【完結】ファイアーエムブレム 烈火の剣~軍師と剣士~   作:からんBit

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12章~比翼の友(後編)~

空に狼煙があがるころ、関所を挟んで反対側にも動きがみられていた

 

「若さま!わかりましたよ。エリウッド様の一行はちょうどこの先のサンタルス領に入ったようです」

 

マシューがどこからともなく現れて情報を持ち帰ってきた。ヘクトルはとりあえずその情報に満足して荷物を背負い直した。

 

「そうか!だいたい俺たちの読みどおりだな。よし、それじゃあこのまま南下して合流するぞ」

 

勢いよく関所に向けて前進したヘクトル。

 

「読みどおりって・・・進言したのは俺なんですが・・・」

「なにボヤいてんだよマシュー」

「こっちの話で~す」

 

その時だった。

 

「あっ、いたいた!ヘクトル様ぁーっ!」

 

突然、聞こえてきた女性の声。ヘクトルとマシューの身体が硬直する。二人はさび付いたからくり人形のようにぎこちない仕草でお互いの顔を見合わせた。

 

一瞬で三十六計を決め込むことまで考えた二人だったが、後が面倒なのは目に見えている。二人はお互いの顔に諦めが浮かんでいるのを確認した。

二人は示し合せたかのようにため息を吐き、振り返った。

 

「うわ・・・」

「・・・・」

 

そして、二人の目の前に予想通りの人物がいたのであった。

 

「セーラ、おまえ・・・なんでこんなとこにいるんだよ」

 

ヘクトルが疲れ気味に声をかけた。

 

「エリウッド様のところに行くんですよね?だったら、私もついていかないと!」

 

誇らしげに無い胸を張るセーラ。活動的なツインテールと淑やかの欠片もない行動。どこを見てもエリミーヌ教のシスターには見えない彼女がそこにいた。

彼女を前に無駄だとわかりつつも、ヘクトルは声をかけた。

 

「ついてくんな!遊びじゃねぇぞ!」

「でも、オズイン様がいいって言ったんですもーん!」

「オズインが?」

 

セーラの後方に改めて視線をやるとそこには見慣れた堅物の顔があった。

 

「はい、侯爵の命令です。私とセーラもお供させていただきます」

 

兄の命令。ヘクトルは苛立ちを隠そうともせずに舌打ちをした。

 

「なんだよ。余計なまねしやがって・・・」

「何とおっしゃられてもヘクトル様のことが心配なんですよ。お二人きりの兄弟なんですから」

 

ヘクトルはオズインから視線を外して言った。

 

「・・・わかってるよ」

 

わかってる。わかってるからこそ腹が立つのだ。身勝手なことをしてる自分に。

 

だが、ヘクトルはそれを飲み込んででもやらなければならないことがある。もし、それをないがしろにしてしまえば、自分がもっと許せなくなる。

 

そんなヘクトルのことをよく理解しているからこそ、こうやってオズインが来たというわけだ。

 

そんなヘクトルの思考を遮って、マシューが声をあげた。

 

「ヘクトル様!前方で戦いが始まっているようです。しかも、何か狼煙もあがってますよ」

「エリウッドか!?めんどくせぇことは後回しだ。いくぞ!オズイン、マシュー!」

 

短く返事をして駆け出した三人。

 

「え!ちょっと!?私もいきますってばーーー!」

 

少し遅れてセーラも走り出した。

 

4人が訪れたサンタルス領の関所。

 

関所はその大きさにもよるが、緊急時の防御の拠点になることもあり日頃からそれなりの数の衛兵が詰めている。

 

ヘクトルは関所に駆け込む。関所の向こう側の谷では騎士と思われる人達と山賊が戦いを繰り広げていた。

ヘクトルは手近な衛兵に掴みかかった。

 

「おいっ、あそこでハデに戦いがおきてるのにここの役人どもはほったらかしかよ?」

「なんだ、おまえたちは!?ここはサンタルス領、なにが起きようともよそ者の知るところではないっ!貴様達こそ何者だ!?拘束するぞっ!!」

「へぇ・・・」

 

槍を持ち出した衛兵に対し、ヘクトルはニヤリと口の端に笑みを浮かべた。

 

「やれるもんなら・・・やってみろぉ!!」

 

ヘクトルは素早く拳を握りしめ、その顎先を掠めるように振り切った。

 

