【完結】ファイアーエムブレム 烈火の剣~軍師と剣士~   作:からんBit

28 / 176
7章外伝~黒い影(後編)~

皆の集合地点へと戻ったハングは手早く指示を出していった。

 

 

「二組にわけて戦う。ケント、ラス、エルク、セーラ、東側から牽制しろ。ラスとエルクが遠距離から牽制して、ケントが護衛だ。セイン、リン、ルセア、ウィル。お前らは南側の正面口から一気に急襲。リン、前線の指揮は任せる。部屋は必ず一つ一つ丁寧に制圧しろ。隠れてた敵を見落として背後を取られるなんて馬鹿なことになるなよ。フロリーナはニニアンとニルスの護衛でここに残れ。ヤバいと判断したら二人を連れて逃げろ。安心しろ、そんな状況は万が一にも起きねぇよ。あくまで念のためだ。ドルカスさんは俺と一緒に来てくれ、護衛を頼む。さぁ、さっさと始めるぞ。攻撃開始の合図は俺が出す。散れ!」

 

一斉に行動を開始した一同。皆の顔に不安は無い。

その場に残ったのはハングとドルカス、フロリーナとニニアン、ニルスの五人だった。

 

「さて、俺らもいくか」

 

無言で斧を構えたドルカスに笑いかけるハング。

 

「あ、あの・・・ハングさん・・・こんな時・・・なんですが・・・」

「ん?」

 

フロリーナの声に振り返ると、彼女がなんだか困った顔をしていた。

 

「どうした?」

「そ・・・その・・・」

 

全員に指示を出した以上、手早くいきたい。

セインあたりが暴走するのはともかく、セーラが暴走したら手がつけられなくなる。

だが、フロリーナ相手に苛立つのは逆効果だということぐらいハングはわかっていた。

だから、ハングは優しい声音でもう一度尋ねた。

 

「どうした?」

 

その声を聞いたフロリーナは意を決したように顔をあげた。

ハングはフロリーナと出会ってから、初めて真正面から彼女に相対しているのかもしれない。

 

「ハングさんはリンのこと好きですか?」

 

ハングの表情が固まった。その側でドルカスも素っ頓狂な顔をしていた。ニニアンは少しだけ微笑み、ニルスは楽しそうな笑みを浮かべた。

ハングはその固まった顔のまま、フロリーナから視線を逸らした。

 

「さて、いくかドルカスさん」

「こ、答えてください!リンのこと本気なんですか!?」

 

フロリーナに押し負けるハング。

その非常に珍しい構図を他の誰も見ることができなかったのが残念である。

 

「ほ、本気か・・・って、別に、俺とあいつはそんな関係じゃ・・・」

「・・・・・・・」

 

無言で見つめるフロリーナをハングは怖いとは思わなかったが、威圧感を感じたのは事実だった。

 

「だ、だから・・・別にお前が心配する必要はだな・・・えーと・・・」

「・・・・・・・」

 

言葉を探すハング。今のフロリーナは『相棒』だとか『二人で一人』とかそういった話を求めていない。

ここでそのことについて事細かく話すつもりはハングにはなかった。それは時間的にも心情的にも厳しい選択肢なのだ。

 

ハングは周囲に助けを求める。

 

だが、ドルカスは静かに話の行く末を見守っており、ニニアンは微笑ましい光景に心を落ち着かせている。ちなみにニルスは興味津々である。

ハングにはどうにもならない。走って逃げてもよいのだが、あいにくとフロリーナの愛馬であるヒューイが完全に道を塞いでいる。

 

ハングはどうするか思案し、そして一つの結論に至った。

ハングは表情を引き締める。

 

「どうもこうもない・・・」

 

その声は水の底から響いてくるような重く、人を震わせるものだった。

 

「俺には・・・やらなきゃならないことがある」

 

フロリーナの意を決した表情が揺らぐ。ニニアンやニルスはハングの突然の変調に表情を無くしていた。

ハングはこの世の全てを憎んでいるかのように目を細めながら続けた。

 

