【完結】ファイアーエムブレム 烈火の剣~軍師と剣士~   作:からんBit

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2章~精霊の剣(前編)~

いつも見る暗闇

 

真っ暗で・・・冷たくて・・・悲しくて・・・

そんな世界を永遠と彷徨い続ける

朝が来るまで

 

――――――― ※ ――――――― ※ ―――――――

 

「ハング、ちょっとだけ寄り道させてくれない?」

リンがそう切り出したのは、朝食をとりながら旅の予定を立てていた時だった。

「寄り道?どこにだ?」

「この町の東にある祭壇なの。そこには宝剣祀られていて、サカの民が長い旅に出る時にはそこで無事を祈っていくのよ」

「ほほぅ、それは興味深い。」

 

セインが身を乗り出してまで興味を示した。

 

「へぇ・・・セインってそういうのに興味があるんだ」

「当然ですよハングさん!俺だって一人の騎士!宝剣っていったら興味もわきます!」

 

昨日の戦闘で剣を忘れた奴が何を言ってんだか。

 

そんなセインにリンがやや厳しい口調で口を開いた。

 

「セイン、一応言っておくけど、サカの民の祭司は基本的に男性がやるのよ」

「え!!そうなんですか・・・って!違います!俺は純粋に宝剣を・・・」

 

ハングの包帯に覆われた左腕がセインの座っていた椅子を引き倒した。セインが机の下に消えたのを確認して、ケントが話を再開した。

 

「エレブ大陸で信徒が一番多いのはエリミーヌ教ですが、この地では、太古の慣わしが受け継がれているのですね。」

「ケントはそういうの詳しいのか?」

「はい、私は仕官学校で古代文化に関する授業を専攻していましたので」

「セインは?」

「わ、私も当然素晴らしい文化を学ぼうと・・」

 

やかましかったので、腹に肘を叩き込んで再び沈めた。それを見ずにケントが話を続ける。さすがに慣れていた。

 

「同じ授業を受けてはいましたが、その時の教官が女性だったので」

 

なるほど。セインらしい。

 

ハングもリンもその姿を容易に想像することができた。ケントは士官学校時代の苦労を思い出したのか、小さく溜息を吐いた。そんなケントに少し同情しながらハングは逸れた話題を戻した。

 

「まあ、道のり的には問題は無いだろう。俺も宝剣って見てみたいし」

「本当!ありがとう!」

 

明るい笑みと煌めく瞳。いつものリンだった。

昨日あった色々なことはもう吹っ切れているようだった。

 

「リン・・ディス様・・・私は、決して・・」

 

這い上がってきたセインをケントが頭を押さえつけて机の下に押し戻した。

その後、旅の計画を少し調整しながら朝食は滞り無く進んだ。

 

 

 

――――――― ※ ――――――― ※ ―――――――

 

 

 

高く伸びる柱に支えられた天井。周囲を囲む石壁にはサカの民がよく用いる模様が刻み込まれていた。丁寧に敷き詰められた敷石にも精巧な彫刻が施されている。

そこは空から差し込む光に暖かく見守られ、吹き抜ける風に静かに清められ、大地の匂いを存分に感じられる場所であった。

 

サカの草原に佇む祭壇。そこには一振りの剣が祀られていた。

精霊の加護を受けたとされるその剣は鞘の中に収められたままでも、確かな存在感を放っていた。

 

母なる大地と父なる空に見守られ、彼らの息子たる精霊の集まるその場所はいつもなら静かな時が流れている聖なる土地であった。

 

だが、今日はその様子は大きく異なっていた。

 

「さぁ、ジジィ!おとなしくそこをどきな!」

 

引き締まった体と大振りな剣を見せびらかせながら祭壇の中央に迫る男が一人。

その周囲を取り巻くように、ガラの悪い男達がサカの戦士達を叩き伏せていた。血を流す戦士達はわずかに息があるものの、早く手当をしなければ命に関わる状態だった。

むせ返るほどの血の臭いの中でその男と荒くれ者達は下卑た目で祭壇の中を物色していた。

 

そんな男達から精霊の剣を守るように一人の御老人がその両手を広げて立ち塞がっていた。

 

「・・・どんなに脅されようとも、【マーニ・カティ】を渡すわけにはいかん」

 

足は震え、声も震え。それでも、その御老人は毅然と目の前の男に立ち向かう。

サカの祭司たる彼にはそれをするだけの理由があった。

 

