【完結】ファイアーエムブレム 烈火の剣~軍師と剣士~   作:からんBit

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12章~比翼の友(前編)~

リキア同盟の中の一つ。サンタルス領。

 

領主のヘルマンはもう相当の歳であった。髪の色も白くなり、皺も多く深い。だが、それゆえに時代を経て得た判断力と深い懐を併せ持つよき領主であった。

 

だが、少し流されやすいのが玉に瑕だというのが領民が酒場で話す笑い話のオチとなっていた。

 

だが、今のヘルマンにはそんな平和なひと時が似合うような状態ではなかった。

 

「なにっ!?エリウッドが来たと?」

 

驚きのあまりにかすれ気味になった声を絞りながらヘルマンはその情報をもたらした人物に詰め寄る。

 

だが、一定の距離以上は近づかない。

 

 

『近づけない』と言った方が正しいだろう。

 

墨染めのローブを身にまとい、フードを目深にかぶっているためにその顔を伺い知ることはできない。だが、その金色に光るその瞳だけが、影の中に浮かび上がっているかのようにはっきりと見て取れた。

 

その男が身に纏う雰囲気は明らかに異質であった。

 

彼は唇をほとんど動かさずに、言葉を放った。

 

「はい。今は南の丘にとどまり領地通過の許可と侯爵への謁見を希望しているとか」

 

発する声は耳障りの良い、落ち着いた男性のものだ。だが、その声音は滔々としていてつかみどころはなく、どこか無機質に感じられた。

 

「もしや・・・エリウッドは父親のことを聞きにきたのであろうか?だとすれば・・・わしはは・・・なんと答えればよいのだ」

「知らぬ存ぜぬで通していただきましょう」

 

その男の名はエフィデル。

 

ヘルマンはそれ以外は知らない。

 

正直、知りたくもなかった。

 

「しかし・・・わしは、エリウッドを良く知っておるのじゃ。あやつの父エルバートとは古くからの友人で・・・わしには子がおらんから幼い頃より可愛がってきた。エリウッドを目の前にしてウソをつきとおす自信が・・・わしには・・・ない」

 

泣き崩れることさえしなかったものの、ヘルマンの顔にはある種の絶望感が漂っていた。

 

「・・・仕方ありませんね」

 

溜息を吐いたようにエフィデルはそう言った。だが、そこには決して同情のような感情は乗っていない。付きまとう羽虫を追い払うがごとく冷静な苛立ちのように見えた。

 

「では、ごろつき共を使いましょう。エリウッド殿と顔を合わせなければ、ヘルマン殿がウソをつく必要もない」

「エリウッドを襲わせるというのか!?」

「少しケガをさせ、怖い思いをしていただきます。そうすれば、フェレに逃げ帰りもう旅をしようなどと考えないはず・・・なにしろ、フェレには彼しか残されていないのですから」

 

血相を変えるヘルマンにも身動き一つとることはなく、エフィデルの声にも動揺は無い。

 

ただ、その黄金色の瞳だけが闇の奥で静かに燃えていた。

 

 

――――――― ※ ――――――― ※ ―――――――

 

 

「お前らはダニだ!蛆虫だ!この世界で最も劣る生き物だ!」

 

ハングの声が谷に響く。

 

「この○○○○野郎!父親の○○○の残りカスと母親の○○○の染みでできたのがのがお前らだ!」

 

ハングの怒声に近い声は周囲の山々に反射してさらに大きく聞こえる。

内容といえば子供の耳をふさぎたくなるほど下劣なものだった。

 

「てめぇんとこの山にいるのは腰抜けか○○○野郎だけだ!?てめぇらは腰抜けか?○○○○か?斧すら振り上げねぇとこ見るとお前らは腰抜けだな?えぇ?お?くんのか?だったらてめぇらは○○○○野郎だ!!馬の小便で顔を洗って、隣の男の○○○でもしゃぶってろ!」

 

ハングが熱烈に叫ぶ隣でエリウッドは苦笑いを浮かべている。

その少し後方ではマーカスが苦行に耐えるような顔でついてきていた。

そのマーカスのさらに後方でレベッカが真っ赤な顔で耳をふさぎ、ドルカスの後ろで声なき悲鳴をあげていた。

ドルカスは表情を変えず、バアトルは大笑いだ。

皆の前方ではロウエンが周囲を警戒しながら進んでいるが、その表情は見えない。

 

