【完結】ファイアーエムブレム 烈火の剣~軍師と剣士~   作:からんBit

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13章~真実を求めて(前編)~

「嫌な空だな・・・」

「え?」

 

関所を抜けて更に西へと足を進めたエリウッド一行。

突然、呟いたのはハング。それに反応したのが隣を歩いていたレベッカであった。

 

「どうかしたんですか?ハングさん」

「ああ、うん。ちょいと空がな」

 

レベッカそっちのけで再び空を眺めるハング。

その視線は鋭く、何かを凝視しているように見えた。

 

「ハングさん?」

 

少し不安げな声をレベッカがかけてもハングは振り向かない。

突如、挙動がおかしくなったハングを隣にして、レベッカは助けを求めるように周囲を見渡した。それに気が付いたのは後方を歩いていたドルカスだった。

 

「・・・どうかしたのか?」

「あ、そのハングさんが・・・」

 

ドルカスはガタイは大きいが、そこから威圧感などが発せられることは日常では稀である。彼はどちらかというと大樹のような静かな存在感を持っている。

そんなドルカスが隣に来てくれてレベッカは安心感から息をつけた。

正直、今のハングの側は空気が重かった。

ドルカスは何も言わずにハングの横顔を見つめた。

 

「・・・放っておけ」

 

その答えがこれであった。

 

「え、でも?」

「ああ、ちょいと黙っててくれるか?」

 

ハングからもそう言われ、レベッカは単純に驚いた。

完全に明後日の方向を向いていたハングがこちらの話を聞いているとは思ってなかったのだ。

 

「すぐ済む」

 

ハングのその言葉を最後に沈黙が訪れる。

 

『沈黙』とはいえ、前方ではロウエンがマーカスになにやら説教を受けていて、後方ではセーラがなにやらマシューとヘクトル、ドルカスの三人を相手に騒いでいた。

更にその後方ではエリウッドとバアトルというなかなか奇妙な組み合わせが今までのバアトルの傭兵人生の話をしていた。

 

この度の面子はなにかと騒がしい。だが、ハングの周りだけはなんだか妙な静けさに包まれていた。

ハングは普段からお喋りというわけではないが、彼が黙るとなんだか音が減ったような気になるのだ。

 

しばらくして、ハングはため息を吐き出した。

 

「・・・少し、天気が荒れるかもな」

「雨か?」

 

最もありそうな答えをドルカスが提示した。

 

「雨だけなら・・・まぁ、いいんだけどな」

 

ハングは渋い顔をしながらそう答えた。

ハングは占い師ではなく軍師である。天候が戦局をひっくり返した事例など枚挙にいとまがないことを知っている。雨で地面が泥濘となれば、騎馬部隊や重装歩兵の機動力は激減する。この部隊にとっては非常に『嫌な空』である。

 

「ハング、さっきから何を考えている?」

「知りたいですか?どうしても、というなら教えますけど?」

 

ハングはそう言って不敵に笑ってみせた。

ドルカスは苦笑ともため息ともとれる息を漏らした。

 

「俺にはそんなに学は無い。お前がやりたいようにやればいいさ」

「その台詞をこの軍のお偉いさんが言ってくれれば苦労はないんですけどね」

 

 

ハングが目を向けたのはこの軍の大黒柱とでもいえるようなお人。マーカス将軍である。

いまだロウエンに説教を続けるマーカスにレベッカも少しきつい視線を向ける。

 

「しかし、言っても仕方ないですね。俺は本当に部外者だから」

 

自嘲気味に笑うハング。そんなハングに対してドルカスは口を開いた。

 

「ハング、お前は旅の軍師だ。信頼は実力で勝ち取れ・・・お前にはその力があると俺は思ってる」

 

ハングは驚いたようにドルカスを見上げた。

 

「・・・・・・」

 

ドルカスの顔はいつもと同じだ。だが、その目には真剣な光が宿っている。それは絶対的な信頼の裏返し。ハングは困ったように鼻の頭をかいた。

 

ハングはいつものらりくらりと自分を話題の中心から外すように話をもっていくものだから、こう真正面から評価されることに慣れていないのだ

 

「・・・まいったな・・・」

「お前は・・・時々、自己評価が低すぎる」

「・・・実際半人前ですしね」

「そうなのか?」

「そうですよ」

 

肩をすくめるハングと硬い表情を崩さないドルカス。

その横顔を見ながらレベッカは少し安心していた。

 

レベッカはハングの人間らしい部分を見た気がしていた。

 

「さて、問題はこっから先だな」

 

ハングはいよいよ近づいてきたサンタルス城に向けて気持ちを切り替えた。

既に、遠くで雷鳴が響き出していた。

 

 

――――――― ※ ――――――― ※ ―――――――

 

 

 

「エフィデル殿!これはいったいどういうことだっ!!」

 

雷鳴が響くサンタルス城内。

稲光に照らされる室内には二人の人影が映し出された。

 

