【完結】ファイアーエムブレム 烈火の剣~軍師と剣士~   作:からんBit

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間章~戦後の城(前編)~

ハングがラウス城へと入った時、城の中はもぬけの殻であった。食料庫や武器庫を含め、全て空っぽ。残っていたのは領主が消えて喜ぶ守護兵と使用人だけだった。ダーレン侯爵もラウスの主力兵の姿も無い。

 

ハングは投降した兵を使い、素早く城の内情を把握して領内の安定化に務めた。そのおかげでラウス領内の見かけは今までと変わらぬ様相を呈していた。

 

そんなラウス城の一室。

 

エリウッドとヘクトルが部屋の中央を睨みつける。彼らの視線の先で縛られているのはかつてこの城を我が物顔で練り歩いていたラウス侯子エリックである。

エリウッドはエリックに柔らかな物腰で話しかける。

 

「エリック・・・話してくれないか?」

「・・・・」

 

エリウッド達はエリックから父のことや【黒い牙】の情報について聞き出そうとしていた。だが、先程からエリックは黙秘を貫いたままだ。業を煮やしたヘクトルが声を荒げる。

 

「おいっ、なんとか言えよ!ここで死にてぇのか!?」

「・・・・」

 

エリックは目を逸らし、不遜な態度を取り続ける。

 

エリックにはエリウッド達が自分を殺すわけがないという確信があった。

 

自分は貴族であり、ダーレンがいない現状ではこのラウス領の実質的な統治者だ。さらに投降した兵の中にはエリックの部下達もいる。ここで自分を殺して彼らに反乱の意志を植え付けるようなことはしないはず。

 

エリックはそう高を括っていた。

 

そんなエリックに対し、エリウッドやヘクトルもなんとか口を割らせようとあの手この手を用いてはいたが、どうにも上手くいかない。

 

そんな時だった。突然ドアが盛大に開けられた。

 

「よう、順調か?」

 

ハングがやけに上機嫌で部屋に入ってきた。

その後ろにはこの城の元使用人らしき女性が大きな包みを持ってついてきていた。

ハングはその包みを受け取り、その女性に労いの言葉をかける。

 

「悪いね。なんか、荷物持ちまでやらせちまって」

「いいんです。やっと私も村に帰れますから。それに、あんなに退職金を貰えるなんて」

「なぁに、この城には高価な品がいくらでもあるからな。あの騎士と恋仲なんだろ?前祝いも兼ねてるから気にすんな」

 

ハングは弾けるような笑顔を見せ、彼女を見送ってからドアを閉めた。

 

「おう、エリウッド。話は進んでるか?」

「ハング、今は尋問中だぞ」

 

ヘクトルの声が苛立っているのは単にエリックが話さないからではなく、この真剣な場にそぐわぬ雰囲気でハングが現れたからだ。ハングのもたらした朗らかな空気の中ではらいくらヘクトルが凄んでもなんら効果を示しそうにない。

 

「悪いね。俺も用がすんだらすぐ帰るから、気にすんな」

「用って、なんなんだ?」

「・・・ほれ、こいつをだな・・・」

 

ハングはヘクトルに包みの中を見せる。エリウッドはそれを無視して再びエリックに視線を合わせた。

 

「エリック・・・頼むから君の知っていることを教えてもらえないだろうか?」

 

エリウッドは真剣だ。だが、その後ろではハングとヘクトルが何やら話し合っていた。

 

「それなら、この真上の梁がちょうどいいんじゃないか?」

「だな、ヘクトル。そこの椅子持ってきてくれ」

「よしきた」

 

エリウッドの背後で二人がゴソゴソと何かをやっているが、それもエリウッドは無視した。今はエリックの話が先決である。エリウッドは再び語りかける。

 

「僕は・・・父のことを知りたいだけなんだ」

 

それでもなお、背後での動きは続く。

 

「ヘクトル、ちょっと抑えててくれるか?」

「ああ・・・・・・にしても、お前やけに手際がいいな」

「まぁ、昔な・・・ちょいとあってな」

「ま、いいけどさ」

 