「【マーニ・カティ】は精霊の加護を受けた尊き剣。ここより、動かすことなどできぬ!」

 

この剣は数多くのサカの民の心の中心なのだ。特定の土地を持たず、この広大な草原で旅をしながら暮らす遊牧民達は時折帰る場所が存在しない生き方に恐怖を覚える。

そんな時、旅立ちの場所としてこの祭壇へと戻ってくる。

それを守るのが祭司である彼の役目だった。

 

そんな老人の姿に僅かに笑みを口元に浮かべて男は笑いながら喋り出す。

 

「頭の悪いジジィだな。剣ってなぁ、使ってなんぼのもんだろう?」

「使う!?な、なんとバチあたりなっ!!」

「この辺りでは一番の剣の使い手、このグラス様がもらってやろうって言ってんだ」

 

グラスと名乗った男は一歩足を前に出し、御老人の肩に手をかけた。

 

「おら!そこどきな!!」

 

力任せの一撃で壁まで吹き飛ばされた老人を尻目にグラスは目の前の剣に手をかける。

 

「予想通り、いい剣じゃねぇか!こういうのは俺様が使ってこそだ」

 

グラスは柄に力を込めた。剣を鞘から刀を取り出して、その素晴らしい剣の姿と対面するつもりだった。

 

「・・・ん?なんだ、こいつぁ?鞘から・・・抜けん!」

 

だが、いくら力を込めども剣はびくともしない。その様子を見ていた祭司は力無く笑った。

 

「・・・その剣は・・・おまえなどには・・・精霊が・・・おまえを拒否しておるのじゃ」

「あぁん?精霊だぁ?寝ぼけてんじゃねぇぞ、このおいぼれ!!」

 

この男はサカの民ではないただの暴れ者だ。精霊だの神様だの、目に見えない存在など信じてすらいなかった。

 

「死にたくなければ奥の部屋にでもすっこんでろ!!」

 

祭司を近くの小部屋に放り込んだグラスは手元に残った精霊の剣を床に叩きつけた。

木製の鞘が石の床を跳ねて音を立てた。

 

「ちくしょう!なにが精霊だっ!!てめぇら!かまやしねぇこの祭壇ごと叩き潰してやれっ!!」

 

男は転がった剣を更に蹴り飛ばし忌々しげに天井を睨み付けた。

 

「精霊なんてもんがいるならな・・・守ってみろってんだ!」

 

グラスがいくら怒鳴ろうが、そこにいるはずの精霊は決して姿を見せはしなかった。

 

 

――――――― ※ ――――――― ※ ―――――――

 

 

 

「なんだか、落ち着かないわね」

「そう言うなよリン。セインやケントにとっちゃお前は主君みたいなもんなんだ。これぐらいは我慢しろ」

 

ハングは少し高い位置にいるリンにそう声をかけた。

 

「でも、納得いかないわ!」

「そうは言っても、城に着いたらこんなもんじゃねぇぞ。どいつもこいつも『リンディス様~リンディス様~』って」

「とりあえず、あなたの裏声は気味が悪いわね」

 

顔をしかめるリンに笑いかけながらハングは荷物を背負い直した。

 

「リンディス様は大事なお方、歩かせるわけにはいきません」

「そうですよ!でも、どうしてもというなら私がリンディス様の馬に同乗しましょウべかラぶ!」

 

セインはケントの拳骨を頭に喰らって草原に倒れた。ケント、セイン、ハングの3人は皆徒歩でこの草原を進んでいる。唯一の例外がリンであり、それがリンの気に食わない理由であった。

 

ハング達がこの旅に連れている馬は3頭だ。最初にリンが連れていた馬とセインとケントの軍馬を加えた3頭。リンとハングの荷物に関してはリンの馬の背に収まり。ケント達の荷物はもとより少なく、邪魔にならない程度に軍馬に吊るされていた。

つまり、3頭のうち2頭の背中が空いている。その1頭には皆が当然のようにリンを乗せた。

 

そして、もう一頭は・・・

 

「リンディス様と視線を並べるわけにはいきません」と、ケントが言い。

「いや~さすがに騎士ですから主君の顔は立てないと~」と、セインがケントの顔色を伺いながら言い。

「二人が乗らないなら、いざって時にすぐ乗れるようにその馬は空けといたほうがいいだろ」と、ハングが言った結果リンだけが騎乗している今の状況に至ったのだ。

 

