【完結】ファイアーエムブレム 烈火の剣~軍師と剣士~   作:からんBit

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間章~野営の夜~

ハングは剣を片手に戦闘態勢を取る。目の前には赤毛の青年。向けられているのは白銀の突剣。

レイピアを体の正面に構えるエリウッドに対しハングは剣を構える。

 

剣身が通常の剣よりも長いハングの剣。左腕のことを知るエリウッドは右手で握る剣よりも左腕に注意を向けていた。

 

夕刻が近く、辺りは薄暗い。見物人はヘクトル一人。焚火の近くに他に人影はなかった。

 

エリウッドが先に動いた。しなりのある剣がハングに迫る。ハングは体を開いて躱し、反撃。エリウッドはそれを素早く後退して避けた。

 

エリウッドの前に出てくる速度と後退する速度にハングは舌を巻く。

これが突剣の厄介な点なのだ。すなわち、間合いである。

 

ただでさえ、長めの間合いに加えて上体を倒すことで更に間合いが伸びる。

しかも、伸び切った身体に一撃加えようとする時にはエリウッドはもう後退してこちらの間合いから外れてしまう。

 

長い剣を持っているだけのハングとは根本的な間合いの長さが違う。

 

しかも、よくしなるレイピアはただでさえ防御が難しく、捌き方を間違えれば容赦ない一撃がハングを襲う。

 

ハングは既に一回剣を振っただけで敗北を覚悟した。

いくらリンに鍛えられたからといってもリンの剣は斬撃を基本とする剣だ。

突剣を相手にするのは初めてだった。

 

エリウッドが再び切りかかってきた。ハングの頬を剣先が掠める。今度はエリウッドはハングの間合いの内側まで入り込んできていた。

 

この位置なら剣が届く。

 

そう思って剣を振り切ろうとした時、右の肩甲骨付近に感触があった。レイピアの先についた木の覆いの感触だった。

 

エリウッドは剣をしならせ、ハングの背中を斬りつけていたのだ。

その感触を感じた時にはエリウッドは既に後方に飛んでいた。

 

ハングはため息を吐いて、構えを解く。

 

「今ので俺の右肩は上がらなくなってたかな?」

「骨までは達した感触はあったけどね」

 

となると、既に右手は使い物にならないだろう。

 

「俺の負けかな」

「なら、もう一本やるかい?」

「上等!」

 

ハングは再び剣を構え、今度は自分から前に飛んだ。

 

それからも二人はしばらく稽古を続けた。

切り傷、打ち身多数とまではいかないまでも、そこそこに身体が疲れたところでハングは剣を鞘に戻した。

 

「くぁ~・・・」

 

ため息とも奇声とも取れる声をあげてハングは仰向けに倒れた。

その顔を額に汗を浮かべたエリウッドがのぞき込む。

 

「疲れたかい?」

「いや、ただ敗北感に打ちのめされただけだ」

 

エリウッドはにこやかに笑い、ハングの隣に腰をおろした。

ヘクトルもその近くに腰をおろす。

 

「ハング、お前意外と戦えるじゃねぇか」

「何言ってんだ?実戦なら散々ぶった切られてたぞ」

「確かに、腕は間違いなくもいでたね」

 

笑顔で物騒なことを口にするエリウッドである。

 

「それでもだ。エリウッドはこれでも結構やるほうだからな」

「よしてくれ」

 

照れるエリウッドだが、それにはハングも納得である。

ヘクトルは腕を組み、思い出にふけるように続ける。

 

「まぁ、だからこそ見てねぇとこで無茶なことしてないか心配なんだけどな。」

 

そう言ったヘクトルに、ハングは体を起こして言った。

 

「その点ならむしろヘクトルの方が心配だけどな」

「俺はいいんだよ。丈夫にできてるからな。少しくらい無理したってどうってことねぇ」

「まぁ、それもそうか」

 

今は普段着てる鎧を脱いで身軽になっているヘクトルだが、やはりその線は太い。

生半可な傭兵達などよりもよっぽど体格が良く、彼が疲労で倒れる姿など想像もできない。

 

「でも、エリウッドは生まれつきあんまり丈夫な方じゃねぇし、旅にも慣れてねぇんだ。無理を続けると、そのうちぶっ倒れるぞ」

「まぁ、ヘクトルからしてみれば大半の人間はひ弱になると思うけどな」

「ははは、ちげぇねぇ」

 

大声で笑うヘクトルと微笑を浮かべるエリウッド

ハングは二人を見比べる。

 

「とはいえ、戦いは体力だけが勝敗を決めるわけじゃないだろ。エリウッドとヘクトルが手合わせしたら互角だとは俺は思うけど」

 

ハングのその言葉にエリウッドとヘクトルは顔を見合わせた。

 

「ん?どうした?」

「僕とヘクトルは12の時からふた月に一度手合わせをしてるんだ」

 

『ふた月に一度の手合わせ』

 

エリウッドの言葉にハングはふと一年前のことをを思い出した

それはエリウッドと初めて出会った時のことだ。

 

「あぁ、あの時」

「うん、あれはちょうどヘクトルとの手合わせの為にカートレーにいたんだ」

 

そう言えばエリウッドは誰かと待ち合わせをしていることを匂わせていた。

 

「一年前っていうとエリウッドが大遅刻したやつだな」

「なるほど、やっぱり間に合わなかったのか・・・」

 

その原因は主に自分なのでハングとしては苦笑いだ。

 

「で、手合わせではどっちが上なんだ?」

「14勝12敗4分けで僕が勝ち越してるよ」

 

