【完結】ファイアーエムブレム 烈火の剣~軍師と剣士~   作:からんBit

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9章~悲しき再会(後編)~

深い霧に閉ざされた山間にその城はあった。

カートレー領から続く街道に佇む城。ここを抜ければキアラン城までは一直線。ここは有事の際におけるキアランのアキレス腱なのだ。

 

それゆえに、ここの兵は頑強を極め、専守防衛に特化していた。

そして、それを指揮するイーグラー将軍もまた百戦錬磨の古強者。自らの肉体と戦術をもってキアランの壁となれるだけの風格と技量を兼ね備えた将であった。

 

そんな彼は霧に閉ざされた白い世界で城門の前で馬に跨っていた。

後方には二人の近衛兵のみ。必要最小限の兵しかその場にいないのは、ほんのわずかなイーグラー将軍の悪あがきだった。

 

「リンディスを騙る一団はどうなった?」

 

彼は深い声で隣に直立する部下に声をかけた。

 

「はっ!北の森から北西の橋にかけて歩兵部隊が展開しているとのことです」

 

その報告にイーグラー将軍は眉をひそめた。

 

「歩兵隊だけか?騎馬は?」

「確認されておりません」

 

イーグラー将軍の頭にはこの周囲の地図の詳細が浮かんでいた。

橋から森にかけて広がる狭い平地はその南を山脈、北を高い山に挟まれている。

そこに騎馬部隊を展開させるには不向きである。

 

では、彼らはどこにいった?

 

敵に騎馬部隊がいることは報告を受けている。なにせ、あのケントとセインがいるのだ。彼らを馬から降ろして地上で戦わせるなど愚の極み。

 

ならば、確実にどこかで仕掛けてくる。

 

この霧の中、下手に斥候を放っても発見は困難だろう。だが、騎馬部隊が動ける箇所は限られている。

 

「歩兵隊はどんな様子だ?」

「一進一退を繰り返して攻めあぐねているようです。こちらは専守防衛を徹底しております。そこらの傭兵では歯がたちますまい」

 

ならば、余計に騎馬部隊の存在が気にかかる。

騎馬の機動力とこの霧による隠密行動を合わせて考えれば自ずと選択肢は絞られる。

 

「奇襲・・・といったところか」

 

イーグラー将軍はそう呟く。

その考えを裏付けするように伝令が駆け込んできた。

 

「伝令!北の方面に複数の松明を掲げた騎馬部隊を発見しました!」

「やはりか・・・その騎馬部隊が本命だ。歩兵隊は囮。おそらく、北の山を大きく回って我が部隊に側面に出るつもりだろう。北方方面に重点的に斥候を放ち、騎馬部隊の位置を炙り出せ。敵の姿が見えれば対応が可能だろう」

「はっ!」

 

後方にいた兵の一人が復唱して駆け出していく。

そして、イーグラー将軍は小さく、本当に誰にも聞き取れぬぐらいに小さく、ため息を漏らした。

 

その時だった。

 

わずかに霧の中から足音がした。甲冑の音がしない。部隊の者ではないようだ。

 

将軍と後方の兵士は身構えた。

 

そして、霧の中からおぼろげに一人の影が浮かび上がった。その影はゆっくりとした足取りで徐々に近づいてきた。

 

そしてはっきりする容姿。

 

くたびれたマント。黒い髪、白い肌。そして薄茶色の瞳。

 

イーグラー将軍の後ろに控えていた兵士が槍を構えた。

 

「何者だ!!」

「お久しぶりですね、イーグラー将軍。俺のこと覚えてますか?以前、行き倒れたところを助けていただいたハングというものです」

 

ハングはそう自己紹介をした。わずかに口元に寂しそうな微笑を浮かべながら。

 

そんなハングを見て、イーグラー将軍は目を大きく見開いた。まるで亡霊でも見つけたかのような反応だった。

 

「ハング殿か?お主、本物のハング殿なのか?」

 

それを見てハングは笑みを深くする。

 

ただ、ハングの顔は少しだけ泣きそうな顔に見えた。霧の中の薄明りがそう見せるのか、それとも彼が本当にそういう気分なのかは誰にもわからない。

 