「ぐっ、ぐわっ!!」

「悪いな、急いでるんだ。あそこで戦ってるのは、どうやら俺様の親友みたいなんでね」

「なにもんだ!!」

 

わらわらと詰所から飛び出してきた衛兵に次々と拳を叩き込んでいくヘクトル。時に投げ飛ばし、時に蹴り倒し、瞬く間にヘクトルは関所の衛兵をことごとくのしていった。

 

関所をここまで難なく突破してしまっていいのかどうか怪しいものだが、ここはサンタルス領。ヘクトルの知るところではない。

 

「やっだー!らんぼう~っ!暴力はんたーい!!」

 

そう言うセーラはオズインの後ろに隠れるようにして抗議する。

 

「あははは、さすがは若さま!兵士が一発でのびていっちまう」

 

マシューは足の先で兵士をつついてみる。

ヘクトルが気絶させた兵士達はうめき声をあげるばかりで起き上がってくる様子はない。

 

「・・・すぐに力に頼るのはあまり感心できませんな」

 

オズインは腕を組んでそう言った。

 

「小言はいいから、まずは野盗どもを蹴散らせ!エリウッドを助けるぞ!!」

 

ヘクトルは斧を構えた。そろそろ、気絶で済ますわけにもいかなくなった。

 

「助ける・・・ですか。暴れるには、おあつらえむきの言い訳ですな」

「オズイン!」

「はい、はい。わかっておりますとも」

 

オズインは鉄製の槍を携え、短めの手槍を背中にする。

 

「マシュー!おまえは、セーラと遅れて来い」

「うっ!セーラと・・・ですか?」

 

あからさまな顔をするマシューだが、セーラは気づかない。

 

「えーっ!私もいっしょに行きますー!」

「くるんじゃない!足でまといだ」

 

ごねるセーラを一喝する。

 

「ひっどーいっ!!」

「いくぞ!オズイン!!」

 

後ろから次々と追いかけてくる百万語を無視して、ヘクトルとオズインは目先の戦場へとくりだした。

 

ヘクトル達は目先の敵を蹴散らして谷を進んで行く。

そして、ヘクトルは突撃していく山賊の背後をとらえた。

 

その先にエリウッド達がいるのは予想はついている。

山賊の背中に斧の刃を叩き込まんとヘクトルの足も早まる。

 

「ヘクトル様!お待ちください!」

「あぁ!?オズイン、追いつけないなら遅れてこい!!」

 

オズインの顔も見ずにヘクトルは叫ぶ。だが、今度はマシューからも声がかかった。

 

「違いますって!ヘクトル様!下がりましょうよ!ここはまずいですって!!」

「まずいだと?どういうことだ?」

 

ヘクトルは足を一旦止めた。

 

「とにかく、あいつらを追うのはやめましょう!」

「そうです。このままではこちらが・・・」

 

オズインが言い終わる前にそれは訪れた。

突如、鳴り響いたのは轟音。音の先は山の上。

 

谷の入り口、ちょうど山賊の一団の真上。

 

左右の山から巨大な岩々が雪崩のように斜面を下りおりてきていた。

 

「やっぱり!ヘクトル様!ここは危険です!」

 

今度はヘクトルもごねたりはしなかった。

 

「ったく!無茶苦茶しやがる!」

 

ヘクトルは今来た道を駆け戻る。

 

「文句はこの策を仕掛けた当人に言いましょう!」

「ほら、お二人共!走ってください!」

「え!?なに?戻るの?やっと追いついたのに!」

 

面倒なセーラをマシューは肩から担ぎ上げた。

 

「ちょっ!なにするのよ!」

「いいから黙って担がれとけ!!」

「って、なにあれ!!岩が落ちてくるじゃない!!キャーーーー!!!」

 

セーラの悲鳴を聞きながら、三人は走り続ける。

 

そして、その策を仕掛けた当人はというと、山腹で落石の惨状を眺めていた。

 

「ふぅ、まぁこんなもんかな・・・」

 

落ちてきた岩や土砂の下敷きとなっていく山賊共にかける情など持ち合わせないハングである。ハングが同情するとしたら、今後この道の後片付けをしなければならない人達に対するものだ。

 

落ちてきた岩の量はそこまでのものではないので旅人や行商人の荷馬車ぐらいが通れるようになるにはそんなに手間はかかるまい。だが、軍隊が通るには相当の時間と金がいりそうだ。

