【完結】ファイアーエムブレム 烈火の剣~軍師と剣士~ 作:からんBit
いよいよエリウッド編を再開したいと思います。
とはいえ、4月からはまた忙しくなりそうなのでペースが落ち込むこともあるかもしれません。
どうか、ご了承ぐださい。
かつて人と竜が相争った【人竜戦役】
その戦いにおいて、竜を討ち倒し人に勝利をもたらした八人の英雄がいた。
【八神将】と称えられる彼らはエレブ大陸に平和をもたらし、人々はさまざまな国に分かれながら、ゆるやかな繁栄をとげていった。
エレブ新暦980年
長きに渡る大陸の安定は、このまま保たれるかに見えた。
【八神将】が一人、勇者ローランを祖先にもつ諸侯たちの【リキア同盟】。
その中のひとつ、フェレ侯爵領。
ベルンとの国境付近に位置しながらも長らく争いとは無縁だったこの地に今、重苦しい不安の影がさしていた。
名君と称えられ、民たちに慕われていたフェレ侯爵エルバートが、配下の騎士たちと共に謎の失踪をとげたのだ。
一月たってもフェレ侯の行方は知れず、もはや、命はないものと噂されていた。
そして、混乱のさなかのフェレ領に一人の男が流れ着く。
彼の名はハング
旅の軍師は導かれるかのように運命の渦中に身を投げていく。
――――――― ※ ――――――― ※ ―――――――
「いや、本当に助かりました」
簡素なベットの上で礼を述べたのは黒い髪と青白い肌をした人だった。左腕に包帯を巻きつけ、薄い茶色の瞳をもった旅人。
名前はハングである。
「ここ数日ほとんど何も口にできなくて」
「いいんですよ、困ったときはお互い様です」
フェレの城下町に比較的近い小さな農村。特産品らしいものは何もないが、豊かな森に獣が豊富で毛皮と木材の取引で生活をたてている人々の暮らす村である。
その村の村長の家でハングは差し出されたスープをすすっていた。
村長は髪の毛の無くなってしまった頭頂部をさすりながら、笑顔を浮かべた。
「ハングさんはどこからいらしたんですか?」
「あちこちを回ってる旅烏です。強いて言うならオスティアの方から来ました。最近、フェレはどんな感じですか?」
ハングは朗らかにそう尋ねた。だが、村長は真逆の表情に変わる。
「ハングさんはご存知でしょうか?」
ハングは顔の表面に人畜無害な世間知らずの旅人の顔を装った。
「何かあったんですか?」
「フェレ侯爵様が失踪したんですよ」
なんだ、結局その話題か・・・
ハングは内心落胆していたが、もちろん顔には出さない。
一年前のあの旅で自分の表情がどんな効果を持つかはよく学んでいた。
「あれは、ひと月程前です。直属の騎士を引き連れてどこぞに姿を消してしまったんです」
「それで、領内は大丈夫なんですか?」
「はい、侯爵家の方々が尽力してくださいますから今のところは平穏です」
ハングはその言葉の行間に『今後はわからない』という不安を感じ取った。
確かに今のフェレは薄氷の上で暮らしているようなものだ。
フェレ軍から主力部隊が消えた今、治安は徐々に悪化していくだろう。
「それで、捜索は?」
「ええ、ご子息のエリウッド様が近日中に侯爵様を探す旅に出ると非公式に私に使いが参りました」
使いの内容は自警団の強化と城内への連絡網の強化要請だろうとハングは予想をつけた。
エリウッドは次期侯爵だ。彼まで領内を離れるなら領内の不安はより一層高くなる。治安維持のためにも内密に旅に出ることにしたのだろう。
「ところで、その話・・・俺に話してもよかったんですか?」
村長の顔が見事に固まった。
その顔を見てハングの中に悪戯心が沸き上がる。
今の話をネタにして、村長をゆすってみようか?
