【完結】ファイアーエムブレム 烈火の剣~軍師と剣士~ 作:からんBit
旅をすることに決めたリンの行動は早かった。
リンの持つ家である『ゲル』は遊牧民が使う住居で、折りたたみ可能な移動式の家だ。だが二人旅でその荷物は大きすぎる。リンは旅に不要なものを近くの集落で路銀に変えた。彼女が連れていたわずかな家畜も一頭の馬を残して全て売ってしまう。
その思い切りの良さは、彼女の中に旅に出ようという気持ちが最初からあったからだろうとハングは思っていた。
そして数日後にはハングとリンは一頭の馬に荷物を乗せ、近くの街であるブルガルへと出発していた。休憩を挟みつつ東へと歩き、二人は旅の最初の夜を迎えていた。
「この調子なら明日の昼頃にはブルガルに着けそうね」
リンが星明りの下でそう言った。
二人は草原の草を刈り、簡単な野営地を築いて食事を取っていた。今日はここで野宿だった。
「なぁ、なんで火を焚いちゃいけないんだ?」
ハングはさっき火種を引っ張り出した時にリンに軽く叱られていた。
「火を焚くと野犬が集まってくるのよ、山賊に場所を教えることにもなるしね」
「なるほど・・・だから俺は犬に襲われたのか・・・」
「え?」
「いや、こっちの話」
「ふ~ん・・・」
リンの視線をいなしながら、スープを口に運ぶ。
「あ、そうだハングの剣見せてくれない?」
「ん?いいけど」
ハングは腰から鞘ごと剣を引き抜き、リンに手渡した。
リンは剣の重さを確かめるように両手で持ち、鞘から少しだけ剣を引き抜いた。
「この前も思ったんだけど随分長い剣ね。刀身が普通の倍はありそう」
「でも軽いだろ?」
「うん」
リンは鞘から剣を引き抜いた。磨かれた両刃の剣が星明りを反射してかすかに常闇の中に存在を浮かび上がらせる。
「細い・・・戦闘で折れない?」
「まぁ、その剣で武器を受け止めることは出来ないな」
「攻撃専門の剣ってことね」
「防御には左腕があるからな」
「そっか」
リンはしばらく剣を眺めていたが、満足したのか鞘に戻した。
「ねぇ」
「ん?」
ハングはリンから剣を受け取りながら返事をする。
「私と勝負しない?」
「勝負?」
「うん。剣で勝負・・・というか練習かな?」
「別にいいぞ・・・」
ちょうど食事も終え、腹ごなしの運動にはちょうどいい具合だとハングも思っていた。
ただ一つ問題があった。
「ただな・・・」
「ただ?」
ハングは身体の筋を伸ばしながら、剣を手の中で回す。
「俺は弱いぞ?」
――――――― ※ ――――――― ※ ―――――――
数刻後、体のあちこちに打ち身を作って草原に倒れていたハングがいた。
それを頭上からリンが見下ろしてくる。星明りの下でも彼女の顔が呆れているのが見て取れた。
「本当に弱いわね」
「うるせぇ・・・左腕が使えればもうちっとマシなんだよ」
起き上がりつつ、軽く咳き込むハング。
鞘をつけたままとはいえ、リンの鋭い突きを腹部に受けて夕食が逆流しそうだった。
まったく相手にならなかった。剣速も力も技も何一つリンに勝てるところがなかった。
護身術程度の剣技ではこの程度だということだろう。
「だったら左腕も使ってみたらいいじゃない」
「この辺、跡形も残らないぞ?」
「うん・・・使わないで」
ハングの冗談にリンは軽く笑いながら彼の側に腰をおろした。
ハングの言葉はただのハッタリだった。実のところ、左腕を使っても大したことにはならない。剣と腕ではリーチが違い過ぎる。ハングが玉砕覚悟で相手の胸元に腕を突っ込まない限り、こんな腕は戦闘では使い物にはならない。
しかも、リン程の手練れが相手なら無理に剣の間合いの内側に入るのは自殺行為であった。
ハングが心臓を鷲掴みにするより、リンの剣が首を落とす方が確実に速いだろう。
リンは打ち身を治療するハングを見ながら、眉に皺を寄せていた。
「でも、こんな剣技じゃ危なっかしいわね。例え左腕が使えて防御できたとしても、ハング自身の体は丈夫じゃないんだし」
「まぁ・・・戦闘は本来専門外だからな」
彼女はしばらくなにか考える仕草をした後、唐突に両手を打ち合わせた
「ねえハング!」
「なんかいやな予感がするんだが」
「私と毎晩剣の練習しましょ!私の練習にもなるし!」
「で・・・毎晩打ち身を作れと?」
「大丈夫!すぐに慣れるわよ」
「それのどこが大丈夫なんだよ・・・」
リンは既に目を輝かせて迫ってきていた。
まだ付き合いの浅い関係のハングとリン。そういった交流を持つことは今後旅を続ける上で大事なことには違いない。
ハングは断る理由を見つけられず、こっそりと溜め息をついた。
「じゃあ交換条件」
「なに?」
「俺も毎晩お前に軍師としての知識を教える。これでどうだ?」
その瞬間リンがあからさまに嫌そうな顔をした。
その表情を前にハングは満足してほくそえんだ。
「お前、勉学とか苦手そうだもんな。読み書きはできるよな?」
「バカにしないでよ!それはできるわ!」
「つまり、それ以上はできないということだな?」
「う・・・」
どうやら図星だったらしい。
「よ~し!決まりだ決まり!俺は毎晩お前から剣技を教えてもらう。お前は俺から勉学を習う!いいな?」
ハングは全力で顔面に笑みを貼り付ける
「う・・・わかったわよ」
勝った。
そして、数刻後。
「じゃ、山地を背にして布陣した場合はどうするの?」
「下手に押し込まずに引き込むのが上策だな。出来るだけ相手より高い位置を維持して動く。弓兵はもちろん、騎馬兵の突進力を生かすなら高所は確実に有利がとれる。逆側の立場を考えてみればいい。だけど、さっきも言ったように一つの戦術にだけこだわるのも危険だからな」
「ふ~ん」
意外とリンは結構熱心に話を聞いていた。勉学は苦手かもしれないが、学ぼうという意思自体は結構持っているようだった。
こうして、二人の最初の夜は更けていく。
旅はまだ始まったばかりだった。