【完結】ファイアーエムブレム 烈火の剣~軍師と剣士~ 作:からんBit
「押し問答してる余裕はねぇんだ・・・従え」
ハングの怒りを内包した声がケントとセインを襲った。
その場に走り抜ける緊張。それでも、ケントもセインも臆することもなくハングに立ち向かった。
「ハング殿。敵は西回りで来ると予見しているのですよね。でしたら我らをそちらに配置していただけないでしょうか」
そう言ったのはケントだ。
「いただけねぇよ」
そう言って腕を組み仁王立ちしたハング。その背後に鬼神を見たのはケントだけではなかった。
「アハ、ハハハ、ケントさん、ハングもこんなことしてる場合じゃないだろ?」
ウィルが愛想笑いを浮かべながらなんとか仲介をしようとする。
「ちょ、ちょっと!ハングの指示に従いなさいよ!ハングは軍師でしょ!」
セーラもまたその険悪な雰囲気になんとか割って入ろうとした。
だが、2人の涙ぐましい努力をケントがくみ取ってくれることはなかった。
「ハング殿にはハング殿の考えがありはするでしょう。ですが、我らにも我らの考えがあります」
ハングのこめかみに青筋が走った。そこにいた一同に戦慄が駆け抜けた。
他にも仲介をしようとしていた者たちも足がすくむ。
その2人の間にセインがいつもの調子で進み出た。
「ハング殿は俺たちに前線から外れろと言う。それは俺らがキアラン出身だからですか?」
ハングが眉をひそめてセインをねめつける。仲間たちの間に少しだけ動揺が広がった。
キアランの騎士である彼らがこれから戦う相手はキアラン兵。
同じ訓練で汗を流し、同じ釜の飯を食い、同じ酒で夢を語ったであろう同胞。そんな彼らとの戦場だ。
ハングはそれを避けたのだ。
敵対する相手に手心を加えるようなことを2人がするとはハングも思っていない。
だが、顔を知る相手に対して慈悲の一欠片もなく剣を振り下ろせる奴などそういないのも事実だ。そして、その一瞬が生死を分ける隙になってしまうことだってありうる。
だからこそ、ハングは2人を前線に送り出すことを良しとしなかった。
もちろん、2人の気持ちを慮ったのも有りはするが、それを前面に出すハングではなかった。
「ハング殿、失礼ながらあなたには少し失望いたしました。我らをそこまで見限っていたのですか?」
「俺たちは今はリンディス様の臣下だ。その邪魔をする奴らをただで済ますわけにはいかない。遠慮なんてしないでくれ」
「お前らいい加減にしろよ」
ハングは憤りを見せながらも実のところ心の中はずっと冷静であった。自分の顔や態度が仲間達にどういった意味合いを持つのかがわからないハングではない。だが、騎士2人は頑なに前線に出ると言ってきかない。今回ばかりはどうも逆効果であったらしい。
「ハング・・・」
「リン・・・てめぇも文句があんのか?」
「文句はないわ。でも・・・言いたいことはある」
「そういうのを一般的には『文句』っていうんだよ。で、なんだ?」
「私が前線に出ない。それでどう?」
音がした。ハングのこめかみ付近である。ハングは自分でも驚くほどに一瞬で頭の中が燃え上がったのを自覚した。
怒りで思考が麻痺し、理性というタガが外れかける。
だが、ハングが感情に任せて怒鳴り返そうとした矢先、ハングの背後を【シューター】の矢が駆け抜けた。飛び散った土の欠片の落下音の中で大きな舌打ちの音がした。
「これ以上喋ってる余裕はねぇか・・・」
ハングは敵のキアラン兵の配置が完成したであろうことを悟った。
「ハング・・・」
「ハング殿」
リンと騎士達が見つめる中、ハングは大きく息を吸い込み、吐き出した。
「だめだ」
ハングのその声にケントとセインの顔が苦痛に耐えるようにゆがむ。リンが悲しそうに目を伏せた。
「リン、お前が前線に出ないというのは無しだ。だから、お前がケントとセインを率いて戦え。前線は任せる」
