフィオーラの見事な投げ技であった。
それを横目にリンディスはなんでもなかったように話を続ける。
「ケント、みんなの予定を聞いておいてくれる?近いうちに、みんなで少し話がしたいの」
「わかりました。セイン!貴様はどうだ?」
「こ、今夜が・・・あ、空いてます・・・」
「フィオーラ殿は?」
「私も今夜でしたら大丈夫です」
この分だと、今日の夜にでも集まることになりそうだ。
ハングはそう思いつつ、セインの頭を踏みつけていた足を離した。
「リン、用事は終わったか?」
「ええ。だから、次に行くわよ」
「了解」
意気揚々とついていったハングであったが、次に連れてこられたのが多忙化している文官達の執務室であったため、その顔からすぐに表情を消した。
「それじゃあ、ハングを置いて行くから。存分にこきつかってあげて。夜には回収に来るから」
「ありがとうございますリンディス様!ささっ!ハング殿!こちらにすぐさま取り掛かっていただきたい案件が・・・」
「おい待て!こっちが先だぞ!!」
「ハング殿!!こっちを手伝ってください」
「ハング殿!!例の件ですが」
「くそったれぇ!!俺はもうすぐこの国の人間じゃなくなるんだからこういう仕事にはもう手を出さねぇってあれほど・・・」
ハングの悲鳴を聞きながら、リンディスはクスクスと笑いをこらえて扉を閉じたのだった。
――――――― ※ ――――――― ※ ―――――――
その日の夜にはハングを含めて昔の仲間達が集まることができた。
「それじゃあ、改めて。ハングとリンディス様の結婚を祝して。乾杯!」
セインの音頭に合わせて木のジョッキが打ち合わされる。
二人の結婚式の後は色々と慌ただしくなったため、昔の仲間がこうして集まるのは久しぶりであった。皆の話題は当然のようにあの時の結婚式のものへとなっていく。
「ウィルが緊張しすぎでさ。手袋受け取る時ずっと震えてんやがんの」
「緊張すんのはしょうがないだろ!」
顔を真っ赤にするウィルを見て、ファリナがケラケラと笑う。
「私達のところからでも震えてるのがわかったよ。あれでみんな笑っちゃって」
「ファリナもやってみろって!めっっちゃ緊張するから!!」
ひとしきり笑い合い、そして話題は先のことへと変わる。
「お二人はこれからどうするんですか?」
ケントがハングとリンディスに向けてそう言った。
「皆はもうなんとなく察してると思うのだけど・・・」
リンディスがそう言うと、セインとウィルは曖昧に頷いた。
「帰るん・・・ですね」
「ええ、私は・・・サカの民だもん」
キアランをオスティアに任せることを発表したのは生前のハウゼンであった。
リンディスの今後については正式な発表はしなかったが、多くの人がそのことを知っていた。
『皆は理解してくれる』
ハングにそう言われていたが、リンディスの中にはキアランから離れることに対してわずかに罪悪感が残っていた。
「ごめんなさい・・・無責任な・・・公女で」
「謝ってはだめですよ、リン」
「え?」
そう言ったのはフィオーラだった。
「リンが謝らなくていいように。ハング殿が奔走してくれたんです」
「・・・フィオーラ姉さん・・・」
「リンが謝ってしまえばその努力が無駄になります。だから、リン。謝ってはだめですよ」
「・・・・・・はい」
「よろしい」
そんな二人の会話を聞き『間違いなく彼女はリンディスの姉でもあるんだな』と、ハングはそんなことを思った。
「セイン、お前本当にいい女捕まえたな」
「いやぁ、そうでしょうそうでしょうとも!実は最近はフィオーラさんからもスキンシップを取ってくれるようにダギャアアカアガ!」
何かを口走ろうとしたセインが顔を真っ赤にしたフィオーラに吹き飛ばされる。
なんだかんだ言って二人の仲も少しは変わってきているようであった。
それに比べてケントとファリナの進行はまるでない。
ケントが鈍くて、ファリナが恋愛に慣れてないから全く進展しない
二人でいる時間は大分長くなっているらしいが、それが何か変化を産んだかといえば首を傾げるばかりだった。
「そんで、セイン、ここがオスティア領になったらどうするんだ?」
「お、俺ですか・・・」
椅子に這い上がってきたセインは酒を口にしてなんとか身体を起こした。