「ええ、覚えてていただけましたか?」

「当たり前だ、お主のことはそう簡単には忘れん」

 

まるで、旧友に出会ったかのような戦場に似つかわしくない表情を浮かべ、イーグラー将軍は馬を降りてハングに駆け寄った。

 

「ハング殿、例の件では本当に世話になった」

「ほんの少しだけ知恵をお貸ししたにすぎませんよ。ほとんどはイーグラー将軍の手腕によるものです」

 

二人は握手を交わした。ほとんど親と子程の隔たりがあるのに、イーグラー将軍にはある種の敬意が滲み出ていた。

 

「しかしハング殿、ここは戦場ですぞ。旅の途中であるなら早々に立ち去った方がいい。いつここが鉄火場になるかわからんのですからな」

 

イーグラー将軍の言葉にハングは苦笑を漏らす。

その態度にイーグラー将軍は不審な目を向けた。

 

「いえ、イーグラー将軍が部隊を展開しているとお聞きしまして。少しでも役にたてればと思いまして・・・それで、奥方はお元気ですか?」

 

イーグラー将軍の表情が固まる。お互いに手を握り合ったまま、時だけが固まったようだった。だが、それも一瞬。

 

すぐに二人の顔には動きが戻った。

 

「ああ、元気にしているよ・・・なにかと、不便をかけてはいるがな」

「そうですか?僕はてっきり厨房にこもりきりなんじゃないかと思ってました。以前、窯で焼いていただいたパイは美味しかったですからね」

 

再び、空気が固まる。だが、ハングはそのまま話し続けた。

 

「それと、ご子息はどうです?室内に閉じこもって勉学ばかりしておいでですか?以前はしっかり監視しておかないと、よく逃げ出す子でしたけど?今はいかかがです?」

 

イーグラー将軍は何も言わない。その沈黙こそがハングにとっては何よりの答えであった。

 

「・・・そうですか・・・わかりました」

 

ハングはゆっくりとイーグラー将軍から手を離す。それが、何かの合図だったかのようにイーグラー将軍の顔にはみるみると笑がこみ上げてきていた。それを見ながらハングはただ寂しそうに微笑み続けた。

 

「くくくく、くはははは・・・ハハハハ!なるほど。ラングレン殿の策がことごとく破られるわけだ。ハハハハハ」

 

空を見上げるようにして笑うイーグラー将軍。

そして、ハングは目を閉じるようにして自分の足元に顔を向けた。

 

「ということは、北の方面の騎馬部隊はもしや罠か?」

「・・・俺が北に向かわせた騎馬兵は一騎だけです。大量の松明を抱えてはいますけどね・・・」

「なるほどな」

 

ハングの拳は強く、ただ強く握られていた。

ハングは口の奥から絞り出すかのように話し続ける。

 

「イーグラー将軍は北からの横撃を警戒してくると踏みました。ですから、騎馬部隊は歩兵隊の後方にて待機。そろそろ、歩兵隊が道を開けて騎馬部隊の突撃が行われる予定です」

 

そして、ほぼ同時に霧の中をこだまして怒涛の音が響いてきた。

それは騎馬の蹄が大地を打ち鳴らす音だ。それと同時に人々の阿鼻叫喚もまた山々に反響する。

 

「なるほど、霧に紛れた横からの奇襲ではなく。霧に紛れた歩兵の中からの奇襲・・・説明を受けるまで全く予想もつかなんだ」

「ワレス様という鉄壁の守りが加わりました。うちの歩兵隊がそう容易く崩れはしません。それ故に可能な策です」

 

本来であればハングはこの策を使用するつもりはなかった。リン達は個人の戦闘技術は別としても、軍隊としての動きはまるで訓練をしていない。戦いながら陣の中心に騎馬の通り道を開けるなどという器用な真似はできない。

これはワレスという巨大な防壁があってこその策だ。

 

「でなければ、私が部隊を抜け出してここに来ることはできなかったでしょう」

 

ハングは今までも『運命』というものを幾度となく恨み、憎み、そして跪いてきた。

そして、今日という日もまたその屈辱を味わうことになった。

 