ハングはそのまま背を向けたのでそう言われた三人の表情を見ることはなかった。
だが、彼らが満足したような寂しげな笑みを浮かべていることは何の根拠もなくわかっていた。
「ラス、山を迂回して、山賊を蹴散らしながら相手の側面を突け。速度が命だ。機の見定めはお前に任せる」
「お前も苦労してるようだな・・・」
「さっさと行け!」
ラスは口元にだけわずかに笑みを浮かべた。
「ドルカス、エルク・・・ニルス、行くぞ」
そして、ラスは三人を引き連れて動き出した。
それを見送ってハングは一つ息を吐き出した。
「ルセア、セーラ。予定変更だ。リン達の後詰を頼む」
「え・・・ハングさんの護衛はどうするんですか?」
「心配ない・・・後方に敵が抜けてくることはまずねぇよ」
ハングは忌々しげにそう吐き捨てた。
ルセアはまだ何か質問をしたそうにしていたが、ハングの顔を見て口を閉じた。
「行くぞ、戦闘開始だ」
ハングは自分の背後で騎馬が駆けだしていくのを音だけで聞いていた。
フロリーナやウィルがハングの顔色を見ながら前線へと走っていく。
ハングはこの時に少し後悔をしていた。
リンの『挑発』に乗ってしまった自分が少しだけ恨めしかった。
『リンが前線に出ない』それは『リンが全軍の指揮をとる』という宣言に他ならない。
『ハングより私の方がこの戦場を冷静に見ている』そう言われて、ハングの頭に血がのぼってしまったのだ。
「ったく・・・リンの奴・・・いらねぇとこばかり吸収しやがって・・・」
人を挑発する言動は時に戦場で極めて有効に働くと教えたのは一昨日の晩であった。
――――――― ※ ――――――― ※ ―――――――
前方でリンとケントとセインが縦横無尽に駆け回るのを見ながらハングはさらに大局を見つめていた。
キアラン兵たちはなんのためらいもなくケントとセインに襲いかかっている。
そこにルセアが光魔法で牽制を加え、セーラが引いてきた者に杖で癒しを与えていた。
ケントが下がるならセインが援護し、リンが下がるなら二人が壁となる。
騎士二人の状況判断もさることながら、リンの指揮が少し板についてきていた。
そこに一抹の苦悩を抱えてハングは戦場の更に奥を見た。
少し先に川が見える。そこには細い橋がかかっている。
おそらく、そこが戦場の後端にあたる。あの橋まで敵を押し込めればこちらの勝利は間違いない。
上空からこちらに飛んできた巨大な矢をハングは左手で受け止めた。
「そろそろ、フロリーナに合図を出すか・・・」
その声は何の抑揚もなく、まるで友人との待ち合わせを待つかのような、緊張感の欠片も無い声だった。
ハングは矢を持ち出す。矢の先には目立つ赤い布が巻きつけてあった。
ハングはそれを左腕で力の限り投げ上げた。『竜の腕』の筋力で矢は天高くまで飛んでいき、赤い布地を青い空に輝かせる。
「ハングさん」
ふと、戦場で声をかけてきたのは自分と同じく後方待機のニニアンだった。いざとなればハングはニニアンを抱えて逃げるつもりであった。
「ん?」
「ハングさん、辛そうです。大丈夫ですか?」
ハングは少し肩から力を抜く。そして、彼女の頭を軽く叩いた。彼女の髪はまるで上等な絹のような感触で手触りがとても良い。それがなんだか気持ちよかったので意味もなく撫で続けてみた。
「あ、あの?」
「どうした?」
「いつまで・・・」
「いやか?」
「あ、いえ・・・その、でも・・・」
ニニアンが前方を見やる。その先では指揮を執りながら戦うリンがいた。
「その・・・リンさまに悪いです」
「その言葉に関してはいくつか言いたいことがあるけど、まあいいや」
さすがに迷惑かと思う直前あたりでハングは手を引っ込めた。
おそらく、後方に敵が抜けてくることはない。戦場荒しに山賊共が出てくる可能性はあるが、それはラスが抑えている。
