【完結】ファイアーエムブレム 烈火の剣~軍師と剣士~   作:からんBit

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14章~うごめく者たち(後編)~

中央平原では激しい戦いが繰り広げられていた。

 

エリウッドとヘクトルを中心に、騎士達が的確に脇を固める。

ラウス兵との元来の実力差はわずかながら五人の動きの一体感は一朝一夕で得られないものだ。

この雨によりラウス騎兵の動きが鈍り追撃が来ないことも重なり、五人は数で勝るラウス兵と一進一退を繰り返していた。

 

「くっ、思ったよりやるじゃないか・・・」

 

歯ぎしりするのはエリック。

 

一進一退といっても敵の本隊を一人でも打ち取れたという報告はまだない。対してエリウッド達は確実にこちらの兵達に損耗を強いている。膠着状態とはいえ、このまま行けば数の差が埋められていくのは時間の問題だった。しかも、エリウッド達は適度に後退して深入りしてこない。

 

このままではまずい。雨に紛れて逃げられでもしたら目も当てられない。

 

先程やってきた伝令によれば、伏兵により敵の後詰は崩壊させることができたとのことだった。

だが、結局のところエリウッドを生かして帰せばこちらの負けなのだ。

 

このまま包囲を完成させることができたとしても、今の兵力では決定打にどうしてもならない。

それだけエリウッド達の部隊としての完成度が高いのだ。

 

エリックは近くの兵を呼び寄せ、城へと伝令に走らせる。

 

「おい、誰か城へ!ありったけの援軍を連れてくるんだ」

「はっ!」

 

エリックのいる本陣から城に走っていく兵士。

 

それを見つめる視線が二つ。

 

崖の上から戦況を見ていたハングと城壁から見ていたエフィデル。

ハングはその伝令を見て唇を舐め、エフィデルは逆に唇を噛み締める。

 

このラウス兵の伝令がどちらの思惑に沿っているのかは明白であった。

 

冷静に戦局を見つめるこの二人の視線かかち合うことはまだ先である。

 

エフィデルは伝令が城内に駆け込むのを見て、玉座の間へと戻った。

それはちょうど、ダーレンが伝令からの報告を受け取ったところだった。

 

「早く援軍を送らねば・・・」

 

顔を青くしているダーレンに向け、エフィデルはため息を吐きだした。

 

「この程度の数も抑えられないとは・・・」

 

エフィデルの声が玉座の間に響く。そして、エフィデルはすぐさまその場から背を向けた。

その背中にダーレンから焦った声が飛ぶ。

 

「エフィデル殿?ど、どちらにいかれるのだ?」

「・・・リキア全領地の乗っ取り、あなたには荷が重かったようだ。我が主にこのことを伝え、我ら【黒い牙】もここから引き上げることにします」

 

その言葉にダーレンが勢いよく立ち上がった。

罵声でも浴びせてくるかと思いきや、その顔は今にも泣きそうである。

 

「ここにきて、我らを見捨てると言われるのかっ!?」

「オスティアに知られるとやっかいだと言われたのは、あなたではごさいませんか?ラウス侯ダーレン殿」

 

嫌味のように名を呼ばれ、ダーレンは震える体で答える。

 

「そ、そうだ。わしは今さら後戻りできんのだっ!!た、頼むっ!もう一度・・・もう一度だけ機会をくれ!!必ずや、ネルガル殿に満足していただける結果を出してみせよう」

 

ダーレンの縋るような目からはもはや思考を全て放棄しているような様子が伺えた。

ここにいるのは自分の主に向けてご機嫌を取ろうと、尻尾を振るだけの猥雑な獣だ。

 

エフィデルはフードの下で歪な笑みを浮かべた。

 

やはり、傀儡はこちらの思うがままに動いてくれなければ困る。この男に価値はなくとも、この城に蓄えられた戦いの準備は役に立つ。なにせ、まだしばしの時間がいるのだから。

 

エフィデルはフードの下の闇に全ての思考を覆い隠し、ダーレンを振り返った。

 

