【完結】ファイアーエムブレム 烈火の剣~軍師と剣士~   作:からんBit

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6章~誇り高き血(前編)~

アラフェン領主の居城に見下ろされるようにしてその町は存在していた。

町は常に賑わいを見せ、争いとは無縁そうな穏やかな場所だ。焼き石で作られた建物はどれも生き生きとしており、路地裏では子供達が走り回り、市場に行き交う人達の笑顔は途絶えることがない。今、この街に来た人は十人中九人が豊かで穏やかな活気に満ちた良い町だと言うだろう。

 

だが、その片隅

 

「リンディスがこの街に近づいているとの報告が入った。騎士二人にペガサスナイトが一人。あとは歩兵が5人、その内で戦力になるのは斧使いと弓使いの2人だ」

「街で直接動けば警備隊を敵に回すことになる。なにか、別の事件で注意を引きつける必要がある。それにアラフェン領主だ・・・」

「ならば、常套手段といくか」

 

不穏な風はすぐそこまで迫っていた。

 

 

そして、この町を良い町と称さない十人の中の一人。

 

この町は少し嫌な気配がする。

 

そう、言ってのける軍師に導かれた一団がアラフェンの道を作る石畳を踏みしめた。

 

「ここが、アラフェン。本当にすごい賑やかね」

 

街に入った途端にリンが馬から降りた。彼女は早くも興奮しているようだった。

ブルガルでもそうだったが、リンはこういった賑やかな場所が好きらしい。それは草原育ちの反動のようなものだろう。人の多い場所が物珍しいのだ。

 

「うっはー!なぁハング!俺、自由行動していいか?なんか、ワクワクしてきた」

「ウィル、落ち着け。しばらくお前は俺らの周囲にいろ」

「えー・・・」

 

文句を垂れるウィルにこっそりとハングは耳うちした。

 

「お前は黙って弓に弦はってろ。すぐに必要になる」

 

ウィルの目の色が変わった。

 

「ハング!それって!」

 

思わず大きな声をだしたウィルにハングは小さく声をかけた。

 

「あんま、興奮すんなよウィル。賑やかな街にあてられてんじゃねぇ。黙って周囲を見渡してろ」

 

その声に余裕の無さを感じ。ウィルは言われたとおりに弓を取り出した。

その様子を見ていたドルカスもまた、手荷物の中の斧に手を伸ばしかけていた。

 

「ハング・・・」

「ドルカスさんも俺らについてきてください。なんだか嫌な予感がする」

 

そう言った、ハングにドルカスはかすかに笑った。

 

「なに笑ってるんですか?」

「予感などと言うな。ある程度の事実に基づいた確信が無いと、お前は動かん」

 

ハングはすこし頭をかいた。

 

「まいったな・・・」

 

軍師とは軍の要。

人となりを見破られるのはあまり良いことでは無い。

 

「年の功という奴だ。俺はどうすればいい?」

「フロリーナの側に、城の方角に注意を」

「任せろ」

 

ウィルとドルカスが気を張り詰める中、町の大きさに見惚れていたリンがふと何かに気がついたかのように振り返った。

 

「ハング、エルクとセーラが見当たらないんだけど」

「ついでに言うとケントもいねぇぞ」

「あ、本当ね。ハングの指示?」

「ケントは確かに俺の指示だが、セーラとエルクは知らん。まったく、どこ行きやがった。このクソ忙しくなる時に」

「え?どういうこと?」

「リン、武器はもってるな?」

「え、ええ」

 

ハングは少し目元に険しさを滲ませた。

 

「少し、笑ってられない事態になりそうだ。今すぐ仕掛けてくるかどうかはわからんがな」

 

ハングの声に真剣な感情を読み取って、リンは緩んでいた気持ちを引き締めた。

 

「ケントは先に城に行かせた。少し失敗だったかとも思ってる」

 

ハングは傍目には落ち着いているように見える。

だが、リンにはハングが焦ってるように見えていた。

 

