【完結】ファイアーエムブレム 烈火の剣~軍師と剣士~   作:からんBit

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15章~舞い降りる鉤爪(前編)~

ラウス城を占拠して四日目の朝。

 

それはギィの絶叫で始まった。

 

既に目を覚まして、紅茶を片手に書類に目を通していたハングは少しだけ顔をあげて、すぐに視線を落とした。

 

だが、すぐに廊下の外からドタバタと足音がして、三回程ノックがなされ、ハングはため息をはいた。ハングは書類を机の上に置いて声をかける。

 

「開いてるから入っていいぞ。マシュー」

「おはようございます!」

 

マシューは笑いながらハングの部屋に滑り込み、耳をすませた。

 

「マシュー!くっそおぉ!今の無しだぁ!勝負しろおおぉ!」

 

廊下から響いてくるのはギィの声。その声は部屋の前を通り過ぎ、城のどこかへと消えてった。

 

「例の証書を賭けた勝負か?」

「さすが、話が早い」

 

ギィとマシューの一方的な確執はハングも聞いていた。

 

「大方、明け方に一撃食らわせたんだろ?」

「不意打ちは戦術の基本です」

 

ハングはマシューを一瞥して再び書類を眺める。

 

「ギィで遊ぶのもいい加減にしとけよ」

「軍の雰囲気が悪くなるからですか?」

「いや、俺が遊ぶ余地がなくなるからだ」

 

マシューは喉の奥でクツクツと笑い、部屋から出て行った。

そして、すぐさま別の来訪者が現れた。

 

「ハング!マシューが来なかったか!?」

「知らん」

「そうか!くっそぉ!どこ行ったぁぁ!勝負しろおおおぉ!」

 

叫びながら去って行くギィにあとで説教するかどうかハングは真剣に考えたのだった。

 

そんなことで始まった一日が温厚に過ごせるわけもない。

 

ハングが朝食をとりに城の食堂に行ったところ、なんだかまたひと騒ぎ起きていた。

 

「ここにいたか、ドルカスよ」

「・・・お前か」

「よし、なら勝負だ!」

 

バアトルとドルカスだ。朝から元気なのはどうやらギィだけではなかったらしい。

 

「バアトルさん。せめて外でやってくださいね」

「む、軍師殿か」

 

ハングはパンとチーズを持って、ドルカスの隣に座った。

 

「だがな、軍師殿。このドルカスはここから動こうとせんのだ。ならばここで戦うしかあるまい」

「・・・単純に朝飯食ってるからじゃないんですか?」

「朝飯など勝負の後でよい!ドルカス、勝負だ!」

 

いっそ、昏倒させた方がゆっくり朝食をとれそうな気もしてきた。

 

「貴様とは57勝58敗だったな!今日こそは負けんぞ!さぁ、勝負だ」

 

がなるバアトルに一瞥もくれずにドルカスはハングに視線を移した。

なかなか、慣れているようだ。

 

「ハング、出発は近いのか?」

「ラウス侯爵の行く先がわかりません。情報を集まるまでは待機ですね」

 

後ろでまだ喚いていたバアトルを無視してハングもそう答えた。

ドルカスが行軍の予定を聞いてくるのは珍しい。だが、ハングには少し思い当たる理由があった。

 

「ナタリーさんに手紙を出す余裕ぐらいはありますよ」

「・・・悪いな」

 

ドルカスは少し苦笑したようだった。わずかな変化だったが、ハングにはドルカスが楽しそうにしているのがわかった。ドルカスの愛妻ぶりは一年たった今でも衰えを見せることはないようだ。

 

そんなドルカスはハングに向けてぼそりと言った。

 

「・・・お前といると、飽きん」

 

ハングはチーズをパンに乗せてかぶりつく。

 

「見目麗しい女性から言われたら俺もうれしいんですけどね」

 

そう言うと、ドルカスは驚いたように目を見開いた。

 

「あれ、俺なんか変なこと言いました?」

「いや・・・」

 

ドルカスは最後のパンを口の中に放り込み、立ち上がった。

 

「お前はリン一筋だと思っていたんだが、そうでもないのか?」

「っ!!」

 

ハングの顔が一気に真っ赤になった。その顔を見てドルカスは肩を揺らして笑った。

 

「おう、ドルカス!ようやく勝負する気になったか」

「・・・一戦だけだぞ」

 

