【完結】ファイアーエムブレム 烈火の剣~軍師と剣士~   作:からんBit

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11章~もう一つの旅の始まり~

フェレにてエリウッドが旅路を歩み出したその時よりも遡ること数日前。リキアの西に位置するオスティア領。

隣国であるエトルリア王国との国境を構えるオスティアはリキア内において領土、経済、軍事のどれをとっても首位の座を保っていた。

 

そんなオスティアにもフェレ侯爵の失踪の話は届いている。

 

だが、盟主であるオスティア侯ウーゼルは表だって何ら動きを見せなかった。

 

そんな領内に一人だけ、盛大に動き回る人物がいた。

 

変わり者、と民たちに噂されるオスティア侯弟ヘクトル。

 

彼はフェレ侯公子エリウッドの幼い頃からの親友である。気性の荒い彼がこの事態を静観できるはずもなかった。

 

後に猛将と恐れられるこの男。彼の戦いの道は、苛烈を極めるものとなる。

 

その第一歩が踏み出されようとしていた。

 

 

 

――――――― ※ ――――――― ※ ―――――――

 

 

「兄上!兄上っ!!」

 

大声を挙げてオスティア城の廊下を大股で歩いているのは青い短髪と胸板の厚い体格を持つ男性であった。身につけた服から彼が貴族なのはわかるのだが、その態度はとても教養があるようには見えない。

 

かといって品が無い訳ではない。青年としての若さの中に貴族としての大人の容姿がほんの微かに混ざっていた。

 

彼がこのオスティア侯ウーゼルの実弟ヘクトルである。

 

「兄上!!いるんだろ!?」

 

その彼は玉座からオスティア侯の書斎までの廊下をどでかい声をあげながら、速足で歩いていた。

 

「ヘクトル様!少し落ち着きなさい!!」

「うるせーっ!これが落ち着いていられかっよ!!」

 

ヘクトルに申し立てをしたのはオスティアの重装歩兵。

それも、数々の歴史を経験してきたかのように深い彫りが刻み込まれた顔をしかめる重装歩兵だ。

 

彼の名はオズイン。

 

オスティア侯爵の近衛兵を率いる一人である。

 

「騒々しいぞ、ヘクトル!いったい何用だ?」

 

騒ぎを聞きつけて現れたのは鋭い眼光と戦いの傷を持つ人物。

 

オスティア侯ウーゼルだ。

 

いつもはもう少し近寄り易い柔和な顔をしているのだが、今は少し硬い。弟の騒ぎに対し思うところがあるのだろう。

彼はヘクトルの実の兄でもある。

ヘクトルは兄に向けて気炎を上げた。

 

「決まってんだろ!フェレ侯爵失踪のことだ!!」

「その件なら何度も話しただろう。今回の件はオスティアの預かり知らぬこと。くれぐれもよけいな手出しはならん」

 

声を荒げるでもなく、呆れるでもなく、ただ滔々とオスティア侯爵は事実を言った。

 

それが、逆にヘクトルに怒りを注ぐ。

 

「エリウッドの親父さんが行方不明なんだぞ!ラウス侯があやしいのはとっくにわかってんだ。オスティア軍を動かして白黒はっきりさせりゃいいじゃねーか!」

 

掴みかからん勢いで兄に迫るヘクトル。

 

「落ち着かんか、バカもの!!」

 

そんなヘクトルをたった一喝でウーゼルは鎮めた。

そして、彼は再び事実を告げる。

 

「他の諸侯の領地は不可侵が原則・・・特に、今のリキア内部の情勢では絶対に兵を出すことなどできん。おまえにもそれぐらい理解できるだろう」

 

それは揺るがない事実。それゆえにヘクトルには我慢ならない。

 

お国の事情で動けない。

 

それは彼にとって苛立ちを募らせるには十二分に条件を満たしていた。ヘクトルは軽く舌打ちをする。

 

「よくわかったよ。だったらその大事な玉座にずっと座ってりゃいいさ!俺は一人で勝手にやるからな!」

 

ヘクトルはそう言い捨ててウーゼルに背を向けた。

 

