【完結】ファイアーエムブレム 烈火の剣~軍師と剣士~   作:からんBit

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15章~舞い降りる鉤爪(後編)~

遡ること少し前。平穏な城内を堂々と練り歩いていたのはセーラだった。

彼女は廊下を歩き、見知った顔に出会った。

 

「あら、エルクじゃない」

「・・・・」

 

嫌な奴に捕まった。

 

エルクの顔に苦々しさが浮かぶ。エルクはほぼ反射的に雷魔法を放ちたくなった。

だが、ここは城内。戦闘でもないのに、いきなり雷を落とすわけにもいかない。

 

「ふっふ~ん。エルク、あんたは私より後にこの軍に入ったんだからわかってるわよね?」

「・・・なんだい?」

 

無視すればよいものを生真面目に答えるエルク。こういうところが苦労の種なのだ。

 

「もちろん!私には絶対服従ということよ」

 

既にこめかみが少し痛み出したエルク。

 

「・・・相変わらず無茶苦茶な論法だね」

 

一年前からなんら成長していない。だが、それに律儀に答えているエルクも成長してないとも言えるかもしれない。

 

「大体、その話はハングさんが承諾してるのかい?」

「ええ、したわ」

 

エルクの思考が止まった。ついでに表情も固まった。

 

「私はちゃーーーんと、ハングに許可貰ってるんだから。わかってるでしょうね?」

 

エルクは恐慌状態に陥った。

 

そんな・・・バカな・・・ハングさんに限ってそんなことを言うわけが・・・

 

だが!だが、しかし!

 

ハングさんはあれで結構人をからかうのが好きな人だ。ありうる・・・のか?

 

いやいやいや!それは無いはずだ!

 

エルクは震える声でセーラに尋ねる。

 

「ち、ちなみにハングさんにはなんて言われたんだい?」

 

それはエルクにとって最後の頼みの綱だった。

 

「えーと『しばらく、戦闘ではエルクの近くにいろ』って。これって、私があんたの上司になったってことでしょ?」

 

あ、そっちか・・・

 

エルクはため息をついた。

だが、1度引いた頭痛がぶり返してきたのを感じた。同じことはエルクも言われた。

そして、ついでに『雷魔法を撃ちまくれ』とも言われた。

 

ようするに、自分がセーラの抑制係を任されたのだ。

 

「・・・君と話してると頭痛がひどくなる一方だ」

「ちょっと!なによそれ、失礼しちゃうわね!こんなかわいいシスターをつかまえて」

 

エルクは話の途中で切り上げてセーラに背を向けて歩きだした。

 

「あ!ちょっと待ちなさいよ!エルクってば!」

 

エルクは追いかけられる前に角を曲がってセーラをまきにかかる。

 

「あ、エルク・・・」

「プリシラ様・・・」

 

そこで現在の雇い主に出会い、エルクは大きく息を吐いた。

 

「エルク?どうしました?」

「いいえ、それよりもプリシラ様」

 

エルクは少しだけ自分の信じる神に感謝を捧げながら言った。

 

「プリシラ様は今のままでいてください」

 

突然、そんなことを言ったエルクにプリシラは曖昧に頷いた。

 

「は、はい・・・?」

「いいんです。プリシラ様はこのままで」

「エルク?大丈夫ですか?」

 

エルクは今プリシラという明確な雇い主がいたことを本当に嬉しく思ったのだった。

 

その時、遠くで金属がぶつかり合う音がした。

 

「プリシラさん!エルクさん!」

「レベッカさん?」

 

その直後に廊下を飛ぶように駆け抜けてきたのはレベッカだ。

 

「敵襲ですハングさん達が玉座の間にいます!集まってください!」

 

それだけを言ってレベッカは廊下を駆け抜け、更に加速していく。

 

「行きましょうプリシラ様。僕がお守りします」

「はい・・・」

 

エルクはプリシラを先導するように走りだした。

 

 

――――――― ※ ――――――― ※ ―――――――

 