わが軍の斧使い二人が食堂を出ていき、代わりに貴族の二人が姿を見せた。

 

「おはよう、ハング」

「おっす!どうした?顔が真っ赤だぞ」

 

ハングは一度深呼吸して、朝食にとりかかったのだった。

 

 

 

――――――― ※ ――――――― ※ ―――――――

 

 

朝食を終えたハング達は、ラウス城の玉座の間へと移動した。

これから軍議の予定である。マーカスやオズイン、マシューと軍の核を担う人が集まることになっていた。だが、ハング達が到着した時にはマシューしかいなかった。

 

ハングはこの広間で嫌でも目に付く絢爛豪華な玉座を見て顔をしかめた

 

「ふん、羊毛をふんだんにつかってやがる。全くどこまでも悪趣味だな」

 

ハングは主のいなくなった玉座に座ってみた。

 

「やけにすわり心地のいい玉座だな」

「ハングさん、前もそんなこと言ってましたよね。玉座は座りにくいぐらいがちょうどいいとかなんとか・・・」

 

マシューにそう言われ、ハングは首をひねる。確かにハングはそういう考え方を持っており、一年前のアラフェン領でも似たような感想を抱いた。

 

「あれ、俺口に出して言ってたか?」

「ええ、ぼそりと一言」

「盗み聞きとは趣味が悪いな」

 

そんな話をしていたところで、エリウッドから声がかかった。

 

「どういうことだい?玉座が座りにくい方がいいって?」

 

ハングは玉座に寝そべってみた。随分と行儀が悪いがそれを気にする者はいない。

 

「俺の持論だがな。玉座は角ばって、冷たくて、窮屈なぐらいでちょうどいい」

 

ハングのその持論にヘクトルも少し興味をそそられていた。

 

「どういうことだ?俺には話がさっぱり見えねぇぞ。玉座ってのは国の威信だ、それがそんな質素な方がいいってのは・・・」

 

ハングは首だけをヘクトルに向けて笑う。

 

「だから俺の持論だって、普通はそっちが正しい」

「俺はその持論の理屈を聞いてんだよ」

「僕も知りたいな」

「俺もっす」

 

マシューは関係なかろう。

 

ハングは口元だけで笑って、玉座に座りなおす。

 

国の権力を一身に集める椅子に座るハング。エリウッド達は『似合わないな』と感想を持ったが口には出さなかった。

 

「まぁ、なんていうかな・・・そんな大それた話でもないんだが」

 

ハングは玉座の座り心地を確かめるように、軽く体を動かした。

 

「単純に玉座の椅子は長いこと同じ人物が座ってないほうがいいからな。歳を取って座りにくい椅子が苦痛になってくるようなら、後世にさっさと変わってやれってな」

 

なるほど・・・

 

エリウッドとヘクトルはそんな考え方もあるのかと少し感心した。

 

「ハングさんって普段どんなこと考えて暮らしてるんですか?」

「お前とたいして変わらないっての」

「え!?ハングさんって変態だったんですか?」

「お前はいったい何考えて生活してんだ!!」

 

マシューの冗談に付き合ってると、廊下の方から声が聞こえてきた。

 

「はぁ、はぁ、マシュー!どこだぁぁぁあ!隠れてないで、はぁ、でてこぉおい!」

 

ギィの声だ。朝からずっとこの調子だ。

 

「あいつも、諦めが悪いですね」

「マシュー・・・いい加減黙らせろよ」

 

呆れ気味の二人だが、エリウッドとヘクトルは詳しい話を聞いていない。

 

「マシューは何をしたんだい?」

「そういや、朝からなんか絶叫が聞こえてきてたが。あれもマシューのせいか?」

 

質問されたのだから答えなければならない。

 

「マシューとギィの一方的な喧嘩の売り買いは知ってるか?」

 

二人は曖昧に頷く。

 

「んで、その勝負ということでマシューが明け方にギィの寝込みを襲った」

「あれ?ハングさん、それって意味合いが変わりませんか?」

「日頃から何考えてるのかわからないからないのが、俺らしいからな」

 

笑うマシューとハングにエリウッドは躊躇いがちに口を開いた。

 

「それは・・・」

「卑怯だとでも言う気じゃないだろうな、エリウッド」

「う・・・」

 

ハングは一つため息をついた。

 

「あのな、エリウッド。昔の名剣士の逸話なんだがな・・・」

 