それは、握りしめたハングの拳だったり、少し大股で歩く姿だったりする彼の癖のようなものであった。ハングは平常心でいられない何かを感じているようだった

 

だが、その緊張感は突如として破られた。

 

「おー!そこの美しいお方。あなたの名前をぜひ教えてください!」

 

セインが道端に跪いていた。

 

「ぶっ殺したろか・・・」

 

ハングの物騒な声に、隣にいたリンは少し苦笑い。

 

「はぁ・・・ま、あいつはいっか。いざとなったら働いてくれるだろう。それに、町中で急に仕掛けてくるとは思えない・・・」

 

そう言ったハングの声は心なしかさっきより少し丸くなっていた

 

「あ、あの・・・」

 

そんな折、ペガサスを引き連れたフロリーナがハングとリンに近づいてきた。

隣には指示通りにドルカスもいる。

 

「フロリーナ、どうしたの?」

「あ、あのね。リン、ヒューイが少しおかしいの」

 

ヒューイとはフロリーナのペガサスの名前だ。

 

「おかしい?どんなふうに?」

「なんだか、妙に興奮してて・・・なんだか、落ち着きがなくて。こんなこと、今まで無かったのに」

 

ハングの目からはヒューイの姿はいつもと変わらないように見える。

だが、フロリーナの意見を無視することはできないとハングは判断した。

 

「多分、空気が悪いんじゃないか?空を飛ぶ奴らってのは風とかそういうのに敏感だって聞いたことがある」

「へぇ~そうなんですか?」

 

ウィルが興味を示した。ウィルは背中にある弦を張った弓をなるべくフロリーナの死角にするようにして近づいてきた。ウィルなりの気遣いだった。

 

「俺はペガサスは専門外だから細かいことはわかんねぇけど。どうなんだ?」

「は、はい!そ、そそそうです」

 

なんだか、怯えられてるような気がした

 

「今日のハングは顔が怖いのよ。すこしは気持ちを落ち着けなさい」

「む?そうか?」

 

自分の顔を少し揉むハング。その仕草は猫が顔を洗うような仕草に似ていて妙に愛嬌があった。

 

「ペ、ペガサスは羽根で風を感じてるので、空気が汚れてると違和感を感じるんです。せ、戦闘中にこの子が気になるほどでは無いんですけど。少し手綱を調整しなければならないんです」

 

顔から手を離したハングは人差し指の先を舐めて風を調べた。

 

「風は城のほうから流れてるな。なんだろ?」

 

ハングたちはなんの気もなしに、アラフェンの城を見上げた。

ちょうどその時だった。

 

「リンディス様!」

 

城のほうからケントが馬に乗ってこちらに向かってきていた。

側に来たケントはすぐさま馬から降りた。

相変わらず、生真面目な奴だ。

 

「リンディス様!城に参りましょう。ここの領主殿に、キアランまでの道中の援助を承知していただけました」

 

そのケントの台詞に皆の中に皆の中に驚きと喜びが入り混じる。ここから先、ラングレンからの刺客が大量にやってくることをハングから聞かされていた彼らからすればこれは朗報であった。

 

「・・・ここで、少しなり兵を借りることができれば、キアランまでの道中はかなり安全なものになります」

 

ケントはそう言ってリンに頭を下げる。

 

「これまで、不自由な思いばかりさせ、本当に申し訳ありませんでした」

「そんなこと・・・」

 

まだ、こうやって臣下に頭を下げられるというのに慣れないリンである。

皆の顔に喜色が浮かぶ。

 

その中に一人例外がいた。ハングだけは少し難しい顔をしていた。

 

「ケント、ここの領主は俺達を助けてくれるのか?」

「はい。ここアラフェンは、昔からキアランと親交が深い土地です。アラフェン候に事情をお話ししたところ、力添えを約束して下さいました」

 

それは喜ぶべきことであった。ここから先、ラングレンの刺客が増えていくことは自明であった。兵を貸してもらえるのはありがたいはずだ。

 

なのにハングの表情は固い。

 

ハングは頭を強くかきむしった。今のハングは焦っているというよりも苛立っているように見えていた。

 

「ハング?」

 

リンはその姿に不安を掻き立てれられた。喜びに浸っていた他の皆にもそれは伝播していく。

 

なにか問題があるのか?もしかして戦闘になるのか?兵を借りることに危険があるのか?

