【完結】ファイアーエムブレム 烈火の剣~軍師と剣士~   作:からんBit

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16章~キアランの公女(中編)~

街道の片隅。そこではエリウッド達が野営地を築いていた。野営地と言っても、少し食事ができてフロリーナを寝かせる為だけの簡単なものだ。

 

『フロリーナが見つかってるからな。これで俺たちの動きは決まった』

 

ハングの指示で部隊の皆はそれぞれ散って行った。

野営地に残っているのはハング、エリウッド、ヘクトル、護衛としてのマーカスとオズイン、補給隊のマリナスだった。

 

「・・・う・・・ん・・・」

「気がついたかい?フロリーナ」

 

ぼんやりと薄目をあけたフロリーナ。

彼女は何度か瞬きして、自分を覗き込んでいる赤毛の青年に焦点を合わせた。

 

「エリウッドさま?・・・私・・・」

 

ハングもその後ろから彼女の顔を覗き込む。フロリーナの顔色は悪くない。だが、少し記憶が混乱しているようだった。

 

まぁ、あんな着地をしたら記憶も飛ぶだろうな。

 

ハングはそう思いながらフロリーナにゆっくりと近づいた。

 

「フロリーナ、お前は弓兵に射られたんだ。覚えてるか?」

「え・・・え、あれ?えっ!!ハングさん!?」

「なんだよ、幽霊でも見たような声出しやがって」

 

そう言って、ハングは笑顔を見せて話を続けた。

 

「ヒューイが上手く避けてくれたんだよ。だけどバランスを崩してお前は落下したんだ。ペガサスに感謝だな」

「え・・・あ・・・」

 

フロリーナの隣にヒューイが鼻先を摺り寄せてきた。

フロリーナは自分の愛馬に怪我がなさそうなことを確かめ、安堵のため息を吐いた。

 

「ありがとう。ヒューイ」

 

小声でペガサスに礼を言うフロリーナ。

そして、彼女は自分の身体を確かめるかのように手足を動かした。

 

「あれ?でも、私なんともないみたいです。あんな高いところから落ちたのに」

 

フロリーナがそう言うと、ハングとエリウッドは苦笑いを浮かべた。

 

フロリーナの言う通り、彼女が落ちたのは相当の高さだった。まともに地面に激突すれば骨折や捻挫程度では済まなかっただろう。

 

「まぁ、もう一人感謝する相手がいるってことだ」

 

「なぁ?」とハングは自分の後ろで不機嫌そうにしているヘクトルに声をかけた。

 

「お前が『動くな!』って言ったからだろうが」

 

ヘクトルはこめかみに青筋を立てながら怒鳴り返す。

ハングはそんなものどこ吹く風とでも言うようにフロリーナに視線を戻した。

 

「ってわけで、このむさい男がフロリーナを受け止めてくれたわけだ」

「おい!今、さりげなく俺のこと『むさい』っつたか!?」

「そう聞こえたか?でもほとんど事実だろ」

「てめぇなぁ!!」

 

目の前で繰り広げられる掛け合いにフロリーナはポカンとしてしまう。そんな彼女にエリウッドがクスクスと笑いながら状況を説明した。

 

「彼はオスティア侯弟のヘクトルだ。彼が落ちてきたフロリーナを受け止めてくれたんだよ・・・ついでに天馬もね」

「時間差でこられちゃ避けようがねぇってんだ!」

「きゃあっ!」

 

突然、矛先をエリウッドに向けたヘクトル。

その迫力にフロリーナは思わず悲鳴をあげて後ずさった。

 

「おい、さっき説明しただろうが。フロリーナは男性が苦手なんだから、汗臭い男代表みたいなヘクトルは下がってろって」

「ってめぇ!言わせておけば・・・」

「とにかく、そろそろ与太話も終わりにするぞ。今は別件が立て込んでる」

 

ハングはまだ何か言いたげなヘクトルを押しのけるようにして、フロリーナの近くから排除する。

ハングはフロリーナの隣に膝を折った。その目にはいつの間にか鋭い光が宿っていた。

 

