【完結】ファイアーエムブレム 烈火の剣~軍師と剣士~   作:からんBit

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14章~うごめく者たち(前編)~

「なにっ!?フェレのこせがれが来たと?」

 

慌ただしく玉座から立ち上がった中年の男。たるみきった腹回りとその身にまとう高価な装飾品が典型的な貴族の容姿そのものだ。

 

ここはリキアのほぼ中央に位置するラウス侯爵領。そして、玉座に座るのはラウス侯ダーレンその人である。

 

「はい、父上。今、見張りの者から報告がありました。まだ丘の向こうですが数十分後にはこの城に・・・」

 

その男を父と呼ぶのはその息子エリック。

やはり彼もやたら高価な衣類を身につけ、傍から見れば鬱陶しい程の煌びやかさだ。

 

そして、もう一人。

 

この玉座の間には少し場違いな服装の者がいた。

その男に向けてラウス侯ダーレンは責めるような目を向ける。

 

「どういうことだ?エフィデル殿」

 

目深に被ったフード、その奥に光る金色の瞳。

全身を黒で統一した喪服のような服装をした男。彼がエフィデルである。

 

彼は何の感情も見せぬまま、声音だけで熟考しているかのような雰囲気を作り出す。

 

「もしかすると彼らが城に辿り着いた時、サンタルス侯ヘルマンはまだ生きていたかもしれません」

 

エリウッドがここに来た道のりを考えれば自ずと選択肢は絞られる。

エフィデルにとってはほとんど考える必要のない質問であった。

それを勿体ぶるのは単に目の前の人物の器を図るがため。

 

「な、なんだとっ!?」

 

そんなエフィデルを前に何の恥じらいもなく取り乱すダーレン。

 

これでよく領主が務まるものだとエフィデルは思う。

 

人は器に合わせて大きくなっていくもの。器に見合わぬものが高い地位についた時、それに器が追いつくことは稀である。

 

もちろん、このダーレンがそんな男だからこそエフィデルはここにいる。

 

「なんということだっ!では、今回計画が台無しではないか!!」

 

ダーレンはもはや目の前のエフィデルも息子のエリックも視界に入っていない。

彼はただ慌てているだけだ。何か打開策を考えているとは思えない。

 

こんなものか・・・

 

エフィデルは胸の内で冷たく呟く。

 

「なに、そうあわてることもないでしょう。彼が・・・エリウッド殿がたとえ何かを知ったとしても今のフェレには何の力もない」

 

『エリウッド殿』とエフィデルは口にした。

 

エフィデルが人の名前を覚えるのは極めて珍しい。それだけのものがエリウッドにはあると彼は考えていた。ただの田舎貴族とは言い切れない、と。

 

なにせエリウッドは少数の兵でエフィデルの送った部隊を二度も退けている。

そう簡単にいくような手勢を送った覚えはエフィデルには無い。

 

だが、あくまでエリウッドの兵力は少数。この現状を簡単に覆す力が無いのもまた事実。

 

「せいぜい、オスティア侯に知らせるのが精一杯でしょう」

「オスティアに!?それがまずいのではないか!!新オスティア侯ウーゼルは若いながらも、かなりのやり手なのだぞ!」

 

ダーレンは『リキアという国をわかっているのか!?』と、まで言い出しかねない雰囲気。

 

「ヘルマンめが臆病風に吹かれよって」

 

挙句、死者にまで文句を垂れる始末。

 

この男は本当に何もできないのだとエフィデルは確信し、ほくそ笑む。

 

「ですから、オスティア侯の耳に入る前に始末してしまえばよいのです」

 

その進言により、ダーレンはようやく落ち着きを取り戻した。

 

「なるほど、その手があったか」

 

悪知恵も働かないのなら悪役にすらなれはしない。なれるのは道化だけだ。

 

「オスティアに進路をとるにはここを通過するしかない。まだ、口を封じる手はあるというわけだ」

 

玉座にふんぞり返り、顎を撫でるダーレン。そこだけは、偉そうな王の姿を保っていた。

 

「・・・よし、ならば手だれの兵を差し向けて・・・」

「父上!」

 

その王の言葉を遮るものはその息子。

 

「よろしければ、その役目は私に」

「できるのか?わが息子よ」

「エリウッドの奴めとはオスティアの学問所で一緒でした。私が一人でいれば、お人好しのあいつのこと、きっと油断するでしょう・・・そこを一気に・・・」

「なるほど」

 

目の前で繰り広げられる茶番劇。エフィデルは始めてその瞳に感情を映した。

 

嫌悪感だ。

 

エリウッドは生きてるか死んでるかもわからない父親を探すために単身で危険に飛び込んできた男だ。そんな彼がそう簡単に罠にかかるとは思えない。

それに、未確認ながらオスティア侯弟ヘクトルも参列している情報もある。

 

