【完結】ファイアーエムブレム 烈火の剣~軍師と剣士~   作:からんBit

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6章~誇り高き血(後編)~

ラスが隠し通路に突入している間にハングはセーラの治療を受けた。言動はまるでシスターには程遠いセーラだが、やはり腕は確かだ。ハングは自分の心臓が暴れ出す前に傷を癒すことができた。

そんなことをしているうちに城内の鎮圧は完了した。

城下で様子を見ていたハング達は再び姿を見せたラスに玉座の間での謁見に呼ばれた。

 

ハング、リン、セイン、ケントの四名が玉座へと向かう。

玉座の間は赤い絨毯と装飾的な柱と壁に囲まれたやけに豪華な部屋だった。その再奥に金箔によって輝く玉座が鎮座している。ふんだんに羊毛を使った椅子は随分と座り心地が良さそうだ。

ハングは個人的な意見として玉座は座りにくいぐらいがちょうどいいと思っている。

 

ハングはその玉座に座る人物に頭を下げた。

 

彼がアラフェン侯爵だ。

 

年老いた細長い顔は狡猾な狐を思い起こさせる。

ハングはこの顔を過去に一度見たことがある。アラフェン領を訪れた時に馬上から見下ろす姿を見たことがあるのだ。ハングはこの顔が嫌いだった。

 

アラフェン侯爵は開口一番、自らの手駒を褒めた。

 

「おおっ!ラスか!よく来た。そなたのこの度の働き、見事だったぞ!」

 

それに対するラスは冷静だ。

 

「・・・侯爵、礼ならば、この者たちに・・・」

「誰だ?」

 

そして、侯爵の目がこちらを向く。

両腕に包帯を巻いたハングを一瞥し、騎士の二人、そしてリンへと視線が移る。

ハングはなるべく表情を顔に出さないように努力していた。

 

今の現状はハングとしては最悪の展開である。

ハングはアラフェン侯爵とリンを会わせるつもりが最初から無かったのだ。その為にわざわざ通行証の偽造などという事務的に済む方法を取った。

 

だが、その思惑は全ては無駄だったようだ。

 

「はじめまして、リンディスと申します」

 

丁寧に頭を下げるリンの隣でハングは思考を巡らせる。

この謁見の着地点をどこに持っていくのがより良いのか。その結論がまだ出ていなかった。

 

「・・・・・・そうか。そなたが、キアラン侯の・・・ラス、少し下がっていろ。この者たちに話がある」

 

ラスが何も言わずに退出する。音も無く消えたので、ハングはラスが影に溶けたかのような印象を受けた。

アラフェン侯爵はわずかに目を細め、リンを見下ろした。

その視線に、微かな悪意が含まれていることをハングは見逃さなかった。

 

「・・・さて、リンディス殿。騒ぎを起こした連中の正体を知っておられるか?」

「・・・祖父の弟、ラングレン殿の手の者かと・・・」

「そのとおりだ。つまり、わしの城は君の家の相続争いのとばっちりを受けたというわけだ」

 

そうきたか・・・

 

ハングは想定されうる状況を頭の中で絞っていく。

そして、ハングの中で一つの結論が固まった。

 

『帰りてぇ・・・』

 

ハングはもはやここにいる意味を見出せなくなっていた。

そんなハングのことなど周囲にわかるはずもなく、リンは律儀に平身低頭の姿勢を貫いていた。

 

「す、すみません・・・」

「マデリン殿の娘ごが難儀していると聞いて、力を貸してやるかとも思ったが・・・悪いが、わしは手を引かせてもらう」

 

ハングはアラフェン侯爵を見やる。ハングの目には期待など僅かにも宿っていなかった。ハングは既にこの領主を見限っていた。だが、周囲はハングが足を後ろに下げることを許してはくれない。

 

ハングの隣ではケントが色めき立っていた。

 

「アラフェン侯爵様っ!それでは、お約束が・・・!!」

「・・・ケントと言ったか?そなたは、わしに肝心なことを言わなかったではないか」

「・・・と、申されますと」

 

