【完結】ファイアーエムブレム 烈火の剣~軍師と剣士~ 作:からんBit
ギィが奮闘してる最中
ハングはエリウッドとヘクトルを連れて敵の首領がいる箇所を襲撃していた。
「おらぁ!今日の俺は機嫌がわりぃぞぉ!」
その中でハングが鬱憤を飛ばすように暴れていたのがエリウッドとヘクトルには少し印象的だった。
ハングの話では周囲の村に行った連中もすぐに引き返してギィの援護に入るとのことなので、中洲に残してきた彼のことはあまり心配しなくていいようだ。
と、いうよりもハングの般若のような戦いを見る限り心配すべきはエリウッド達本人なのかもしれない。
「なぁ、エリウッド」
「どうしたんだい?」
「あいつの腕って小手でも巻いてんのか?」
「ああ・・・あの腕か・・・」
戦闘中にも関わらず会話する余裕があるのは、単にハングがほとんど一人で暴れているからだ。
訓練した騎士達程ではないにしろ、ハングの剣の腕は確かだ。
時に騎士のように堅実に、時に剣士のように素早く。ハングの剣が走るたびに空中に赤い軌跡が刻まれる。
そして、彼はその所々でその左腕を使っていた。
ボロ布を巻きつけているその腕で敵の武器を受け止め、破壊し、時に相手に風穴を開けている。
エリウッドはその動きを一年前に目撃している。
「ごめん、僕も知らないんだ」
「そっか・・・」
ヘクトルはそれ以上は追及しない。
ハングが言ってないのなら、それは言いたくないということだろう。
エリウッドとヘクトルにだって、お互いに知られたくないことの一つや二つはある。
ハングのその腕はやけに目に付くから気にならないと言えば嘘になる。
それでも礼儀を忘れないだけの分別ぐらいはヘクトルも持ち合わせていた。
「まぁ、今は俺は俺が心配だな・・・」
「それは僕も同じだよ・・・」
二人はため息を吐き出して、ハングが撃ち漏らした敵に向かって行った。
「てめぇが親玉だな!」
「けっ、てめぇの動きなんか止まって・・・」
「さっさと来い、速く済ませてぇんだよ!」
ハングは動き出した相手の顔面に剣を横殴りに叩きつけた。
間一髪で賊が防ぐも、ハングはそこから素早く下段の蹴りに転じる。
「ぐわぁ!」
膝を潰して、揺らいだところに腹に直線的な蹴りを叩き込む。
身体を折り曲げながら後退した相手の顔面にハングは再び横殴りに剣を叩きつけた。
頭蓋に食い込んだ剣を引くようにして抜きされば、それは頭蓋を更に切り裂き致命傷にまで至る。
血を噴出して倒れる首領を蹴り飛ばし、ハングは周囲に残る賊共に喝を放った。
「おい!てめぇらはまだやんのか!?」
「う、うわぁ!お、お前・・・俺たちのシマを荒らしてただですむと・・・」
「あぁ?」
「お、お、覚えてやがれ!!」
一睨みで有象無象を追い払ったハングは血を拭ってから鞘に戻す。静寂を取り戻した夜に剣が鞘と擦れる音がする。エリウッドとヘクトルには永遠にこの音が続いて欲しいと思った。ハングが剣をしまっていくにつれてその身体から不可視の何かが湧き上がってきていた。
だが、無情にもハングの剣はキンという澄んだ音を最後に鞘にしまわれた。
「さて・・・」
振り返るハング。エリウッドとヘクトルはほぼ無意識に足を一歩下げた。
「足を下げたってことは、俺が怒ってるのはわかってるらしいな」
多分、誰でもわかると思うよ。
などと、エリウッドが言える状況ではない。
「さて、では俺がなんで怒ってるかぐらいはわかってるよな?」
ハングが笑顔で二人に一歩近づく。今度は足を下げられなかった。何かに縫い留められたかのように体が動かせなかった。
この圧力はなんなんだ?
ヘクトルはそう思わざるおえない。
エリウッドと共に学んだあの頃もこんな教師に出会ったことは無かった。オズインの説教でもここまでの恐怖は感じない。兄を怒らせた時ももう少し余裕があった。
なのに、なんだこの空気の重さは!?
