【完結】ファイアーエムブレム 烈火の剣~軍師と剣士~   作:からんBit

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1章~運命の足音(前編)~

ブルガル

 

この町はサカの中でも比較的東に位置している大きな町だ。

昔からこの町はベルンとサカの間の物品の集散地として発達してきた町であり、小さな村や遊牧民が多いサカの中では最大の町である。

旅の商売人が主な客である分、旅支度を整えるにはちょうどいい町であった。

だが、この町に集まってくるのは商売人だけでは無かったらしいことを俺達は知ることになる。

 

 

――――――― ※ ――――――― ※ ―――――――

 

 

ハングとリンは馬を宿屋に預けて買出しに向かっていた。

 

「ハング!こっちよ。向こうのほうに市場があるの。そこで旅に必要なものを揃えましょ。」

「だから待てっての!市場は逃げやしねぇんだから!」

 

ブルガルの勝手を知るリンがどんどん先に行ってしまいハングは見失わないようにするので精一杯だった。あんまり顔にはださないが彼女もそれなりにはしゃいでいるらしい。

ハングは彼女の翠色の髪を目印に人ごみを掻き分けていった。

 

そんな時、高らかな声があたりに響き渡った。

 

「おお!これはっ!!なんて美しい女性なんだっ!!あなたは野に咲く薔薇か、天に舞う白鷺か!」

 

ハングの足が止まった。周囲の人々も何事かと声のした方へと顔を向けている。

ハングが追いかけていたリンの髪もふわりと一瞬立ち止まる。

 

そして、どこからともなく現れた騎士がリンの前に馬を止め高らかに叫んだ。

 

「待って下さい!美しい方!よろしければ、お名前を!そして、お茶でもいかがですか?」

 

現れたのは緑を主体とした鎧に、茶色の髪を持つ男だった。背格好からしておそらく騎士であろう。

 

しかし、お前の女性に対する情熱はわかったが、町中で馬を駆けさせるなよな。危ないだろ。

 

ハングの頭にそんな少しズレたことがよぎった。

そんなことを考えてハングの足が止まっている間にリンがその騎士へと顔を向けた。

後ろ姿からでもわかるほどに不機嫌そうな様子だった。

 

「・・・あなたどこの騎士?」

 

その質問にその緑の騎士は待ってましたと言わんばかりの得意顔で馬から降り自己紹介を始めた。

 

「よくぞ聞いてくれました!俺は、リキアの者。もっとも情熱的な男が住むといわれるキアラン地方出身です。」

 

ハングは往々にしてキアランにそんな呼称がついていたことを知らなかった。

そして、熱血的な自己紹介をされたリンはというと、明らかに気持ちが冷え切っているようだった。

 

あいつ、軽薄な男嫌いそうだもんな・・・

 

「『もっともバカな男』の間違いじゃないの?」

「うっ・・・冷たいあなたもステキだ。」

 

騎士がリンの放つ冷気を自分の熱気でこらえているうちに、やっとハングはリンに追いついた。

 

「遅いわよハング!」

 

リンの機嫌最悪。

ハングは溜め息が出そうだ。

 

「もしや!あなたはお連れの方ですか!ならば、あなたも一緒にお茶でも!」

 

彼はリンと一緒にいられればなんでもいいらしい。そして、そんな身も蓋もない彼の最終手段がリンの機嫌をさらに悪化させた。

 

「行きましょ、ハング。相手にしてらんないわ。」

「あ!待って・・・」

 

ハングと騎士を置いて歩き出したリン。だが、その前方をまた馬が塞いでしまった。

 

「セイン!いいかげんにしないかっ!!」

 

怒鳴り声と共に現れたのは、紅色の鎧を着た赤毛の騎士だった。

しかめっ面をする紅の騎士に対し、緑の騎士は朗らかに声をかけた。

 

「おお、ケント!わが相棒よ!!どうした、そんな怖い顔で?」

 

このお調子者はもしかしたら他人の『怒』に対する感覚がにぶいのかもしれない。

 

簡単に言うとバカなんだろう・・・

 

「貴様が真面目にしていればもっと普通の顔をしている!セイン!我々の任務はまだ終っていないのだぞ!!」

「わかっているさ。だが、美しい女性を前に声をかけないのは礼儀に反するだろう?」

 

ハング達を挟んで舌戦を繰り広げる二人。リンじゃないがハングもいい加減苛立ってきていた。

そんな苛立ちがあったからなのか、ハングの口をついて咄嗟に言葉が出ていた。

 

「何の礼儀だ!」

「何の礼儀だ!」

 