 

私達は生き残れるのか?

 

一同の中に様々な疑問が駆け巡る。

 

ただ一人だけ、そんなハングの様子を察することをしない男がいた。

 

「それだったら、ここから先は楽ができるな!いやー!よかったよかった!」

 

頬にモミジを叩き込まれたセインが陽気に頷いていた。どうやら先程の女性にお茶のお誘いをしたのは失敗だったらしい。

 

そんなセインを見たハング。

 

「ん?ハング殿、俺の顔になにかついてます?」

「失敗の痕がありありとくっついてる」

 

うろたえるセインを尻目にハングは毒気を抜くかのように息を吐き出した。

 

「まぁ、なんとかすりゃあいいか・・・」

 

ハングはそう言った。

その真意を汲み取れた者はいなかった。

だが、ハングの表情が緩んだので皆も安堵の息を吐き出した。

 

その姿を見渡したハング。彼は何かに気が付いたかのようにハッとした表情を見せ、すぐさま自嘲するように笑った。そして、誰にも気づかれないようにハングは小さく息を吐いた。それは、小さな溜息だった。

 

「・・・・・・・・」

 

そんなハングの様子を遠目にリンが眺めていた。

 

ハングは軽く首を回して気持ちを入れ替えた。

 

「ケント、少し聞きたいんだが」

「はっ!なんでしょうか?

「ケント、俺はこの先の税関を通る際の偽造書類を作ってくれるように頼めと言ったよな?」

「は、はい」

 

確かにケントはそういった指示を受けて城に向かった。

だが、その指示を達成することはできなかった。

ケントの背中に緊張が走る。今のところ、ケントはハングの雷を受けたことは無かったが恐ろしさはよく知っていた。

 

「偽造書類?ハング、どういうこと?」

 

リンがそう尋ねる。

 

「こっから先、ラングレンの密偵がうようよしてる。それに感付かれないようにできるだけ内々にキアランに入りたかったんだ」

 

ハングとしては普通の旅人としてキアランに入って、城に忍び込むようにしてキアラン候に会えればそれが一番だった。余計な戦闘はしないにこしたことはない。

 

「で、ケント。なんでこんな話になったんだ?」

「侯爵様は私兵を道中に付ける、と。それならば密偵に知られても戦闘を楽に進めると仰ったので」

「ったく・・・だから、ここの侯爵は無能なんだよな・・・大人しく奥に引っ込んでりゃいいものを・・・出しゃばりやがって」

 

ハングは眉間に皺を寄せて不快感を露わにする。

 

「まぁ、いいや。仕方ない・・・ああ、それと。そんなにケントはビビるなよ。仕事に失敗したからって俺はそうそう怒ったりしねぇから。今回は予想外の戦果が得られたとも言える。ケントは有能だよ」

「『ケント』は?ですか?」

 

セインがそう言った。

 

何を言ってんだこのバカ野郎は?という目をハングが向ける。

 

「ああ、まぁ・・・セインも、かな」

 

見事な棒読みであった。

 

「そうでしょうとも!」

 

これ以上は面倒だったので、ハングは何も言わなかった

 

その時だった。

 

「たっ、大変だ!城が燃えているぞぉっ!」

 

町中に叫び声があがった。

 

「戦争だぁ!戦争になるぞ!」

「キャアーー!」

 

方々からあがる悲鳴。突如巻き起こる混乱。

 

「なんだ?どうしたんだ?」

「うろたえんな!」

 

セインに一喝し、ハングは周囲を見渡した。城からは黒い煙がもうもうと上がっていた。何かが焼ける臭いがここまで漂ってきている。周囲からはあちこちから警邏の兵隊が表通りに飛び出し、城へと一目散に戻っていく。