「ヘクトル様っ!侯爵になんて態度を・・・」

「よい、オズイン。放っておけ」

 

残された二人がそう言っている間にヘクトルは廊下を曲がり、姿が見えなくなってしまった。

 

「まったく・・・あやつはああなったら何を言っても聞かん」

 

ヘクトルの足音が遠ざかる。ウーゼルは大きく息を吐き出した。

仕方がなかったとはいえ、弟と喧嘩をした。

やはり、気分の良いものではなかった。

 

激務で疲れた顔をさらに窪ませるウーゼルを傍目にオズインは眉間に皺を寄せるのであった。

 

一方、ヘクトルはウーゼルに啖呵を切ったその足で、オスティア城の離れへと来ていた。昔から城を何度も抜け出していたので、城の外へ出るための勝手は知り尽くしている。

 

だが、今回の目的はただ市民に混じって市場で買い食いしたり、流れ着いた傭兵達と闘技場で戦うということではない。フェレ侯爵がその部下と共に消えたとなれば、荒事に巻き込まれた可能性が高い。ある程度の長旅と激しい戦闘の備えが必要だった。。

 

その為、ヘクトルは重装歩兵並の鎧を身につけてこの場にいた。

 

あまり人のいないオスティア城の離れ。

がらんとした広間でヘクトルは待ち合わせの相手を呼んだ。

 

「マシュー!マシュー・・・いねぇのか?」

 

その途端、音もなく人影が現れた。

 

「ここに」

 

片膝をつき、首を垂れ、それでも口元には少し笑みを浮かべた男。

 

現れたのはやはり『あの』マシューであった。

 

茶色い髪と感情を読ませない食えない笑顔。お調子者の盗賊であるはずのマシューだ。

 

「おまえな・・・悪の親玉とその手下じゃねぇんだからもっと普通に出てこい」

 

そう言われてマシューは意外そうな顔を作ってから普通に立ち上がった。

 

「あれ?密偵っぽくなかったですかね?ハングさんはこれで満足してくれたのになぁ・・・」

「何をブツブツ言ってんだ?」

「いいえ~こっちの話です」

 

マシューは気を取り直して要件に入る。

 

「若さまの指示どおりの旅支度にご愛用の斧。それから離れの衛兵と門番に金を掴ませて裏口から抜け出せるように手配しておきました」

 

この程度で簡単に出られるオスティアの警備に思うところが無いわけではないが、本来城は外部からの侵入を防ぐものだ。内部から脱出する方には少し甘くても問題はないだろう。

 

と、都合のよい結論をつけてヘクトルは頷いた。

 

「よし、ご苦労。兄上に当分ばれないよう上手くやっとけよ」

 

その途端、マシューは拍子抜けしたような間抜けな顔をした。

もちろん、どこまで本当の感情なのかはわからない。

 

「へ?おれもお供しますけど?」

「バカ野郎!ついてくんなっ!!兄上の密偵のおまえを連れてったらいつ裏切って報告にいくかわかりゃしねー!!俺は一人で行く!」

「しー!そんな大声をだしたら城の警護兵が聞きつけて飛んできますって」

 

マシューの言葉の方が正しい。ヘクトルは舌打ちをして声を落とした。

 

「とにかくついてくんな」

「信用していただけないのはかなり心外ですけど・・・ま、しかたないですかね。んじゃ、これにて」

 

そしてマシューは現れた時と同様に音もなく姿を消した。

煙玉等を使ったわけでもないのに視界から突然に消える技術はたいしたもんである。

 

だが、密偵ならばこれぐらいできて当たり前。

本当の手練れともならば一対一の戦闘中であっても相手の視界から消えるぐらいやってのける。

 

だからヘクトルが不思議に思ったのは別のことであった。

 

「なんかやけにあっさりしてんな」

 

マシューとヘクトルは決して短い付き合いではない。普段のマシューから考えて、こんな簡単に引き下がるのは少し妙であった。

 

「まぁ、いいか・・・」

 

だが、考えても仕方ない。ヘクトルは改めてマシューが用意した荷物を確認した。

 

