【完結】ファイアーエムブレム 烈火の剣~軍師と剣士~   作:からんBit

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14章~うごめく者たち(中編)~

「やぁ!久しぶりだなエリウッド!!」

 

それがエリウッドが対面したエリックの第一声であった。

これが、城の一室ならばとても友好的な会話が続きそうなもんだが、ここは戦の臭いがする平原だ。エリウッドには違和感しか感じられない。

 

「エリック、用件はなんだ」

「用件?どういう意味だい?」

 

ぬけぬけととぼけて笑うエリック。

それを見て、エリウッドの脳裏に浮かんだのはハングの表情を読ませない笑み。目の前の彼とは雲泥の差だ。

 

「僕はただ、旧友の君がこのラウスに来ていると聞き、こうして挨拶に出向いたんじゃないか」

 

ならば、城に招いても良さそうなもの。

 

エリウッドは『さて、どうしたものか』と、エリックの会話の間合いを探る。

 

「ところで、どのような用向きでこのラウスに?オスティアに向かう途中なのかな?」

「・・・どうしてそう思うんだい?」

「君は侯弟のヘクトルと仲が良かったからだよ」

 

ほぼ間髪入れずの返答。あらかじめ答えを用意していたと思われる程の速度だった。

 

「・・・僕のほうは彼が苦手だったけどね。貴族だというのにあの下品な振る舞い、口のききかた・・・まったく、信じられないよ」

 

君の煌びやかで派手な鎧や他人を平気で見下す喋り方は人の上に立つ者としてどうなのか、とエリウッドは問うてみようかと半ば本気で考えた。

だが、今そんなことをしても意味はない。エリウッドは微笑をとりつくろう。

 

なんの返事もしないエリウッドに対し、エリックはこれ幸いと話を続けた。

 

「エリウッド・・・ヘクトルとは今でも付き合いがあるんだろう?一番最近会ったのはいつだい?連絡はどうやって・・・」

 

段々と会話の誘導が露骨になってきた。

エリウッドはそろそろ潮時かと思い、無理やり口火を切ることにした。

正直言ってエリックとの腹の探り合いは面白みがなかった。

 

これならハングと雑談している時の方が余程刺激的である。

 

「エリック。いったい、何を探りにきたんだい?」

「え?」

「このラウスでは、どこを向いても戦の準備をしている。君たち親子はいったい何を企んでいるんだ」

 

エリウッドは足を一歩前に出した。それに合わせるようにエリックが一歩足を下げる。

 

「はっきり答えてもらおうか!」

 

はっきりと敵意をもってにらみつけるエリウッドに対し、エリックは友人としての仮面を脱ぎ去った。

 

「・・・オスティア侯と連絡をとったかどうか・・・聞き出してからと思ったがな。仕方ないな・・・」

「なにっ!?」

「エリウッド!僕は昔からおまえも大嫌いだった。僕の槍で、おまえの善人面を苦渋に歪ませたいと・・・ずっと思っていた!やっと・・・願いが叶う」

 

エリウッドは腰元のレイピアに手をかける。

周囲にいる騎士達も色めき立つ。一触即発の空気。

 

その時だった。

 

「そうはさせるかよっ!!」

 

後方から飛び込むようにしてヘクトルがエリウッドとエリックの間に割り込んできた。

 

「ヘクトル!!」

「お、おまえっ!ヘクトル!!まさか・・・もう、オスティア侯と連絡をとったのか!?」

「さぁ、どうだろうな?」

 

更にオズインもこの場に参加してくる。

ヘクトルは少し不自然なほど大きな声でエリウッドに呼びかけた

 

「エリウッド!こいつ、あちこちにかなりの兵を伏せてるぜ。しかもラウスの正規兵ばかりだ。かなり頑張んねぇと・・・やべえな」

 

エリックは瞬時に馬に飛び乗り高らかに笑う。

 

「クククハハハ・・・おまえたちがいくら必死になっても逃げられはせん!なにせ数が違う!!それも、わがラウスが誇る精鋭の騎馬部隊の攻撃だ」

 

その時、エリウッド達の後方から既に戦いの音と混乱する人の気配が流れてきた。

 