「それを成し遂げるまで、余計なことは考えたくねぇんだ。リンのことは憎からず思ってる。だが、それだけだ。それ以上でもそれ以下でもない・・・」

 

ハングはわざと苛立ちを抑えずに舌打ちをした。

 

「・・・これでいいか・・・もう、行くぞ」」

 

ハングはフロリーナの顔を見ずに歩き出す。道を譲ってくれたヒューイの鼻面を少し撫で、ハングは森の中を歩いて行く。

 

だが、数歩進んだところで立ち止まった。

 

「ニニアンとニルスを・・・任せたぞ」

 

ハングはそれだけを言ってまた歩き出した。

その隣にすぐさまドルカスが並ぶ。そしてドルカスは誰にも聞こえないような小さな声で呟く。

 

「お前は本当に不器用だな・・・」

「うるさいです・・・」

 

ハングは自分の中に少し罪悪感を抱えながらそう言った。

 

二人の姿が見えなくなるまで見送ったフロリーナ。ハングの背中が森の中に消え、彼女はようやく大きく息を吐き出した。その隣にヒューイが顔を寄せる。

 

「ありがとう・・・ヒューイ・・・」

 

ヒューイを撫でる手が震えていた。指先が酷く冷たくなっている。

ともすれば泣き出してしまいそうな程に色を無くしたフロリーナはヒューイに寄りかかるようにして自分を支えていた。

 

「・・・こわかった・・・」

 

フロリーナはハングの雷を直接落とされたことはなかった。だが、今のはセインやリンがしょっちゅう落とされている雷とはまた別のものだった。

どちらかと言えば、つい先日にハングが『黒い牙』に向けて発せられた不可視の圧力に近かった。

 

あの黒衣の集団でさえ足をすくませてしまうようなハングの殺意だ。その片鱗とはいえ、フロリーナは真正面からそれを受け止めたのだ。彼女は立っているだけでもやっとなほどに膝が震えてしまっていた。

 

そんなフロリーナの後ろからニルスが顔をのぞかせた。

 

「フロリーナさん・・・ハングさんて・・・時々、ああなるの?」

 

フロリーナは静かに首を横に振った。

 

「・・・今まではそんなことなかったの。でも、『黒い牙』に会ってから・・・あんなふうに・・・」

「ふぅん・・・」

 

ニルスはハングが消えていった方を見やる。

 

「ねぇ、フロリーナさん、ハングさんって、もしかして・・・」

 

だが、何かを言いかけようとしたニルスをニニアンがたしなめた。

 

「ニルス、憶測でものを言ってはいけません・・・」

「あ、はーい、姉さん」

 

そして、ニニアンはフロリーナの傍に寄り横顔を見つめる。

 

「フロリーナ様・・・大丈夫ですか?」

「あ、はい・・・」

 

フロリーナはヒューイから身体を離した。自分の手はまだわずかに震えていた。

その自分の手を頑張って睨みつける。

 

フロリーナはこれでも一つの決意を持ってイリアを離れてきたのだ。一人前の天馬騎士になるために傭兵団に入って、生き残って、そして錦を着て凱旋するのだと、その華奢な身体になけなしの勇気を注ぎ込んで出てきたのだ。

 

『ニニアンとニルスを・・・任せたぞ』

 

フロリーナの耳朶にはまだハングの声が染みついていた。

フロリーナはその白く細い手を握りしめ、頬にあてる。そして、勢いよく平手にして自分の頬に叩きつけた。

 

「大丈夫です・・・私は・・・皆さんの護衛なんですから」

 

見習いといえど天馬騎士。ハングの態度にあてられても槍を取ればその姿勢は戦いを生業とする者の雰囲気を帯びる。

 

今は弱虫の自分でいるわけにはいかないのだ。ここには親友のリンはいない。何かがあればフロリーナが判断して逃げなければならない。それを見失ってしまう程、フロリーナは柔ではなかった。

 