 

ハングは土砂から逃げ延びた敵兵の掃討を行っている仲間に加勢する為に山を下りはじめた。

 

 

 

――――――― ※ ――――――― ※ ―――――――

 

 

 

「無茶苦茶してくれましたね、ハング殿」

 

全てが終わったところで苦笑混じりにそう言ったロウエンにハングは笑って答えた。

 

「まぁな。あの数をいちいち相手にできないだろ?」

「俺は戦えたぞぉ!あんな策を労せずとも勝てたはずだ!!」

「・・・うるさい」

 

ドルカスの静止があったが、バアトルはそれでも止まらなかった。

 

「ハング殿!お主は確かによい軍師かもしれぬが、俺はだな・・・」

「あ、バアトルさん。この道先行してもらえます?まだ、敵兵が残ってる可能性もあるので」

「むぅ、承知した」

「ドルカスさんもお願いします」

「・・・静止役か?」

 

さすがに付き合いが長いのでこちらの考えはある程度筒抜けのようだ。斧を担いで谷の道を歩き出したバアトルに続くようにしてドルカスも歩き出した。彼らが行く先は関所である。

 

本当の問題はまだ片付いていない。

 

そんなハングにマーカスが近づいてきた。

 

「しかし、ハング殿。あのような荒業に出るのならあらかじめ指示を頂きたかった」

 

その顔と声音に嫌味がこれでもかというほど塗りたくられていた。

 

「すみませんね。まだまだ未熟な者ですから。ここで待ち伏せされるなんて考えてもいなかったもので、臨機応変に対応せざるおえなかったもので」

「だが、あの仕掛けをしていたのならそれくらい教えることもできたのでは?」

 

明に暗に軍師失格だと言われるハング。

ハングは苦笑でそれに応えた。

 

「そもそも、あの仕掛けをしたのは俺じゃないですよ」

「ほぅ・・・詳しく知りたいですな」

 

圧力が音をたてているような気もしたが、そんなことをいちいち気にするハングではない。

 

「あれはこの領地を外敵から守るためにサンタルス侯爵が仕掛けたものです。今回はそれを勝手に使用したんですよ。あまりここで皆を疲れさせたくなかったですしね」

「兵を消耗したくなかった・・・と、いうことでしょうか?」

 

ハングはまた苦笑いだ。まさに軍人らしい言い方である。

 

しかし、この部隊がどういう人に率いられ、どのような目的で動いてるのかを考えて言葉を選んだというのにマーカスはお構いなしである。

 

「有り体に言ってしまえばそんなとこです」

 

ハングはわざとらしく咳払いをして皆にこの策の可能性を伝えなかった理由を話し出す。

 

「これを使うなら相手を引き付けるために本気で撤退する必要があった。使わないなら近隣領地の手の内である罠をここで明かす必要はない。そういう判断です」

「なるほど・・・戦いの直後に撤退の合図が来たのはそういう理由でしたか」

 

ハングがあげた狼煙は撤退の合図だった。

マーカスは少しうなったように頷き、背を向けて周囲の警戒へと出かけて行った。

 

「はぁ・・・」

 

古参の将軍を相手にするのはやはり難しいものである。

 

「さて、関所をまだ通れなかったらそろそろ強行突破も考えねぇとな・・・」

「ハングさん、なんか考え方が物騒ですね」

 

弓に張った弦の微調整に四苦八苦しながら、レベッカはそう笑う。

 

「ハングは時々力押ししかしない時があるね」

 

エリウッドも乗ってきた。だが、それにはいくつも言いたいことがある。

 

「あのな、俺が一度でも『突撃!』なんて単純な命令で済ましたことがあったか?」

「とは言っても、まだハングと一緒に戦ったのは三回目だからね。まだ、ハングがどんな策を主体にしてるのかはわからないよ」

 

ハングは返す言葉を探そうとしたが、それを遮るように別の人の声がした。

 

「よぅ、ここにいたのか」

 

聞きなれない声にもハングは身構えることはしなかった。

それより先にエリウッドが行動を起こしたからだ。

 

「ヘクトル!」

 

現れたのは青髪の青年。ハングの第一印象は『なんだか面白そうな人』だった。

 

「よぅ、久しぶりだなエリウッド」

 

