【完結】ファイアーエムブレム 烈火の剣~軍師と剣士~ 作:からんBit
カートレー領を抜け、リンディス傭兵団はとうとうキアラン領へと足を踏み入れた。それは旅の終わりが近いことと同時に侯弟ラングレンの支配下に入ったことを意味する。
ハングは相当に用心を重ねて進軍を続けていた。
そんな旅の最中、ふと後ろを振り返ったリンがハングに声をかけた。
「見て!ハング!山が遠くなってきた・・・ずいぶん遠くまで来たのね」
「だな・・・サカの草原が懐かしいか?」
そう尋ねるとリンは小さく肩をすくめた。
「少しだけ・・・ね」
「ま、故郷を懐かしまない奴はいないよな」
ハングも少しだけ自分の故郷に思いを馳せる。
税の取り立ては厳しく、土地は痩せ、交易も特に無い田舎だった。
それでも、笑っている人たちこそがその町の特産品だった。
「リンさまはサカの出身なのですか?」
足を動かせないため、リンの後ろに乗ったニニアンがそう尋ねた。
彼女の鈴を転がしたような声にハングは現実に引き戻される。
「ええ。ニニアンとニルスは?」
「イリアです。一面の雪に覆われた白い山々・・・私たちはそこで生まれました」
「ほ、ほんとですか?」
話題に食いついてきたのは同じくイリア出身のフロリーナだ。
「じゃあ、私とニニアンさんは同じ故郷なんですね。なんだかそう聞くと身近に感じちゃいます」
「はい・・・私もそう思います・・・」
同郷ということで友情を交わす二人。恥ずかしがりやのフロリーナと物静かなニニアンの二人の組み合わせは女性のお淑やかさを象徴しているようでハングとしては非常に癒しである。
ハングは馬上のリンを見上げた。
「なに?」
「いや、別に」
「ハング・・・何か失礼なこと考えてたでしょ」
「さぁな」
竹を割ったようなリンの性格もハングは嫌いではない。
「ハングさん・・・」
「よう、マシュー」
そんなハングにマシューが後ろから追いついて横に並ぶ。
背後ではセーラがまた口やかましくルセアに迫っていた。
マシューは逃げてきたと思われる。
「ハングさん。あいつなんとかしてくださいよ」
「お前がどうにもできないもんを俺になんとかしろと?無茶を言うな」
「どうして、俺が対セーラの切り札扱いなんでしょうか?」
「そりゃ、お前が一番付き合い長そうだからだ」
マシューが一際大きなため息を吐き出した。
「付き合い長くてもあれはどうしたらいいのか全然わかんねぇッスよ」
ハングがマシューの肩を軽く叩いた。
「まぁ、今回はエルクに任せることにしよう」
「ハクション!?」
どこからか聞こえてきたクシャミを黙殺して、ハングはマシューに指示を出す。
「例の件、わかってるな?」
「もちろん!任せてください」
そう言って、マシューは消えた。
文字通り、いつのまにか視界から消えていた。ハングはマシューが最初からいなかったかのような錯覚を受ける。
「相変わらず、いい腕してるよな」
最近、腕の良い盗賊という肩書を自分でも忘れているのではないかと思うハングであった。
「ハング、キアラン城まであとどれぐらいなの?」
馬上からのリンの声にハングは頭をかきながら地図を心の中に浮かべる。
「ここからなら・・・急げば二日かな・・・」
それを言った途端にリンの顔が明らかに陰った。
「急いでも、二日・・・か」
俯いた彼女が小さく「おじい様・・・」と、呟いたのがやけに大きく聞こえた。
彼女の顔から表情が消える。握りしめた手綱が、やけに痛々しく見えた。元々、白い彼女の肌が血の気を失って青白くなっていた。
ハングを含めて傭兵団の皆がそんなリンの姿を深妙な顔で見つめた。
胸が締め付けられるような感覚を皆が感じていた。
そんな中でリンに声をかけたのはフロリーナだった。
「リン、元気出して」
ペガサスをリンの馬に寄せて、フロリーナにしては大きな声でリンを励ます。
「リンが暗い顔をしてるとみんなまで悲しい気持ちになるわ・・・」
「フロリーナ・・・」
そう言ったフロリーナ。それを見つめるリン。
少しだけ、リンの顔に生気が戻ってきていた。
「そうね、悩んでても仕方ないわね。それより一歩でも確実に前に進まないと!」
「そう、その調子」
リンの元気な声。空元気だとはわかっていた。
フロリーナも他のみんなもそれはわかっている。
それでも、彼女の言う通りなのだ。一歩ずつ進んでいくしかない。
それを一番もどかしく感じてるのはリン本人だ。それでも、リンは笑顔で顔をあげたのだ。
だから、周囲が焦るわけにはいかない。
彼女があそこまで気丈に振舞うのなら、自分たちは不安になるわけにはいかない。
そんな思考が伝染していく。いつの間にか傭兵団の皆が顔をあげていた。
「やっぱ、お前は侯爵の孫娘なんだな・・・」
ハングはそう心の中で呟いた。それは、単純な尊敬の念であった。
それからしばらく、キアラン領の街道を歩くハング達。
ここらの街道は低い山に挟まれた広い谷のような場所にある。馬を駆けさせる分には問題はないが、見通しはあまり良いとは言えなかった。
日も天頂へと差し掛かり、ハングたちは小休止を入れることにした。