「俺は除隊するつもりですよ。俺が仕えるのはあくまでキアラン侯爵家ですから」
「で、行く先は?」
「イリアです!!!」
高らかに宣言するセイン。
その辺りはもう誰しもが予想できていたことなので、深く突っ込みはしなかった。
「ケントはどうするんだ?」
「・・・そうですね・・・私も二家に仕えるというのには少々抵抗がありまして・・・ですが、このキアランの今後も気になりますし・・・ヒース殿も除隊してしまい、隊長となれる者が今の中ではいないのも・・・」
「そこは気にするな、次期隊長の候補ぐらいはこっちで把握してる」
「そうなのですか?」
「これでも、侯爵夫人だからな」
ハングは少し笑い、真面目な顔に変わる。
「ケントは何かしたいことはないのか?」
「・・・そうですね・・・」
ケントは考えるように目を瞑り、苦笑いを浮かべた。
「・・・ないですね・・・私は今までキアラン家に仕えることだけを考えていましたから・・・そうですね・・・『したいこと』と言われると・・・なかなか・・・」
「お前は根っからの騎士なんだな・・・それが悪いとは思わないがな・・・」
騎士は誇りを胸に大事なものを護る者。
キアラン家という護る対象がなくなり、今はどう動いていいかわからなくなっている。
ケントも騎士として変わっていくべき時期なのかもしれない。
ハングはふとファリナを横目で見た。
彼女は難しい顔をしながらジョッキの中の酒を睨んでいた。
水面に映る自分の顔でも睨みつけているようだった。
このままでは埒が明かないだろうと思い、ハングは一つ提案をしてみた。
「ケント・・・自由騎士とかになる気はないか?」
「自由騎士・・・ですか?」
『自由騎士』とは特定の誰かに仕えることなく、給金をもらって自らの武力を提供する騎士達の総称だ。
やっていることは傭兵と変わりないが、騎士として受勲したことのある者に対しては敬意をもってこの呼称が使われる。
ハングの提案にファリナが勢いよく顔をあげた。
「そ、それならイリアに来たらいいよ!仕事もあるし!わ、私だって・・・そろそろイリアに帰るし・・・」
「ファリナ、君の契約が終わるのはまだ先のはずだが・・・」
「うっ・・・そ、そうだけど・・・」
ハングは隣のリンディスを小突いた。
その意味を的確に悟ったリンディスはハングに似た不敵な笑みを浮かべた。
「となると、ファリナ姉さんは違約金を払ってイリアに帰るつもりなのかしら?結構な額になりますよ?」
「うっ・・・うううう・・・」
悶絶しだすファリナ。
ハングとリンディス、そして状況を正しく理解したセインは笑いをこらえるのに必死になっていた。
「・・・違約金・・・違約金は・・・ううう・・・」
「・・・ファリナ?大丈夫か?」
「ケントさんの話なのよ!!一緒に悩んでちょうだい!」
「そ、そうなのか?」
「そうなの!私と離ればなれになってもいいの!?」
「いや・・・それに関しては私がキアランに残ればいいだけではないのか?」
「へっ?・・・あれ?で、でも・・・えと・・・そうだ!ケントさんは傭兵になるんでしょ?」
「そうと決まったわけではないが」
「そうね・・・あれ?なんの話だっけ?」
『違約金』
その言葉で色んな事が抜け落ちるというのは、ファリナらしいと言える。
この二人は絶対に今後苦労するだろう。
だが、経験豊富なセインが隣にいるならば変にこじれることはないだろう。
そんなことを思いつつハングとリンディスは笑いあった。
「ん?みんな何がおかしいんだ?」
キアランに残ることを決めているウィルは首をかしげるばかりだった。
――――――― ※ ――――――― ※ ―――――――
城門前。
「・・・さて・・・準備はいいか?」
「ええ・・・」
ハングとリンディスは自分達の荷物を馬に積み込んだ。
その馬はリンディスと共にハングが旅立った時にサカの草原から連れてきたあの馬だった。少し年老いた馬だが力強さはまだ健在だった。
ハングとリンディスはここからまた、二人の旅を始める。
向かう先はサカの草原。
見送りにはレーゼマンをはじめとした文官やケント達も集まっていた。
「うおぉぉぉん!うおぉぉぉん!」
ワレスはまた泣いていた。
二人の前に立った宰相のレーゼマンは深々と頭を下げた。
「・・・リンディス様、ハング様・・・お世話になりました」