ハングは玉座に座り直した。

 

「ある時、彼は他の剣士から挑戦を受けた」

 

ハングの昔語りは妙に抑揚があり、やけに上手かった。

 

「相手は勝負の日時と場所を告げ、彼は承知した。そして、相手がその場を去ろうと背を向けた瞬間、そいつを斬った」

「えっ!?」

「なっ!そ、それはいくらなんでも卑怯じゃねぇか!?」

 

エリウッドに加えてヘクトルまでそう言い出した。

 

「敵とわかってる奴に背を向けた野郎にかけてやる情は俺は無いけどな」

 

ハングのその言葉に二人は黙ってしまう。マシューは少し笑っていた。

 

「戦場で卑怯もへったくれもあるもんか、勝った奴が全てだ。そういうことはな、騎士の決闘の場で言いな」

 

ハングの声も表情も終始柔和だ。いつものような物理的な力を感じるほどの圧力もない。だが、エリウッドとヘクトルは押し黙ってしまう。

 

「ま、そんな深く考えるなよ。上に立つものはそれぐらい潔癖でいい。泥は裏方が被ってやるよ」

 

「なぁ?」とハングはマシューに話を振る。

「ですね」と返してきたマシュー。

2人を前に貴族二人は苦い顔だ。

 

そんな時にマーカスとオズインが部屋に入ってきた。

 

「さて、始めるか」

 

ハングは勢いをつけて玉座から立ち上がった。

 

適当な机を引っ張り出してきて、オズインがリキアの地図を広げた。

 

「ラウス侯爵が姿をくらまして、もう四日になる」

 

エリウッドはそう言って、机上の地図を睨んだ。

 

「サンタルス侯の死、ラウスの落城・・・全て、ウーゼル様の耳にも届いてられるだろう。動かれる様子が無いのはなぜなんだ」

 

返事をしたのはハングだ。

 

「今、オスティアは動くわけにはいかない事情があるからな」

「それは?」

「ベルンだ」

 

ハングはヘクトルに目で続きを話すように促した。ヘクトルはハングの意図を察し、今のオスティアの現状について説明する。

 

「実はな、ここ数か月ベルン王国が嫌な動きを見せている。現国王デズモンドはリキア同盟が少しでも隙を見せたら最後これを好機と、すぐにでも攻め込んでくるだろう」

 

ハングもその内部情報は知っていた。正確には少し昔の内部情報であるが国の態勢というのはそう簡単には変わらない。ハングは説明の残りを引き取った。

 

「と、言うわけでオスティア侯爵としては現在の内部のいざこざは絶対に漏らしたくはないってことだ」

「表向きだけでも平穏無事を装う必要があると」

「理解が速くて助かるよ」

 

エリウッドの苦笑と共にヘクトルが補足をする。

 

「今、オスティアには各国の密偵がわんさか来てる。新オスティア侯爵の動向からその手腕をはかろうってな。少しでも変な動きをしようものなら、即お国に報告というわけだ」

「ん?」

 

ハングは疑問の視線をヘクトルに送った。それをエリウッドが代弁する。

 

「侯爵の弟が、この時期に傍にいないのは『変な動き』に入らないのか?」

「侯弟はかわりものだと有名だからな。こういう時こそ日頃の行いが役にたつんだぜ」

 

ヘクトルは笑いながらそう言った。

その言い草にハングも喉の奥で笑う。

 

「それは自慢するところじゃないだろうが」

「ちがいねぇ」

 

少し話が逸れた。オズインの咳払いで一同は再び気を引き締めて軍議に戻った。

 

「そういう事情があるので、こちらも大っぴらに動くわけにはいかない。自由に使える斥候の数は多くありません」

 

オズインはそう言い、マシューも頷く。

 

「情報収集の範囲が狭い以上、動きを掴むのは難しいわけですが、どうにかして方向ぐらいは絞れないですかね?」

 

渋い顔をしているのは皆同じ。マーカスの一際険しい顔がハングに向けられた。

 

「だが、現状でのラウス侯爵についてわかってることと言えば目的がリキアの征服ということだけ。軍師殿はどうお考えか?」

 

『軍師殿』

 

マーカスの堅苦しい表現に苦笑したかったが、ハングは口元を引き締めた。

 

「自分がもし、リキア征服を狙うなら行く先は・・・」

 