「そうだな、それも教えてもらいたいものだ。どうしてわざわざこんな所まで来て私に挨拶をしようとしたのだね」

「そんなもの決まってるでしょ・・・」

 

ハングは自嘲するように笑った。

 

「命の恩人に・・・ご挨拶をしたかっただけですよ・・・」

 

ハングはそう言ってイーグラー将軍に背を向けた。

もう、これ以上この場に留まる必要はハングにはなかった。

 

「リンディスを騙る賊軍についた墜ちた軍師、ハング殿!このまま私が行かせるとお思いか!!」

 

振り返れば既に馬上へと移っていたイーグラー将軍が槍先をハングに向けていた。

ハングはそれを一瞥し、再び背を向ける。

 

貫けるものならやってみるがいい。

 

その背中が言葉よりも雄弁に語っていた。

 

「将軍・・・」

 

後ろに控えた兵士が槍を構えたままどうすべきかわからずにイーグラー将軍を見上げる。将軍は穂先を向けたまま、投擲の動作に移ろうとはしなかった。

 

そして、ハングは霧の中へと消えていく。

 

それと入れ違うかのように新たな伝令が駆け込んできた。

 

「伝令!前線が突破されました!敵部隊はその勢いのままにこちらに前進しております!!」

 

イーグラー将軍は槍を降ろし、ため息を吐く。

 

そして、最後の命令を下した。

 

「皆の者に伝えろ・・・」

 

 

 

――――――― ※ ――――――― ※ ―――――――

 

 

ハングは万が一の為に霧の中で待機していてくれたマシューとすぐに合流した。

 

「戻りますか?」

「ああ・・・」

 

お互い、多くのことを語ることはしない。ハングは自分から話すつもりはなく、マシューもまたわざわざ聞くようなことはしなかった。

だが、ハングが進軍中止の命令を出さないということの意味は言わずとも伝わっていた。

 

二人は霧の中を歩いていく。そして、さほど進むことなく自軍の連中と合流することができた。

先陣を務めていたのはリンとセイン、ケント。そしてワレスであった。他の連中は霧の中からの奇襲に備えて後方を固めている手はずになっていた。

 

「ハング!どこ行ってたの!?」

「・・・ちょっとな・・・」

 

それ以上は何も言わないハング。

リンは質問をしたそうに数度口を閉じたり開いたりを繰り返したが、結局口を閉じることを選んだようだった。

 

ハングは皆に囲まれながら、再び今来た道を引き返す。

 

もう一度訪れた城門前。

 

そこにはなぜかイーグラー将軍しかいなかった。

イーグラー将軍は霧の中から現れたリン達を見てもまるで表情を変えなかった。

そこに、ハングが混じっているのを見てもやはり一緒。ハングもまた努めて無表情を貫いていた。

イーグラー将軍は槍先をリンに向ける。

 

「ふん、貴様がリンディス様の名をかたる不届き者か!ここを通すわけにはいかんぞ!!」

「私は、嘘なんてついてない!信じてくれ・・・と言ってもムダでしょうけど」

「セイン、ケントだけではなく。ハング殿までたぶらかしておきながら、まだそんなことが言えるか」

 

殺気立つイーグラー将軍にリンも剣を抜く。

 

ハングは唇を噛み締める。お互いにお互いの立場が分かっている。それでも戦い、どちらかが死なねばならない。

ハングはリンの肩が少し震えているのを見ながら幕の降りていない舞台をただ眺めていた。

 

「イーグラー将軍!」

「ケント・・・か」

「イーグラー将軍!我らは侯爵の命令どおりリンディス様を見つけ出し、ここまで戻ってきたのです!ですから、どうか槍を・・・」

「それはできぬ相談だ。なにせ、それを証明する手立てはない。そうだろう?」

「それは・・・」

 

言葉を返せないケントに代わり、セインが声を張った。

 

「何言ってるんですか!ケントの性格は将軍もご存知でしょう!!頭が固くて融通が利かない!そんな奴が裏切りなんてするわけないでしょ!」

「・・・・・・」

「ケントも・・・俺も、ちゃんと主人の命令に従ってますよ。ラングレン殿なんかではなく本当の主人のね」

「言いよるわ・・・」

 