「レーゼマンさん!顔をあげてください!」
ハングが慌ててそう言うが、レーゼマンは顔をあげてくれない。
それだけ彼の二人に対する感謝の念は大きかった。
後継者争いで無茶苦茶になりかけたキアランを正し、その後の度重なる戦火においてもキアランをすんでのところで救ってもらった。そんな二人にレーゼマンは感謝してもしきれなかった。
ハング達はレーゼマンから再三にわたって感謝の言葉を受け取った。
そして、レーゼマンが顔をようやく上げれば次は他の文官や武官たちからの御礼の嵐だ。彼等の手を一人一人握り、顔をあげてくれるまで根気よく宥め、ようやくハングとリンディスは昔の仲間達に囲まれた。
ウィルはハングの右手を握り、上下に何度も振った。
「ハング、俺!お前と出会えてよかったよ」
「俺もウィルと出会えて・・・よかったのかな?」
「うわっ!ひでぇ!」
「冗談だ。お前に会えて本当によかった」
「ほうほう、どんなふうによかった?」
「・・・・・・・・・」
「おい!!」
ウィルを毎日からかうのもこれが最後かと思うと少しさびしいハングであった。
その隣ではセインがリンディスの手を握っていた。
下心が無い彼の握手を見るのは久々であった。
「リンディス様、ハング殿と喧嘩したらいつでもイリアにいらしてください!フィオーラさんと一緒に味方になりますよ!!」
「セインに味方になられてもね・・・」
「ああ、つれない態度もステキです」
「セイン、フィオーラ姉さんが向こうで怖い顔してるわよ」
ウィルと入れ替わりにケントがハングに握手を求めた。
「ハング殿。私もイリアに行くことにしました。ファリナと・・・セインに誘われまして」
「へぇ、ってことはまたセインとの相棒関係は続くってわけか」
「そうなりますね」
「・・・そっか・・・そういやファリナの違約金はどうするんだ?」
「『そんなものいらない』とおっしゃったのはハング殿ではなかったですか?」
「そうだったかな」
そして、ハングは最後にケント達と拳を合わせた。
「ハング、また会おうぜ!」と、ウィルが言う。
「こちらからも会いにいかせてもらいます」と、ケントが珍しく笑顔を見せた。
「ハング殿!俺達の絆は永遠に不滅だぜ!!」と、セインがとりあえずカッコよさそうなことを言っていた。
ハングは「おう」とだけ返事をしてお互いの拳を打ち合わせる。
「いいな、男の子って」
そう言ったリンディスの脇をファリナが肘で突いた。
「リンも乙女になっちゃってまあ」
「ファリナ姉さんだってそうじゃないですか」
「うっ・・・まあ・・・確かに」
わずかに頬を染めたファリナ。
フィオーラはそんな二人に柔らかな笑顔を向けた。
「リン。いつでもイリアに遊びに来てね」
「はい、必ず行きます」
そして、ハングとリンディスは最後に集まってくれた皆に向けて頭を下げた。
「長い間、お世話になりました」
「また、いつでも帰ってきてください。ここは、お二人の故郷ですから」
「はい・・・」
レーゼマンの言葉に色々なことを思い出す。
リンディスと共にここを目指し、一度はここで別れ、そして危機に駆け付けた。
そんな城にハング達は背を向けた。
「リンディス様!!」
「ハング様!!」
その時だった。
「お幸せになってください!」
「またいつでも帰ってきてくださいね!」
「リンディス様!お元気で!」
「ハング!!姫様泣かせるんじゃねぇぞ!!」
「リンディス様!万歳!!」
「ハング殿!万歳!!」
城門から続く城下町。
そこに何人もの人が見送りに来ていた。
「・・・ハング・・・私泣きそう」
「俺もだ」
ハングとリンディスが歩を進めると、布で作った造花が頭上から降り注いだ。
「ハング様!お幸せに!!」
「リンディス様!笑ってください!」
「ハング殿!」
「リンディス様!」
「お二人の旅立ちに祝福を!!」
どこかから鐘が鳴り響く。
頭上を飛んでいく鳥は草原の方向へ飛んでいくのだった。
「ハング・・・」
「ん?」
「私達・・・幸せだよね」
「ああ・・・そうだな」
「こんなに・・・幸せになっていいのかな?」
「さぁな・・・でも・・・悪くないだろ」
「うん・・・」
二人は多大な祝福を受け、キアランを後にしたのだった。
それから、幾年の年月が流れた。