【完結】ファイアーエムブレム 烈火の剣~軍師と剣士~   作:からんBit

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間章~戦後の城(後編)~

ヘクトル達は城内に戻り、それぞれにあてられた部屋へと戻っていった。ヘクトルはその途中でオズインと会った。『会った』と、いうより『待ち伏せ』されていたと言ったほうがよいようだった。

 

「ヘクトル様、少しお時間を頂いてもよろしいですか?」

「なんだ、オズイン?」

 

いまだ戦闘用の鎧を脱いでいないオズイン。普段と変わらないしかめっ面だが、今日は一段と皺が深い。

 

ああやって、皺くちゃのじじぃになっていくだろうな。

 

ヘクトルはそんなことをつらつらと考えながらオズインの言葉を待った

 

「一度オスティアへ帰還いたしましょう」

 

ヘクトルは少し溜息をついた。

そして、両腕を胸の前で組む。

 

「これ以上、エリウッドさまへの・・・フェレへの助力は賛成いたしかねます」

 

先程のエリックとのやり取りを聞いていたのは自分とエリウッドとハング。

 

「マシューに聞いたのか?」

「いえ、ハング殿から直接お聞きしました」

 

あの、野郎・・・余計なことをしやがって

 

ヘクトルは胸の中で毒づく。

 

オズインにあの話を黙ってるつもりはヘクトルには無かった。だが、物事には切り出す機会というものがあり、それを逸脱するとあらぬ誤解を招くことがある。

 

今回の内容は見事にそれだった。

 

「我々は、オスティアの今後を考えるべきかと。フェレ侯に反乱の疑いありとなった以上は・・・」

 

そんなハングへの苛立ちも重なり、ヘクトルは低い声で言った。

 

「オズイン。今の言葉、取り消せ」

 

怒気を顕わにするヘクトルに対し、オズインは眉一つ動かさずになだめるように言う。

 

「ヘクトル様、お気持ちはお察ししますが・・・」

 

ヘクトルはオズインを一度睨みつけた。

本来なら戦場で敵に使うような睨み方だ。

 

「俺はエリウッドの親父さんをよく知っている」

 

さすがのオズインもその殺気を帯びた視線に口を閉じた。

 

次いで生じたのは既視感。オズインにはこんな視線を向けられた経験が今までの人生の中で一度あった。それは人生の契機であった。

 

ヘクトルは続ける。

 

「その俺が、あの人は信じるにたる人物だと言っている。おまえも、俺に仕えるのなら誠を示すべきじゃないのか?」

 

オズインは黙る。それと同時にオズインは自分の手のひらに汗がにじむのを感じていた。目の前のヘクトルから感じる圧力。

 

ハングの雷とはまた違う種類の圧。彼のあれは頭上から物理的な圧力をかけられているような支配力だ。

それとは別種の威圧感。オズインは巨大な城壁を目の前にしたような、覆いかぶさるような力を感じていた。

 

「・・・なんてな」

 

その幻覚はヘクトルの肩をすくめる仕草で霧散していった。

 

「おまえは兄上の臣下だ。いくらお守りを任されたからってそこまでしなくてもいい。オスティアに戻れよオズイン。これまで、助かった・・・・・・礼を言う」

 

頭を下げるヘクトル。

 

オズインは自分が三度目の人生の契機に立っていることを自覚した。

 

目の前にいるお方はやはり・・・

 

オズインは片膝をつき、頭を垂れる。

 

「フェレ侯爵に対する非礼の言・・・心からお詫びします」

「オズイン!わかった!もういい!!だから、俺の前にひざまずいたりすんな!!」

 

ヘクトルの慌てふためく声がオズインの頭上から聞こえる。こういうところはまだまだだと思う。

 

オズインは自分の槍を両手で横に持ち、頭上にまで持ち上げた。

 

「ここで騎士の誓いをさせてください」

「騎士の誓い・・・だと?」

 

それは騎士が忠誠を誓う儀式。ただの口約束とは格式がまるで異なる。その重みは騎士の命運すら左右する。

 

「どうかこの槍をお受けとりください。そして、祝福ののち私にお返しを」

「オズイン、おまえ・・・」

 

ここはただの廊下。だが、今だけはこの場所はどんな玉座の間よりも厳かな場所である。

 

「私は、オスティアに仕える騎士。これまで槍を捧げた方はウーゼル様お一人でした」

 

ヘクトルはオズインの一言一言に耳を傾けていた。

 

「しかし・・・今、心からあなたにもお仕えしたいと思います。どうか、私にその栄誉を」

 

ヘクトルはその言葉に感動を受け、そして不安に襲われる。

 

自分に兄程の価値があるのか?