固い握手を交わす二人。それだけでお互いの関係をハングはすぐに想像できた。

それでなくとも、フェレ侯公子とオスティア侯弟が親友だという話は少なからず耳にする機会が多かった。

 

「でも、どうしてここに・・・」

 

手を放した直後のエリウッドの質問にヘクトルは一歩間合いを潰して答えた。

 

「・・・水くせぇよ、お前。親父さんを探すんだろ?だったら俺にも一声かけろよ」

 

エリウッドは一瞬だけ図星をつかれたように顔に緊張を走らせた。

だが、すぐにいつもの柔和な笑みに戻った。それは悪戯がばれたばかりの子供がごまかす為に笑っているようであった。

 

「だが、オスティアは今新侯爵ウーゼル様のもと、体制づくりで大変な時じゃないか。侯爵には、弟である君の支えが必要なはずだ」

 

間違いなく正論であるその意見をヘクトルは鼻で笑い飛ばした。

 

「兄上は、そんなにやわな男じゃねーよ。表向きはなんだかんだ言ってたが・・・俺が動くの、全部わかってて見逃してくれたみてーだからな」

 

その答えはエリウッドには想定の範囲だったらしい。

エリウッドは今度は素直に安心した笑みを浮かべて再び握手を求めた。

 

「そうか・・・ ならばウーゼル様のご厚意に甘えよう。ありがとう、ヘクトルとても心強いよ」

「まかせとけって」

 

そして、ヘクトルが部下の紹介を始める。それから程なくしてバアトルとドルカスが帰ってきた。

 

ハングは貴族二人から離れ、そちらに声をかけた。

 

「どうだった?」

「全員寝ていたぞ」

 

バアトルの単純明快な答えに少し苦い顔をしてハングはドルカスに視線を向けた。

 

「・・・その通りだ。今、関所の衛兵は皆気絶していた」

 

大方、ヘクトルの一行が関所をつぶしたのだろうとあたりをつけてハングは二人をねぎらう。

 

「ヘクトル?なにか知っているのか?」

 

その時、エリウッドの大きな声が聞こえてきた。

どうもただならない情報があるらしい、ハングはそちらに注意を向ける。

 

「・・・特に、どうってんじゃねえが最近、嫌なウワサばかり耳にする」

 

ちょうどヘクトルが核心を話すところだった。

 

「ベルンの暗殺団が、リキアで不審な動きをしてるとか、腕に覚えのある賞金稼ぎや傭兵なんかが、失踪してるとか、な」

 

ハングは自分の顔が少し固くなるのを自覚した。傍から見ればまずその変化を見抜ける者はいないである程の小さな変化。ハングは静かに呼吸を繰り返して揺らいだ感情に蓋をした。

 

「・・・そういうことなら、さっき襲ってきた男も気になることを言っていた」

「なんだ?」

「エリウッド様、ここは、私から」

 

いつの間にかマーカスがエリウッドの隣にいた。

 

「マーカス!ひさしぶりだな」

「ヘクトル様、おなつかしゅうございます。この度のご加勢、感謝いたしますぞ」

 

さっきまでハングに向けられていた声とはえらい違いである。

 

「かたくるしい挨拶は抜きだ。それで、その怪しい男ってのは?」

「はい。さきほどの野党の首領とおぼしき男・・・やつめはエリウッド様が生きていては都合が悪い者がいる・・・と、そう申しておりました」

「ふん・・・くさいな。そういえば、ここの役人の態度もおかしかったぞ。貴族のおまえが目の前で襲われてんのにわかってて見殺しにしようとしてたぜ」

 

エリウッドは少しだけ考える仕草をして、誰かを探すように視線を周囲に巡らせた。

その視線がハングのところで止まると同時に、マーカスから不信な目が向けられる。

 

「ハングは、どう思う?」

 

ハングは首の後ろを少し指で掻きながら、目元を険しくした。

それだけで、場の空気が一段冷たくなったような気がした。

 

「ここはサンタルス侯爵領。エルバート様がここを通過した可能性が高い。それの手がかりを探しているエリウッドが狙われた。しかも、衛兵もその片棒を担いでいる。考えられる可能性はいくつかあるが、どれをとってもサンタルス侯爵であるヘルマン様になにかしらの虫が付いているのは間違いないだろうな」

 

多少はエリウッドもその結論に達していたのだろう。

彼の驚きは少なかった。

 