いまだ、何かをやっている二人。エリックはなぜかそちらに視線を奪われてる。これでは尋問どころではない。

 

「こんなもんか?」

「もう少し、短くていいんじゃないか?」

 

しまいにはハングが鼻歌まで歌い出した。

エリウッドもさすがに我慢の限界だった。

エリウッドは一言言ってやろうと思い、振り返った。

 

「よし、完成だ!さぁエリック、この椅子に立ってみないか?」

 

エリウッドはそのまま言葉を失ってしまった。

 

「視点が少し高くなれば今まで見えないものも見えてくるって言うしな。冥土の土産にはちょうどいいだろ?」

 

どこから持ってきたのか、ハングは太い綱を梁からぶら下げていた。しかも、垂れている綱の先は輪っか状に結んである。

 

要するに絞首刑用の舞台が整っていた。

 

それはエリウッドもフェレで時々見たものだ。結び方も輪の大きさも見事なまでに本物のようだった。

 

「ま、待て!わ、私にそんなことをしてみろ!城の兵が黙ってないぞ!」

「ああ、それなら心配いらねぇよ。今、俺の指示で治安維持の為の見回りに行ってもらったところだ。よく訓練された兵士達だ、人柄もいいしな。お前の死体さえ公にならなきゃ問題ない」

 

ハングは縛られたエリックを左手でつかみ上げる。

 

「お前は尋問中に逃げ出した。そして行方不明になったまま二度と戻らず。死体は決して見つからない。そういう筋書きだ」

 

ヘクトルは似たような台詞を以前聞いたのを思い出し、喉の奥で笑う。

これではどちらが悪者かわかったものではない。

 

「ふざけるな!わ、私の遺体をどうやって処理するつもりだ!!絶対に見つかる!だから考え直せ!!」

「じゃあ、こういうのはどうだ?お前は捕虜という身分を恥に思い、俺達の目を盗んで自殺・・・なんなら貴族らしく毒酒でも煽るか?」

 

ハングはエリックを投げ飛ばすようにして椅子に座らせる。

エリックの真上では絞首刑用のロープが揺れていた。

 

「ほれ、準備は万端だ。口を開けろよ」

 

ハングはどこからともなく酒瓶を取り出す。

 

「ま、待てと言っているだろ!貴様は情報が欲しいんじゃ・・・ふがっ!?」

 

ハングはエリックの言葉を遮り、鼻をつまんで口を開けさせる。

 

「喋る気無いんだろ?口を開かないなら生きてても死んでても対して変わらん。ってなわけで、もう永遠に黙ってていいぞ・・・それで?最期に言い残すことは?」

「喋る!喋るから!こ、殺さないでくれ」

 

ハングのあまりの手際よさに、エリウッドはもう言葉も出ない。

ヘクトルは部屋の隅でこの一連のやり取りに笑いを堪えるのに必死なようだった。

 

ハングは鼻から手を離し、酒瓶をエリックの目の前の床に置いた。

 

「それで?」

 

ハングが酒瓶を足先で小突きながらそう尋ねた。たったそれだけの仕草でエリックは堰を切ったように喋りだした。

 

「え、エフィデルという男がいる。一年前、突然ラウスに現れた。あいつが来て、父上は変わってしまった」

 

エリックは自分の頭上で揺れる縄をチラチラと見ながら矢継ぎ早に喋っていく。

できるだけ早く椅子から離れたい気持ちは傍から見ててもよくわかった。

 

「父上は・・・以前から、オスティアがリキアをまとめてることに不満をもらしていたが・・・まさか、反乱を起こそうとまでは考えていなかった」

「反乱だと!?」

「ヘクトル、黙ってろ」

 

有無を言わさないハングの言葉にヘクトルは押し黙る。

 

「続けろ」

 

エリックは命じられるままに更に情報を吐き出す。

 

「・・・とにかく、あいつは何か強い切り札を持っていてそれで父上を虜にしてしまった。父上は反乱を決意するや、諸侯の何人かに使いを走らせ協力を要請した」

 