「んで、フロリーナ。リンは森の東で城に攻める機会を伺ってると予想してるんだが、あってるか?」

「は、はい!その通りです」

 

フロリーナのお墨付きにハングは静かに深呼吸を繰り返しながら頷いた。

 

「よし、なら予定通りにいくぞ」

「ったく・・・しゃあねぇ・・・」

 

ヘクトルはハングがどれほどリンディスを心配していたかを知っている。

軍師の顔に戻ったハングの雰囲気にさすがのヘクトルも百万語を飲み込むことにした。

 

「ほら、ヘクトル。さっさと行け。お前がいると暑苦しくて仕方ない」

「ハング!やっぱてめぇ、後で覚えてろよ!」

 

ヘクトルは怒りで顔を赤くしながら、オズインと共に森に向けて駆けて行った。

 

「エリウッド、お前も予定通りに」

「ああ、任せておいてよ」

 

エリウッドもヘクトルの後に続く。

残ったのはフロリーナとマーカスとハング、そして輸送隊のマリナス。

 

「さて、マーカスさん。俺らも行くとしようか」

「はっ!」

「フロリーナ、手伝えよ。お前にも働いてもらうからな」

「は、はいっ!」

「あ、あの!ハング様っ!このマリナスめはどうしたらよろしいのでしょうか?」

「とりあえず、この野営地の撤収。荷物まとめてどこかに隠れててください。後で迎えをやりますから」

「ははぁーー!!」

 

まだ、ハングのことをお忍びの貴族だと思っているマリナスに苦笑しながら、ハングはもう一度戦場を見渡す。

 

「さて・・・策がはまるといいんだが」

 

その言葉と裏腹にハングは自信に満ちた顔で唇を舐めた。

 

 

その頃キアラン城では・・・

 

「誰か!先ほどの天馬騎士を上手く仕留めたかどうか調べてくるのだ!もし、息があるようなら止めをさしておけ!」

 

城門を預かるのはバウカー将軍。優男風ではあるが、その声は指揮官独特の威圧感があった。

 

そこに一人の兵が駆けてくる。

 

「申し上げますっ!西方より敵襲!!フェレ侯公子エリウッドです」

「・・・来たか」

 

重装備に身を包んだバウカーは槍を高く掲げた。

 

「ラウス侯に、われらの忠誠心をお見せするとき。相手は寄せ集めの雑兵に過ぎぬ!我らの敵では無いぞ!!」

 

兵士達の野太い返事を聞き、バウカーは伝令に尋ねる。

 

「それで、エリウッドの居場所は?」

「はっ!奴らは今は東に移動し、南の森へと姿を隠しました」

「ふん、我らを引き込んで各個撃破するつもりか。安直な戦術だ」

 

バウカーはもう一度声を張り上げた。

 

「獣狩りだ!鹿を追い込むように森の中に踏み込み、じわじわと追い詰めてやれ!」

 

森の中の戦いにはラウス兵の方に分がある。バウカーは勝利を確信した。

 

当然、伝令に来た兵士も同じ思いだ。もっとも、その兵士が思い描く勝利の形はここにいる誰の物とも違うものだったが。

 

「さぁて・・・上手く踊ってくださいよ・・・」

 

ラウス兵の兜に隠した茶色い前髪に触れながら、マシューは小さく呟いた。

 

 

 

 

――――――― ※ ――――――― ※ ―――――――

 

 

 

崖下のリンディスの一団。

 

「なんだか、騒がしくなってきたわね」

 

リンは風に混じる戦いの気配を感じ取りながら、そう呟いて剣を取った。

 

「どこかの義勇軍が戦っているんですかね?」

 

ウィルの問いに明確に答えられる者はいない。

 

「俺らの味方だといいんだけどな」

「敵の敵が味方とは限らんからな」

 

セインとケントは念のために馬に乗っておく。いざという時はリンとウィルを乗せて逃げ出せる状態だ。

 

「フロリーナ・・・大丈夫かしら・・・」

「大丈夫ですよ。彼女を信じましょ」

 