ハングは目を伏せたくなる衝動をじっとこらえていた。

 

罪悪感に泣きたくなってなにが悪いのかと自問する。

 

ハングは確かにイーグラー将軍には幸せになってもらいたいとそう願っていた。

それと同時に仲間たちのの道の上の障害を全て取り除いてやろうという覚悟も持っていた。

 

ならば、選べる結末などたかがしれていた。

 

この戦いを選んだのはハング自身だ。

もっと別の道を選択する方法もあった。隠密に抜ける手段もあった。

 

だけど、それをハングはしなかった。

 

もし、イーグラー将軍を無視して進んだ場合。キアラン城を目前にしてハング達はイーグラー将軍の部隊を常に背後に抱えなければならなくなる。その上で戦力に勝るラングレンに勝つことはできない。

 

それがハングの下した決断だった。

 

その決断の結果が目の前にある。そこからハングは背を向けてはならないのだ。

 

人の両腕に全ては収まらない。例え竜の腕を持っていようとそれは変えられなかった。

 

「ワレス殿・・・」

 

イーグラー将軍はセインやケントの後ろにワレスの姿を認めて、口の端で小さく笑った。

 

「あなたがついているのなら・・・もう思い残すことはない」

「この・・・馬鹿者が・・・」

 

イーグラー将軍が馬の手綱を引く。彼の馬が嘶き、目線を正面に据えた。

 

「さあ裏切り者共よ!かかって来るがいい!このイーグラーの首を取ってみせよ!!」

 

リンが【マーニ・カティ】を抜き、セインが槍を構え、ケントが剣を手に取る。その一歩前にワレスが斧の刃をイーグラー将軍に向けていた。

 

そして、動き出す。

 

四対一の戦いは一瞬だった。

ワレスが槍を受け止め、セインとケントが左右から突き刺し、リンが正面から切り捨てる。

三つの傷をその身に受け、舞台の幕はあっけないほどに鮮血で染め上がった。

 

馬上から倒れるイーグラー将軍。悲しみと苦しみを湛えながらそれでも騎士の誇りを宿し、優しさに満ちた家族思いのその瞳がハングを見ていた。ハングはその瞳から決して目を逸らさなかった。

 

地面に倒れた将軍をリン達が見下ろす。

 

その誰しもが泣きたいような顔をしていた。そんな顔を見渡し、将軍は最期に振り絞るかのように言葉を世界に放つ。

 

「馬鹿者め・・・早く・・・行け・・・侯爵は何も知らぬまま・・・病と見せかけ・・・毒で・・・命を削られている。侯爵を・・・キアランを・・・家族を・・・頼む・・・」

 

誰に向けた言葉でもなかったはずだ。それなのに皆の視線はただ一つに集まった。

 

「必ず・・・」

 

ハングのその言葉に安堵したかのように、イーグラー将軍は満足げにその眼を閉じた。

もう開かれることのないその瞳を見つめてハングはまた言葉を重ねる。

 

「必ず・・・成し遂げます・・・」

 

その言葉はいつまでも、いつまでも霧の中を漂っているような気がしていた。

 

その後、仲間達の合流を待っている間に城の制圧は終わった。とはいえほとんど抵抗らしい抵抗はなかった。イーグラー将軍の命令により、既に投降の意志が決定されていたのだ。

 

後でハングがケント達の話を聞いたところ、彼の直接の部下と思しき兵達は戦闘には参加していなかったという。彼等は皆、城の防備を固めていた。それは、イーグラー将軍なりのラングレンへの意趣返しだったのかもしれない。

 

だが、その真意はもう明らかになることはないのだろう。

 

ハング達は悲しみに暮れる城の人達に弔いを任せて、早々にその城を後にした。

 

「・・・必ずや、将軍の無念を晴らしてください!!」

「お願いします!!せめて、あのお方の御家族を無事に返してあげてください!」

「将軍の亡骸とこの土地は我々が・・・我々が・・・お守りいたします!!」

 