「よかったです・・・フロリーナ様」

「あ、あの・・・私なんかに様をつけなくても・・・フロリーナって呼んでくれればいいです・・・」

「はい・・・フロリーナさん・・・」

 

そんな会話のさなか、轟音があたりを響かせた。

 

「わっ!びっくりしたな・・・なんだろ?まるで、土砂崩れでも起きたみたいだ」

 

驚くニルスとニニアンだったが、フロリーナはやけに落ち着いていた。

 

 

大丈夫・・・だって・・・私達には・・・ハングさんがいるから・・・

 

 

――――――― ※ ――――――― ※ ―――――――

 

 

古城の奥、昔は指令室としてそこで策が練られていたであろう部屋も、今では柱が倒れ、天井も失い、外の陽光が差し込んでいた。

だが、その中の人物達には感傷に浸る暇も無かった。

 

「伝令!西側の壁が次々と崩され、兵士が混乱しております!」

「東側から攻撃!」

「南から侵入を許しました!これが本隊と思われます!」

「食糧庫から火事です!このままじゃ飯が焼けちまう!」

 

次々と入ってくる情報。周囲の混乱が全てこの場に流れ込んできていた。

 

「煙が地下道に!逃げ道がありません!」

「西側は罠です!」

「東の部隊が忽然と消えました!」

「北に増援!」

「敵の進撃が止まりません!」

 

その指揮を取ろうとするのは大剣を担いだあの男。

 

「何故だ・・・奴らは何故ここまで戦える・・・!くっ、全ての配下を投入しろ!!我らに後は無いのだ・・・!!」

 

そんな叫びもさほどの間もなく無駄だと知る。

 

「増援部隊が待ち伏せにあいました!全滅です!」

「東に再び部隊が!侵入されます!」

「逃走経路が潰されてます!」

「西側が手薄だ!逃げろ!」

「な、なんだ・・・なにが起きている」

 

正攻法は通じず、奇襲も読まれた。逃げ道は既に一本に絞られてしまい、食糧も無い。

追い詰められている焦りは単純な死への恐怖を加速させ、浮足立った兵士が逃亡を始めていた。

 

「ぐわっ!」

「うわぁ!来たぞ!」

「迎え撃て!」

 

部屋の中にいた兵士が大量の矢を受けて次々と倒れていった。

 

そして、現れたのはサカの服装をした女と二人の騎士。

 

男は背中の剣を抜き放つ。刹那、背後から矢を打ち込まれた。

男は振り返る。いつの間にか、背後の壁が破壊され、そこに弓兵と魔道士が立っていた。背後から飛んで来た火球の熱に朦朧としながら、男は迫ってきた騎士に取り押さえられたのだった。

 

 

――――――― ※ ――――――― ※ ―――――――

 

 

「く・・・まさか・・・われらが・・・」

 

 

首領格と思しき男に剣を突きつけて、この戦いは終了を迎えた。

 

ハングはマシューに火事を起こさせることで相手の城からさらに動ける範囲を限定したのだ。敵が誘い込みたい場所ではなく、こちらが攻め込みたい場所を戦場にする。

 

攻城戦において火付けはあまり推奨されるものではない。奪った城はその後自分の城になるのだ。全てを燃やし尽くす火を使うことは最終手段に等しい。だが、ここは古城でハング達は旅の途中である。この城がどうなろうと知ったことではなかった。

 

そして正面からリン達がハングの思惑通りの通路を使って敵陣に突っ込めば、後はただの殲滅戦だ。増援がやってくるタイミングも、敵の逃げる方向もハングには全てが手の上であった。

 

この場をケント、セイン、リンにハングを加えた四人で制圧し、残りの人達は残兵がいないか、周囲の偵察を行っている。

 

「ルセアにフロリーナ達を迎えに行かせた。そう心配すんな」

「わかってるけど・・・」

 

ハングは残してきた親友の安否を気遣うリンを見ながら、そのリンの親友にやってしまったことを思い出した。

 