【シューター】にさえ注意しておけば、雑談するのはさほど難しくはなかった。
「まったく、リンも随分と言うようになりやがった」
ハングは溜息を一つ吐き出した。
「ハングさんが毎晩指導しているからだと聞きました・・・」
「にも関わらず、俺の剣技はまったくリンに届かない。あいつの成長が早いのか俺の成長が遅いのか。どちらにせよ少し嫉妬せざるをえないよ」
さっきからわずかに感じる苦悩の原因である。それが他人からは少し辛そうな顔に映るのだろう。
「リンも戦術に関しては随分とまあよくなってるからな、そろそろ一個師団同士を想定した戦術でも教えてやるか」
「あの、前々からお尋ねしたかったんですが・・・」
ニニアンが少し言葉を選ぶようにして切り出した。
「なんだ?俺とリンの間の事柄以外なら大概答えてやれるぞ」
「・・・・なら、いいです・・・」
ニニアン、お前もか・・・
この間、そのことを話題にしたフロリーナを脅した現場にニニアンはいた。
それにも関わらずその話を持ちだせるニニアンは案外豪胆な性格を持ち合わせているのかもしれない。
しかし、そんなに俺達は仲良く見えるのだろうか。
ハングはそんなことを思いながら空を見上げた。
その空を一本の矢が駆け抜けた。
放たれた矢は放物線を描いて敵陣のど真ん中に突き刺さる。
「来たか・・・ルセア!セーラ!下がれ!」
戦場の騒音に負けないハングの声が戦場を駆け抜けた。
「ケント!セイン!左右に広がって両翼を撃破しろ。リン、その場で戦え。ここが踏ん張りどころだ!きばれよてめぇら!」
鬨の声があがる。
その瞬間、敵の陣の後部に火球が飛び込んだ。次いで矢が降り注ぐ。
その隙をついてドルカスが陣の中に怒涛の勢いで切り込んだ。そこに再び【シューター】の一撃が放たれた。
ハングはその様子を見ながら、ほくそ笑む。
「さすが、ラスだ。絶好の機会に飛び込んできやがった」
そう言ったハングの横顔。やはり、そこにも辛そうな表情が浮かんでいた。
ニニアンは彼に向けて言いたくなった言葉を飲み込んだ。
それは多分自分が言ってもハングの心にまでは届かない。彼女はそう直感していた。
ラスの横撃により、敵は一気に崩れた。
なんとか味方を鼓舞して戦場を立て直そうとする敵将にリンが切り捨てれば、もはや敵に戦う気力は無くなっていた。逃げる者は無理に追わず、ハングは橋の手前で進軍を止めた。
「・・・これで・・・終わり?」
肩で息をしながら、少し喉を枯らしたリンがケントにそう尋ねた。
前線で指揮を執りながら剣を振るうのは思った以上に気力を消耗していた。
「はい。敵はいなくなりました」
そう答えたケントはそのまま少しだけ目を伏せる。
ハングはそのケントに向けて声をかける。
「顔見知りでもいたか?」
「はい・・・」
「そうか」
ハングはそれだけを呟いてケントの肩を軽く叩いた。
戦闘前に啖呵を切ったのもあってケントもセインもあまり顔には出さない。だが、決して傷ついてないわけがないのだ。
だから、嫌だったんだ。
ハングは内心でそう呟く。
ケントとてハングの気持ちはわかっている。
だからこそ、ケントはすぐに前を向いた。ハングが労ってくれるのなら、自分達がくよくよとするわけにはいかない。
「ハング殿、少し気になることがあります」
「奴らがなんのためらいもなく襲ってきた理由だろ?」
「はい」
ハングもまた、ケントの意志をくみ取り、いつもと同じような態度を保った。
「おおかた、ラングレン殿に寝返ったんだろ?薄情なやつらだ。いいじゃないか。城に着けばラングレン殿も手を出せないだろうし」
お気楽ご気楽なセインの意見にハングはこれ見よがしに溜息をついた。
「だから、お前はバカなんだ。今の状況はそんなに単純な話じゃねぇんだよ」