正直、ハングがなんで怒ってるのかは多少理解はある。視界の悪いこの状況下で単身で山賊に喧嘩を売ったからだ。あの判断はあまり良いとは言えないものであるのは確かだ。
だが、ヘクトルにも言い分はありそれはエリウッドも同じだろう。
しかし、現在のハングを目の前に言い訳などできるわけがなかった。
「それで、わかってんのか?」
少し間があく。悪夢の時間だ。
「わかってんのか!?」
「は、はい!」
「はい!」
「そうか、それがわかるぐらいには分別があるらしいな・・・だけどな・・・」
ハングの顔から笑みが消えていく。ついでに、表情も消えていく。出来上がった顔は今まで以上に恐ろしいものだった。
「エリウッド・・・」
「はい・・・」
「ヘクトル・・・」
「・・・・はい」
ハングが二人の目の前にまで迫る。
「それが俺が説教をやめる理由にはならないことぐらいわかるよな?」
二人はもう指一本、毛の先一つでも動かすことができなかった。
ハングが何かの準備をするかのように息を吸い込む。
次いで生じた爆発音のような怒声にエリウッドは全ての思考を吹き飛ばされたのだった。
――――――― ※ ――――――― ※ ―――――――
ズタボロのギィの救出に入りつつ、中洲の制圧を終えた一同はハング達が戻ってくるのを待っていた。
途中でここまで響くほどの怒声が聞こえてきたので三人が無事だとはわかっている。
もちろん、あの説教を乗り越えてもまだ無事であるかどうかは別の問題ではあるが・・・
ハングの説教を一度ならず目にする機会があった連中は総じてそんな想いを抱いていた。
「まさか、ハングさんの説教をまた聞く機会になるとは思わなかったな」
「そうだな・・・」
しみじみと言うマシューにドルカスも渋い顔で返す。
「俺はあれを直接受けたことはないんだけど、ドルカスさんは?」
「俺もない・・・」
「あれだけはやっぱ勘弁っすね。上官に逆らうよりも怖い」
「同感だ・・・」
数少ない返答にも、やはりその恐怖がしみこんでいる。
その隣では全身に軽傷を負ったギィがセーラから治療を受けていた。
「はい!これでおしまい!ちゃんと感謝しなさいよね!」
「ぐっ!ううう・・・」
この短い時間の戦闘でギィは何度も危ない瞬間を潜り抜けた。
首筋に走る赤い傷を撫でるたびに身体の奥底に戦慄が走る。
だが、この臨死体験でギィは確かに自分が強くなっているのを感じていた。
「あの中で生き残るとは、なかなかやるな若造!こんど俺と一戦交えようではないか」
バアトルに背中をばしばしと叩かれながら、ギィは自分の剣を握りしめる。
そんな時、ハングがエリウッドとヘクトルを引き連れて帰ってきた。
「おう、今帰ったぞ」
「お、おかえりなさい・・・」
出迎えたレベッカの顔は恐怖で引き攣っていた。
「レベッカ、あの商人はどうした?」
「あの人なら、今向こうでオズインさんが事情を聴いています。それと、マーカスさんはロウエンさんを連れて見回りに行きました」
「ふぅん、やっぱりあの人達はわかってるな」
ハングはそう言って、振り返る。
「んじゃ、俺たちも話を聞きに行くか」
「う、うん・・・」
「おう・・・」
疲れ切った二人を引き連れて、ハングはマリナスの陣取る中洲の隅へと向かっていった。
「さすがにあの人はすごいな。さっきまでの激怒が嘘みたいだ」
マシューはそう言ったが、その意味を理解できる人は周囲にいなかった。
「あれのどこが、『さすが』なんだ?」
「ギィ、相変わらずお前のおつむは未熟だな」
ギィは自分の頭の出来には多少なりとも自覚があるので、何も言い返せなかった。
「軍師は常に冷静に物事を見定めなきゃならない。できるだけ感情を表に出してる時間は少ない方がいいのさ」
マシューの講釈に「へ~」とか「ほ~」とかの声があがる。
「マシュー、なんであんたがそんなこと知ってるのよ」
「これでも、俺はオスティアに仕える身なんだぞ。一応、地位ももらってるし」
「なによ!私だってねオスティアの司祭様から祝福を頂いてるんだから」
セーラがなぜか張り合ってくる。雷鳴が落ち着いているのもあり、いつものかしましいセーラが戻ってきていた。
「それなら俺だって、精霊に加護をだな・・・」
「ギィ、お前はもう黙ってろ。面倒くさい」