それが、リンは気に食わない。

 

「皆が歩くなら私も歩く」と、言い張ったもののほとんど無理やりに馬の上に押し上げられたのだ。

 

というわけで不貞腐れ気味のリンなのであったが、祭壇に早く行きたかったのもあって今は大人しく馬の上におさまっていた。

 

「あれよ、あれが祭壇」

 

リンが指差した先、ブルガルに近い位置ながらも丘に隠れて見えていなかった祭壇が姿を見せ始めていた。

 

「ほぅ~」

 

思わず溜息を漏らしていたのはハングだった。

 

「宝剣を祀る程度だと侮ってたな。思ってたより大きい」

 

それは丘の一部を切り崩して作られていた。丘の半分は石積みの壁に変わり、丘の上に入り口らしき場所が見える。

 

「どんな構造になってるんだ?」

「丘の上が入り口になっていて、そこから階段で下に降りたところに祭壇があるわ。父なる空に近い場所から母なる大地へと精霊の存在を感じ取りながら降りていくのがサカの習わしよ」

「へぇ・・・面白い考え方だな・・・」

 

ハングはサカの民の文化様式についてあまり詳しくなかったが、なかなかに興味深そうに聞いていた。

 

「サカの祭壇はそのほとんどがあれぐらいの大きさね。でも、エレブ大陸にはもっと大きな祭壇があると聞いたわ。どうなの?」

 

その質問に答えたのはケントだった。

 

「それは、祭壇というより教会ですね。エリミーヌ教のものとなればかなり大きなものもあります」

「ヘェ~、いつか行ってみたいわね」

「なんで俺を見ながら言うんだよ。今のところ観光をする予定は進路には無い」

 

ハングはリンを見上げながら剣呑に目を細めた。

 

その時だった。

 

「ちょ、ちょっとおまえさんたち!」

 

緊迫した声がした。ケントとリンが同時に剣に手をかける。一拍遅れてセインが馬に駆け上がり、ハングが槍をセインに放り投げた。

声のほうを見れば、近くの民家から恰幅のいい女性がこちらに向かってきていた。

 

「おまえさんたち!もしかして、東の祭壇に行く気かい?」

 

どう見てもラングレンの刺客では無さそうだった。真っ先に警戒を解いたリンが女性に応じた。

 

「ええ、そのつもりだけど・・・」

「だったら、中にいる祭司さまを助けておくれよ。今さっき、この辺りでも評判のならずもの一味が祭壇に祀ってる剣を奪いに向かっていったんだ」

 

リンの顔色が一瞬だけ青く、そしてすぐに赤く変わっていく。

 

「剣を奪うですって!?そんなこと許せないわ!」

 

リンが馬から飛び降りた。

 

「私達が祭司さまを助けます。任せてください!」

「あんたらなら強そうだ。あたしは街にこのことを知らせに行ってくるよ」

 

そう言って、ご婦人はブルガルの方に走り去ってしまった。どうやら、戦闘は避けられそうになさそうだった。

ハングはすぐにリンに質問をした。

 

「リン、あの祭壇は丘の上の入り口から入って下に降りるって言ってたな・・・他に出入り口はないのか?」

「残念だけどあそこ一つだけ・・・どうしても丘を登るしかない」

 

ハングが小さく舌打ちをした。

 

「それだと時間がかかり過ぎる・・・」

 

ハングはほんのわずかな間に思考を巡らした。

 

「人命には代えられんだろ、祭壇の壁を壊して侵入しよう。ケント、セイン。あの祭壇の壁まで先行しろ!周囲にいる敵の排除と脆そうな壁の探索を頼む」

「はっ!」

「了解しました!」

 

ケントとセインが馬を駆けさせて走り去っていく。

 

「リン!俺たちもいくぞ!」

「ええ!」

 

駆け出した二人だったが、ほんの数歩も走らないうちにハングが小さくリンに尋ねた。

 

「精霊って祭壇の壁を壊しても怒らないよな?」

「大丈夫よ・・・多分」

 

心の中で少し不安になったハング。

今の戦力ならば、数人の荒くれ者などは怖くは無いが、精霊の怒りというのはハングとしても恐ろしい。人知の届かない存在に対する恐怖心はハングも人並みに持っていた。

後で精霊の怒りを収める祈りでも教えてもらおうと心の片隅に置いたハングだった。

 

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