「とっととここを抜け出して、エリウッドに合流しねえとな・・・って、なんだよ、荷物えらく多いじゃねーか!」

 

マシューが置いていった荷物はどう考えても三人分、下手すれば四人でしばらく旅ができる程の量があった。

 

「二人分にしてもなんだってこんな・・・」

 

その時、ヘクトルは荷物を確かめる手を止めた。襟をただし、愛用の斧を持つ。

 

『ヴォルフバイル』

 

普通の斧より柄が長く、先端部分の重量を増した戦斧。

長柄武器と近接武器の中間に位置するような半端な長さ。

 

両手で持つには短い、片手で待つには長い。

 

だが、それは常人の背格好を基準にした場合だ。ヘクトルの体格でそれを持てば絶好の位置を確保できる斧。

 

それを構えて、ヘクトルは近くの柱の陰に佇む気配に意識を集中する。

 

「・・・・・・・・・でてこいよ。そこにいるのはわかってんだぜ?」

 

そして現れたのは全身を黒い服で覆い尽くした槍兵だ。

 

ご丁寧に顔の大部分も黒い布で覆っている。

ヘクトルは相手の顔すら見えなかった。

唯一見えていたのはその眼光。

 

手練れだった。

 

「何者だ?」

 

返事は無い。

 

既に相手は完全な戦闘態勢を取っていた。おそらく敵は一呼吸で懐まで飛び込める技量がある。

 

「・・・だんまりかよ」

 

ヘクトルは構えを変えない。例え相手が誰だろうと関係は無い。

 

「いいぜ、たとえおまえが何者でも俺の行く道をふさぐんなら叩き潰して通るのみだ!!」

 

突然、ヘクトルが仕掛けた。その巨体に見合わないとんでもない瞬発力でヘクトルは一気に間合いを詰めた。

 

「おらぁぁぁあ!」

 

斧を横に振り回す。その速度がこれまた異常だ。敵が反応して防御しようとした時にはすでにその刃が首にめり込んでいた。

 

振り切られた斧が首を綺麗に切断する。だが、ここにいる敵の気配は一つではない。ヘクトルは次の気配に斧を向ける。

 

「そこかぁ!」

「わーっ!待った待った!!」

 

振り下ろした先から慌てて飛びのく影。

壁に飛びついて尻もちをついたのはさっき別れた相手だった。

 

「おれ、おれですって!!!」

「・・・なんだ、マシューかよ。てっきり奴らの仲間かと思ったぜ」

 

ヘクトルは緊張を解き、斧をおろした。

 

「なんだじゃないっすよ!もうちょっとで、おれ真っ二つじゃないっすか!!」

「いきなり出てくるおまえが悪い。それより、どうして戻ってきた?」

「え? いや。不穏な空気を感じとってこうして助太刀に・・・」

 

ヘクトルは胡散臭そうにマシューを一瞥する。

 

簡単に消えたと思ったら、襲撃と同時に助太刀。あまりにタイミングが良すぎる。

最初からヘクトルを囮にして敵をあぶりだす気だったのだろう。

だが、それをここで問い詰めてもマシューにはぐらかされる未来がヘクトルには見えていた。

 

「・・・まあ、そういうことにしといてやるぜ」

「・・・それで、どうします?」

「なにがだ?」

「この離れに忍び込んでる敵の気配が増えてきてます・・・ざっと七、八ってとこでしょう。しかも、かなりヤバイ雰囲気のヤツばっかりだ。いくら若さまが腕に自信あるって言ってもほとんど戦力外のおれと二人じゃあきびしくないっすかね?」

「・・・言いたいことがあるなら、はっきり言え」

 

敵は既にヘクトル達のいる広間を囲むように動きだしている。暗殺が失敗したら、今度は数で押すつもりなのだろう。状況判断と機動力を十分に見せつけられた形だ。

 

「裏口から出るのはあきらめて城の警備兵に助けを求めに戻るってのは・・・」

「ありえねぇ!!」

「はは やっぱりっすか。んじゃぁ、気合入れて死ぬ気でがんばるとします」

 

マシューはニヤリと笑い、懐から短刀を取り出した。

 