「エルク!私、お腹すいたわよ!」
「・・・・・・」
無言ながらも焼き菓子を差し出すエルクはさすがだ。多分、ハングには真似できない。
そんな、ほのぼのとした空気はニルスの強い声でぶち破られた。
「リンさま、大変だ!なにか危険が・・・!」
一同に緊張が走る。
「なんですって!?」
念のために剣を腰に帯びたリン。
「・・・っと言っても。今のところ何も見えませんが?」
そう言ったセインも馬に飛び乗って戦闘体制をとっている。
確かに周囲一帯に敵の気配は無い。東に村、東南に少し高い山。
兵を伏せられる箇所があるとしてもここからは程遠い。
そこにニニアンが低い声が加わる。
「でも・・・強く感じます」
何かに集中するように目を閉じたニニアン。だが、すぐにその紅い瞳を大きく見開いた
「リンさまっ!動かないでっ!」
「え?」
風を切る音。鈍い音がした。土が掘り返され、土砂が降り注ぐ。
いくつかの音が連続して聞こえた後、残されたのはリンの隣を通り過ぎていった一本の矢だった。
だが、ただの矢ではない。矢とみなすこと自体が不可能だと思えるほどにそれは巨大な矢だった。
長さはおよそ人の丈程。太さは握り拳並み。それを体に受けようものなら存分に風通しのよい姿になってしまう。
地面に突き刺さった矢は大きく土を抉り、そのまま畑にしてもよさそうな深さまで大地を掘り返していた。
その破壊力に生唾を飲み込んだのは一人や二人では無かった。
「これは・・・いったい・・・」
「リン!怪我ねぇか!?」
「リン!」
まさに、危機一髪。ハングとフロリーナが駆け寄った時、リンの体は少しばかり震えていた。
「【シューター】です!」
ケントがそう叫ぶと同時に前に出た。
「ラングレン殿も必死だな。こんなものまで持ち出してくるとは」
セインがボヤくようにしてケントの隣に並ぶ。
それと同時に山の影から敵の姿が続々と現れる。どうやらこの街道で一戦交えようというつもりらしい。
「【シューター】?それは、なに?」
リンの質問に答えたのはハングだった。
「見てのとおり、この巨大な矢を打ち出す兵器だよ。シャレにならん飛距離と破壊力を持った機械仕掛けの弓みたいなもんだ。【バリスタ】って言えばお前にもわかるか?」
バリスタ、弩砲、ロングアーチなどと他の名前はいくらでもあるが。最近は【シューター】という名前が通称となりつつある。
「本来なら攻城兵器だ。城を攻めたり守ったりすんのに使われるんだがな・・・よっぽど俺らを殺してぇらしいな」
そう、言ったハングにリンはわずかに笑みを漏らした。
「『俺ら』というより『私』だけどね」
「冗談が言える余裕があんなら問題ねぇな」
ハングはフロリーナに目を向ける。
「フロリーナ!下手に飛ぶなよ、相手は弓だ。制空権はあちらにあると思え!」
「は、はい!」
ハングが「戦闘準備!」と叫ぶと同時に傭兵団が一つの流れを辿るように動き出す。
「・・・ハング。【シューター】に対する有効な戦略はあるの?」
「【シューター】の弱点は三つ。その巨大さ故に動き回れる範囲が極めて小さい。森や山、細い橋なんかも通れない。もう一つはその矢の重さのせいで所持できる矢に限りがある。最後に至近距離の敵の対応ができない。つまり・・・」
それだけを言って、ハングはリンを見つめた。
ハングが答えを要求していることをリンは悟った。
そして、少しだけ考えた後にリンは口を開いた。
「誰かが囮になって矢をうち尽くさせるか・・・使っている者を直接倒す・・・」
ハングは口元を歪めて笑みを作った。
「ご名答!」
リンの笑顔を見ながらハングは指示を出した。
「全員、一人で決して動くな!複数行動、必ず一人がシューターを含めた周囲の警戒をしろ!」
ハングは傭兵団の合間を走り回りながら、更に指示を飛ばしていく。
「ルセア!セーラ!俺と一緒にいろ!俺とニニアンの護衛と、負傷兵の保護。ラス!ドルカス、エルク、ニルスを連れて西回りで攻めろ!ニルス、お前の危険感知の力ってやつはあてにしていいんだな?」
ハングが不敵に笑いながらニルスにそう尋ねた。
ニルスはその紅い瞳で真っすぐにハングを見返して、頷いた。
「任せて」
「いい返事だ」
ハングは先程の【シューター】を予知した時点で、ニルス達の力を信じていた。
だが、それは前線に出る覚悟の有無には関係がない。ニルスはハングが要求するものを正確に読み取り、そして返事をしていた。
ハングはその事実に微笑み、他の皆に指示を出す。
「フロリーナ!ウィルを乗せて山を越えろ!限界ギリギリまで高度を下げて飛んで【シューター】に奇襲をかけろ!今回の戦闘の肝だ。フロリーナ、言い訳はきかねぇぞ。ウィル【シューター】を奪ったら敵後陣を集中的に攻撃しろ」
軍師という立場と有無を言わさぬ声。ハングの声は次々と皆を動かしていった。
だが・・・
「ケント!セイン!お前らはラス達の側面から援護しろ。リンを連れて東回りで山を越えていけ、山賊共が動き出してる!」
「お断りします」
「それは嫌ですよ」
ケントとセインは二人ともハングの言葉を拒絶した。
それはハングを軍師として迎えてから初めてのことだった。