あれリンに言われたら。後が怖いよな・・・

 

半ば脅すような形になってしまったことをハングは後悔していた。他にいくらでもやりようはあったはずなのだが、どうも自分はリンが絡むと最善手を選べなくなることがあるらしい。

 

ハングはそんな自己分析にため息が出る。

 

「不器用・・・ね」

「ん?なにか言った?」

「なんでもねぇよ」

 

そして二人は床に座り込んだ男を睨みつけた。

 

「指輪を返しなさい!・・・それから。これからは、あの姉弟に手を出さないと約束して!!そうすれば、命だけは・・・」

 

だが、リンの言葉が終わる前に男は行動を起こしていた。

 

「・・・失敗には・・・死を・・・」

 

袖口から小瓶が男の手に滑り落ちた。ハングはすぐにその男の目的を悟った。

 

「ケント!止めろ!」

 

だが、一瞬間に合わない。

ケントが小瓶を弾き飛ばしたが、その中身は既に男の口の中に注がれていた。

床に倒れる男のそばにハングは駆け寄る。そして、苛立たしげに舌打ちを繰り出した。

 

「死んでやがる」

「・・・毒?みずから命をたつなんて・・・」

 

ハングはそのまま男の死体をまさぐる。

 

「この者たちは・・・ただの賊ではありませんね。かなり訓練された組織の一団でしょう」

「ただ、毒を持たされてるってことは下っ端もいいとこですね」

 

ケントとセインの言は正しいとハングも考えていた。それを踏まえた上でハングは死体をあさり続けた。ハングは男の懐から一つの指輪を見つけることはできたが、他の死体同様になんの手がかりも残されていない。

 

ハングは誰にも気づかれない程に小さな声で怨嗟の言葉を吐き出した。

 

ハングは最後に死体を整えた。そして、その体の上に石を三つ置いた。見る人が見れば墓石ともとれるだろう。だが、それはハングの善意などではない。

 

これはただのメッセージだ。

 

そしてハングは立ち上がった。

 

「まぁ、いいさ。ここの食糧は相当な量だ。ここを潰せば、当分この組織がここら一帯で活動することはできない。さ、行こうぜ」

 

そしてハングたちは古城を後にした。

向かうべきキアラン領はもう目の前に迫ってきていた。

 

 

――――――― ※ ――――――― ※ ―――――――

 

 

次の日の早朝。青藍色の髪を持つ魔道士はその古城の惨憺たる様子にその美しい眉をひそめた。

そこにいた配下は全滅、食糧は燃やされ、地下道や城壁ももう防御に使えないほどに破壊されていた。

 

しかも丁寧に死体は一箇所に集められて燃やされている。この場所に攻め込んできた奴らの手がかりは残っていないと考えてよい。

 

「ここの拠点はもう使えんな」

 

ここには念のために彼女の直属も置いておいたのだが、戻ってこないことを見れば探す必要も無いのだろう。

 

奴らの行き先を手の者に探らせるつもりだが、望みは薄いと彼女は考えていた。この短時間で拠点の最重要の部分をことぐとく使用不能にした相手だ。しかも、敵の全容を知っている人間はことごとく殺されている。そう簡単に捕まるとは思えない。情報収集を怠っていたのが仇になったが、あの時の状況でこれ以上手を広げることはできなかっただろう。彼女は今も他にもやらなければならない事柄を多数抱えていた。

 

「・・・ネルガル様に判断を仰ぐか」

 

そう呟きながらも彼女の足は古城の中心へと近づいて行った。

彼女が向かったのはかつての指令室。

この一団を任せていた男が死んでいた。

 

胸の上で手を組まれた死体。格式ある葬式でも行ったかのような男の顔。そして、胸の上に置かれた三つの石。

 

それはとある地方特有の簡略化された葬式の形だった。

 

その地方とは・・・ベルン

 

「・・・何者だ・・・お前は・・・」

 

彼女が呟いた言葉は開いた天井からどこかへと飛んでいった。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。