紅の騎士と発言が被る。なんとなく、ハングと紅の騎士と目が合う。

その微妙な間にリンが言葉を割り込ませた。

 

「あのっ!どうでもいいけど、道をあけて。馬が邪魔で通れないわ。」

「すまない、すぐに・・・」

 

紅の騎士が一礼して馬の手綱を握った。

 

「ありがとう。あなたは、まともみたいね」

「あ・・・俺と・・・お茶を・・・」

 

後ろから聞こえたまともじゃない騎士の声を黙殺。これでやっと市場に向かえると思った。

 

だが、そうもいかなかった。

 

不意に紅の騎士が何かに驚いたかのように目を大きく開いたのだ。それはまるで、死んだと思っていた友人を見つけたかのような態度だった。

 

そして彼はいきなりリンの肩を掴んだのだ。

 

「失礼だが君とは、どこかで会った気が・・・」

「え?」

 

いきなり紅の騎士がそう言った。ハングも驚いてリンの顔を見る。だが、リンも困惑しきった顔をしていた。その場の空気が突如として張り詰める。今にも堰が溢れ、大事な何かが溢れてきそうな感覚をハングの肌が感じ取っていた。

 

そんな空気を高らかな声がぶち破った。

 

「おい!するいぞ、ケント!俺が先に声をかけたんだぞ!!」

 

その瞬間、揺らいでいたリンの瞳が据わった。ついでに、リンの苛立ちが臨界点を突破した音も聞こえた気がした。おそらく発信源は彼女のこめかみあたり。

 

「リキア騎士にはロクな奴がいないのね!行きましょ、ハング!気分が悪いわ!!」

「あ!おい!リン!」

 

ハングの右腕を握り締めて引っ張り出すリン。万力のようなその握力がハングの骨を軋ませ、激痛を走らせる。本物の剣士の握力はクルミを片手で割ると聞いたことがあるが、あながち嘘でもないらしかった。

 

「っぅ・・・・・」

 

言葉にできない痛みに苦しみながらも、ハングの目は騎士達を追っていた。

 

「待ってくれ!違うんだ・・・」

 

ハングは後ろから届く騎士の声を聞きながら思考を巡らせていた。

ハングには紅の騎士が緑の騎士の発現が同じ目的だったとは思っていなかった。

あの時の紅の騎士の顔にはそんな浮ついた感情は乗っていなかった。

 

本当は詳しい話を聞くべきだった。今すぐ戻って紅の騎士の情報を引き出したかった。

 

だが、ハングは無力だった。

 

今のハングは自分の肩が抜けないようにするのに必死だった。

 

――――――― ※ ――――――― ※ ―――――――

 

 

リン達が去ったその場所では紅の鎧を着たケントが鬼の形相で相方の胸倉を掴みあげていた。

 

「セイン・・・貴様!」

「え?違うのか?おまえも、てっきりあの方の美しさに見ほれたのかと・・・」

「貴様と一緒にするな!だいたい彼女には連れがいただろう!」

「あの二人ってそんな関係なのか!」

「私が知るか!!」

 

ケントはセインから手を乱暴に離し、自分の馬に跨った。

 

「それよりも、今の娘を追うぞ。彼女は多分・・・」

 

そこまでケントが言うと、セインの顔つきが騎士としてのそれに変わる。

 

「まさか・・・俺たちの『任務』か!?ウソだろ?おいっ!!」

 

慌ててセインが馬に飛び乗る。

 

「急ぐぞ!相棒!!」

「当然だ!」

 

二人が馬を駆っていく。街中の喧騒を越えて。

 

 

 

――――――― ※ ――――――― ※ ―――――――

 

 

リンに引っ張られながら歩くハング。リンは市場を素通りし、家が立ち並ぶ通りを抜け、道をまっすぐ歩いていく。その間も一度もハングを振り返ることはなく、掴まれた右腕からは彼女の熱量が火傷しそうな程に伝わってきていた。

 

完全に頭に血がのぼってるなこりゃ。

 

ハングはなにか言葉をかけようとしたが、止めることにした。どうせなら、このまま町の外に出ようと考えていたのだ。そのほうが『奴らの人数』を確認できそうだと踏んだのだ。

リンは町のはずれを抜け、目の前に広がる草原を見て、ようやく足を止めた。

ハングにはその背中からは陽炎が立ち上っているような錯覚が見えたが、きっと気のせいであろう。

 

「落ち着いたか?」

「ええ・・・まったく・・・」

 

落ち着いていないらしい。ハングは苦笑いをして、喉の奥で笑う。

 

「ところで、腕離してくれないか?」

「え?」

 

リンが自分の手に視線を滑らせた。

 

「あ!ごめんなさい!」

 

