【完結】ファイアーエムブレム 烈火の剣~軍師と剣士~   作:からんBit

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間章~二刻の間(前編)~

キアラン城門は制圧した。だが、全員が少なからず傷を負い、キアラン勢は夜通しの戦闘である。休息と情報収集を兼ねてハングは次の戦闘を二刻後と定めて城門前に陣を張った。

その間にハングは昔の仲間と再会を果たしていた。

 

「ハング!」

「よう、ウィル!息災そうだな」

「見ての通りさ」

「ハング殿、今回のご助力には感謝します」

「ケント、堅苦しい挨拶はやめてくれよ。そんな仲でもないだろうが」

「それもそうですね。しかし、ハング殿、本当によくきてくださいました」

 

皆が無事な様子を見てハングは心の中で安堵のため息をこぼした。

 

「そういや、ウィル。お前、家族に手紙書いたんだろうな?」

 

それは彼をキアランで雇う条件だった。

 

「・・・あ!あんなところにリンディス様が」

「だからなんだ?リンとはさっき挨拶をすませた」

 

しらばっくれるウィルにハングは片方の目を釣り上げた。

 

「ウィル、どういうことだ?」

 

ドスのきいたいい声だ。

 

「ごめんなさい。書いてません」

 

ウィルは素直に頭を下げた。というか、この声を前にして他の選択肢はあり得ない。

ハングはあからさまにため息をついた。

 

「ウィル、お前は楽天家だが約束は守る奴だと思ってたんだがな」

「・・・返す言葉もございません」

 

昔とあまり変化の無いウィルだが、少なくとも多少の軍隊的言い回しは学んだようであった。

 

「・・・ったく、今すぐとは言わねぇけどさ。ちゃんと書いとけよ、お前には帰る場所があるんだからよ」

 

そう言ったハングの声は少し感情的だった。それが逆にウィルの罪悪感を煽る。

 

「わ、わかったよ・・・そのうち・・・な・・・」

 

その顔を見てハングは満足そうに頷いた。

 

「ったく・・・で、ケント。セインはどうした?」

「奴なら・・・」

「おおー!美しいお嬢さん!あなたの名前を教えてください!」

 

レベッカに絡むセイン。

 

「その憂いを秘めた眼差し、高貴かつ繊細な儚さ!あなたはエトルリアの方では!?」

 

プリシラに声をかけるセイン。

どうやら、彼も一年前となんら変わってないようである。

ハングは軍の風紀を乱す輩に鉄拳制裁を加えることにした。

 

「おお!ハング殿!お久しぶり・・・って、うおわぁぁあ!」

「ケント、手伝え」

「ご命令が無くともやりましょう」

「うぎゃああぁぁぁあ」

 

セインの断末魔を聞きながらハングは手の土埃を払う。セインだったものを陣の隅に放り投げた時、リンがハングに近寄ってきた。

 

 

「あ、ハング」

「ん?何かあったか?」

「何か無いと会いにきちゃいけないの?」

「おまえも言うようになったな」

 

リンを前にしてケントは「では、私たちはこれで」とウィルを引きずるようにして離れていった。

 

余計な気をまわしやがって。

 

ハングは腹立たしいやら少し嬉しいやらで曖昧な視線をケントに向ける。だが、そんな浮ついた感情はリンの表情を見るなり吹き飛んでしまった。

 

今、キアラン城内にはリンの祖父であるハウゼン様がいる。この状況でリンが平常でいられるわけがないのだ。リンの表情には心労が確実に浮かんでいた。

 

ハングは自分をぶん殴ってやりたい衝動にかられた。それも、左腕で思い切り。

 

「あのな・・・リン・・・」

 

ハングはそんなリンにかける言葉を探したが、結局口に出すことをやめた。

代わりにハングはこう言った。

 

「・・・少し歩かねぇか?」

 

リンは静かに頷いた。

 

 

リンとなんとなく陣の周りを散歩する。

 

「よくみんなで話してたのよ。ハングはどこで行き倒れるかな、って」

「行き倒れること前提かよ」

「行き倒れなかったの?」

「あ、あんなところに狐がいる。かわいいなぁ」

 

クスクスとリンが笑う。無理しているようには見えないが、心の底から笑っているとも見えなかった。

 

「まったく、ハングは変わらないわね」

「お前もな」

 

下手な芝居をやめ、ハングは少しだけ声の調子を落とした。

 

「リン・・・」

「大丈夫よ」

「まだ、何も言っていないぞ」

「大丈夫。焦ってないわ」

「そうは見えねぇけどな」

 

ハングはため息と同時にそう言った。

 

「だって、ハングが来てくれたんだもの。何とかしてくれるんでしょ?」

 

俺だって万能じゃない。

 