ウィルはあっけらかんとそう言った。それは、ただの能天気な考えでは無い。フロリーナの弓の回避の練習にウィルは最も付き合っていた。神はよく人を裏切るが、時間は人を裏切らないとウィルは思っていた。

 

そんな時だった。

 

「あ、本当にここにいた!」

 

ふと彼らに向けられた声がした。反射的に皆が武器を手に取る。

 

「わっ!!ちょ、ちょっと待ちなさいよ!いきなり剣を向けることないでしょ!」

「君がいきなり声をかけるのがいけないじゃないか」

「なによ!だったらエルクが声をかければよかったんじゃない!」

「君がリンディス様を見つけた途端に声を張り上げなければ、僕だってそうするつもりだったよ」

「・・・いい加減にしろ。二人とも」

 

本気の殺気を向けられたにも関わらず、その当人達は呑気な会話を続けている。

森の茂みから現れた彼等を見てリンディス傭兵団の面々は目を丸くしていた。

 

「と、言うわけでお久しぶりです。リンディス様」

「リン!無事で良かったわね!!」

「・・・・・」

 

エルク、セーラ、ドルカス

 

かつての戦友を前にして、リン達は体の奥から冷たい塊が溶け出したような感覚を覚えていた。

 

「みんな!来てくれたの!?」

「あったりまえじゃない!だって大親友のピンチなんだもの」

「大親友?」

 

リンにはセーラの大親友にまでなった覚えは無かった。

 

「また、勝手なことを・・・リンディス様、無事でよかったです」

「エルクも・・・どうしてここに?」

「事情があってエリウッド様の部隊に身を置いています。エリウッド様と共にこのキアラン救出に来ました」

 

エリウッドの救援。

 

その情報に一同は息を大きく吐き出した。それは少しでも気を抜けば眠ってしまいそうなほどに、心地のよい知らせであった。

 

「・・・リン」

「ドルカスさんもエリウッドの部隊に?」

「ああ、今度はまともな仕事だ。キアランのことを聞いておまえを心配していた・・・間に合ったようだな」

 

少しだけ微笑んだドルカス。一年前に比べて多少表情がわかりやすくなっていた。

 

「リキアには、ナタリーも一緒に?」

「ああ、家族みなで今はフェレに移り住んでいる」

「そうなの、良かった」

 

リンは少しだけ感傷的な気分になった。ここまで、かつての仲間が集まってきているのだ。リンは1年前の旅の面々に無性に会いたくなってきていた。

 

「懐かしいわ・・・また会いたいなぁ」

「あれも、お前に会いたがっていた。いつか・・・暇になった時にでもフェレを訪ねてやってくれるか?」

「ええ、早く戦いを終わらせて・・・きっと会いにいくわ」

 

ドルカスとリンが話している間にも他の皆も再会の挨拶を交わしていた。

 

「おー!セーラさん!何度見てもすばらしく可憐なお姿だっ!」

「あら、セインさん。前から思ってたけど、あなたって正直者ね」

「正直さは我が一族に代々受け継がれる美徳の一つ・・・それを見抜いてしまわれるとは、やはりセーラさんと俺は結ばれずにはいられぬ運命!」

「結ばれるかどうかはまだわかんないわよ」

「ああ、連れない人だ」

 

やかましい二人を無視して周りの人達は握手を交わしていた。

 

「ひっさしぶりだな、エルク!なんか縮んだ?」

「ウィルが伸びてるだけだよ・・・気にしてるんだから、言わないでくれ」

「アハハハ、こりゃ失敬」

 

「ドルカス殿。またご助力をお願いします」

「・・・ああ」

 

挨拶を手短にすませ、エルクが話を区切るように咳払いをした。皆がエルクに視線を移す。

 

「リンディス様、幾つか朗報があります」

「朗報?」

「まずは、エリウッド様の部隊がキアラン奪還に動いてること。昔の仲間のマシューもこちらにいるということ」

「マシューも?」

「まあ、詳しくは本人に聞いてください。そして、もう一つ」

 