「・・・では、ただちに城の兵をまとめ、別の場所で態勢を整えましょう」

「わしに・・・息子と城を・・・捨てろといわれるのか?」

 

エフィデルの言った言葉の意味するところをダーレン明確に読み取った。

説明する必要があると思っていたエフィデルにとってはほんの少し誤算であった。

 

エフィデルは続ける。

 

「あなたのご子息の失態で共倒れになれとでも?我が主ネルガル様の後ろだてでつかむリキア統一の玉座・・・それと引き換えにするほどのものとは思えませんか?」

 

エフィデルの疑似餌。針に餌などつけなくとも、魚は釣りあげられる。

見せかけの餌とほんの少しの挙動で虚構の存在ですら本物であるかのように見せかける。

エフィデルは自分が垂らした針にダーレンが食いつく(さま)を見ていた。

 

「そう・・・か。そうだな。わしには・・・リキア王になるという大事な使命があるんだったな」

「・・・子の一人や二人、また作ればよいのです。一時の感情に惑わされるほど愚かなことはありませんよ」

 

道化はもう一人で十分だ。

 

「そうだな・・・ああ、そうだ!」

 

玉座に座り、自分に言い聞かせるように繰り返すダーレン。エフィデルはその愚かな男に背を向けた。エフィデルは玉座の間を出ながら行く先を吟味する。

 

現在の位置とエリウッドの人柄、そして我が主の目的。

 

最も有効と思われる土地はどこか。

そして、エフィデルは一つ答えを出した。

 

 

その頃、平原の北にある崖の上では・・・

 

「妙だな・・・」

「どうかしたんですか?」

 

戦況を眺めていたハングが呟いた。セーラを牽制する為に度々無意味に雷魔法を放っていたエルクは手を止めてハングのそばに寄る。

 

「いや・・・多分、エリックは援軍を要請したんだろうけど・・・援軍が来ない」

「え?」

「あ、また伝令が走った。本当に来ないらしいな、本陣も相当動揺してる」

 

エルクは平原の戦況を見渡すが、本陣が動揺してると言われてもよくわからなかった。

 

「よくそんなとこまでわかりますね」

「これでも、軍師だからな」

 

ハングは何気なくそう言って、長考するかのように顎に手を当てた。

 

「ちょっと、エルク!雷出すのやめなさい!お願いだからやめなさい!お願いだから・・・」

「セーラさん!崖から落ちちゃいますよ!」

 

エルクに縋りつこうとして崖に近づくセーラをレベッカが必死に抱き留めていた。セーラは本当に雷が苦手らしい。それを見て、さすがに少し気の毒になってきたエルクである。

 

エルクはどうしようかとハングの方を見た。

 

「まぁ、その辺にしといてやれ・・・そろそろ、雷もお役御免だろうしな」

「え?」

 

ハングは顎で平原を示した。そこではエリックまでもが戦線に参加してエリウッドに向かっていたところだった。

 

「ここまでかな・・・レベッカ、合図だ」

「はい!」

 

レベッカは矢筒から一本の矢を取り出す。その先には鏃は付いておらず、その代わりに笛のようなものが付いていた。

 

「放て」

 

レベッカが空に向けて矢を放つ。周囲に甲高い音が響いた。耳に触る程の高音は戦闘中でもよく聞こえる。

その矢の音が雨の中に消えると同時に退却の鐘が鳴り響いた。

 

「いけぇ!敵は崩れたぞ!追えぇい!」

 

エリックの勝ち誇った声を聞きながらハングは次々と仲間に指示を出していった。

 

 

 

――――――― ※ ――――――― ※ ―――――――

 

 

エリックは後退していくエリウッドの本隊を見ながら顔に浮かぶ勝利の笑みを抑えきれずにいた。

 

自分が参戦した途端に、エリウッドもヘクトルも尻尾を巻いて逃げ出した。

 

やはり、自分の槍の腕は恐れられていたのだ!学問所では剣ではエリウッドに、斧ではヘクトルにまるで歯が立たなかった。だが、槍なら。この槍でなら、僕は決して負けるわけがないのだ。

 