「ハハハ!さっそく、罠にかかったな!!さて、おまえ達は何分生きられるかな?」

 

エリックが素早く立ち去るのと同時に平原から湧き出るように騎馬部隊が姿を見せた。

 

戦闘態勢に入る一同。

 

そんな中で、エリックが十分に離れてからヘクトルはエリウッドに一言二言耳打ちした。

 

「・・・それは・・・ハングらしいね」

「だろ?なんだかんだ言って、あいつ性格悪いよな」

 

エリウッドとヘクトルはこの危機的状況にも関わらず笑い合った。

 

「それじゃあ・・・」

「ああ、敗走しにいくとするか」

 

エリウッドとヘクトルは武器を取り、騎士達は戦いを始める前から退却の鐘の準備を始めた。

 

 

 

――――――― ※ ――――――― ※ ―――――――

 

 

 

「ったく、見事なもんだな」

 

平原の中央付近で激突したエリウッド達とラウス兵をハングは平原の北にある小高い丘の上から見ていた。

足元には崖があり、下からはまず登ってはこれない。この距離なら矢や魔法も飛んでくることはない

 

戦場を見渡せる安全地帯からハングは自信満々に指揮をしているエリックを眺めた。

そこに続々と仲間達が集まってくる。

 

「ハング!後方の兵は叩き潰したぞ!」

「どうもです。バアトルさん」

「はっはっー!隠れるしか能の無い奴らなど敵ではない!」

 

豪快に笑うバアトルに頼もしさを感じながらも苦笑を禁じ得ない。

ハングはバアトルを労い、空を見上げた。

薄暗い曇天から雨粒が落ち始めていた

 

それを肌で感じ、レベッカが小さく呟く。

 

「雨・・・降り出しましたね」

「ああ・・・」

 

その隣でセーラが渋い顔をしていた。

 

「ちょっと、ハング。そのマント貸して」

「へいへい」

 

抵抗するのが面倒で、ハングは自分のマントをセーラに手渡した。

 

「ふぅ、これで濡れずにすむわね」

 

マントを頭から被るセーラ。代わりにハングはあっという間にずぶ濡れだ。

これでセーラが静かになるなら安いものだがいささか納得いかない。

 

その時、いきなり雷鳴が轟いた。

 

「きゃー!な、なに!!」

 

雷が落ちた。しかも、相当に近い位置だ。

 

「最近、よく鳴りますね」

 

レベッカは平気な顔をしてそう言った。

ハングは雷の落ちた方向に視線を走らせ、眉間に皺を寄せた。

しばらくしてもう一度雷が落ちる。

 

ハングは何かを確認するかのように空を見上げた。

 

「あれは自然のもんじゃないな」

「へ?ど、どういうことよ・・・雷は雷じゃない!?どういうことよハング」

 

雷に驚いて半ばパニックになっているセーラを見て、ハングはこのまま雷が鳴るに任せれば静かになるのだろうかと思ってた。

 

だが、いざという時には動いて貰わなければやはり困る。

ハングはため息を吐いて、立ち上がった。

 

「バアトルさん、二人をお願いします。すぐに戻りますので」

「任されよう!存分に暴れて来い」

 

暴れるつもりはあまりなかったのだが、訂正する暇が惜しいのでハングは例の雷に向かって走り出した。

 

雨に煙る中から見えてきたのはハングが予想していた通りの絵が繰り広げられていた。

一人の魔道士がラウス兵だか山賊だかと戦っていた。やはり、あの雷は精霊の一撃だったらしい。

 

魔道士を追い払うか殺すかして雷魔法を止める気だったハングはもう一つの選択肢を選ぶことにした。

 

すなわち、こちらの味方に引き込むという案だ。

ハングは剣を引き抜き、魔道士の敵に切りかかった。

 

「魔道士!助太刀するぞ」

「助かります・・・」

 

お互いに声をかけ、共に戦う

 

そのはずだった・・・

 

「え?」

「ん?」

 

ハングは目の前の山賊を切り捨てたまま一度止まった。そして魔道士の顔をまじまじと見やる。

 

「お前・・・エルク・・・か?」

「ハングさん?」

 