「と、こんな感じで前回は挑発した」

「ハングの口からそんな言葉が出るとは驚きだよ」

「俺としてはエリウッドに真似して欲しくはないね。お前ならもう少し健全な挑発ができるはずだ」

 

先日の戦闘で山賊を挑発した方法を具体的にハングは教えていたのだ。

 

「ガハハハ!今度俺も使ってみるか!?」

 

そう言ったバアトルに対してドルカスとレベッカが渋い顔だ。

 

「やめとけ・・・」

「そうですよ。その場にいる人みんな敵にまわしちゃいますよ」

「望むところではないか!!軍師殿!今度詳しく教えてくれるか?」

 

後方から聞こえてくる会話に今度はハングが苦笑いだ。

ハングは後ろを振り返る。

 

「やめときましょうよ。バアトルさんに変な口癖がついたら嫌ですから」

「むぅ、そんなもんか?」

「そうですよ」

 

ハング達が向かっている先はサンタルス領の侯爵であるヘルマンの居城であった。

 

サンタルス領はリキアとラウスの中間に位置する領地である。エルバート侯爵がラウスに向かったならこの地を通過した可能性は高い。また、領主であるヘルマン侯爵はエリウッド、エルバート共に付き合いが深く兵を多少なりとも借りれないかというハングの案もあった。

 

エリウッドは笑顔で同意し、マーカスが意見そのものは正しいと渋々認めてこの進路を取っている。

 

だが、ここにきてハングは嫌な予感を覚えていた。

 

いい予感も悪い予感も分け隔てなくよく当たるハングであるのだが、最近は悪い予感が連続している。

 

今、エリウッド達はサンタルス領内の関所に向かっている。

 

実のところ、これは二度目の道なのだ。

先日、一度関所に向かったのだがどういうわけか通行出来なかった。こちらの身分を証明し目的も明確に告げたにも関わらず『自分達では判断できない』の一点張りだった。

その為にエリウッドはヘルマン侯爵に直接書状をしたためて、返事を待っていた。

 

そして、ようやく通行許可が降りたとの話を受けて関所に向かっている。

 

ラウスが戦の気配を匂わせている今の状況下であるなら、これぐらいの警備も納得はいく。

エリウッドはそう考えているようだが、ハングとしてはどうもきな臭い。

 

ハングは顎に手をあてて空を見上げた。

 

「ハング、まだ気になってるのかい?」

「まあな、最悪を想定しとくのは悪いことじゃない?」

「だからといって全ての可能性を潰していては前に進めないだろ?」

「それは昨晩、俺がお前に言った台詞だ」

 

エリウッドのことを『お前』呼ばわりする度に後ろのマーカスの視線が温度を下げるのだが、初めから気にしなければどうということは無い。

 

今はそれよりも気になることがある。

 

一行は関所へと続く道に差し掛かっていた。

 

ここから先は左右の山に挟まれた細い谷間の地形が続く。森と山に囲まれた峡谷であり、あまり大きな兵が動員できない。その途中に関所が組まれている。だが、そこは関所というより出城と言ってもよさそうな代物だった。

この道は一直線にヘルマンの居城へと続いている。ここはいわばサンタルス領のアキレス腱なのである。

 

そんな関所に続く道を歩きながら、ハングは未だ拭えない嫌な予感を胸に抱いていた。

 

そして、道に入ってすぐさまその予感が的中することになる。

 

「エリウッド様!お下がりを!」

 

マーカスが素早く前に出て、ロウエンも武器を構えた。

目の前の道にわらわらと人が溢れ出てきたのだ。

 

「へっへっへっ、ダンナがた。あわれな村人にお恵みくだせぇ」

 

目の前の道を塞いだのは、手に武器を、目に殺気に濁らせた男たちだった。ざっと数えても二十は下らない人数だ。対して、こちらは七人。

 

ハングはこぼれそうになったため息を押し殺す。

 

「おまえのどこをどうみたら村人に見えるというのだ!おとなしく道を開けてもらおう。さもないと・・・」

 

マーカスも殺気をみなぎらせて武器を構えた。ただの山賊程度なら震え上がるであろう殺意。

だが、男たちはへらへらとした笑いを収めることはなかった。

 