エフィデルは見下すような話し方をしそうになる自分を抑え、平坦な声を出すのに少々の努力を要した。

 

「失礼ながら・・・ご子息には荷が重いのでは?万が一うち漏らすとやっかいなことになりますぞ」

「いやいや、親のわしが言うのもなんだがこのエリックはなかなかの策士でな。フェレのひよっこごときひねり潰すのは、造作もないこと。任せたぞ、エリック」

「・・・・・・」

 

エフィデルは目の前で戦いが一任される様を黙って見ていた。

エフィデルにとって、このラウスの兵がいくら損なわれようがさほど問題は無い。

彼らに求めるのはただの時間稼ぎとエリウッドの始末。

 

その為にもまだ踊ってもらう必要があった。

 

傀儡は見事に操られてこそ観客の目を引く。

だが、糸が絡まった踊りなど見るに耐えない。

 

『自ら動くとこの程度か・・・』

 

エフィデルは満足に踊れもしない道化に対し、そう思ったのだった。

 

 

 

――――――― ※ ――――――― ※ ―――――――

 

 

エリウッド達はハングの指示で大きな街道を中心に最短距離でラウス城へと向かっていた。そして、ついに城まで川を一つ越えればよいというところまで迫っていた。

 

城まで続く平原は北を崖、南を海に囲まれている。そして、その平原を貫く街道には人っ子一人いなかった。

 

戦争は必要となる物資が極端に多い。

糧食の備蓄の為に街から食べ物が消え、鉄鍛治に使う薪の値段が跳ね上がる。

 

民が食うに困り、暖炉から火が消え、町にある金が無くなっていけば自然といなくなるのは街から街へと物を売り歩く行商人だ。

 

この人気(ひとけ)の無さこそが、戦争の前触れであった。

 

「本当に戦の準備が進んでるらしいな・・・」

 

ハングは眉を潜めながらそう言った。

独白のような台詞だったが、エリウッドが同意する。

 

「そうだね・・・」

 

そう言ったエリウッドの声は心なしか沈んだものだった。

 

「ハング・・・」

「ん?」

「戦いになると思うかい?」

 

ハングは何も言わない。沈黙がそのまま肯定にならないのがハングだが、今回はそうではない。

純粋になんと返事をしたものかわからなかったのだ。

 

代わりに答えたのはヘクトルだった。

 

「・・・城に行きたくないって顔だな」

 

その言葉にエリウッドは更に表情を曇らせた。

 

「行って・・・真実を聞けば戦いになるかもしれない」

「望むところじゃねぇか」

 

ヘクトルらしい返答である。そこにハングが横槍を入れる

 

「戦わずにして勝つのが(いくさ)の上策とも言われるぞ」

「う・・・ああ・・・俺はそういう戦略とか戦術とかは苦手なんだよ」

「未来のオスティアを背負って立つもんが何を言ってんだ。なぁ、マシュー」

「ええ、全くです。少しだけハングさんを見習ったらどうです?」

 

君主に皮肉の一つでも言えるぐらいが国を回すにはちょうどいい。

そういう意味でもオスティアはよい土地だ。

 

そんな掛け合いを終えてハングはエリウッドの肩を軽く叩いた。

 

「あんま、考えすぎんなよ。エリウッド」

 

ハングの視界の隅でマーカスが『気安く触るとは何事か!?』とでも言わんばかりに手槍に指をかけてるのが見えていたが、今は無視することにした。

 

「戦いなんてやりたくない。そりゃ、誰しもが必ず思うことだ。家族や友を失うのは身を削られる以上の苦しみだ」

「・・・ハング?」

 

エリウッドは改めて旅の軍師の横顔を見る。今の台詞は正論や一般論を語ってるいるだけのようには聞こえなかった。

 

「ハングは・・・何かを・・・失ったのかい?」

 

ハングは大きくため息をついて、エリウッドから離れた。

 

「さぁな」

 

ハングはそう言って言葉を濁す。聞けば大概のことには答えてくれるハングが珍しく口を噤んでいた。

 

「まぁ、なんていうかな。俺もいろいろと戦いで失ってきた。同じ思いを他人にはして欲しくない」

 

ハングの声はいつもと変わらない。陽気でもなければ、悲壮感も無い。エリウッドの目には逆にそれがなんだか苦しそうに写っていた。

 

「だから、俺は戦うんだよ。自分なりのやり方でな。お前も似たようなもんだろ?」

 

エリウッドはただ頷いた。

 

「だったらあんま根詰めんな。そのうち、自分の中で答えも出る」

 

ハングはそう言って、笑う。戦いを前にした時の不敵な笑みではない。他人を安心させる弾けるような笑顔だ。

その顔を見てエリウッドは言葉を飲み込んだ

 