そこで、エリックは言葉を切りエリウッドの方を見た。

ハングは目を細める。エリックの目に一瞬だけ、起死回生の光を見たような気がしたのだ。

 

そして、その直感は正しかった。

エリックは口元に小さな笑みを浮かべて言った。

 

「フェレ侯爵は反乱に賛同した一人だ」

 

ヘクトルが息を飲む声が聞こえてきた。

 

「まさか!父にかぎってそんなことはない!」

 

声を荒げるエリウッド。そして、それを待ってたかのようにエリックがあざ笑いながら口を開いた。

 

「信じようが信じまいが勝手にすればいい。だが、最初にサンタルス侯、その次にフェレ侯が返事をよこした。半年前、フェレ侯がここを訪れたのも、反乱意思の最終確認だったんだからな」

 

ハングの視線はエリックを捉えて動かない。

 

「そんな・・・ばかな」

 

エリウッドの驚愕の声に被せるようにエリックは喋り続ける。

 

「あの日、父上とフェレ侯は激しく言い争いをしていた。フェレ侯はエフィデルが気に入らなかったようで、エフィデルが連れてきた暗殺集団【黒い牙】とともにリキアから追い出すよう父上に求めた・・・結局、父上はそれを承知せずフェレ侯はこの城を離れた。そして・・・例の失踪騒ぎだ。もう、生きてはいないだろう」

 

エリックが顔をいやらしく歪める。

 

卑屈な笑みだった。

 

「黙れ!」

 

ヘクトルが声を荒げて、エリックに掴みかかる。

エリックは縛られているので何の抵抗もできずに襟を持ち上げられた。

それでも、その顔から笑みは消えない。

 

「エリウッドが聞きたいと言ったから僕は話したんだ」

「てめぇ!」

 

ヘクトルが拳を振り上げる。

 

「やめろ!ヘクトル!」

 

ハングの声がヘクトルの拳を止めた。ヘクトルはエリックの顔を暫し睨みつけ、舌打ちと共に突き飛ばした。再び椅子に座らされたエリックはまだ喋り続けた。

 

「父上はエフィデルの操り人形だ。あいつの言うことであればどんなことだって聞く。それがたとえ・・・実の息子を見殺しにすることでも・・・・・・」

 

エリックは笑い続ける。そこにあるのは、自分より不幸な者を見つけた喜びだった。

人は他人を蹴落とす時にこんな風に笑うのかと、ハングは胸の奥から吐き気が湧き上がってくる気持ちを覚えていた。

 

「そんな奴らのすることだ。自分たちに逆らったフェレ侯を生かしとくわけがないさ」

 

エリックの乾いた笑い声が耳をつんざくように聞こえてくる。

エリウッドは耐えられなかった。

 

「待て!エリウッド!」

 

エリウッドが部屋を飛び出して、ヘクトルも彼を追って部屋を出て行く。

だが、ハングはその背中を見送るだけでその場から動くことはしなかった。

 

「お前は・・・いかないのか?」

 

エリックの視線が一人部屋に残ったハングに向けられる。

 

「あんな田舎貴族に仕える軍師だそうだな。君の伏兵の策は見事だったがエリウッドには・・・」

「黙れ・・・」

 

ハングは突然エリックの胸に蹴りを叩き込んだ。

 

「かはっ!」

 

何の抵抗もできないエリックは椅子ごと床に倒れた。

 

「エリウッドはそこまで弱かねぇ」

 

ハングは剣を引き抜き、エリックの喉に突きつけながら、またがる。

 

「あいつは放っといても勝手に立ち直る。っつうわけで、俺は俺の用件を済ます」

 

ハングの話し方は多少威圧的であったが、その声音はいつもとさして変わらない。

だが、その瞳だけは普段とは大きく違っていた。

 

「【黒い牙】・・・」

 

仄かに揺らぐハングの瞳。

 

「ネルガルと呼ばれてる奴はいたか?」

「ね、ネルガル?それが、おまえとどうい・・・」

 