エリックは追撃戦に移った戦いに歓喜しエリウッドの背中を追い続けた。

 

「フェレも・・・オスティアも・・・滅ぼしてやる!我々ラウス侯爵家がこのリキアの王なのだ!」

 

馬に鞭を入れるエリック。その隣に近衛兵が寄ってきた。

 

「エリック様!」

「なんだ!?援軍か?」

 

これで、駄目押しだ。しかもエリウッドの逃げる先にはあらかじめ伏兵を配置している。これで袋のネズミ。

エリックは自分の仄暗い願望が叶う瞬間を目の前に息をたぎらせる。

 

騎士達はどうでもいいが、エリウッドとヘクトルはこの手で殺してやる。

 

だが、その興奮は近衛兵の言葉で一気に冷めることとなった。

 

「ふ、伏兵です!」

「は?何を言っている?我々の伏兵はエリウッドの背後に・・・」

「違います!!敵の伏兵が我が軍の後方に!!」

「なんだと!!」

 

バカな、という思いと共に背後をみる。

そこには明らかにラウス兵ではない部隊が北と南から現れ、背後に陣取ろうといているところだった。

 

「そ、そんなバカな・・・敵は・・・我が伏兵に壊滅したと・・・残るはエリウッド達のみだと・・・」

 

確かにエリックはその伝令を受けた。

伝令の相手の顔をエリックは思い出そうとする。

 

見慣れぬ兵士だった。髪で癖毛のある茶色い瞳のやや人相の悪い兵士。

 

エリックは慌てて周囲を見渡す。自分の周りにそんな容姿の兵はいなかった。

 

『釣り野伏せ』

 

退却を偽装して敵を陣の深くまで誘い込み、伏兵で挟撃する。

エリックの頭にその戦術が浮かぶ。背筋に雨粒の冷たさとは別種の冷気が訪れていた。

 

「エリック様!前方の隊が反転してきます!」

「む、迎え撃て!」

「背後から雷が!魔道士です!」

「むむむ、む、迎え撃て!」

 

前後からの攻撃に足が止まる騎馬部隊。そこにエリウッド達が一気に突っ込んだ。

瞬時にラウス兵達の陣形が切り崩されていく。その直後、後方からハング達が突っ込んだ。

雨の中、足を止めた騎馬兵になすすべはない。エリックの部隊は馬を捨てて逃げだすか、地面に叩き伏せられていくかの二択を迫られるに至った。

 

近衛兵が次々と倒されていくなか、エリックは陣のど真ん中で震えることしかできなかった。

 

「てめぇがエリックか」

 

背後から名を呼ばれ、エリックは反射的に振り返る。その顔面に飛び蹴りが叩き込まれた。

 

「ごばぁ!!」

 

馬から転げ落ち、泥だらけの地面に背中から激突した。

それでも、槍を手放さなかったところにエリックの騎士としての最後の誇りが見えていた。

だが、今更その程度の抵抗など無意味でしかない。

 

「こ、このぉ!」

 

エリックは銀製の槍を襲ってきた人物に向ける。

 

「はん!この程度かよ」

 

その槍先は足で簡単に蹴り飛ばされ、すぐさまもぎ取られてしまう。

 

「ったく・・・エリウッドの奴でももう少し槍を上手く扱えるぞ」

 

エリックの視線の先。雨に濡れて張り付いた髪は黒く、癖がある。見下ろされ、影になった顔なのに薄い茶色の瞳と不気味に笑う口元だけがはっきり見えた。

 

その顔にエリックは見覚えがあった。

 

エリウッド達の後詰を始末したと報告してきた伝令の兵士の顔だった。

 

「き、貴様!あの時の・・・」

「マシュー!梱包しちまえ!」

「はいは~い」

 

どこからともなくマシューが現れ、一気にエリックの体に縄を巻きつけていく。

 

「はっ、放せ!この私が捕虜になど・・・ぐ、ぐわっ!」

 

ハングはエリックを見下ろし、冷たくほくそ笑む。

 

「いいか、三流策士。伏兵ってのはなこう使うんだよ」

「くっそぉおおおおお!」

 