顔なじみというのはこちらが一方的に感じている感情ではない。
向こうもケントやセインの人となり。そして、キアラン領の後継の優先順位ぐらいは知っている。
それなのに、彼らの戦闘には迷いの一つも無かった。【シューター】を持ち出しているのがよい証拠だ。
彼らはなんの躊躇もせずに前線に出てきたケントとセイン、そして自らが忠誠を誓った侯爵の孫娘に攻撃をしかけた。というよりも、彼らを集中して狙っていたという方が正しい。
「どういうことです?」
質問してきたのはケントだ。そして、疑問符を浮かべているのは彼だけではなかった。リンとセインも同様の質問を抱いていそうな顔。だが、ハングは明確な答えを返さなかった。
「まだ、裏がとれてないんだ。その辺のもろもろを含めてマシューに情報収集を任せたんだが・・・」
「と、いうわけで町で情報収集してきました」
不意にハングの背後からマシューが顔をのぞかせた。
周りの人間はそのあまりにも突然の登場に少なからず驚いたが、ハングは涼しい顔で応じた。
「で、どうだった?」
「少しは驚いてくださいよ・・・まぁ、いいや」
マシューは改めて皆の前に立つ。
「それなんですが、悪い報告と更に悪い報告と最悪な報告、どれから聞きたいですか?」
いい報告が一つも無い。ハングはある程度予想していたがツッコミを入れたくなる。
「なんでもいい、とりあえずお前が話しやすい順で話せ」
「んじゃ、悪い報告から」
マシューは軽く咳払いをして話し出した。
「まず、キアラン候の病気の話。これは真実のようです。もう月三つ分は寝込んでいるとのことです」
「三月前っていうと・・・」
ハングがケントを見るとその意図をくみ取って彼は頷いた。
「ちょうど、我らがキアランを離れた直後にあたります」
「・・・ああ。おじい様」
何かに祈るように目を閉じたリン。
生憎、ハングはサカの民がこういう時に何に祈りを捧げるのかを知らない。
マシューは話を続ける。
「それに関して更に悪い報告が一点。キアラン候爵のご病気は誰かに毒を盛られているからだ・・・と」
「毒っ!?」
リンの顔色が変わる。そこに含まれる怒気の中にわずかに怨恨の欠片をハングは感じた。
「その誰かさんは・・・あ、みんな怖がって名前を口にはしませんがね。そいつは、侯爵が病気になった途端に、我がもの顔で、キアラン城を仕切っているらしいッス」
そこまで聞けば十分だが、マシューはそのまま話し続けた。
「酒場のオヤジに、金を握らせて聞き出した名前は・・・侯弟ラングレン」
その瞬間にリンの顔が一気に灼熱と化した
「どうしてっ?どうして、そんなことが許されるのっ!?おじい様は、毒を盛られていてその犯人もわかってる!なのに、どうして誰もやめさせないの!?」
髪を逆立たせ、強く力が込められた目元。
フロリーナが『リンを怒らせると怖い』と言っていたな
などと、場違いな考えがハングの頭をかすめた。
「・・・証拠がないのでしょう。民のウワサだけではどうにもならない」
「そういうことです」
ケントの答えを補足するようにしてマシューは報告を続ける。
「まずいことに、証言できそうなキアラン侯を慕う家臣たちはこのところ姿を見せなくなったということです」
ハングはため息を吐きだした。
「口封じってわけだ。生きていれば儲けもんだな」
「なんということだ・・・」
絶望するようなケントを後目にハングはマシューに先を促した。
「最悪の報告がまだ残ってたな。聞こうか」
マシューは神妙な顔をして、頷いた。
「ある噂が流れてました。『キアラン侯爵の孫娘を名乗るニセモノが現れた』と。ラングレンは、領地中にふれまわったそうです」
ハングの目が細まる。
「・・・やっぱりか」
「どういうこと?」
納得するハングと意味がまだ飲み込めないリン。
彼女の質問にはマシューが答えた。