 

「ハングさん!皆さんを連れてきました」

「どうも」

 

レベッカに声をかけられて、仲間が続々と玉座の間に集合していた。

 

「マシュー!やっと見つけたぞ!勝負しろおぉ!」

「ドルカス!あれは納得いかん、もう一度勝負だ」

「やかましいわ!」

 

ハングはギィをぶん殴り、バアトルを投げ飛ばして黙らせる。

 

「ったく!状況は?」

 

城の中にいる文官は地下牢に逃げ込むように言ってある。ラウス領の兵は要所要所の守りを固めるように指示を出しているのでここにいるのは仲間だけだ。

 

「敵の装備は正規兵ではないようです。おそらく、ラウス侯に雇われた傭兵かと」

 

そう言ったロウエンは少し敵と応戦したのか、鎧の所々に返り血がついていた。

 

「敵軍の動きは極めて迅速・・・城の警備を混乱させながら既に城内への侵入を許しています」

 

急造の指揮系統では限界がある。だが、それを踏まえてもただの傭兵にしてはえらく手際がいい。

 

「ラウスにここまで部隊があるとはな・・・」

 

やはり、腐っても一領地を任されてきただけはある。

 

「そういえば以前、父から聞いたことがある」

「ん?」

 

エリウッドの言葉に全員が耳を傾けた。

 

「ラウス侯に忠誠を誓う傭兵騎士団があると・・・隊長は【荒鷲】と異名をとるユバンズという男。素早い奇襲と一撃離脱に長けた精強な傭兵部隊だと」

 

聞くからに手強そうだ。今の状況でラウス兵に頼るのは無理だ。つまり、戦える人間はこれだけということ。

 

「敵の狙いはおそらく玉座だろうな」

 

ヘクトルの意見に横からハングがぼやく。

 

「こんな椅子に価値が出る世の中ってどうなんだろうな?」

「ハング殿、倫理の講義はまたにしてもらいたい」

「ですね・・・」

 

マーカスからそう言われ、ハングは指示を飛ばしだした。

 

「敵が玉座に集まってくんなら話は早い。迎撃戦だ、ぬかるなよ!」

 

方々からの返事を受けてハングは細かい指示を出していった。

 

 

 

――――――― ※ ――――――― ※ ―――――――

 

 

 

ラウス城に入り込んだ傭兵部隊。その隊長であるユバンズは既に敵の情報を得ていた。

 

ラウスの精鋭騎馬部隊を破った奴ら。生半可な相手ではないことは予想できていた。その為、ユバンズは兵を固めて一気に突入し、各個撃破を防ぐ方策を取った。

 

だが、城内に攻め入った後、状況は決して芳しくはなかった。

城の守りを任されているラウス兵達とは明らかに毛色が違う。

 

攻撃の部隊長を任されたシレンは攻めあぐねるこの現状に対し、眉間に皺を寄せていた。

 

「シレン」

「・・・ヒースか」

 

名前を呼ばれ、シレンは後ろを振り返る。そこにいたのはドラゴンに跨り、槍を手にした青年だった。体格は中肉中背、髪の一部が白髪になっているのが特徴的な男だった。

ヒースと呼ばれた男は空飛ぶ蜥蜴に乗る竜騎士だ。太古に暴れた伝説の『竜』にあやかって名付けられた竜騎士はベルンの軍事力の核であった。

 

「ユバンズ隊長の指示通り、退路は確保した。万が一攻めあぐねるようなら・・・」

「わかっている」

 

シレンはヒースの台詞を途中で遮った。

 

「お前に言われるまでもない。奇襲の利を失った時点で兵は退く」

 

ヒースは遮られたことに不快感を示すことなく、再び口を開いた。

 

「敵にはオスティアの重騎士もいるようだ。シレン、くれぐれも気をつけろよ」

 

ヒースはそう言い残してドラゴンを操り、後方へと飛んで行った。その後姿を見ながらシレンは呟く。

 