ケントが顔をしかめる。

アラフェン侯爵が余計なことを言わないことを祈りながらハングはその場で待った。

 

「この娘、確かにマデリン殿に似ておるが、まさかここまでサカの血が濃くでておるとは・・・」

 

その時、リンの顔色が変わった。

 

「この娘はもはやリキア人ではないだろう。野蛮なサカ部族の孫娘に戻られては、キアラン侯爵もさぞ迷惑するのではないか?」

 

アラフェン侯爵の言葉には明らかに侮蔑の意味合いが含まれていた。

リンの頭に血が上り、耳が真っ赤に染まっている。

謁見の場ということもあり、武器は所持していないのが幸いであった。もし、剣を腰に帯びていればこの場で抜き放っていたかもしれない。

そして、感情的になってしまったのは何もリンに限った話ではなかった。

 

「それはどういう意味だっ!」

 

飛び出そうとしたセインの足をハングが払った。無様に顔から床に激突するセイン。

 

「動くなよ、セイン。謁見の場だぞ。一応な」

 

ハングの足の下でフガフガともがくセイン、

その一連を眺めていたアラフェン侯爵が鼻で笑った。

 

「しつけがなっておらんな」

 

ハングは『そろそろ帰るか』と再び思ったのだが、ケントがまだ粘りを見せた。

 

「アラフェン侯爵様!どうか、どうかお力添えいただきたく・・・」

 

ハングがもしキアランの正式な軍師としてこの場にいるなら、リンに頭を下げて適当に挨拶を交わして退出すべきだと進言していただろう。これ以上話をしても、お互いの関係が悪化するだけであるとハングは結論付けていた。

 

頭を深く下げるケントにアラフェン侯爵は顔を背け、呟くように言った。

 

「・・・キアラン侯爵は病に倒れたと聞く」

 

ハングの眉が少し動いた。それと同時にケントとリンの顔から驚愕が覗いた。セインの顔はまだ床にくっついている。

 

「その娘が戻るまで、果たしてもたれるかどうか・・・だとすれば、次の侯爵を継がれるのはラングレン殿。わしは面倒はごめんだ・・・」

「このっ!」

 

再び駆け出そうとしたセインの体を踏みつけて、ハングはリンを見た。

リンもまたハングに目だけを向けていた。ハングはリンに向け、小さく首を横に振った。

 

「しかし、マデリン殿の娘だ・・・どうしてもというなら・・・」

 

何か条件を付与しようとした侯爵。その先を聞くまでもなくリンは頭を上げた。

 

「・・・わかりました。セイン、ケント、ハング、戻りましょう」

「リンディス様!ですが・・・」

 

まだ粘るケントをリンは手で制し、侯爵に向けて強い視線を送った。

 

「私は、自分に流れるサカの血に誇りをもっている。だから、それを侮辱する人の力なんて借りたくないわ!」

 

リンははっきりとそう言い放った。後ろめたさなど微塵も感じさせない凛とした声音であった。ハングはそれを聞き、唇の端で笑った。リンは再度頭を下げ、そのまま玉座の間を出て行く。

 

「リンディス様!」

「お、お待ちくださいって!」

 

ケントとセインもそれに続く。

そして、その場にハングがだけが残った。

 

「では、私もこれにて失礼します」

 

もはや、アラフェン侯爵はハングなど見てもいなかった。

ハングも早々に退出したかったのだが、言っておきたいことがあった。

 

「侯爵様」

「なんだ?」

「言いたいことは一つだけ」

 

ハングは道端で酔いつぶれた男でも見やるような軽蔑した視線をアラフェン侯爵に投げかけた。

 

「いい歳こいて、嫉妬は見苦しいですよ」

 

アラフェン侯爵の顔色が一気に赤みを帯びた。ハングはマントを翻し、侯爵に背を向ける。

背後で何か喚き声が聞こえたが、ハングは振り返ることなくその場を後にした。

 

 

――――――― ※ ――――――― ※ ―――――――

 

 

 