「そうだね。やはりすぐに城に向かった方がいいだろう」

 

そう簡単にもいかんだろうがな。

 

そう言いそうになった口をハングは閉じる。

 

「エリウッド、こいつは?」

 

ヘクトルがそう尋ねてくる。そういえば、まだヘクトルとオズインにハングを紹介していないことにエリウッドは思い立った。

 

「ハングだ。父上の行方を捜すために、知恵を借りている」

「へえ、フェレ軍師ってとこか?なるほど、さっきの土砂はこいつの策ってわけだな」

 

なんだかヘクトルの顔が引きつっているようにも見えなくもないがハングは無視した。

ヘクトルは「まあ、いいか」と独り言のように呟いてハングを値踏みするような視線を向けた。

それが、あまり高慢に見えないのはヘクトル本人の人柄がさほど気位が高くないのだろう。

 

「しかし、ハング。ずいぶん若いな。オスティアにも何人か軍師がいるが、お前ほど若い奴はいないぜ。エリウッド、ほんとに大丈夫なんだろうな?」

 

本人を前にあんまりな物言いだったがハングは嫌な気はしなかった。

なんとなく、ハングは自分がこの人物を気に入りだしているのを感じた。

 

「ハングはまだ軍師見習なんだ。でも、僕たちにいつも的確な指示を出してくれる。信頼できる方だよ」

「へえ、じゃあこれからお手並み拝見といくか。よろしく頼むぜ、ハング!」

 

差し出された手をハングは快活な笑みと共に握り返した。

 

「こちらこそ、よろしくお願いしますヘクトル様」

「おいおい、お前は俺の部下じゃあねぇんだ。そこは普通にしてくれ」

「了解。そんじゃよろしく!ヘクトル」

「おう!」

 

エリウッド共々、親しみやすすぎる貴族である。

ハングはつくづく自分の出会いが恵まれていると思った。

 

「それじゃ、マーカスさん。ロウエンを連れて関所までの道を確保してください。関所にまだ残存勢力が残っているなら制圧もお願いします。オズインさんはドルカスさんと共に殿を。関所で一旦合流するのでそのつもりで」

 

ハングの指示のもとに散っていく人達を見ながらヘクトルは早速ハングの評価を変えたのだった。

 

「っと、それと・・・・・・・マシュー」

 

ハングは見知った顔に声をかけた。

 

「ん?ハング、お前マシューと知り合いだったのか?」

「まあ、少しね」

「よっ!元気だったか?ハングさん!」

 

どうやら、マシューは誤魔化すのは無理だと判断したのだろう。

『人違いです』などと言い出すこともなく、普通に接してきた。

 

「で?やっぱり密偵だったわけだ」

「あははは・・・そう、謎の腕利き盗賊は世を忍ぶ仮の姿・・・その正体は、オスティアの密偵だったってことだ」

 

先のキアランの相続問題。

 

そこに潜り込んできたオスティアの密偵。後々の調べで、あの戦いをオスティアが警戒していたのはリンに恩を売るどうこうではなく、危険分子たるラングレンの排除だったという結論にたどり着いた。

 

それがわかり、ハングは大きく息をついたのだ。

 

「ま、これからまた一緒の旅になるみたいだし、またよろしく頼むぞ」

「はいはい、人使いは緩めでお願いしますよ」

「却下だ」

「うへ~・・・あっ、やば」

「逃がすか!」

 

逃げようとしたマシューの奥襟をハングが掴んだ。

 

「あ~~~っ!あなたってば、ハングじゃない!やだ、すっごいひさしぶり!私に会いたかった?会いたかったのね?でしょ、やっぱりね」

 

左右に束ねた髪と止まらない口。ハングは再びセーラと出くわすこととなってしまった。

 

「・・・ようセーラ。元気そうだな」

「あったり前よ!前みたいに助けてあげるから、期待していいわよ」

「ああ、そうさせてもらうよ」

 

ハングが改めてマシューを見ると、疲れた笑顔が返ってきた。

 

「あ、そうだ!ハング、リンとはどうなったのよ!というか、なんであんたがここにいんのよ!ちょっと!あんたリンから何も言われなかったの!?」

 

ハングの顔が苦虫を100匹程噛み潰したような顔になるのを間近で見たマシューは苦労を分かち合える仲間を見つけたかのように笑ったのだった。

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