ハングは首の皮を剣先で切り裂く。

 

「余計なことは聞きたくない」

「ひっ、ひぃ~」

 

ハングの目の奥が燃えていた。

 

「言えよ、俺にエリウッドの学友を殺させるな」

「し、知らない!本当だ!ネルガルという名前は父上とエフィデルが時折漏らしていただけだ!ぼ、僕は本当に知らないんだ!」

 

恐怖に裏打ちされた証言には信頼がおける。

ハングは一つため息をついて剣を引いた。

 

「マシュー、いるんだろ?」

「ここに・・・」

「とりあえず、こいつは牢屋にぶち込んどけ」

「はっ!」

 

ハングの後ろで平身低頭を貫く密偵。

と、ここまではよかった。

 

「・・・・っていうか、俺はハングさんに仕えてるわけじゃないんですがね」

 

余計な台詞にハングの気持ちも萎えていった。

 

「いいからやれよ。せっかくの空気が台無しじゃねぇか!」

 

マシューはケタケタと笑いながらエリックを担いだ。

 

「ハングさんはそれぐらいに笑っててくださいよ。じゃないと、怖くて喋れませんからね」

 

一年前と変わらず自分の人相は悪いのだろうか。

 

ハングは頭をかいて、ため息をついた。

 

「さてと・・・」

 

マシューはいつの間にか消えており、この部屋にはハングしかいない。

 

「どうするかな」

 

ハングは少し頭を捻りながら部屋を出て行った。

首吊り用のロープだけが意味もなく揺れていた。

 

 

 

――――――― ※ ――――――― ※ ―――――――

 

 

ラウス城の前に広がる平原。先程まで激しい戦闘が行われていたその場所は雨上がりの静けさに包まれていた。そろそろ日も傾こうかという時分、まもなく世界は夜の闇に閉ざされる。

 

エリウッドは城壁の上からその平原を眺めていた。

 

『行って・・・話を聞けば戦いになるかもしれない』

 

そんなことを言っていたのが遠い昔のようだった。

エリウッドは平原の空気を胸の中に吸い込んだ。

 

死体の腐敗臭は無い。ただ、雨上がりの湿った空気が肺の中を満たしていった。

 

「エリウッド・・・」

 

ヘクトルがエリウッドの名を呼ぶ。泣きそうなのはエリウッドの方なのに、ヘクトルの声の方が少し潤んでいる。エリウッドはもう一度雨上がりの空気を大きく吸い込んだ。

 

「・・・父上は生きている・・・」

 

口からこぼれ出たのはそんな言葉だった。

 

「それに・・・反乱に荷担するとは・・・どうしても思えない」

 

厳しくも優しくもあった父。母を心から愛していて、それと同等に自分も愛してくれていた。そして、何より陽だまりの中の平和を望む人だった。

 

「何か・・・きっと何かがあったんだ・・・」

 

それは確信よりも深いところに根付く思い。証拠なんてなにも無い。それでも信じるのはなぜなのか?

 

家族愛?信頼?絆?

 

そのどれもが言葉にしてみれば違うような気がしていた。

 

これはもっと根本的ことだった。

フェレ公子として、父の息子として、一人の男としての信頼。『憧れ』と言い換えてもいいかもしれない。

 

「そうだな。わかってる」

 

ヘクトルがエリウッドの後ろで頷いた。

 

「俺も、親父さんにかぎってそれはないと思うぜ。兄上も、フェレ侯を一番信頼していた」

 

ヘクトルが歩を進める。ヘクトルが立つのは後ろでも前でもない。彼はエリウッドの隣で肩を並べた。

 

「だから・・・まずは、親父さんの生存とことの真偽を調べようぜ。兄上への報告は、その後でいいだろう」

「ヘクトル・・・すまない・・・」

 

エリウッドの顔をヘクトルは見なかった。エリウッドもまた隣を伺うことはしない。

 

「そんな声出すなよ。親父さんは、きっと生きてる」

「ああ、もちろんだ」

 

二人は沈みゆく夕日を最後まで見つめていた。

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