「裏切り者のケント、セインの両騎士がニセモノの公女を連れて城の乗っ取りを狙ってるんだとか」
簡潔明瞭な説明を前に一瞬だけ沈黙が降りた。
「なっ、なっ、なんだとぉっ!?」
セインの驚きの叫び。
「我らが、裏切り者だと!?ばかな!!」
ケントも珍しく悪態をついた。
「私が・・・ニセモノ?」
そしてとうのリンはその衝撃に気圧されているように見えた。
戦争において情報というのは一つの武器である。
『敵の一割を戦場にて無効化するのは難しい、だが、情報にて三割を無効化するのは容易い』
過去には噂話一つや手紙一枚で戦争を勝利に導いた例がいくらでもある。
戦争を行う国々が自国の大義名分を確立させるために敵国の欠点を繰り返し強調し、自国の素晴らしさを説くのもその一環だ。それにより、周辺国からの支援や人民の支持を集めることができればそれだけで戦争を有利に進められる。
そういう意味ではもうこのキアランの相続問題はすでに戦争と言って構わないようだ。
「リンディス様、何か証明できるもの持ってないんですか?」
マシューはためらいがちにそう尋ねた。彼もリンの出自はおおまかに聞いている。あまり、辛い思い出を呼び起こしたくはないという気持ちが声に乗っていた。
何度も繰り返すのだが、こういう細かい気遣いができるところがただの盗賊とはかけ離れているのだとハングは思う。
「母さんは・・・リキアの物は何も持ってなかったわ」
「顔だっ!リンディス様の顔はマデリン様にそっくりなんだろ!?一番の証拠じゃないかっ!!」
セインがヤケクソ気味に叫ぶ。それには二方向から物言いが入った。
「人相なんてあてにならんものは証拠には程遠いっての」
「ハング殿の言うとおりだ。似た娘を連れてきたと言われるに決まっている!」
ケントは思い悩むように目を伏せた。
「私たちの騎士としての誓いも『裏切り』の一言で、意味を持たない。残された方法と言えば、侯爵にお会いし・・・リンディス様を認めてもらう他はない!」
「それに時間もないわ!早くしないと、おじい様が・・・・・・」
リンの声にも焦りがある。当然といえば当然だ。
「お会いする!たとえ、力ずくでも!!」
リンは目に殺気をたぎらせてそう言った。
「今すぐ出発しましょう!!」
さらに燃え上がるリン。
「ハング!みんなを呼び戻して!」
ハングの目の前にまで迫ったリン。ハングはその額を中指で弾いた。
「っ!」
子気味の好い音があたりに響いた。
「な、なによハング!」
「落ち着け」
「私は落ち着いてるわよ!」
油断しているリンの額にハングはもう一発中指を打ち込んだ。
「っつ!」
「馬鹿野郎、いきなり城を攻めても他の領地から援軍がきて包囲、殲滅されんのがオチだ。なにしろ、世間的にはこっちが『悪者』だ。頭を冷やせ」
ハングの説明にリンは額をさすりながら眉をひそめた。
「じゃあ、どうすれば・・・」
「お前の頭に俺がなんのために学を叩き込んだと思ってんだ。少しは考えろ、今の俺たちに力を貸してくれる貴族がいんだろ」
リンはさほど考える間も置くこともなく気が付いた。
「そうだわ、エリウッド・・・彼なら話を聞いてくれるかもしれない。今なら、まだカートレーにいるはずよ」
ハングは口元に笑みを浮かべて、頷いた。
「正解だ・・・マシュー!」
「大丈夫です、エリウッド様が滞在している宿の調べはついてます」
「おし!さっさとここを離れるぞ。もう一度カートレーに引き返す。見張りに行った連中を呼んでくれ!強行軍になる!へばんなよ!」
「はい!」
「任せてください!」
散っていく仲間達を見ながらハングはほくそ笑む。
一人になった彼は口の中だけで呟く。
「ラングレンもなかなかやってくれる・・・でも、これで無駄足にならずにすんだってわけだ」
その眼からはどこまでも深い思考が覗いていた。