一人はサンタルス侯ヘルマン。普段は温和な顔を赤く染めて憤怒にかられている。

 

「どうなされた、ヘルマン殿。少し落ち着かれよ」

 

 

そして、もう一人。黒いフードを目深に被った男

 

エフィデル

 

彼は迫り来るヘルマンを無感情な声で迎えた。

普段は気味が悪いそれも、今日この時だけはヘルマンの神経を逆撫でする要因にしかならない。ヘルマンは更に一歩エフィデルに詰め寄った。

 

「そなたは、エリウッドを脅かすだけだと言ったはず!それを始末するだなどと・・・」

 

ヘルマンとて侯爵の一人。その程度の情報を集めることなど造作も無い。

 

関所にいる兵の壊滅。谷の仕掛けの使用。エリウッドと山賊の戦闘。

 

情報を整理すればエリウッドが何をしたのか、目の前の男が何をしようとしたのかは明白だった。

 

「もう、我慢できん!」

 

ヘルマンの怒りの声に雷鳴が混じる。

 

「わしはエリウッド何もかも打ち明け、詫びることに決めた」

 

窓から差し込む雷光。その光の下でエフィデルの瞳が陽炎のように揺らめいた。

 

「我らを裏切るおつもりか」

 

先程までと何ら変わらぬ声音。なのに、それは聞く者の神経を逆撫でし、畏怖を抱かせる。それは人の声というよりも闇より迫る怨嗟の唸りのように感じられた。

 

だが、頭に血を登らせたヘルマン気づかない。

 

「そなたにも、【黒い牙】にももううんざりだ!!ただちに、わしの城から姿を消されよ!目障りだ!!」

「ヘルマン殿・・・どうあっても、お考えは変わられませんか?」

「くどい!!」

 

窓の外が光る、そして雷鳴がとどろく。

 

「ならばあなたにも用はない」

「なにっ!?」

 

ヘルマンが気づいた時にはもう遅かった。

エフィデルはヘルマンの目前にいた。

 

次いで生じたのは焼けつくような痛みだった。

 

「ぐっ・・・」

 

わき腹がやけに熱い。痛みが衝撃となって神経をかけあがり、脳へと伝達される。

 

ヘルマンには覚えがあった。これは身を刃に貫かれた時の痛みだ。

 

臭いがした。鉄の臭いと血の臭い。

 

それが自らの口から溢れる血のりだと気づいたのはエフィデルが少し離れてからだった。ヘルマンの足から力が抜けて、立ちくらみのようにその場に座り込む。

 

だが、その姿勢すら保つことも出来ずにヘルマンは前のめりに倒れた。

 

「ふむ、裏切りには死の制裁を・・・か」

 

エフィデルの呟くような自嘲するような言葉を頭上で聞こえてくる。

 

ヘルマンの眼から涙がこぼれ落ちた。

 

死への恐怖からなどではない

 

『ヘルマンさま!みてください!こんな生き物を見つけました』

 

あぁ、懐かしい・・・

 

幼き頃のエリウッドが視界中に浮かんでは消える。

 

『こら、エリウッド。失礼だろう』

『そう言わずともよいではないか、エルバート殿』

 

遥か昔という程ではないのに、思い出は色褪せ、細部を思い出すことができなくなっていく。

 

あの時、エリウッドが見つけた生き物はなんだったのだろうか?

 

自分も歳をとった。涙に霞む世界で、色合いが近い時代の記憶に成り代わる。

 

『ヘルマン殿!一体何を考えているのですか!そんなことになれば・・・』

『エルバート殿、少し黙っていただけるか。今はヘルマン殿とは私が喋っておるのだ』

『くっ!失礼する!!」

 

ラウス侯・・・ダーレン・・・

 

悔やんでも・・・悔やみきれぬ・・・

 

エリウッド・・・

 

どこか、遠いところで再び雷鳴が轟いた

 

 

 

――――――― ※ ――――――― ※ ―――――――

 

 

 

エリウッド一行は山を迂回し、ようやくサンタルス城が見える平原へと辿り着いた。

 

「エリウッド、城が見えたぞ」

「なんとしてもヘルマン殿にお会いしなくては・・・」

 

 

サンタルス城はその東と北を川に囲まれている。

山間の為に道が限定される上に橋を落とせば渡河を余技なくされ、防御しやすそうな土地に建てられた城だ。

しかも、栄養が豊かな泥を上流から流してくれる川のおかげで肥沃な土地が広がり、籠城するための食糧にも事欠かないだろう。

 

ハングの第一印象はそんなとこだった。

 

普段であれば穏やかな麦畑と豊かな自然が目を楽しませてくれそうな土地であるが、曇天の空の下ではその景観も沈んだものに変わっていた。

 

遠くの山間で一本の光が地に落ちる。

しばしの間の後、鼓膜を突き破るような爆音が響いた。

 

「キャッ!!な、なにごと!?」

 