ハングはそう言ってしまいたかったが、なんとか飲み込んだ。

ハングは視線をキアラン城へと向けた。キアラン城は妙に静まり返っている。

 

「まぁ・・・相棒の頼みだからな」

「そう言うと思った」

 

ハングはキアラン城から目を逸らして歩き出す。その隣にリンはついていく。しばらく無言で歩き続けた二人。行く先はお互い最初からわかっていたようだった。

 

「この辺だったわよね」

「そうだったか?」

「ええ、ここで別れたのよ」

 

一年前に二人が別れた場所。小高い丘の上から広い平野が見渡せる。

 

「あの時貰った鱗。本当に役にたったわ、ありがとう」

「俺は何もしてねぇよ」

 

リンは微笑んで話を続ける。

 

「ハングはあの時、この鱗には何の力も宿ってないって言ってたけど。あれ、本当?」

「ああ、鱗には何の力も無いよ。お前には嘘はつかねぇ」

 

『鱗』には力なんか無い。切れば割れるし、叩けば砕ける。

もし力があるとするならそれはハングの『腕』の方だ。

もちろん、そのことをリンが知る必要は無い。

 

「・・・そう」

「ああ」

 

ハングとリンはそう言って平原を眺める。

ここで別れてから1年。お互い、何も変わってはいないようだった。

 

ハングは旅の軍師であり、リンはサカの民のロルカ族。

 

「・・・戻るか」

「・・・ええ」

 

歩く二人のそばを風が通り過ぎていく。

少しだけ、風が冷たかった気がした。

 

 

――――――― ※ ――――――― ※ ―――――――

 

 

「あ、若様。どうかしましたか?」

 

陣の中心付近でマシューはヘクトルに声をかけた。

ヘクトルは陣の中を見渡して誰かを探しているようだった。

 

「マシュー、ハングを知らないか?さっきから見当たらないんだが」

「・・・ハングさんですか?」

 

マシューは珍しく渋い顔をした。

 

「・・・えーと・・・あの、ですね・・・」

 

口ごもるマシュー。普段なら主君相手にもズケズケとものを言うマシューの珍しい言動にヘクトルは首を傾げた。

 

ハングの居場所を聞くだけでなんでそこまでのことになる?

 

しかも、言い渋った結果、マシューの返事は「馬に蹴られたくなかったらしばらく探さない方がいいですよ」であった。ヘクトルの頭の中は疑問符だらけになった。

 

ハングは馬の世話にでも行っているのだろうか?

 

「まあ、いいか」

「何の用だったんですか?」

「ああ、たいしたことじゃないんだが・・・食糧の配分で少しな」

 

要するにヘクトルは腹が減ったのだろう。

 

自分の主君がこんな要件で陣の外までハングを探しにいかなかったことにマシューは胸をなでおろした。

 

あの二人の姿を偶然目撃したマシューからすれば、あの空気の中にそんな話題を持ち出せばどうなるか考えたくもない。甘い空気では無かったが、あれは他人が踏み込んではいけない場所だ。

 

若様が怒鳴られたり冷たい態度とられるぐらいなら別にいい。

ただ、せっかく再会を果たしたハングさんに意味もなく不幸な思いはさせたくはなかった。

 

マシューはこれでもあの軍師を気に入っているのだ。

 

「まあ、腹が減ってるなら保存食でも食べますか?」

「お、マシュー。持ってきてたのか?」

「まかせてくださいよ。こんなこともあろうかと、ちゃんと戦いの前に準備しときました」

 

そう言ってマシューは荷物を取り出した。それはヘクトルの荷物である。

 

「この中に・・・ほら、ありました」

「お、気が利くな」

 

ヘクトルはその保存食に手を伸ばしかけて、ふと思い直す。

 

「・・・ってお前!俺の荷物に入れてたのかよ!?」

「若様は力持ちですから」

 

ケロリと言ってのけるマシュー。

 

「そういう問題じゃねぇだろ!?やけに今回の俺の荷物が重いと思ったら・・・」

 

保存食が入ってたのならそりゃ重いだろう。しかも、保存食は二人分だ。ヘクトルの分とマシューの分

 

「仮にも自分の主君に荷物持ちさせんじゃねぇっ!」

「まあまあ」

 

マシューはそれでも取り乱すことはない。それどころか、口の端には笑みを浮かべている。

 

「そういうとこが、若様のいいところじゃないですか」

 

雑用を押し付けられるのがヘクトルの『いいところ』らしい。

 

ヘクトルは湧き上がる百万語を押しとどめて、変わりに大きく息を吐き出した。

 

「・・・俺にはロクな臣下がいねぇぜ」

 

マシューしかり、セーラしかり

 

ヘクトルは釈然としない気持ちで保存食を口に運んだのだった。

 

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