そこにいたのは、癖のある髪と少し童顔に分類される顔。一年ぶりだが、見間違うことは無い。そこにたのはセーラを一年前に護衛していたハングの友の一人だ。

 

「あ、危ない!」

 

エルクの手元で魔道書が開かれ、精霊が応える。ハングの背後で閃光と共に雷が降り注いだ。

 

「ぐあぁああ!!」

 

そしてハングが虫の息となった山賊を切り捨てる。

ハングの出現に山賊は素早く反転し、雨の中へと退却していった。

 

「くそっ!増援だ!引け」

 

山賊にしては見事な引き際だ。あっという間に戦いの気配が無くなり、ハングは剣を鞘に戻した。

 

「エルク、どうしてここに?」

「話せば長くなるんですが・・・」

「じゃあ後でいい」

 

その早急な会話のしかたから、エルクはさっきから聞こえている騒乱の音にハングが関わっていることを察した。

 

「とりあえず、エルクはラウスとは敵対してるか?それとも協力関係か?」

「どちらかと言えば、敵対ですかね。南の港町に僕の今の主人がいまして。その彼女がラウス侯に目を付けられてしまっているんです」

 

ハングはそれだけでだいたいの事情を察した。

ラウス侯が金品、食糧だけでなく麗しい女性を城に蓄えてるのは有名な話だ。

 

「おかげで、この領地を出ることができずに困っていたんです」

「なるほどな」

「向こうの町は戦いに巻き込まれたりしないでしょうか?」

「それは平気だと思うぞ、向こうはマシュー達を向かわせて制圧させている」

「マシューさん・・・って、あのマシューさんですか?」

「おう、あとドルカスさんとセーラもいるぞ」

 

セーラの名を聞いた途端にエルクの眉間に皺がよった。ついでに顔も頭痛をこらえているかのような険しいものになる。

 

そんなエルクを前にハングは声をあげて笑った。

 

「安心しろ。セーラの弱点を見つけた」

「弱点?」

「ああ、だが詳しい話は後だ。こっちも忙しくてな」

「ラウス侯と戦うのなら協力します」

「当然!期待してるからな」

 

ハングとエルクが再び握手を交わす。

 

「それで、私は援軍に向かえばいいのですか?」

「いや、その前に・・・」

 

ハングは手近にあったラウス兵の兜を持ち上げた。

 

「ちょいと、手伝え」

 

ハングは不敵に笑い、その兜や鎧を身に付けはじめた。

 

 

 

――――――― ※ ――――――― ※ ―――――――

 

 

その頃、南の町の付近では

 

「見たか、マシュー!俺の剣の腕を!」

「海賊相手に勝ったこと自慢されてもなぁ~」

「ぬぬぬぬぬ・・・」

 

町の付近のラウス兵と海賊を駆逐しながらマシューとギィは進んでいた。

目標はあらかじめ伝えられている。そこまでは極力目立たないようにすることがハングの指示だが、ギィは知ってか知らずかバカみたいに暴れまわっている。

 

「マシュー・・・」

「おりょ?ドルカスさん、敵の伏兵はもう始末したんですか?」

「ああ・・・」

 

エリウッド達の後方に伏せられていた兵を叩くのがドルカスとバアトル役割だった。

 

「おっし!これで戦力は揃ったな!さっさと仲間の為に戦場に飛び込もうぜ!」

 

いきりたつギィ。そこに、冷たい視線が二組刺さった。

 

「な、なんだよ・・・」

「ギィ・・・おまえなぁ・・・」

 

マシューはこれみよがしに何度もため息を吐く。

 

「な、なんなんだよ!」

「ギィ、ハングさんの策を聞いてなかったのか?」

「え?策?」

 

ギィは頭をひねる。ハングからこの戦闘の前に言われたことを思い出す。

 

『お前はマシューについていけ』

「俺はあんたの護衛を任された」

 

解釈が間違っている。マシューもその場でギィに下されたハングの指示を聞いていたので、ため息五割増しだ。

 

「ハングはマシューの剣の腕が頼りないからってことで俺に護衛を頼んだんだ!あのハングに俺は認められてんだ!だから、諦めて証書を渡せ!」

 

マシューは明日あたりにでも痛い目みせてやるか、と物騒なことを考える。

 