可愛い悲鳴と共にその場に腰を抜かしてしまったのは予想外にセーラだった。それに対してレベッカはケロリとしていた。

あのセーラが怯えている様子はなかなか見ものだった。

 

ハングはしゃがみこんでしまったセーラに手を伸ばした。

 

「ったく、セーラ。大丈夫か?」

「へ、平気よ!たかが、雷でしょ?」

 

再び雷鳴。

 

「キャー!」

 

本物の悲鳴をあげてしゃがみこむセーラ。

 

そこまで苦手なのか・・・

 

ハングはしばし目を丸くしていたが、すぐに眉間に皺を寄せた。

これでは戦闘どころではない。これは御守りに誰かつけるべきかと思案する。

 

ハングはオスティアの面々の顔を見ていく。

 

ヘクトルは何も考えてなさそうな顔で、マシューはあからさまに嫌な顔をしていた。

 

それでは、と、オズインと目を合われば、意外にも首肯を返してきてくれた。

 

「そんじゃ、オズインさん。後は頼みます」

「わかりました、軍師殿」

 

固い声で返事がくる。

 

ハングはヘクトルに対しても敬意を払っていない。その点から、オズインもマーカス同様にハングに比較的いい感情を抱いてはいなかった。

もちろん、マーカス程に敵意まで向けてくることは無いがハングとしては気が詰まる。

 

かといって、今更敬語に戻しても今度はあの変わり者の貴族二人が嫌な顔をするのだ。

だったらハングとしては過ごし易い方を重要視するしかない。

 

「さて、サンタルス城に向かうとするか」

 

再び稲光。叫んで動かなくなるセーラ。オズインさんとセーラには遅れて来てもらおうということで、ハングは歩を進めた。

 

だが、数歩もいかないうちにハングは足を止めることとなった。

 

「ハング?」

「ハングさん?」

 

すぐに声をかけてきたのは後ろを歩いていたエリウッドとレベッカ。

ハングはゆっくりと周囲を見渡した。

 

「これは・・・なんか臭いな」

 

後ろから複数名が臭いをかぐ仕草をした

 

ハングは苦笑をする。

 

そういことじゃねぇよ・・・

 

ハングがそう口に出そうとした時、エリウッドが突如ハングの前に出た。そして、すぐさまヘクトルもハングの前で斧を構えた。

 

「伏兵だな・・・ハング、敵がこの程度の人数で俺達を相手取るわけねぇよな?」

「お見事、いい勘してるな」

 

まるで、動物並みだ

 

そんなハングの心の声が聞こえたわけではないだろうが、ヘクトルは鋭い視線を向けてきた。

ハングはそんなことを気にとめずに片手をあげ、後続に停止と戦闘準備を伝える。

 

「こんなヘルマン様お膝元まで来て、敵に出会うなんてな・・・」

 

エリウッドの眉間に鋭い皺が刻まれていた。

 

「それだけ、状況は切迫してるってことだ・・・エリウッド、時間がないかもしれない」

 

エリウッドはわずかに頷いた。

ここはサンタルスの最深といってもよい。そんな場所に潜む明らかな殺意。それは指揮系統の頭にヘルマンがいない可能性を示していた。

 

『いない』というのが、どこかに捕らわれているだけなのか、それともそれ以上に悪い状況に陥っているのかはわからないが。

 

ハングも自分の剣を引き抜く。

 

ハング達はそれぞれが距離を置き、全包囲を警戒するような陣形を整える。

わずか傾斜の影や、小さな茂みの裏。そこかしこに潜んだ殺意が見え隠れする。

 

しかし、こちらがあからさまた戦闘態勢を取っても飛び出してこない。どうやらある程度は頭の回る指揮官がいるようだ。

 

「ハング・・・どうする?」

 

ハングは一つ小さく息を吐き出して頭の中で現在の状況を組み立てていく。

相手は相当な人数だ。全部に付き合うわけにはいかない。

 

「エリウッド、ヘクトル」

 

ハングに呼ばれ、前方を警戒しながら歩み寄る二人。彼等にハングは今回の作戦を告げた。

 

「ハング・・・君って人は・・・」

「よくもまぁ、そんな策が浮かぶもんだ。ついでに言うとそいつをよく実行する気になったな」

「『定石は思考の果てにたどり着く、奇策は発想の果てにたどり着く』」

 

ハングは有名な戦術家の言葉を引用したあとに口元で不適に笑った。

 

「両者を備えてこその軍師ってわけだ。さぁ、それぞれの部隊は任せたぞ。俺は念のためにヘクトルと行く」

 

ハングは後ろを振り返る。

 

「レベッカ」

「は、はい!」

 

甲高い返事が聞こえる。

 

「挑発には先制攻撃で返すのが俺の流儀だ」

 

レベッカはハングが見せる笑みに釣られて笑顔で返事をした。

 

「わかりました」

「よし、戦闘開始だ」

 

風を切り裂くような音を奏でて、矢が走って行った。

 

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