エルクは再び咳払いをした。心なしか、頬が赤い。エルクは一度息を吸い込み、喋り出した。

 

「『リン、戦えるならこっちの指示に従え。絶対にキアランは奪還してやる』だそうです」

「似てないわね~」

「うるさいよ!」

 

リンディス傭兵団はしばし固まった。

それは突然の再会を予見する言葉。

彼らの頭の中で昔聞いた声が反芻されていく。

 

弾けるような笑みが脳裏を駆け抜けた。

力強い鼓舞が耳元で響いたような気がした。

 

「まさか・・・」

「ええ、ハングさんが来ています」

 

皆の中に興奮が走り抜けた。

 

「マジで!?」セインが目を丸くしていた。

「やったー!これで、怖いもんなしだ!」ウィルが思わず万歳の姿勢になった

「・・・良かった」ケントも天を仰いだ。

 

各々が喜びを噛み締める中。リンはただ自分の持つ御守りを強く握りしめていた。

 

『なんかあったらそいつを握りしめな。なんも力なんかもっちゃいないが、そいつは常に温もりがある。それがお前を助けると思うぜ』

 

「バカ・・・あなたが来てくれるなら・・・必要ないじゃない」

 

リンは布袋を首からさげ、服の中に押し込んだ。

 

「それで、ハングの指示って言うのは?」

「このまま崖沿いに北上。頃合いを見て出城を落とせとのことです」

「頃合い?」

「それはリンディス様に一任すると」

 

随分と働かせてくれる。だが、不思議と疲労は消えていた。

リンは剣の柄を撫でる。気力が十二分にみなぎってきていた。

 

「いいわ。ところでエルク達はどうするの?」

「リンディス様の部隊に合流しろと言われました」

「わかったわ。行きましょう!」

 

力強い返事を聞いてリンディスは足を踏み出した。

 

「ちょっと待ちなさい!」

 

その足をセーラが止めた。

 

「セーラ、どうしたの?」

「どうしたの?じゃ無いわよ!リン、あなたそんな格好でハングに会いにいくわけ!?」

 

リンはセーラの発言の意味を掴みかねた。

 

リンはいつものサカの民の格好である。ハングと会うならむしろこちらの方が正装みたいなものだ。戦闘で少しは汚れてはいるが、それは仕方のないことだ。

 

「セーラ、今は君の与太話に付き合ってる暇は無いんだ」

「エルクは黙ってなさい!」

 

反射的に雷の理魔法を出そうとしたエルクだったが、それより早くセーラがリンに詰め寄った。彼女はリンの腕を取りながら言った。

 

「ほら!こんなに傷だらけじゃない!」

 

リンは驚きの表情を浮かべた。

 

確かにリンの腕には無数の生傷があった。

中には瘡蓋になって醜く固まっているものもある。

 

「大丈夫よ。このくらいなら平気」

「大丈夫なわけないでしょ!」

 

セーラが強くそう言った。今度はエルクも言葉を挟まなかった。

 

「こんな姿でハングに会ったら感動の抱擁どころじゃないわよ!せっかく、白馬のナイトが助けに来たのにお姫様がこれじゃカッコがつかないじゃない!ちょっと待ってて!」

 

そして、杖を取り出して治癒を施すセーラ。それ程に深い傷も無かったのでリンの肌はすぐに元のきめ細かいものに戻っていった。

 

「はい、これで大丈夫」

「あ、ありがとう」

「いいのよ。ただし!今度こそハングを放しちゃだめだからね!」

 

リンは曖昧に返事を返すにとどめ、皆に出発を告げた。

 

「さあ、改めて出発しましょ!」

 

歩き出すリン達。

 

その最後尾につけたエルク。

彼はセーラの隣でそっぽを向きながら呟いた。

 

「君も・・・たまにはいいことするんだね」

「ん?エルク、何か言った?」

「・・・なんでも無いよ」

 

エルクは少しだけ頬を赤らめながら、進軍に遅れないように歩き出した。

 

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