【完結】ファイアーエムブレム 烈火の剣~軍師と剣士~   作:からんBit

31 / 176
間章~雨降る世界で~

音がする。雨の音だ。

 

雨粒が天井をうつ音。水滴が大地に触れる音。水が草木にしみ込む音。

窓から眺める外の景色はかすかに霞んでいた。ここから見える町の広場は静まり返り、世界が終わってしまったような錯覚を受ける。

 

今日は恵みの雨でさえ気が滅入る。気分は曇天だ。

 

リンは一つ溜息をこぼした。

 

窓際の席に座ったまま、もう何刻の時が過ぎたかわからない。だが、まだ昼の鐘も鳴っていない。結局、さほどの時間は過ぎていない。それでも、千年の時を待っているように感じるのは焦っているからに他ならない。

 

「リン、ここにいたのか・・・」

 

聞き慣れた声にリンは食堂の入口に目を向ける。そこから入ってきたのはハングだった。

 

「ハング!エリウッドは!?」

「来てたらお前に真っ先に知らせてるよ」

 

ハングの指摘にリンは拳を握りしめた。

 

「そう・・・よね・・・」

「白湯でも飲むか?」

「貰っていい?」

 

ハングは手を振って肯定の意を示して、厨房に向かった。

エリウッドと一度合流して事情を説明したのが一昨日のことだ。エリウッドに周辺諸侯への連絡を頼み、ハング達はキアラン領の端にあるこの町に宿をとっている。

 

諸侯からの返答がくる間、エリウッドは監視が比較的少ないカートレーに滞在してもらっている。手紙が揃えばこちらに報告にくることになっていた。

 

ハングは木製のコップに白湯を注いで戻ってくる。

 

「大丈夫か?」

 

それに対してリンは力なく首を横に振った。

 

「だめみたい・・・頭の中に嫌なことばかり浮かぶの・・・もう・・・気が滅入って・・・変になりそう・・・」

「リン・・・」

 

三日前から降り続ける長雨もその一因であろう。

湿気た空気と薄暗い世界はそれだけでも人の気分を下げる。

 

「・・・ったく。ほら、飲め」

 

ハングがコップをリンの側に寄せる。

ほんのりとあがる湯気が所在無さそうに漂っていた。

 

「ありがとう・・・」

 

ハングも椅子に座って湯を啜った。世界が雨音に包まれた。そのまま過ぎていく時を数えて、およそ半刻。

 

二人は何も語ることなくその場に座っていた。

 

だが、不意にハングが声をかけた。

 

「リン・・・外に出るぞ・・・」

「へ?」

「いいから来い」

「ちょっ、ちょっと!えっ?」

 

ハングはリンの腕を掴み、食堂から連れ出した。そのまま廊下を横切り、抜けた先は宿の裏庭だった。雨に濡れるのもかまわずに、ハングは裏庭の真ん中までリンを連れ出した。

 

「ど、どうしたの?」

 

ハングはリンの手を離して、鞘をつけたまま剣を手にとった。

 

「構えろよ、リン」

「え・・・」

「忙しくてここ数日は全然打ち合って無かったろ?やろうぜ」

 

ハングは晴眼に剣を構える。リンも最初は少しだけためらっていたが、すぐに鞘をつけたまま剣を抜いた。

 

その瞬間にハングが仕掛けた。

 

鞘同士がぶつかる音がする。二度、三度の打ち合い。それだけで二人はあっという間にずぶ濡れだ。

 

「い、いきなり仕掛けないでよ!」

「ふざけんな!いつもお前はこれぐらいで仕掛けてくんだろうが!」

 

リンは後ろに飛んで間合いを取ろうとするが、ハングはそんな隙すら与えない。

鞘がぶつかる音が辺りに響く。

 

滑りやすい足下、視界に入る雨粒、服が水を吸って重くなる。

ハングは力任せに前に出続ける。普段ならリンから返し技の一つでも浴びるところだが、初撃でリンは態勢を崩しており、対応が後手になっていた。

 

ハングはここぞとばかりに攻め続けた。

 

受け流し、受け止め、かわし続けながらもリンは後退していく。

 

突然、リンの動きが止まった。リンが裏庭を囲む板壁にぶつかったのだ。

 

「っ!」

 

ハングが踏み込む。草に付いた雫が跳ねる。

 

「はぁ・・・はぁ・・・はぁ・・・」

「はぁ、はぁ、はぁ」

 

雨の中で二人の息遣いがやけに大きく聞こえる。熱を帯びたお互いの肩から湯気がもうもうと湧き上がっていた。

 

「一本・・・だよな?」

 

ハングの声。

 

ハングの剣先はリンの喉元のわずか手前で止まっていた。

 

「ええ・・・」

 

リンがそう言った。ハングはゆっくりと剣を引く。

 

「かった・・・・」

 

ハングは大きく息を吐き出して、力無く両腕をおろして空を仰いだ。

ハングは剣から手を離す。剣が地面に転がる。そして、それに釣られるようにリンの剣も地面に落ちた。

 

「負けちゃった・・・」

 

ハングの頬を灰色の空から落ちる雨粒が打つ。前髪をかきあげれば、頭から水を被ったかのように濡れきった髪がやけに重く感じた。

 

ハングは立っているのが面倒になり、仰向けに地面に転がった。空が少しだけ遠くなる。左肩のあたりにある心臓が強い拍動で高鳴っていた。

すぐに、ハングの隣に誰かが倒れこんできた。リンの体温がわずかに触れる。

 

「ああ、気持ちいい・・・」

 

ハングがそう呟く。火照った身体には雨の冷たさがよく染み込んでいた。

 

「ハング・・・」

「ん?」

 

リンの声が耳のすぐそばから聞こえていた。ハングは空を見上げたまま目を閉じた。

世界が雨音に包まれる。

 

「ありがとう」

「俺はなんにもしてねぇよ」

 

くすぐったそうな笑い声を聞きながら、ハングは満足そうに微笑んだ。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。