まぁ、ほぼ互角だな

 

などと、ハングが思っていたら横から物言いが入った。

 

「ちょっと待て!確かこの間の勝負で13勝13敗5分けのはずだぜ?」

 

勢いずくヘクトルはそこらのゴロツキよりも余程迫力があったが、ここにいる二人は何処吹く風である。

 

「いや、僕が正しい」

「なんだよ。その自信はどこからくるもんなんだ?」

「学問所での算術の時間、必ず大いびきで寝ていたのは誰だ?」

「・・・・」

 

ぐぅの音もでなくなったヘクトルに対しハングは大口を開けて笑いだした。

 

「ははは!なんだろ、すごい勢いで目に浮かぶな」

「そのせいでいつも木板で叩かれていた。一回は僕もとばっちりを受けた」

「なるほど、ヘクトルが打たれ強いのはそのせいか!」

「お前ら!言いたい放題言いやがって!」

 

飛びかかってきたヘクトルと軽くじゃれあってるうちに出かけていた仲間が戻ってきた。

 

「ハングさ~ん!今日は猪の肉で鍋ですよ~」

「大物だぞぉ!」

 

レベッカを先頭に巨大な猪を抱えたドルカスとバアトルが森から帰ってきた。

 

「おう、んじゃ晩飯の支度といくか」

 

ヘクトルを押しのけて立ち上がれば、まるで見計らっていたように周囲の偵察を行っていたロウエンとマシューがセーラを連れて帰ってきた。

 

「ハング!わたしお腹すいたわよ!!」

「お、すげぇ猪。今日の晩飯は期待できそうだな」

「ハング殿、手伝います」

 

ロウエンの手を借りつつハング達は猪鍋の準備をはじめた。

ハングは地面に降ろされた猪を相手に包丁を構える。

 

「マシュー、オズインさんとマーカスさんも呼んできてくれ。『飯にしよう』ってな」

「了解」

 

そう言ってマシューは夕闇に乗じて消えた。ただの伝令でわざわざそんな芸当をする必要はない。だが、密偵は密偵らしく、である。

 

「ハング、何かできることはあるかい?」

 

そう言ってきたエリウッドの後ろにはヘクトルも控えていた。

 

やって欲しいことは山ほどある。

 

「んじゃ、エリウッドはバアトルさんと竈の支度を頼む。ヘクトルはこっちで解体手伝ってくれ」

「わかった」

「おう!任せろ!」

 

ハングは猪の腹から包丁をいれて皮を履いで行く。慣れた手つきは昔つちかった経験だった。その間にもロウエンとレベッカは二人で鍋の下準備をしている。

 

その様子は仲睦まじい夫婦にも見えないこともない。

 

フェレを出てからこの部隊の食事係となっている2人であるが、なんとなく一緒にいる時間が長くなっているように思う。

 

「騎士様、山菜持ってきました」

「レベッカさん何度も言っている通り、私は従騎士なんですが」

「いいんです!気分なんです」

「は、はぁ・・・」

 

ハングは猪の内臓を丁寧に抜いていく。腸管や膀胱を傷つけてしまえばせっかくの肉が台無しになる。ハングは手際よく解体を進めていく。

その手捌きにヘクトルは驚いたように目を見開いた。

 

「お前、随分と慣れてるな」

「昔はこういうのが日常だったからな」

「なんだ?食えない傭兵団にでも居たのか?」

 

傭兵団

 

その響きにハングは真っ先にリンディス傭兵団を思い出したが、あそこでは解体はあまりやらなかった。

 

これを学んだのはもっと前のことだ。

 

ハングがリンに出会うもっと前。

 

「ま、似たようなもんかな」

「ふぅん」

「あ、ヘクトル。首のほう持ち上げてくれ」

「おう」

 

ヘクトルとドルカスに手伝ってもらいながら解体は進む。

 

なんだかこうしてると深刻な理由で旅をしているようにはまるで見えない。それでも、こんな日があってもいいとハングは思う。こんな、ただの野宿のような日々も決して悪くはない。

 

細かく分けた肉から水を張った鍋に放り込んで竈にかける。火の調節はエリウッドが買って出た。煮立ったところで食材を追加していけば、あっという間に周囲に食欲をそそる香りが満ち満ちる。

 

「美味しそうな匂いがしてますね」

 

伝令から戻ってきたマシューが口の周りの涎をぬぐう。

それに続くように、オズインとマーカスも戻ってきていた。

 

「エリウッド様!竈の番など!!そのようなことはこのマーカスめがやります」

「いいんだ、これは自分から言い出したんだ。マーカスももう少し待ってくれ」

 

エリウッドは楽しそうに竈の火に風を送っていた。

エリウッドは話しやすい相手であるとはいえ、貴族の端くれである。普段からこんなことはしないからこそ、新鮮で面白いのだろう。

 

「ハ~ン~グ~お~な~か~す~い~た~」

「だったら手伝えセーラ」

「私にお肉の解体をやれっていうの?」

「あ~・・・無理だな。もう少しおとなしく待ってろ」

「う~・・・・」

 

そんなセーラの唸り声の間を縫って、ロウエンが話しかけてきた。

 

「ハング殿!こちらの部位はどうしましょうか?」

「保存食にしたいとこだよな」

「はい、となるとやはり燻製ですかね。竈をもう一つ作りましょう」

「ドルカスさん、こっちはいいからロウエンさんを手伝ってくれ」

「・・・わかった」

 

 

野宿の夜はふけていく。

 

夕飯の香りを漂わせながら。

 

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