「赤の他人の身を案じる甘さ・・・ヒース、お前は傭兵には向かない」

 

シレンは広めに作られたラウス城内を駆け抜けていった。

 

その頃、玉座の間では・・・

 

「ん?」

「どうしたんだい、ハング?」

「あ、いや・・・」

 

エリウッドに適当な返事を返しながら、ハングは目を凝らす。

大きく扉を開け、城の正面入口まで一気に見通しがよくなった城内を見ながらハングは少し顔をしかめた。

 

「いや・・・気のせいだろう・・・」

「どうしたんだよ?気になるじゃねぇか?」

 

斧を構えるヘクトルにハングは苦笑いをしただけで何も答えなかった。

もう一度聞けばハングは答えるかもしれないが、ヘクトルはあえて聞かなかった。

 

「集中しろよ!ハング!」

「言われなくてもやってやるよ」

 

ハングは一度深呼吸をして視野を広げる。人の配置と壁や柱の位置、馬蹄の音が壁の向こうから聞こえる。そして、この戦場から遠ざかって行く、一対の羽の音。

 

集中しなければならないのに、やはりその音をハングの耳は捉えてしまう。

 

ありえない・・・

 

ハングは心の中だけで言い聞かせる。ハングは目の前の戦場を脳裏に焼き付けて、余計な考えを追い払った。聞き覚えのある音は次第に消えて行き、戦いの音がその耳を満たしていく。

 

失った場所を回想する必要はない。今の自分には居場所があるのだから。

 

ハングは敵の動きを読み切り、指示を飛ばしていった。

 

 

――――――― ※ ――――――― ※ ―――――――

 

 

敵の攻撃を三波まで防いだ段階で、傭兵部隊は撤退を開始していた。その引き際は素晴らしく、「波が引く」というよりも「霧が晴れる」ような感覚だった。後方から見ていたハングですら、奴らがいつ頃から撤退を開始していたのかわからなかった。戦っていたエリウッド達には突然人がいなくなったように感じただろう。

 

「ハング殿、敵はもう大半が城から撤退しております。おそらく、最初から退路を確保していたものかと」

 

敵ながら見事な引き際だ。ハングは報告してきたオズインに指示を渡した。

 

「追撃はさせるなよ、その程度で削れる相手じゃなさそうだ」

「はっ!」

 

オズインが去っていく。それと入れ違いにヘクトルとエリウッドが戻ってきた。

 

「損害は?」

「ドルカスさんが腕に軽い怪我、マシューが背中を少しやられたけど二人とも杖の治療で十分だ」

 

衛生兵が二人に増えたのはやはり喜ばしい。

 

「ハング!」

「軍師殿!」

 

次いで戻ってきたのは裏手に回していたギィとバアトルだ。

 

「どうした?」

「敵はどこだ!?あいつら、急にいなくなったぞ。こっちに来たんじゃねぇのか?」

「表に回ったのであろう!このバアトルが粉砕してやる!」

 

いきりたつ、ギィとバアトル。

 

ハングは少し頭痛を覚えた。

 

まさか、奴らが撤退していたことも気がつかないとは・・・しかも、こちらからの指示もなく持ち場を離れやがって。もし、奴らの撤退が偽装だったら今頃裏口は完全に抜かれてる。そうなれば玉座まで一直線だ。

 

「お前らなぁ・・・」

 

ハングは一喝しようと口を開いた。

 

その雰囲気を察し、エリウッドとヘクトルが半歩程逃走を開始した。

 

「っ!!」

 

だが、今にも飛び出そうとしていたハングの怒声は放たれることはなかった。

ハングの身体が電流に打たれたように震え、動きが止まる。

 

「おっ?あれ?ハング?どうした?」

 

心配そうなギィの声がした。だが、今のハングにはそれも雑音にしか聞こえない。

 

ハングが聞いていたのは左腕の付け根あたりで拍動する自分の心臓の音。ハングの心臓が痛い程に高鳴っていた。ハングは自分の左の上腕を握りしめる。自分の頭から血が引いていくのがわかった。