表通りから見える城門には見覚えのない鎧を着た兵隊が居座っていた。

 

「なんだ!あいつらは!?」

「ベルン兵よ!ベルンが攻めてきた!」

「違う、あれは山賊だ皆殺しにされる!」

 

混乱が混乱を呼び、阿鼻叫喚が連鎖して広がっていく。

そんな中で警邏をしていたアラフェン軍がそいつらと交戦を始めた。

 

ハングは全員に道の真ん中に固まるように指示を出した。

 

「ケント!セイン!警戒を怠るな!この町を脱出する!!」

「了解だ!」

「わかりました!」

 

戦闘体制に入った二人。町中の入り組んだ地形ではどこから奇襲を受けても不思議ではない。とにかく、逃げることが最優先だった。

 

だが、一瞬ハングの頭に疑問が掠めた。

 

城の大きさに比べて煙が少なくないか?

 

ハングは空を見上げ、そう思った。彼の頭の中に情報が交錯しだす。

 

ヒューイが感じた違和感は城から煙があがる前だった。ということはあの煙自体はさっきからずっと流れていた?じゃあ、なんで今になってあんな半端な煙があがっている?

 

考えられる理由はなんだ?

 

恐怖を煽る演出か?誰に対して?なんの為に?

 

疑問はまだある。城壁付近に派手に現れた敵兵だ。なんでわざわざ城壁の上という有利な場所を捨てて下で戦っているんだ?城を確保したいのなら城門を落とせばいいはずだ。まるで、街の警備隊に見つかって騒ぎを大きくしたたいみたいじゃないか。

 

もしそうなら・・・何のために?

 

ここまでのことがハングの頭を巡るのはほんの瞬きをした間だった。そして、ハングの冷や汗が吹き出したのはセインが馬に乗ろうとした時だった。

 

ハングは一つの結論に達していた。

 

それは、陽動。

 

ハングが剣に手をかけて振り返る。ハングが視線を向けた先、斧を取り出したドルカスの向こうに1人の男が立っていた。ハングはその男から殺気を感じた。その男がリンに向かって突進していく姿がフロリーナの天馬の羽ばたきで見え隠れする。

 

「リン!後ろだ!」

 

ハングは声を張り上げた。

 

「えっ?」

 

リンが振り返る。その時にはその男が構えた短刀が彼女の目前まで迫ってきていた。

 

ハングの見ている世界が色を失った。時が引き伸ばされたように流れる。

ハングには自分の身体も、男の身体も、ヒューイから落ちていく羽根さえもゆっくり流れて見えていた。

 

リンの目が驚きで見開かれる。男の口元が歪み、何かを呟いた。

ハングは必死に手足を動かした。だが、届かない。一歩、間に合わない。

 

「覚悟しろぉっっっ!!」

「リイィン!」

 

白黒に映る世界。リンと男の2人の姿が別の存在に重なって見えていた。

小さなお下げ髪の女の子とそこに覆いかぶさろうとする黒いマントを着た男。

 

「やめろおおぉ!」

 

今の自分と昔の自分が同時に叫んだ。

 

その刹那、風を切る音が聞こえた。

 

「うがっ・・・・」

 

わずかなうめき声をあげ、男の動きが止まる。

その一瞬が、足りない一歩を埋めた。ハングの時の流れが元に戻る。

 

ハングは左足を踏み込み、足裏で大地を掴んだ。

右肩を起点に肘、手、そして剣先にまで力を送り込む。右足を蹴り出し、その勢いで全身をしならせる。上体を倒しながら己の体重を剣に加えて一気に加速する。

ハングは剣を振り切った。

男の服、皮膚、そして肉を切断したかすかな手応えを感じる。生暖かい何かを頬に受け、身体が止まった。

 

「はぁっ・・・はぁっ・・・はぁっ・・・」

 

ハングの息が上がる。その目の前で男がゆっくりと倒れていく。世界に色が戻っていた。

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