 

それは、ヘクトルの内側に常にくすぶっている疑問だった。

 

「オズイン・・・」

 

地位を追うように器が大きくなることはまれ。だが、背負う物の重さが人を成長させるのもまた事実であった。

 

ヘクトルは一度深呼吸をする。

 

ヘクトルは差し出された槍に手を伸ばした。その穂先をオズインの両肩に順にあてていく。

 

ガラではない。そんなことはヘクトル自身が一番理解していた。

それでもやらなければならないことはある。

 

それが、オスティア侯弟としての責務だった。

 

「オズイン、リキアの祖ローランの名の下に汝を我が騎士とする」

「はっ!」

 

人は何かを背負ってこそ、強くなれる。

 

 

――――――― ※ ――――――― ※ ―――――――

 

 

「ハングさん、こっちの書類をお願いします」

「はいはい。そういや、例の訴訟はどうなってる?」

「今、手配してます」

 

ラウスの地下牢には予想しているより多く人間がいた。リキア転覆に反対した穏健派である。

ハングは地下牢の記録とエリックから『丁寧』に聞き出した情報を照らし合わせ、何人かをラウスの政務や軍務に当たらせていた。さすがに地下牢から出てすぐなので、各々が情報の整理をする時間がいりハングの出番はあまり無かった。

 

ハングは適当なところで、切り上げることにした。

 

「んじゃ、手が足りなくなったら呼んでくれ。しばらくは手伝えるから」

 

いくつかの方向から礼を受けながらハングは執務室をあとにした。

 

「あ、ハングさん」

「ハング殿!」

 

廊下をさほど歩くでもなく、ロウエンとレベッカに遭遇した。

 

「よう。二人は逢引きか?」

「あ、ああ逢引き!?」

「ち、ちが、違いますよ!」

 

二人揃って顔色を変える様は見ていて面白い。

 

なるほど、動揺すると周囲からはこういうふうに見えるのか

 

ハングはどうにかして自分がからかわれる回数を減らせないかと考えた。

 

「んじゃ、何してたんだ?」

「皆さんの食糧について、少し話をしてたんです。次にお城で一息つけるのなんていつになるかわからないですから」

 

レベッカはまだ少し頬を赤らめながらそう言った。

 

「最近、二人の糧食係が板についてきたな」

 

行軍中も食糧の節約の為にレベッカが鹿などを狩り、ロウエンが調理するという状況が度々あった。

 

「ロウエン様は料理が御上手ですもんね」

「いえいえ、レベッカさんの弓の腕も素晴らしいです」

 

アホくさ・・・

 

お互いを褒め合う二人ははたから見たら、『ご馳走様』としか言いようが無かった。

いや、食べ物を取り扱う二人ならこれでいいのかもしれない。

 

「まったく、フェレ領がどっかに吸収されたら二人で店でも開いたらどうだ?」

 

ハングは半ば嫌味のように言った。だが、それは予想外の反応を呼んだ。

レベッカの目が突如として真剣味を帯びた。

 

「フェレ侯爵様の反乱というのは・・・ハングさんは・・・信じているんですか?」

 

レベッカに睨まれ、隣のロウエンの雰囲気が途端に鋭くなる。

そんな二人を前にハングは取り繕うことはしなかった。

 

「ありえない、とは言い切れない」

「ハング殿、失礼ながら一発程殴らせてもらってもよろしいですか」

「よろしかねぇよ」

 

ハングは苦笑し、手を軽く払う仕草をした。落ち着け、という意味合いだった。

 

「ありえない、とは言えんけど。俺はありえないと思ってる」

 

判断を偏らせると、その逆をつかれたときに動揺する。それでは軍師は失格だ。

 

「だから、そう殺気立つな。俺はエルバート様を少し知ってる。そんなことする人じゃないくらいわかってるさ」

 

そこまで、言ってようやくロウエンは拳を解いてくれた。

 

「・・・失礼しました」

「全く、まだまだだなロウエン。マーカス将軍は眉一つ動かさなかったぞ」

「う、うう・・・」

「そして、注意を受けて唸り声をあげるようじゃ騎士とは言えん」

 

ハングは歩き出しながら笑った。後ろから二人もついてくる。

 

「ハング殿・・・このことはマーカス将軍には・・・」

「当然、伝える」

 

ハングがまた笑うとレベッカが非難の視線を送ってきた。

 

「俺から言っとかないと俺のほうに説教がくるからな。諦めてガミガミ言われとけ」

 

そこに、不貞腐れ気味のレベッカが言葉を挟んだ。

 

「マーカス様は厳しすぎます」

 

レベッカはそう言うが、上官なんてだいたいどこもあんなもんである。

 

「とんでもない!俺が未熟なだけですよ」

「だな、槍の素振り千回で満足してるようじゃあな」

「うぐ・・・聞いていらっしゃったので?」

「おう、ばっちり」

 

前回の説教の原因はロウエンの毎日の素振りの回数である。マーカスに言われた回数は千回。それを指示通りやっていたらロウエンは説教をくらった。

 

『半人前は人の倍動かぬかっ!最低限の訓練しかせずに強くなれるつもりか!』

 

と、言われていた。

 