周りに他の仲間も集まってくるも、ハングの目は焦点が定まらないまま固定されていた。

 

そして、皆がいよいよ心配になり声をかけようとした時。

 

「マシュー・・・」

「な、なんすか?」

「キアランに斥候を送れ・・・」

 

突然に出された命令にマシューは驚く前にたじろいでしまう。

 

「へ?キアランですか?サンタルスじゃなくて?」

「急げっ!!」

 

キツい一睨みと切り裂くような声にマシューは飛ぶように城内を駆けていった。

 

「ハング、大丈夫かい?」

 

エリウッドがハングの肩に手を置く。

 

「ああ・・・平気だ」

 

そうは言うもののハングは自分の左の前腕を握りしめたままだ。顔色はよくなる兆候は無い。

 

「どうしたんですか?今、マシューが駆けて行きましたが」

 

そこに、ラウス兵の統率を行っていたマーカスが帰ってきた。

ハングは深く息を吐き出し、ようやく仲間の顔に焦点を合わせた。

 

そして、ハングははっきりと言い放った。

 

「キアランが襲われてる可能性があります」

「なっ!?」

「はぁ!?そんなバカな」

 

エリウッドとヘクトルが同時に声をあげた。だが、マーカスは怪訝な顔だ。

 

「勘・・・というわけではなさそうですが・・・確信があるので?」

 

今のハングにただならぬ様子を感じたのか、マーカスの声はいつもより柔らかい。

 

「正直、わかりません。ですが、キアランに何らかの危険が迫ってる可能性が高いです」

「信じても・・・よろしいので?」

「もし、何らかの不手際があった場合はいかようにでもしてください。去れと言われれば軍を去りましょう」

 

さすがに、それには軍全体が動揺した。

 

「ハング!?何を言ってるんだ!」

「勝手にんなこと言ってんじゃねぇぞ!」

「そ、そこまでしなくてもいいじゃないですか!」

「ちょっと!何考えてんのよ!」

 

エリウッドやヘクトルだけでなく、レベッカやセーラまでハングを止めようとする。

 

「黙れっ!!」

 

ハングの一喝が城内に響いた。壁が震える程の大音量は周囲の口を一撃で閉ざしてしまう。

そしてハングはマーカスに視線を合わせた。

 

「言質はいただきましたよ」

「一度口にした言葉の重みを自覚することは軍師の第一歩です」

「そこまでする程には自信があるということですか?」

 

ハングは自嘲するように笑う。

 

「キアランに危険が迫ってはいるようですが・・・それがラウス侯と関係があるかどうかまでは・・・」

「それでも、なお軍部を動かした・・・あまり、褒められたことではありませんよ」

「知っています」

 

そう言うもののハングの意志は揺るがない。その瞳に迷いはなかった。それを見ながらマーカスはため息をついたのだった。

 

「まったく、エリウッド様はとんでもない軍師を友に持ったものだ」

「すみません・・・マーカスさん・・・」

「かまいません。それを含め、あなたは我が軍の軍師だ」

 

ハングはほんの少し驚いた。だが、ハングはそれを表に出すことなく笑う。

 

「わかりました・・・それではマーカスさん。城の護りをお願いします」

「任されました」

 

マーカスは城外へと駆けて行く。

 

「ったく、勝手に話を進めやがって・・・」

「悪いなヘクトル」

「説明は、してくれるんだろうね?」

「エリウッドが凄むと少し怖いな」

 

ハングは軽口を叩いて皆の怒りをかわしていく。その間もハングは自分の左の上腕を握りしめた手を離しはしなかった。ハングが握りしめている場所。誰も知らぬことであるが、その下にはまだ真新しい鱗が一枚程あった。

 

そこはかつて、ハングがリンに渡した鱗が生えていた場所である。

 

今、その場所はほんのりと熱を持っていた。

 

まるで・・・誰かが不安を堪えて握りしめているかのように・・・

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