「なっ!」
「だいたい、そんな自慢をする暇があるんだったらさっさと借りを返してくれよ」
「ふ、ふざけんな!この軍に入ったんだ、メシの借りは返しただろ!」
エリウッドの軍に協力する。それで貸し借りなしということだったはずだ。だが、相手はマシューだ。ぬかりはない。
「おいおい、忘れたのかギィ。肉一切れにつき、貸し一つって約束だろ?貸しはまだ三つ残ってるんだぜ。ほら、この証文にお前の字でそう書いてある」
懐からひらひらと証書を振りかざすが、確かにそこにはギィの署名があった。
「ぐぐ・・・あ、あんた悪魔か!?」
密偵である。
「お、おれになんか恨みでもあんのかよ!」
「とんだ言いがかりだな。これは正当な取り立てだぜ?」
「なぁ?」と周囲に呼びかけるマシューは高利貸と見間違いそうになる程の手際だ。
そこに、レベッカが曖昧に頷いてしまうものだからギィの逃げ場はもはや無い。
「くっ・・・絶対、認めねえ!」
それでも諦めない姿勢だけは評価してもいいかもしれない。
「その証文を賭けて、おれと勝負しろっ!!」
「やだね。なんでおれがそんな面倒な」
マシューは証書を風になびかせにべもなく断りを入れた。
「そ、そんなこと言っておれに負けるのが怖いんだろ!?」
「・・・ギィ、今時そんな挑発に乗るバカいねえって」
それでもギィは食い下がる。
「うるせぇっ!男なら、正々堂々勝負しろっていってんだ!!」
マシューは呆れたように溜息をついた。
いや、実際呆れたのだろう。
「はいはい。わかった。だったら今度、相手してやるよ。お前が勝ったら、貸しはチャラにすればいいんだな?」
「ほ、本当か!?」
簡単に食いついたギィに笑いかけて、マシューは条件をつけた。
「そのかわり、いつ勝負するかはおれが決めるぜ?」
「いつ勝負したっておれの剣は負けない!おれの修行の成果、見せてやるからな!」
意気揚々とするギィだが、マシューからしてみれば、本当にただのカモである。
この世の全てが剣の腕だけで決まるのなら、それこそハングには力など無いに等しい。
それでも、ハングがこの軍でも重要な存在だというのは周知の事実。
「戦いはもっと複雑なんだぜ、ギィ」
マシューは小さく呟いてにやりと小さく笑う。
「マシュー、あんた悪人面してるわよ」
「悪そうな顔です」
セーラとレベッカにそう言われてもマシューはどこ吹く風である。
「むぅう・・・」
「バアトル、何を悩んでいる?」
「俺は、何か自慢できる祝福を受けていたかと思ってな・・・むぅう・・・何かあっただろうか・・・」
ドルカスはバアトルを放っておき、戻ってきたロウエンにねぎらいの言葉をかけたのだった。
――――――― ※ ――――――― ※ ―――――――
「と、いうわけでここで立ち往生しているところを襲われた次第でして・・・」
サンタルスからラウスに向かう途中の旅路であった行商人マリナス。
その人の話を一通り聞いているのはハングとエリウッド、ヘクトル、オズイン、マーカスの五人である。
「なるほど、話はわかりました」
エリウッドがそう言ったのを契機にハングは腰をあげた。
ともすれば、ラウスの現状について何か知っているかとも思ったが、彼の行商の道を考えればそれは無いことがわかった。ならば、このオッチャンを引き留めておく理由は無かった。
「では、近くの町まではお送りいたします」
エリウッドがそう言ったので、ハングはその護衛要員を決める。
「マーカスさん、ロウエンさんをこの人の護衛に付けても?」
「構いません」
「ま、待ってください!なにかお礼を!」
話しが進む前にマリナスが話を割り込んできた。だが、こちらも余計な荷物をしょい込む気はない。金ならあればあるだけいいが、この商人から金を巻き上げるのも少々心苦しいものがあった。
そのハングの考えを読んだわけでもないだろうが、エリウッドは断りを入れた。
「お気にならないでください。たいしたことはしていません」
「そうそう。こんな、しょっぼいおっさんから物もらえねぇって」
ヘクトルの物言いにハングは内心でクスリと笑った。
「しょっ、しょぼいっ?」
驚くように聞き返すマリナス。
「ヘクトル!」
「おっと」
エリウッドの一喝にヘクトルは逃げるように足をひいた。