だが、ハングがそのことを口にしようとした時、ちょうど外からあどけない女性の声が聞こえてきた。
「お父さ~ん、帰ったわよ~」
「あ、れ、レベッカが帰ってきなようだ・・・私はちょっと、出迎えに」
ハングは小さく笑って口の中に言葉を押し込んだ。
「別にあなたが口外してしまったことをどうこう言いはしませんよ。命の恩人に仇を返すような真似はしません」
「そ、そうですか・・・ふぅ」
村長が安堵のため息を吐きだすのと、部屋の扉が開くのはほぼ同時だった。
「あ、ハングさん。もうお元気なんですか?」
「ああ。おかげさまで」
お下げ髪に緑のバンダナ、子鹿のように可愛らしい目と背中に背負った弓は町娘というより森を駆ける狩人だ。そんな彼女の名はレベッカという。
彼女こそが森で倒れていたハングを発見してくれた張本人である。
「お父さん!今日は大量だったよ!兎が三羽に子鹿が一頭!質もよくっていい値段で売れた!はいこれ、お金と今日の晩御飯」
レベッカはそう言って、財布と血抜きを済ませたウサギの差し出した。
村長はそれを笑顔で受け取り、部屋を出て行った。多分、外で解体するのだろう。
そして、父親が出ていくや否やレベッカは目を興奮で輝かせた。
「ハングさん、ちょっと聞いてください!実は村に騎士の方がきてたんですよ!」
「へぇ、そいつは見ものだな」
「やっぱり騎士様って素敵ですよね。颯爽と馬に跨る姿、綺麗に磨かれた武具、そして凛とした立ち振る舞い・・・夢ですよね」
「夢・・・ねぇ」
弓を背負う姿は熟練の狩人でも、こういう姿はただの村娘である。
ハング自身は騎士物語に憧れたことがないので、あまりそういった感情とは縁がなかった。特に『騎士』という存在がどれだけ千差万別かというのを知っていたからだ。
「ハングさんって、リキアを回ってたんですよね。騎士様とかとお話されたこととかあるんですか?」
「ん?ああ、まぁな」
「騎士様ってどんな方々なんです?」
「ええとな・・・」
ハングは口の中で言いよどむ。
真っ先に頭に浮かんでしまったのは軟派でいつもヘラヘラと笑っている男である。
そしてハングは首を横に振る。
少女のいたいけな夢をわざわざ壊すこともないだろう。
ハングは堅物だけが取り柄のような男の話をすることでレベッカを満足させることにした。
「ああ、やっぱり、騎士様ってそういう質実剛健のような方なんですね!」
「まぁ・・・そういう人が・・・多いと思うな・・・」
例外も多いけどな。
ハングは頭の片隅に浮かんできた軽薄な笑顔を素早く振り払った。
「ところで、騎士がこんな村に何の用だったんだ?」
「ああ、それですか?傭兵を募集してたみたいです。なんだか、随分と人選にこだわっているみたいでしたけど・・・」
「来たか・・・」
「え?」
ハングはスープの椀を脇のテーブルに置き、おもむろに立ち上がった。
「ハングさん。身体はもういいんですか?」
「ああ、問題なく動きそうだ」
ハングは軽く体操をして自分の体の調子を確かめる。
一週間程森を彷徨い歩いた割には身体は随分と好調である。多分、レベッカが作ってくれた熊鍋のおかげだろう。
「え、えと・・・どうしたんですか、突然」
「騎士が傭兵を探してるんだろ?俺は・・・もともとその為に来たんだ」
「えっ!?ハングさんって傭兵だったんですか?」
「いや、俺は・・・」
ハングは唐突に会話を打ち切った。
「ハングさん?」
ハングは窓から家の外へと視線を向けていた。レベッカがそちらを見るが、外は見慣れた村の景色が広がっているだけで何の変化もない。
「レベッカ」
「はい?」
「今すぐ弓に弦を張れ」
「え?ここでですか?」
「ああ、今すぐだ」
ハングの声に走る緊張感を感じてレベッカは言われた通りに弦を張る。
ハングはそれを確認しながら自分の剣を腰に帯びた。
ちょうどその時だった。
「おい、お前ら!」
大音量のだみ声が村の中に響いた。明らかに友好的な雰囲気ではない。ハングは耳だけをその声に傾けて、一目散に家の出口へと向かった。
「今日からこの村の支配者はこのおれ、グロズヌイ様だ!とりあえず金目のものをありったけ持って来やがれ!」
絹を裂いたような女性の悲鳴があがった。ハングが扉を開けると、様々な音が村に溢れかえっていた。物が破壊される音、誰かの『逃げろ』という叫び、赤ん坊の泣き声。
ハングは乾いた唇を舌で湿らせた。
「ハングさん。どこに行くんですか!?」
「山賊退治だ!ついてくんのか?」
「はい!」
「だったら俺が突っ込む!援護しろ」
「わかりました!」
ハングは既に剣を抜き放っていた。
「おらぁ!俺様がグロズヌイ山賊団の一番槍だぁ!怪我したくなかったらさっさと金目のもんを持ってこい!!」
村の大通りには既に山賊共が入り乱れ、暴行を働こうとしていた。
ハングは大通りを滑るように駆け出した。
「あぁ?なんだぁ?俺様達に歯向かうってのか!!」
ハングは目の前の男に狙いを定め、さらに加速する。
ハングを迎え撃とうと振り上げられる斧。ハングは剣を槍のように真っすぐに構え、突撃の構えを見せる。
「死ねぇぇぇ」
真正面から突っ込んでくるハング。その脳天にめがけ、山賊が斧を振り下ろした。
ハングはその瞬間、疾駆している両足を交差させた。
「なっ!」
自分の身体のバランスを強引に崩し、身体を傾ける。その突然の姿勢の変化に斧が対応できるはずもない。
斧はハングのすぐ隣で空を切る音を立てた。
ハングの目の前に無防備な首があった。ハングは剣を大上段に振り上げ、その首筋に叩きつけた。
確かな手ごたえを感じ、剣を振り切る。首の無い死体が地面に倒れ、首から上が道端に転がっていく。
「リンに比べりゃ相当遅いな・・・」
「てめぇ!!よくも仲間を!!」
ハングへ向かってくる山賊。ハングが剣を構える。その直後に、その山賊の身体に矢が数本突き立った。
「ぐわっ!!」
絶秒のタイミングである。ハングは一気に接敵し、すれ違いざまに左腕の上腕を叩きつけた。鱗に覆われた腕で顔面を粉砕する。腕を振り切り、自分の背後で山賊が華麗に空中を舞った。地面にたたきつけられた男の心臓にハングは剣を突き立てる。
「さて、騎士とやらに見つけてもらうまで。暴れるとするか」
ハングは不敵に笑い、口元に飛んでいた返り血をぬぐったのだった。