 

――――――― ※ ――――――― ※ ―――――――

 

 

 

マシュー曰く、両手足の親指を一つに縛って逆関節を軽く決めておけばどんな手練れでも絶対に抜け出せないそうだ。エリックは綺麗に縄で梱包され、うるさい口には猿轡をかまされ馬に縛り付けられていた。

 

エリックが捕らえられたことにより、戦っていたラウス兵達はすぐさま投降に応じている。

ハングは彼等を一箇所に集めて、監視をマシューとバアトルに任せた。

 

エリックには念入りにドルカスを追加で監視に付けておく。暴れるようなら、首を切り落とせとエリック目の前で宣言しておいたのでそう心配はないだろうが念のためである。

 

ハングはロウエンに被害状況を尋ねる。

 

「んで、こっちの被害は?」

「怪我人が少々出ましたが軽微です」

「了解」

 

城の周囲の偵察に向かったマーカス達を待つわずかな間。エリウッドとヘクトルは最前線で敵の攻撃をさばき続けたため、怪我を多数負ってセーラの治療を受けていた。

 

雨はあがり、戦闘の臭いももう無い。

 

今後のことを考えるハングにロウエンが苦笑いをしながら話しかける。

 

「しかし、ハング殿もなかなかに人が悪いですね」

「さっき、エリウッドとヘクトルにも言われたよ」

 

伏兵を用いる相手を伏兵で破る。他にも方法はいくらでもあったが、ハングはあえてそのような策を用いた。

性格が悪いと言われても仕方ないかもしれない。

 

「もちろん、良い意味でです」

「そうは思えんがな」

 

ハングが傷薬を支給しているマリナスの所まで戻ると、エルクが皆に挨拶をしているところだった。

エルクの主とはマシュー達が保護したプリシラという少女だった。

詳しくは聞いていないが、どうやら旅の途中のようだ。

 

「プリシラ様を護っていただき、ありがとうございました」

「いいってことよ。俺は強いからな!」

 

鼻高々のギィ。ハングはその輪の中に入った。

 

「んで、エルクはこのあとどうすんだ?」

「プリシラ様がエリウッド様の隊に協力したいとのことなので、僕も彼女に同行します」

「で、本音は?」

 

ハングがそう言うとエルクは邪気を感じさせない笑顔を浮かべた。

 

「ハングさんと一緒なら旅も安全かと思って」

 

エリウッドの旅はまだ続く。エルク達の旅は明確な目的はあるが、行く当てが無い。そんな旅なので、このエリウッドの部隊で仕事をするのは渡りに船と言ったところだったようだ。

 

「そっか、それじゃあ、またよろしくな」

「はい!」

 

ハングとエルクは何度目かわからない握手を交わす。

 

そして、その主のプリシラはと言うと・・・

 

「よろしくお願いします」

「は、はい!こちらこそ!私、レベッカって言います」

「セーラよ、セーラ先輩と呼びなさい」

「は、はい。セーラ先輩」

 

雷がやみ、再びいつもの元気を取り戻したセーラ。

ハングはエルク背中を叩く。

 

「あれ、やめさせとけ」

「はい・・・」

 

エルクは頭痛をこらえるような顔をして、プリシラに絡むセーラの方へと歩いていったのだった。

 

そして、ハングはロウエンに今回の自分の手柄を自慢しているギィに視線を向けた。

 

「さて・・・」

 

ハングは笑った。いつもの不敵な笑みではない。他人を安心させる弾けるような笑みでもない。

 

それは他人を凍りつかせる微笑だ。

 

ハングがその顔をした瞬間にロウエンが立ち去った。エルクがいそいそとプリシラを連れてその場を離れた。セーラは既にいない。レベッカは逃げ遅れたのか、それともハングに当てられたのかその場に取り残されていた。

 

「ギィ、ちょっと話があるんだが・・・」

「ん?なんすか?」

 

頭上には雨上がりの虹がかかっていた。

 

巨大な蛇にも見えるそれは昔は凶事の兆候だったらしい。

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