ハングは顎に手をあてて少し考える。様々な要因を合算した結果、ハングは一つの結論に達していた。

 

「サンタルスです」

 

エリウッドの目元が少し険しくなった。それと同時にマーカスの質問が飛ぶ。

 

「根拠は?」

「現在、サンタルスの戦力は相当削れてます。そして、エフィデルとかいう奴がサンタルスにいた可能性も高く、地形を熟知している」

 

ハングはサンタルスの城の上に目印となるように短刀を突き刺した。これはラウスの備品なのでおかまいなしだ。

 

「そして、サンタルスを落とせれば次に狙うのは弱体化しているフェレ領。つまり、今ここにいる俺達への牽制としては十分だ」

 

敵がリキアの王となることが目的ならば、この道しかない。エリウッドの動揺が空気を介して伝わってきた。表情を動かさないようにしている努力は見られたが、まだまだである。

 

ハングの話は続く。

 

「そこから、戦力を整え、キアラン、カートレーを落とせば戦力はオスティア、アラフェンと並ぶ。三つ巴に持ち込めば野望が現実味を帯びる」

 

マーカスのうなり声が聞こえてきそうだ。

 

「現状、仮にラウスがこのように駒を進めてサンタルスとフェレは落ちるのか?」

「少なくとも、もし俺がラウスにいたら落とせる。これは間違いなく言い切れる」

 

ヘクトルがハングの返事に困惑したように顔をしかめた。

 

「ラウス侯の部下にお前ほどの奴がいるとは思えねぇけどな」

「褒め言葉として受け取っておくとして・・・今、ラウス候の傍にいるのは直属の部下だけじゃない」

「【黒い牙】・・・エフィデル・・・」

 

エリウッドが呟くようにそう言った。

 

「問題はそこだ・・・正直に言うと奴らの目的が俺にはわからない。エリックの話だと、奴らが反乱を扇動したみたいだが・・・そこに何の意味がある?」

 

その意見に同意したのは意外にもマーカスだった。

 

「単にリキア征服のおこぼれを啜りたいならラウスよりもアラフェンに話を持ちかけた方が早いですからね」

「そういうことだ」

 

ハングからしてみれば、野心しかない愚鈍に話を持ちかける意味がわからない。

なんというか大規模な戦いを起こしたいだけのようにも見える。

 

「相手の真意が読めない以上、奴らがどう動くのか正直さっぱりわからない」

「だが、それでも何もしないのは癪だぜ。下手したらフェレがあぶねぇかもしれねぇのに」

 

懸念はそこである。

 

フェレ候公子に率いられたこの軍。フェレが危機に陥れば、取るべき行動は1つしかない。

 

「だが、サンタルスが攻撃を受ければ嫌でもわかります。そのためにも情報を発信しやすいラウスには留まっておきたいものですが・・・」

 

オズインが言ってるのはオスティアへの救援要請の話だろう。確かにサンタルスが落ちた後でもオスティアの兵力ならフェレの救援には間に合うだろう。

 

「その案はありだとは思う。で、エリウッドはサンタルスを見捨てることを許容できるか?」

 

エリウッドは困ったように笑った

 

「無理だ」

「だろうな」

 

ハングはこう言われることを予想していた。

 

「と、なるとだ・・・」

 

ハングはマシューを見る。

 

「サンタルス付近にラウス候の目撃情報があれば、俺たちは救援に向かう。情報収集は任せていいか?」

「もちろん。他に要件は?」

 

マシューが周囲を見渡す。だが、他の意見は現れなかった。

ハングがさらに続ける。

 

「ラウス侯爵がここから距離的に向かえる領地はキアランとオスティア。オスティアはいいとして、キアランにも多少は斥候を送れ」

「采配はどうします?」

「マーカスさん、斥候部隊の編制と方角を任せていいですか?」

「ご命令とあらば」

「オズインさんはしばし、この城の軍部を任せます。守備と治安維持に全力を注いでください」

「わかりました」

「エリウッドとヘクトルは内政の方を手伝ってもらう。どうせ暇だろ?」

「・・・ああ」

「他に言い方ねぇのかよ」

 

ハングは笑う。気持ちのよい笑顔だった。

 

「さて、解散すると・・・」

 

その時、城内に大きな声が響き渡った。

 

「敵襲です!!敵襲!!」

 

ハングの顔から笑みが消える。

 

「今日は本当に荒々しい一日だな」

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