「おまえは抜けてもいいんだぜ?」

「それこそ、ありえませんって。お供しますよ、どこへなりとね」

 

ヘクトルは苦笑いをし、それを自信に溢れた笑みへと変える。

 

「よし、奴らを蹴散らして城から抜け出すぞ!!」

「了解!!」

 

ヘクトルが敵の気配のする廊下に突っ込み、マシューがそれに続く。

 

二人の動きは即興にしては十分だった。

 

正面突破を主とするヘクトルと不意打ちを得意とするマシュー。

ヘクトルが手斧による牽制と戦斧による突撃で敵を蹴散らし、背後や側面などをマシューが補う。

 

二人の相性は意外と良好だった。

 

しかも、地の利は完全にヘクトル達にある。

なにせ、度重なる脱走経験のあるヘクトルと密偵マシューの二人だ。柱の位置や廊下の構造、隠れられる場所の一つ一つまで知り尽くしていた。

 

二人は次々と迫りくる敵を難なく突破していった。

 

「ハングさんだったらもう撤退してるだろうにな」

 

相手が完全に引き際を見失っているのが手に取るようにわかってマシューはほくそ笑む。

 

そして、少しだけ自分を叱る。

 

『また、あの人達との旅を思い出してるよ。良くないな~俺は密偵なんだから、あんまり思い入れを持っちゃいかん』

 

「なんか言ったかマシュー!?」

「こっちの話で~す」

 

マシューは目の前の戦いに再び集中する。すでに離れの中の敵の気配は無い。あるのは裏門付近に陣取った男の巨大な威圧感。

 

二人は裏門へと続く階段を駆け下りた。

 

そこに立つ男は、気配といい、殺気といい、今まで相手にしてた奴らよりも一回りぐらいはできそうだった。

 

「オスティアの密偵とオスティア候弟ヘクトルか・・・わざわざ死に急ぐこともなかろうに」

 

その男はそう言って槍を構えた。

 

マシューは隣を軽く見やる。そして、自分の殺意を軽く抑えた。隣にいる人物が放つ殺気だけで十分だった。

 

ヘクトルが暴れるなら、荒事は専門外であるマシューは後ろに回ろう、ということだろう。

 

ヘクトルが斧を肩に担ぎ、目の前の男を睨みつける。

 

「なぁ、おまえらラウス侯の刺客じゃねーな?身のこなしといい手ごたえといい・・・あそこのボンクラどもとはわけが違う」

「・・・知る必要はないな。オスティア侯弟ヘクトルよ。一人で国を抜け出した愚か者のお前は・・・行方不明になったまま二度と戻ることはない・・・死体は、決して見つからん。そういう筋書きだ。クク・・・」

 

少し笑った敵兵を前にマシューは少し呆れた。

 

奴は勝利を確信している。なら、自分は完全に相手を過大評価していたらしい。

獲物を前に舌なめずりなど三流もいいところだ。

 

「やれやれ、てめーら、運がなかったな」

「・・・なに?」

 

マシューはさらに一歩足を引いた。

 

邪魔しちゃいけない。というより巻き込まれたくはなかった。

 

そんなマシューのことは意にも介さずヘクトルは斧を大きく構えた。

 

「今、俺は最高にムカついてる。てめーらの腕の一、二本じゃおさまらねえぜ・・・手加減はしねえ!!」

 

そう言い終わるのとほぼ同時にヘクトルが飛び出した。大上段からの一撃。激しい金属音と共に二人が接近した。

両者の力は拮抗しているように見える。だが、マシューは傍観を続ける。

 

突如ヘクトルの手が動いた。ヘクトルの腰の手斧に手が伸びる。

 

「なっ!!」

「遅いんだよ!!」

 

敵が防御するより早く、手斧によるヘクトルの一撃が見舞う。

金属が割れる音とともに衝撃が脳天に走った。兜で刃は防げても衝撃は通る。ヘクトルの膂力を込めた一撃に敵はよろめいて後退する。

 