ハング程ではないにしろ、エリウッドも怒らせると実は怖かったりする。
そんな空気をマリナスは咳払いで切り替えた。
「ウォッホン!わしはマリナスという者で色々な品を売り歩く旅の商人でございます。こう見えましてもそれなりに裕福でして・・・」
「へぇ~、おっさん金あるのか」と、ヘクトルが驚く。
「人は見かけによらないってとこだな」と、ハングもしみじみと頷いた。
「ヘクトル、ハング!失礼だぞ!」
エリウッドにそう言われ、二人はほぼ同時に肩をすくめた。
「マリナスさん、どうか、この者達の言うことはお気になさらず・・・」
「いや、その気にしておるわけでは・・・」
再び空気がなんだかゆるんできていたので、マリナスは咳払いを繰り返して自分の威厳を保とうとした。
正直、無駄な努力だとハングは思う。
「ウオッホン!と、ところでお三方とも、身分の高い方とお見受けいたしますがお名前だけでも教えてはいただけませんかな?」
ハングは自分のことも指差してみせる。
『俺っていつから身分が高くなった?』と、言わんばかりである。
その隣でエリウッドとヘクトルが自己紹介を始めたのでハングも後に続いた。
「僕は、エリウッド。フェレ侯公子です」
「俺はヘクトル。オスティア侯の弟だ」
「ハングだ。俺に身分は無い。ただの旅人だ」
そのハングの自己紹介に少し面くらうもマリナスは何か納得したように頷いた。
「おお!オスティアにフェレ、それにお忍びの方まで・・・!!ああ・・・そんな立派な貴族の方に救っていただけるとはこ、光栄でございますっ!!」
ハングは別に身分を隠すためにこんな恰好をしているわけではないが、もう面倒だったのでそのままにしとくことにした。
「そんなたいそうに喜ばれると悪い気はしねーな」
ヘクトルは後頭部をがしがしと掻く。それが照れたときの彼の癖らしい。ヘクトルはマリナスに声をかけた。
「なあ、マリナスさんあんた、これからどうすんだ?」
「え?わしでございますか?リキアをまわって商売をと思っておりましたが・・・こう物騒では、ちょっと無理かもしれませんなぁ」
「もし、あてがないんだったら俺たちと来ないか?」
その案にハングはヘクトルのことを少し見直したのだった。
「なるほど・・・輜重隊ってわけか」
「ああ、思ってた以上に旅は長引きそうだし仲間も持ち物も増えてきてるだろ?荷物の管理とか、やってくれると大助かりなんだがなぁ」
その案にマリナスはもちろん大賛成だった。
「おお!それは名案ですな!!それこそは、わしの得意とするところですぞっ!」
ハングもヘクトルも満足そうだが、エリウッドはまだ渋い顔だ。
ここからの旅は厳しいものになる。そこに、こんな商人を連れて行ってもいいものかと思っていたのだ
「マリナスさんはいいんですか?」
「もちろんでございます!実は、貴族の家にお仕えするのがわしの長年の夢でございました。その夢が、こんな形で実現しようとは・・・ くっ感涙を禁じえませんぞ。ヘクトル様!エリウッド様!ハング様!!どうか、このマリナスめを末永くお可愛がり下さいっ」
エリウッドは少したじろくようにしてハングの顔を見た。
「いいんだよ。輜重隊ってのは俺たちが思っている以上に儲けに繋がるんだろ?」
「は、はい!商人は損得勘定の生き物。そこは信用していただいて結構です!」
「商人ってのは大金が落ちてたら、暖炉の中にも手を突っ込むもんさ。エリウッドが気にする必要はない」
マリナスも必至に自分を売り込もうと首を何度も縦に振る。さっきの貴族に仕える話もあながち嘘ではないようだ。
「やばくなったら勝手にトンずらするだろ?それぐらいでいてくれないとこっちも困る」
「はい!お任せください!このマリナス、逃げることに関しては一家言がありますぞ」
その自信が正しいか間違ってるかは別として、エリウッドの心が軽くなったのは確かだった。
「わかった。よろしくお願いします」
エリウッドがそう言うと、マリナスの顔に喜びが広がっていく。本当に嬉しそうだった。
「じゃあ、さっそく荷物を預かってもらおうか。手始めに今日の宿まで頼むぞ」
「はいはい。なんなりとこのマリナスにおまかせあれ」
そうして、この剽軽なちょび髭のおっさん。マリナスが旅に加わったのだった。