理不尽に聞こえるかもしれないが、騎士としてはマーカスの言っていることが正しい。

 

騎士は単なる兵隊ではない。時に自分の判断で動き、処罰を受けて部下を救った騎士の話など枚挙すればキリが無い。騎士に求められるのは指示を受けるだけの一兵卒ではなく、臨機応変な対応ができる、将としての器だ。

 

「マーカスさんの説教は常に合理的だ。あの人についてる限りロウエンはいい騎士になれるさ」

 

レベッカは不思議そうだったが、ロウエンは清々しい笑顔だった。

 

「はい、自分もそう思います」

「で、今日の素振りの回数は」

「一万回です」

 

ハングは上等という意味をこめて笑ったのだった。

 

その後二人と別れ、ハングは暗くなった城内を歩いていく。

 

ハングはフェレ侯爵に反乱の疑いがあることはとりあえず全員に伝えていた。

騎士達は主君に従うものだから心配はしていなかったが、マシューやセーラも腹をくくったのには少し驚いた。

 

あんな二人でも、忠誠という言葉は知っているらしい。

 

まぁ、ヘクトルの人望だろう。

 

ハングは心の中だけてヘクトルを褒める。決して口には出すことはしないが。

 

他の連中だが、ギィに関してはマシューがいる以上自由は無い。また、本人もこの旅の目的などあまり気にしないと言っていた。戦えることこそ傭兵の意義だと言わんばかりである。

バアトルも似たような意見であった。

 

ドルカスは金さえもらえればよいとのこと。

それだけ言うと守銭奴だな、とハングは笑った。

 

マリナスも同じことを言っていたが、こちらは建前だろう。彼は将軍と共に戦場を支える立場に憧れがあるらしく、付き従うことになんの葛藤もなさそうだった。

 

エルクとプリシラは少し困った顔をしていた。旅の目的が国家を転覆を企む反乱者の捜索となれば尻込みするのは当然である。だが、エルクはハングのことを信頼すると言っていた。

 

『マズイ状況になったら、さっさと逃げ出します。ですからその状況になったら教えてください』

 

そう言ったエルクにプリシラは面食らっていた。助けてくれた恩人を見捨てると言っているのだからその反応は間違いではないが愛憎渦巻くエトルリアの貴族にあるまじき素直さだ。そんな彼女を前にハングはあえて自分の中の推論を話した。普段なら聞かれない限り答えないようなところまで話し、ハングはプリシラを納得させた。

 

結局、離脱者は無し。

 

悪いことではないが、ハングには少しばかり懸念は残る。

ハングは少し頭の中を整理したくて、城壁の上へと登った。

 

今日は満月。松明などなくても月明かりで夜の世界はよく見えていた。

ハングは石の床に横たわり、夜空を見上げた。

 

【黒い牙】

 

この城に奴らがいたという痕跡は一切残されていなかった。エリックの話が無ければ、この城にそんな奴らが滞在していたことにすら気づかなかっただろう。ハングは腕を伸ばして、月を隠してみた。

 

尻尾を掴んだと思ったのだ。

 

この一年、【黒い牙】の影を追ってリキアの中を歩き回った。それでも、奴らの姿など欠片も見つからなかった。そして、もう本拠地のベルンにいくしかないかと思った矢先のエルバート様の失踪騒ぎ。

 

何かある。

 

そんな漠然とした思いに引っ張られてハングはフェレを訪れた。

 

エリウッドの軍に参加し、得られたサンタルス侯爵の最期の言葉。

そのおかげでこの事件に【黒い牙】が関わっている確信が持てた。

 

だが、このラウスまで来ても奴らの全貌はまるで見えてこない。

ハングは腕をおろして、出そうになったため息を押しとどめる。

 

ネルガル・・・全てを奪ったあの男・・・

 

奴は【黒い牙】に深く関わっている。

 

ハングは鱗に包まれた左腕を強く握りしめた。

だが、すぐに先程殺したため息を吐き出して体の力を抜いたのだった。

 

ハングは自分の中の感情をひとまず心の片隅に押し込める。

今は目先の問題の方が重要だ。それは現状での【黒い牙】の動きが読めないことだ。

 

次に奴らがどう動くか?

 

ラウスの兵が加わり、彼らの目的がリキアの玉座なら選択肢は限られる。

 

だが、もし前提が崩れればどうなるか?

 

ハングはもう一度ため息をついた。

そこから先は考えるだけ無駄だ。本当にわからない。

 

だが『わからない』ではまずい。

 

ハングは軍師であり、次の進軍先を決めるために意見を出さなければならない立場にある。

 

ハングは深い思考の渦の中に沈み込む。リキアの地形、富、各地の兵力、自軍の位置、敵の目的、想定される糧食の量。ハングは様々な情報からこれから先に起こりうる状況を想定していく。

 

月が天頂に達する頃、ハングは起き上がり、自室へと戻っていったのだった。

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