左手に手斧、右手に戦斧を構えたヘクトルが追撃をかける。

手斧で相手の得物を弾き、戦斧を再び頭頂部に叩き込む。

兜が二つに砕けて、頭蓋を割った感触を確かに感じとる。苦悶の表情で身体をくの字に曲げる敵の腹に更に斧をめり込ませた。

 

「お・・・許し・・・を・・・」

 

わずかな断末魔と共に最後の一人はそのまま地面に倒れていった。

 

 

敵がこれ以上増えないことを確認し、二人は荷物を担いで改めて裏口から城壁に向かって駆け出した。

 

「やー、あぶなかった。二人とも無事でよかったすね。さ、若さま!急いで脱出しましょう。今の騒ぎで、城の兵に気付かれたかもしれません」

 

さっきの戦闘など、ただのつむじ風が過ぎただけのように意気揚々と語るマシュー。

納得いかないのはヘクトルである。

 

「・・・マシュー、てめぇ最初っからこうなると分かってやがったな?」

 

それに対してマシューはあっけらかんと対応する。

 

「仕方ないじゃないすか。あいつら、若さまが一人になるまで姿現さないって感じだったし」

「・・・まあな」

 

ヘクトルの返事に少し間があったのは反論が思いつかなかったからだ。

 

「おい、マシュー!ついてくるってんならおまえ、兄上の密偵じゃなく俺の配下になったって思っていいんだろうな?」

「もちろん!騎士の誓いでもしましょうか?」

「いらねぇ。自分の言葉に責任持ってればいい」

「了解!」

 

マシューはわざとらしく敬礼などして見せる。

 

「じゃあ、行くぞ!エリウッドのところへ!!」

 

まぁ、こんな旅の道連れも悪くない。ヘクトルも少しそう思っていた。

 

 

――――――― ※ ――――――― ※ ―――――――

 

 

そのおよそ数刻後。

 

「侯爵様、大変です!ヘクトル様が!」

 

オスティア侯爵のための書斎に伝令が走ってきていた。

 

「やはり、行きおったか」

 

溜息混じりにそう呟いたのはウーゼルその人であった。

 

「は・・・?はい!す、すぐに部隊を編成し後を追います!」

 

ウーゼルは手元の書類から顔も上げずに対応する。

 

「よい。あれの好きにさせよ」

「は・・・はいっ」

 

伝令が走り去り、しばらく羽ペンを動かしていた侯爵。

彼は一区切りついたところでようやく顔をあげた。

 

そこには本日の護衛を務めるオズインの姿があった。

 

「フッ・・・まったく仕方のないやつだ」

「仰る通りですな」

 

ウーゼルは侯爵の顔から兄の顔になって少し笑った。

 

「うっ!ごふっごふっ」

 

だが、すぐに咳き込んでしまう。それも少し周りを不安にするような苦しみかただった。

 

「ウーゼル様っ!大丈夫ですか!?」

 

血相を変えるオズイン。ウーゼルは咳を飲みこむようにしばらく喉を抑え込んでいた。

 

「・・・・・・案ずるな。もうしずまった。大したことはない」

 

そうだろうか?

 

そう思わせるほどに今の侯爵の顔色はすぐれなかった。

そして、それ以上に顔から血の気が引いているオズインだった。

 

「・・・己の体力を過信するべきではありません。このところは特に眠る時間もとれぬほど政務に追われる毎日・・・無理をすればいつか倒れることに・・・」

「・・・わかっておる。明日にでも医師を呼び病ではないか診させる。それで構わんだろう?」

「はい。必ずですよ」

 

まるで父親のようだな

 

そんな言葉を飲み込んでウーゼルは本題に入る。

 

「・・・オズイン、ヘクトルのことだが・・・おまえにまかせてよいな?」

「もちろんです。この命にかえてもお守りいたしましょう」

「休暇は取っておいてやる」

「できれば有給は使わないでいただけますか?」

「善処するよ」

 

敬礼して出ていくオズインを見送り、ウーゼルは一人になった書斎で笑った。

 

いつまでも自分はまだこの『父親』に頼ってしまっている。

 

実の父を幼くして亡くしているウーゼルは物憂げな視線を窓の外に向けたのだった。

 

 

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