背中に涙の願いを聞きながら、少し晴れだした霧の中を彼らはまた歩き出した。

 

「・・・イーグラー将軍ってどんな人だったの?」

 

程なくしてリンから向けられた問いにはケントが答えた

 

「私とセインが初めて配属された部隊の隊長で・・・恩師でした」

「私たちのこと・・・わかってたみたいね。なのに、どうして戦いを?」

 

その問いにはハングが答えた。

 

「ラングレンに、弱みを握られた。家族を・・・人質にとられてたんだ・・・」

 

ハングが握手を交わしながら行っていた何の気もない世間話。これはその中からハングが得た情報だった。

 

「見張りにラングレンの私兵をつけられてたから、俺たちに少しでも手を貸すような真似はできなかったみたいだ」

 

誰かが何かをへし折る音を立てた。視界の隅でセーラが自分の杖を真っ二つにしていた。それと同時に近くの古木が切り倒されていた。ワレスが切ったようだ。

 

「・・・ラングレンに母なる大地の怒りを!!」

 

目の前のリンも憤怒をあらわにする。皆、大なり小なり感情をぶつけていた。

 

「誰にもできないのなら私たちが、あいつを倒す!!ハング、最後の決戦よ!」

「ああ・・・」

 

ハングは空を見上げた。今もなお霧に覆われながらも太陽の光が薄っすらと見えていた。

ハングはあの頃の思い出になんとなく思考を巡らせた。

 

 

――――――― ※ ――――――― ※ ―――――――

 

 

 

霧が出そうな曇天の下を馬に乗った騎士と旅人が橋を渡っていた。

 

「ハング殿、すみませんな治水工事や城壁の改修まで手伝ってもらってしまって」

「いえいえ、自分にとってもいい勉強になっております。それに、イーグラー将軍のお役に立てるのならこれぐらい。行き倒れていたところを助けていただいたお礼です」

 

イーグラー将軍とハングは馬を並べて近くの村まで巡回をしていた。

 

「ふむ、しかし働かせすぎだと家内にも言われてな。この前など自分で焼いたパイを夕食に混ぜるとの脅しまでうけてしまった」

「ははは、奥方様は料理の下手さはもはや暴力ですからね」

「あれはもはや兵器だ。他の家事全般はこなせるのに。なぜ料理が上達しないのか・・・」

 

下手すればこのまま永遠と続くのろけ話になる可能性もあるのでハングはさっさと話題を変えた。

 

「ご子息も勉学はさっぱりですしね。何かと大きな欠点があるのは家系なのでしょうか?」

「全くだ、ハング殿に教えてもらっているというのに・・・あいつときたら」

 

武術に長けて騎士道精神あふれる素晴らしい息子なのに勉学をさぼる腕前は盗賊並み。ハングとしてはその手腕を褒めるべきなのか叱るべきなのか悩みどころなのであった。

 

「ハング殿はこの後はどうするのですか?」

「そうですね、ベルンを経由してサカの草原のほうにでも行ってみます」

「そうか、惜しいな。このキアランに留まってくれはしないのかね?」

 

ハングはそれに笑うだけで明確な答えは返さなかった。

 

「そうだ、次に来たときには私にも娘ができているかもしれん。そうしたら、嫁にもらってくれないだろうか」

「さっきから面白い冗談が多いですね将軍」

 

半ば本気なのだがなぁ・・・とつぶやくイーグラー将軍にさすがにハングは苦笑せざるおえない。

 

「よくもまあそんなことが言えますよね。俺の左腕は異形ですよ」

「そんなもの、何の意味がある。人間はその内面にこそ価値がある」

「胸に刻んどきますよ」

 

ハングとイーグラー将軍は村に足を踏み入れる。

心優しき将軍と治水や治安に貢献してきた軍師はあっという間に人々に囲まれてしまう。

 

その暖かさを感じながらハングは何度も思ったのだ。

 

『ここは居心地がよすぎる』

 

それは心の中に復讐という魔を飼うハングには、甘い毒であった。

それは良くも悪くもハングの心を掴んで離しはしなかった。

 

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