そんな時だった。町の方から女性の悲鳴が聞こえてきた。

マシューとギィがほぼ同時にその方角を見る。

 

まず目に入ったのは、赤毛の少女だ。肩で切り揃えた短くて癖の無い髪。シスターに似た服装は宗教国家であるエトルリアでよく見るものだ。

 

目の良いギィとマシューにはその少女が幼げながら気品のある顔立ちをしてるとこまで見えていた。

 

そして、その少女が馬に乗り、町の入口でラウスの兵士と思われる者に乱暴されかけているのはドルカスにもわかった。

 

「くそっ、あいつら!あんな女の子に・・・って、おい!マシュー!」

 

マシューが駆け出し、ドルカスも続く。ギィが呆けている間に二人は兵士を瞬く間に叩き伏せてしまった。

 

「あーあ・・・余計なことした・・・ハングさんから説教されるかもな・・・」

「その時は俺も一緒だ・・・」

 

マシューとドルカスは武器を構えながら周囲を警戒する。

二人とも愚痴はこぼしているが自分のやったことに後悔はないようだった。

マシューは周囲にラウス兵がいないことを確認し、赤毛の女性に声をかけた。

 

「そんで、大丈夫かい?」

「は、はい・・・ありがとうございます」

 

手を伸ばし、彼女を助け起こすマシュー。

 

「・・・この時期の雨は体に触る・・・」

 

ドルカスはそう言って、少女に雨具を差し出した。

 

「え、そんな・・・私は大丈夫です」

「受け取っとけ・・・どうせ、俺には不要だ」

 

激しく動き、体から湯気を立ち上らせるドルカス。

雨具を引っ込める様子の無いドルカスに少女は深く礼を言いつつ、雨具を受け取った。

 

そこにギィがようやく登場する。間抜けもいいところだった。

 

「それじゃあ、俺たちはこれで。ほら、ギィ。バカみたいな顔してねぇでいくぞ」

「お、おう・・・」

 

マシューとドルカスがギィを引きずるようにして背を向けて市壁に沿って歩き出す。その背中に声がかかった。

 

「あ、あの・・・私も連れて行っていただけませんか?」

「へ?」

 

声を出したのはギィ。マシューとドルカス一旦視線を合わせて振り返った。

 

「やめときなよ、俺たちはこれからラウスの正規兵と戦うんだ。危険だぞ?」

 

マシューの声音が少し冷たいものになる。拒絶の意味合いを多分に含ませたのは当然、意図的である。この少女はどう見ても戦えるようには見えない。そんな娘を戦場に連れていくわけにはいかなかった。

 

だが、その少女はまるで怯んだ様子を見せずにマシューを見返した。

 

「私は・・・旅の途中でラウス侯に引きとめられて困っていたのです」

 

マシューはドルカスともう一度顔を見合わせた。ドルカスも困ったような表情を返すしかない。

 

「私は杖を使えます。必ずお役に立ちます。どうか、連れて行ってください」

 

二人はため息をなんとか堪える。原因は目の前の少女にあった。

彼女は可憐な見た目と裏腹にその芯の強さが見て取れた。これではちょっとやそっと脅しただけでは引き下がりそうにもない。

 

「どうします?」

「・・・・うーむ」

 

二人にとっては判断に困る案件だ。確かに衛生兵はいてくれるとありがたい。だが、それは衛生兵に護衛を割く兵力が必要になるということでもある。

 

それはこれからの作戦に支障をきたすかもしれない。

 

マシューとドルカスとしてはハングの意見を仰ぎたいところだった。

 

だが、そんな二人の思考などまるで知らずに思ったままを口にする馬鹿がここにいた。

 

「よっし、わかった!一緒に来なよ」

 

ギィが地面に引きずられたままそう言った。

 

「本当ですか!?」

「ああ、サカの民は嘘はつかねぇ!俺はギィ、よろしくな」

「私はプリシラといいます。よろしくお願いします」

 

話を素早くまとめたギィを見下ろし、マシューは冷たく呟く。

 

「ハングさんに言いつけていいっすかね?」

「・・・かまわんだろ」

 

俺が護ってやると豪語するギィの冥福を祈り、マシューとドルカス黙祷したのだった。

 

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