リンが慌ててハングの手を離す。

 

どうやら、怒りに我を忘れてハングの腕を掴んでいたことを忘れていたらしい。

手が離され、握り締められていたハングの手首が風に晒される。その部分は赤を通り越して若干青くなっていた。手首を何度か振ってみる。さすがに骨は折れていなかったが、たいした力であった。

 

「ごめんなさい!痛かった?」

「ああ、次握るときは左腕にしてくれよな」

「軽口が叩けるなら大丈夫そうね・・・あ~・・・市場に戻りましょうか?」

 

若干きまりがわるいのかリンの声は遠慮がちだった。

 

「そうしたいとこだけどな・・・」

 

ハングは小さく息を吐き出した。

 

「その前にやることがある」

 

ハングの声音がいつもより数段低いものに変わる。目線が鋭くなり、頬が高揚から桃色に染まる。

 

「やること?」

 

ハングは顎で今来た道を示した。

 

リンがそちらを向く。そこには明らかに『一般人』とは言えない人相と服装をした男達がゆっくりと近づいてきていた。

 

「殺気がすごい・・・あいつらは・・・なに?」

「あいつら、町に入った時から俺達をつけてた」

「え?」

 

奴らもさすがに市場付近の人込みの中で騒ぎを起こすのを嫌ったのだろう。

ハング達がこうして人のいないところに移動してきた途端に殺気をギラギラと振りまきだしている。

 

「リン、俺が合図するまで剣を抜くなよ」

「う、うん」

 

ガラの悪そうな連中が約十人。ハング達を町に戻らせないよう横一列に並んで道を塞いでいる。

その中でも一際顔の悪いなやつが一歩前に出てきた。

 

「ぐへっ、ぐへへへ。カワイイじょうちゃん!あんた、リンディスってんだろう?」

 

『リンディス』?

 

ハングは眉間に皺を寄せる。ハングはその名前に聞き覚えがなかった。

 

「何者!?」

 

だが、隣のリンが明らかに動揺を見せた。

 

どういうことだ?

 

ふとハングが隣を見ると、彼女の横顔からは血の気が引いていた。

それでいてその瞳に以前垣間見た暗い煌きが灯っている。

 

「・・・もったいねー。まったくもったいねーが・・・これも金のためだ。消えてもらうぜっ!!いくぞ!野郎どもっ!!」

 

奴らが武器をかまえた。放たれた殺気が俺達の体を突き刺してくる。リンの体にわずかに力が入ったのを感じる。ハングには彼女の中に不安が見え隠れしているのがわかっていた。

なにせ相手は10人前後に対しこっちはたった2人。しかも、ハングという半ばお荷物のような存在付き。

リンからしてみれば、状況は最悪に等しい。

 

「これだけの人数、私達じゃあ・・・」

 

リンが小さな声でそう呟いた。不安気な声と気弱な台詞だ。とはいえ、彼女を臆病者だと言うつもりはない。数の暴力に対する恐怖はハングも同等のものを抱えていた。

 

早い話が俺もリンも10人を相手にビビっているわけだ。

 

だが、俺はあえてそれを鼻で笑ってみせた。それが軍師の役目の一つだった。

 

「でもま、やるしかねぇに決まってんだろ!」

 

ハングのいつも以上に強い声が周囲に降り注ぐ。リンが一瞬ハングの顔を見た。そこには勝利を確信しているかのように笑う軍師がいた。

リンはそんなハングに驚いたような顔をしたが、次の瞬間には力強く頷いていた。

 

「ええ!そうね!私達は負けられないもの!!」

 

リンは自分の剣の柄に手を置いた。彼女の手に震えはない。

 

不思議な気分だった。

 

さっきまでの恐怖や不安が嘘のように消えていた。

隣に余裕で笑う人がいるということが、今はとても頼もしい。

 

ハングは自分の視界の端でリンの顔を見て、ほくそ笑む。

 

戦いの最中に味方を鼓舞する能力。それは戦術を担う軍師にとって必要不可欠な力だった。

もちろん、ただのハッタリの場合もあるが、今回ばかりはそうじゃない。

 

ハングとリンの二人は戦闘体制に入りながら開戦の時を伺った。

 

「リン、下がりながら間合いをはかるぞ」

「わかったわ」

 

ハング達は静かに後退しつつ相手の出方を伺う。

 

ハングとしては2人同時に目の前の相手に切りかかり、一点突破で町に駆け込んで姿を隠すという手を考えていた。だ

が、ハングとしてはあまりとりたい作戦ではない。彼らの狙いがリンの命である以上、それが不意になってしまえば彼らの怒りの矛先がどこに向くかわかったものではない。怒りに任せて町で暴れられでもしたら気分が悪い。