「さもないと?へへっ大変なめにあうのはどっちですかねぇ」

「なにっ!?」

 

そうして、その男は人差し指を向けてきた。

 

「そのぼっちゃんに生きてられると困る人がいるんでね」

 

指の先にいたのはエリウッド。

 

「かわいそうだが、消えてもらうぞ!やろうどもっ、始末しちまえ!」

 

そして地鳴りとも思える程の叫び。

 

「いくぞぉ!おらぁ!!」

「しねぇぇえ!」

 

叫びと共につっこんでくる山賊。

 

その叫びに水を刺すかのように、レベッカの指から一本の矢が放たれた。

その矢は空を裂き、先頭に突出していた山賊の眉間に突き刺さった。敵の出鼻をへし折る見事な一撃。

 

その一本の矢に両軍の動きが一瞬だけ止まる。

 

その間隙を縫うようにバアトルの手から手斧が飛び、2人目の頭を顔面からかち割った。

更に広がった動揺を回復させる暇など与えず、後方からドルカスの巨体が躍り出た。

 

斧を両手で握りしめて力の限り肉を切断し、骨を砕いていく。

そして、そのドルカスに続くようにロウエンとマーカスが敵集団につっこんだ。

 

「さて、ここまではいいかな・・・」

 

あらかじめ出しておいた指示が功をそうしたことをのんびりと確認していたハングの隣をバアトルが走り抜けた。

 

「うおりゃぁぁあ!蛆虫共!かかってこいや!この・・・この・・・うおぉぉおおぉ!」

 

なにか挑発しようとしていたが諦めたらしい。

 

「エリウッド!お前は俺についといてくれよ」

「え?」

 

隣で駆け出そうとしているエリウッドをハングは止めた。

 

「ハング、どうしたんだい?僕が貴族だから前線から外したということは無いようだが」

「お前は本当に変なとこだけは勘がいいな」

 

ハングは後退しながら前方の戦場を含めた全体を見渡した。

山から下りてくる敵影は無い。天馬部隊などの飛行部隊もいない。

 

更に、敵の後方に増援あり。

 

完全に多勢に無勢だった。

 

今は狭い谷の合間ということで数の有利はそれほど影響しないが、あまり時間をかけるとやっかいだ。

人間の体力は無限ではない。

 

ハングは少し考える。

 

「ハング、どうにかして敵の後方に回り込めないか?」

「いい案だ。さて、それじゃあどうやって回り込む?周りは高い山に囲まれている上に、相手には増援が見込まれる。下手をすれば挟まれるのはこちらだ」

「関所に応援を頼むんだ。山賊が暴れているなら向こうも黙っているわけにはいかないだろ?」

 

エリウッドの案は正しい。正しいがそれは間違っている。エリウッドにはまだ状況の全てが掴めていない。

 

奴らは関所側から来たのだ。これだけの武器を携えた人間に衛兵が気づかなかったとは考えにくい。

ならば考えられる可能性は2つ。関所の衛兵はこいつらに既に殺されたか、もしくは衛兵がこいつらを素通りさせたかだ。

 

どちらにせよ、関所に救援を求めることはできない。

 

「どうやら、ダメらしいね」

「なんでエリウッドは俺が言い出す前に俺の結論を先取りできるんだ?」

「なんでだろうね。僕にもわからないよ」

「とぼけやがって、狸貴族め」

 

自分は完璧な善人ですという面をしながら、人の腹の中を読む術はしっかり身に付けている。

腐っても貴族。いや、この場合は『腐らずとも貴族』と言うべきか。

 

「それで、ハングこれからどうするんだい?」

「当然、勝つさ」

 

ハングは懐から火種を取り出した。

疑問符を頭に浮かべるエリウッドをよそにハングは火をくべる。

そしてマントを脱ぎ、それに水を染み込ませた。

 

「それは・・・」

「まぁ、備えあれば憂いなしってことだ」

 

ハングは煙をマントで一度覆い、一つの塊にしてから空に放つ。

それを何度か繰り返した。空に煙の塊が次々とのぼっていく。

 

狼煙だ。

 

エリウッドは首をひねる。

それは退却の合図であったはだった。

 

エリウッドは隣のハングを見やる。そこには自信に満ちた不敵な笑顔が浮かんでいた。

 

 

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