『ハングには・・・答えが出たのかい?』

 

それは、今は聞くべきではない事柄だと思った。

 

「さて・・・」

 

ハングは不意に深呼吸をした。

 

お喋りはここまで。

 

それを態度で示し、ハングは周囲を大きく見回した。

 

「エリウッド、ヘクトル。ラウス侯爵家について、何か知ってるか?」

 

その質問に最初に答えたのはエリウッドの方だった。

 

「ラウス侯子のエリックならオスティアの学問所で一緒だった」

「学問所?」

 

次のハングの疑問に答えたのはヘクトルだ。

 

「エリウッドは昔、オスティアに留学してた時期があったんだ。他の侯子も同じ時期に留学してた」

「ふぅん・・・で、そのエリックってどんな奴だ?」

 

ハングはこのラウスを訪れたことがあり、民の噂程度にはエリックのことを知っている。評価は総じて『威張り散らすしか能の無いボンボンだ』というものだった。

 

対してヘクトルは「見栄っ張りで、鼻持ちならない、自信家だ」と言った。

エリウッドは「貴族であることに誇りを持っていて、少し苦手な人だ」と言った

 

だいたい、民の噂通りの人柄らしい。

ハングはふと、後ろを振り返り、そのまま空を見上げた。

 

「一雨きそうだな・・・」

 

数日前から続く曇り空を前にハングはそうボヤいた。

 

その時、周囲を警戒していたマーカスの声が辺りに響いた。

 

「エリウッド様!ラウス城から騎兵が出てまいりました」

「数は?」

 

そう質問したハングにマーカスは露骨に不審の目を向けてマーカスは答える。

 

「一騎のみです。先触れの者によりますと、ラウス侯公子エリック殿とのこと。エリウッド様に会見を求めております」

「噂をすればなんとやらだな」

 

ハングはそう言って唇の端で笑う。その隣でヘクトルは眉間に皺を寄せていた。

 

「俺ははずすぜ、昔からあいつはどうも虫が好かねぇ」

 

ヘクトルが背を向けて、それに続くようにハングも背を向けた。

 

「んじゃ、俺も見回りでもしてくるよ」

「ハングもかい?」

「貴族同士の会見に、俺が混ざるのもよくないだろ」

 

ハングはひらひらと手を振って、ヘクトルの後を追った。

その背中を見送り、エリウッドはマーカスに改めて向き直った。

 

「・・・会おう。呼んでくれ」

 

エリウッドは自分の腰に差したレイピアに視線を落としていた。

 

ヘクトルと共にその場を離れたハングはすぐに残りの仲間を集めた。

エリウッドの警護の為にロウエンとマーカスをつけ、それ以外は皆会見の場から離れる。

 

ギィが会見を始めようとするエリウッドの方を見てぼやいた。

 

「ったく~さっさと城に行っちまえばいいのに。貴族ってのは面倒だなぁ」

「ギィの頭ってちゃんと脳みそ詰まってんのか?」

「へ?」

 

間抜けな返答をして、ギィは更に醜態をさらした。

それを見て、マシューは乾いた笑い声をあげる。

 

「ははは、やっぱなんかありますか?貴族が単騎で来るなんて『罠ですよ~』って言ってるようなもんですもんね」

「マシューは察しがよくて助かるよ」

「むっ、私だって気づいてたわよ!」

「なんで張り合う」

「だって悔しいじゃない!マシューのくせに!」

 

憤懣やるかたなしのセーラをレベッカがなだめる様子を横目に、ハングは仲間に現在の状況と今後の展開を簡潔に説明した。

 

ハングが一通り話し終えるとセーラやギィが唖然とした顔でハングを見ていた。ドルカスは変わらずの無表情、バアトルは最初から思考を放棄しているような顔だった。

納得したように頷いているのはヘクトルやオズインと言った戦いに精通する者達である。

 

「オズインさん、どう思います?」

「確かに、この辺りは草木が豊富な豊かな土地。その可能性は十分あります」

 

オズインのお墨付きを得て、ハングは確信したような表情を深める。

 

「で、どうすんだ?ハングの推測が正しけりゃ敵は相当の数になるぞ」

「そこは俺が何でここにいるのかをお忘れなく」

 

ハングは皆に指示を出していく。各々は自分の役目をしっかり理解し、行動を開始した。

ハングはその中でも一番ヘマをしそうな男に向けて声をかけた。

 

「ヘクトル、気取られるなよ」

「わーってるよ」

「オズインさん、よろしくお願いします」

「任せてください。ヘクトル様の手綱は握り慣れてます」

 

オズインの口から冗談が出るのをハングは初めて聞いた。

 

少しは認められきてるのだろうか?

 

などと思いながらハングはエリウッドのところへ戻る二人の背中を見送った。

 

 

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