 

ならばと、ハングは別の方法を考える。

 

靴裏の感覚が石畳から踏み固められた土へと変わる。ハング達は草原へと足を踏みいれようとしていた。

僅かな距離を保ったままでの移動。お互いに牽制しつつのにらみ合い。

 

だが、その均衡はすぐに破られた。

 

二人が草原に足を踏み入れた時、奴らの足がわずかに止まったのだ。

その小さな異変を敏感に感じ取ったハングはそれと同時に自分の足を止め、リンの足も強引に止めた。

 

「いたっ!ハング、足踏んでる!」

ハングは文句を黙殺する。

戦闘において追う側が足を緩める理由は主に二つ。

 

諦めたか、もしくは・・・

 

ハングは後ろに注意を向ける。

そこには、人が移動した痕跡が残されていた。それと同時に近くの茂みから息を殺している人の気配も感じる。

 

やっぱり伏兵か。

 

ハングはリンに耳打ちする。

 

「リン・・・後ろに二人いる」

「え・・・」

「振り向くな・・・合図したら自分の真後ろを斬れ」

 

リンが小さく頷いたのを視界の隅で確認し、ハングは再び思考の渦を回しだす。

さて、どうすっかな。ここで後ろの二人を切り捨てて三十六計を決め込むってのもありだが・・・少し『リンディス』についての情報が欲しいところだ。幸か不幸か、こいつら程度なら俺の剣技でも対応できそうだ。

 

ハングは左腕を握り締めた。

しゃあない、暴れるか・・・

ハングは後ろの伏兵の二人を釣りだそうと足を一歩下げようとした。

その時だった。その場に高らかな声が割り込んだ。

 

「あーーーっ!見つけたっ!!」

 

町のほうからだ。ふと、視線をやると二騎の騎馬が疾駆してくる。その突然の乱入者がその場の緊張の糸を切った。後ろの気配が動く。

 

「リン!!」

 

そう叫びながらも、ハングは自分の後ろの敵を切り捨てた。隣ではリンが目にも止まらぬ抜刀からの一閃で敵を両断している。その間に騎士達は道を塞いでいた奴らを一人ずつ仕留めながら列を突破してきていた。

 

騎士達はハング達をかばうように反転し、馬を止めた。

 

「ハアッハアッ、お、追いついた・・・」

 

緑の騎士が息を切らしながら、山賊共に槍を向けた。

 

「こら!そこのヤツら!この方に、なんの用だっ!女の子相手に、この人数は卑怯だぞっ!!」

「あなたたち、さっきの!」

 

リンの声に棘があった。

 

まださっきのことを根に持っているのだろうか。

 

紅の騎士が剣を構えつつ、こちらを振り返った。

 

「お話は後で。この者たちは、どうやらあなたに危害を加えるつもりらしい。だったら、我らがお相手しよう。」

 

紅の騎士がそう言って剣先を敵に向けた。

緑の騎士も槍を大袈裟に振りかぶった。

 

「下がっててください!パパッと片付けますから。」

 

だが、それを見るリンの目はいまだ剣呑だった。

 

「いやよ!私が受けた戦いだわ、勝手なことしないで!」

「えーっ・・・そんなこと言われても、困るんですけど」

 

緑の騎士が槍を下げながら、変な顔をした。それでも、敵への牽制を欠かさないところを見ると腕だけは相当の騎士なのだろう。性格はともかく、こんな騎士に力を貸してもらえるなら断る理由など無い。

 

ハングは問答無用でリンの頭に拳骨を落とした。

 

「イタッ!ハング!何するの!」

「面倒だから、お前はもう黙ってろ」

「なん・・・」

「黙ってろ!」

 

強い声と有無を言わさない一睨み。リンの口が強引に閉ざされた。その間にハングは騎士二人に向き直る。

 

「お二人さん、戦うってならこっちに従ってくれるか?」

 

答えたのは紅の騎士の方だった。

 

「・・・わかりました。あなたが指示をだして下さい。私は、リキア騎士のケント。連れの男はセイン。我らは、あなたの指揮に従った戦いをします。それで、構いませんか?」

 

最後の問いはハングでは無く、リンに向けられていた。

リンは渋々といった感じながらも、小さく頷いた。

 

「・・・いいわ。ハングに任せる」

 

拳骨と怒鳴り声を浴びたせいか、声が若干拗ねたものになっていた。

 

「行くわよ!!」

「はいはい・・・そんじゃ、頼みますよ!」

 

ハングは三人に指示を出しつつ動き出す。彼が剣を抜いて戦う必要はなさそうであった。

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