ハングが三人に遅れて城を出ると、ケントがリンに頭を下げているところだった。

おおかた、リンの心を煩わせたとかなんとかだとハングはあたりを付ける。

リンはそんなケントの肩を叩いて顔を上げさせていた。

 

「・・・だから、あなたは胸を張ってればいいのよ」

 

その様子はまるで騎士と姫君のようで随分と形になっていた。

 

そういえば、リンは一応侯爵家の姫君にあたるのか。

 

そんなことを思いながら、ハングは仲間たちの輪に入った

 

「ハング、何してたの?」

「ん?厠を探してた」

 

ハングの言ったことは嘘ではない。アラフェン侯爵の謁見室を出た後で、厠にも行ったのだ。

 

「さて、こっから先のことは後で考えるとして・・・問題はキアラン侯のことだな」

 

皆が頷く。キアラン侯爵が病で倒れたという情報は決して楽観視できるものではなかった。

 

「急いでキアランにたどり着かないと・・・!」

 

リンが意気込みを新たにそう言った。

 

「キアランに近づくほどラングレン殿の妨害は激しくなるでしょうが・・・守り抜いてみせます!リンディス様!」

「頼りにしてるわ、ケント」

「俺も、お守りしますよ!」

「ありがとう、セイン」

 

熱くなる騎士達を前にハングは肩をすくめた。

 

「俺のことは守ってくれよ」

「ハング・・・そこは『俺も守ってやる』じゃないの?」

「自分の実力は知ってるよ、俺はお前を支えてはやれる。でも、守ってはやれねえからな」

 

リンは少し笑った後、微笑んだ。

 

「ハング」

「ん?」

「いつもいてくれて、ありがとうね」

「おう」

「みんながいてくれるから・・・私・・・」

 

そんなリンの頭にハングはそっと手を置いた。

 

「頑張ろう。お前の爺さんが待ってるんだ」

「うん!くじけてなんかいられないわ!」

 

顔をあげたリンの顔には少し陰があった。

自分の血筋を言われたことは少し痛いものがあったらしい。

 

ハングはもう一度城を見上げる。

 

「余計なことを言いやがって・・・」

 

ハングは誰にも聞かれないような声でそう呟いた。

 

 

ハング達はその後、皆を集めてアラフェンを後にしようと街の南門に向かった。その時にはもう空は茜色へと変わっていた。

夕日を右手に受けてハングたちは門をくぐり抜ける。その先に見覚えのある姿を見つけたのはハングだった。

 

「あれ?ラス?」

「・・・・・」

 

彼からは沈黙が帰ってきくる。

 

「ラス!どうしたの、こんなところで・・・」

 

リンが声をかけてようやくラスは口を動かした。

 

「・・・城主との話を聞いていた」

 

ハングは納得した。サカの民を侮辱する発言を許しておけなかったのだろう。

ラスは馬から降り、リンに声をかけた。

 

「ロルカ族のリン、誇り高き草原の民よ・・・その同胞として俺は、お前に力を貸そう・・・」

「本当!?」

 

リンが喜ぶと同時に仲間にもその波紋が広がった。

同じ弓を使う者として敬意を払うウィル。単純に美形が軍に入って来て喜ぶセーラ。それを見て同時にため息を吐くエルクとマシュー。フロリーナはまた震えている。セインも新たな仲間を歓迎し、ドルカスが少し笑ったように見えた。

 

「不満か?」

「いえ、そういうわけでは」

 

ただ、一人。ケントだけは少し眉に力が入っていた。

 

「なに、あいつは信頼できるよ。隊長だったってことは指揮能力もありそうだしな」

「ハング殿がそうおっしゃるのであれば・・・」

 

そんなことを話していたハングたちにラスが近づいてきた。

そして、無言で布袋を差し出してきた。

 

「これは、金か?」

「ああ、俺には無用の長物。お前が役立てるがいい」

 

ハングはそれを素直に受け取った。

 

「ありがとうな」

「礼は・・・まだ、言うな。俺はまだ何もしていない」

 

ラスはそう言ってすぐさま背を向けてしまう。

 

新たな仲間を加え、ハング達は進路を南へと向けて歩き出した。

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