【完結】ファイアーエムブレム 烈火の剣~軍師と剣士~ 作:からんBit
「おらぁぁぁああぁ!」
「死ねやこらぁぁぁあ!」
金属のぶつかり合い。むせ返る血の匂い。本来なら厳格さの中に人の営みを感じさせるキアラン城の廊下が血なまぐさい戦場へと変わっていく。
戦っては引き、戦っては引く。ハングの指揮のもと、エリウッド達は代わる代わる前線を受け持ちながら回転するように部隊を動かしていた。
狭い廊下での戦闘。人数差ができにくい状況であれば、戦いの勝敗は個人技と数人単位の連携に左右される。ハングは傷を負った者、息の上がっている者を見落とさず、的確な指示を飛ばして部隊を操っていく。
「ドルカス、エリウッド!下がれ!ウィル、レベッカ援護しろ!」
魔法や弓などの遠距離を放つ瞬間を見極め、敵の隙をついて味方を移動させる。
寸分の狂いが前線の崩壊に繋がるような綱渡りをハングは見事にやってのけていた。
怒声と断末魔が入り乱れるこの場所で自分も剣で敵の攻撃をさばきながらそれをやってのける技量は流石の一言に尽きた。
次第に戦局はエリウッド達に傾き、敵の波が廊下から引いていく。
「ヘクトル!追撃だ!地下牢の入り口までもう少しだ!」
「おう!」
よい返事を聞きハングは後方の様子を確認しようと足を止めた。
だがそれと同時に走り出そうとしたヘクトルの足もまた止まってしまった。
「ヘクトル!どうした!?」
「ヘクトル様!下がるならさっさとお願いします!こっちは手一杯なんですから!」
ハングと回復役のセーラの声が揺らぐ。
そこまで決して止まることのなかった進軍が止まる。
「ああ・・・わりぃな・・・どうやらおでましみたいだからな」
ヘクトルはにらみ合うの一歩手前で斧を構えた。そして、構えた得物を見てハングは眉間に皺を寄せた。
ヘクトルが持っていたのは安物の鉄製の斧ではなく、愛用のヴォルフバイル
ヴォルフは『狼』バイルは『斧』
『狼の斧』を構えるオスティア候弟。
それを持ち出すほどの強敵。
ハングは前線の方を見る。
廊下から一時退却し、戦線を立て直そうとするラウス兵。
その手前に地下牢への入り口が開いていた。
そこから聞こえる一対の足音。
そして、その足音の主が姿を見せる。
赤毛の短髪、肩に担いだ大剣。
だがそれ以上に、彼の放つ雰囲気がその場の空気を凍りつかせた。
「随分と濃厚な殺意だな、おい」
ヘクトルがそう言って額から流れる汗をぬぐう。
ハングもまた自分の背筋に一筋の冷たい汗が流れ落ちるのを感じていた。
そして、その青年がヘクトルの方を向く。
一際強烈な圧力が場を制圧した。
「・・・こりゃまた・・・」
ハングはその殺意に既視感を覚えていた。理由は考えるまでもない。
胸の奥底で醜い泥のように溜まり腐っていった感情。その沼地から湧き上がる燐を燃料として仄黒く燃え上がる憤怒。
復讐心に支配された殺気だった。
ハングはその殺気と過去に何度も出会ってきていた。
一つは自分の中に巣食うものとして、もう一つは草原で出会った人が抱いていたものとして。
そして今回出会ったこの殺意は自分の友人に向けられていた。
「ヘクトル、いったい何をしたん・・・」
ハングは何か言い出そうとしてあきらめた。ヘクトルを見ればわかる。
「思い当たる節が多すぎてわからんか」
「おいこら!勝手に俺を悪人認定してんじゃねぇ!」
「けど、あるだろ?」
「・・・・無くはねぇ・・・で、でもよ!命を狙われる程までのことはしてねぇぞ!」
「どうだか・・・」
ハングは戦場を確認する。
今までの戦闘で削りに削ってきたラウス兵は廊下で防衛の構えだ。
ハングの後方に控える自軍の面子は体力と気力を回復しつつあった。
「ヘクトル。あの餓えた獣みたいな奴だけどよ」
「・・・ああ」
「勝てそうか?」
「どうだかな。武器の相性もイマイチみたいだしな」
その男は身の丈はありそうな大剣を携えていた。
「勝負に絶対はないだろ?一応、複数人数で押しつぶせばあれを止めることぐらいはできそうだが・・・ああいう輩と対峙するのは避けたい」
復讐心に支配された人間の思考回路はハングはよく理解していた。
こういった輩は己が身を顧みず、捨て身の攻撃で一滴でも相手の血を多く流させることを至高とする。切り傷一つだけでも構わないのだ。相手が苦悶の顔を浮かべるのならばそれでいい。
そんな相手を敵に回してもいいことなど一つもない。
「ヘクトル、頼めるか?」
「餓えた獣に餌を与えて足止めってわけか」
「わかりやすい例えだ」
「俺は罠用の肉塊ってわけだ」
「いや、骨付き肉だ」
ハングはそう言って笑う。骨のある戦いをしろという意味らしい。
ヘクトルはその意図を読み取って、斧を肩に担ぐ。
「そいつは俺の得意分野だ」
「時間を稼ぐだけでいい。あいつは・・・強いぞ」
ヘクトルが神妙な顔で頷いた。
戦場に突如として現れた一騎打ちの場。それは戦場の流れを大きく変えた。
「退却だぁぁ!玉座まで後退しろ!」
こちらの足が止まるのを待っていたように崩れ去るラウス部隊。
「深追いはすんな!」
ハングの一声で、全軍の動きは緩やかになった。
ここまで来れば玉座まで今一歩。焦りを見せるキアランの面々にハングは睨みをきかせて立ち止まらせる。
その間も赤毛の男は動かない。向こうも一騎打ちを望んでいるのだろう。
ハングは敵のいなくなった廊下を歩き、その男の前に立った。そのすぐ後ろにはヘクトルが続いている。
「よぉ、あんた。なんか怖い顔してるな」
「・・・貴様に言われたくはない」
ハングは胸の奥にチクリときたが、それをなんとか無視した。
「あんたの狙いはこのオスティア候弟ただ一人。異論は?」
「・・・・」
沈黙はすなわち肯定である。
「お前らの戦いにここにいる他の連中は手を出さない。その代わりに条件がある」
「言ってみろ」
「一つはそこの地下牢への道を開けてくれること、もう一つはヘクトル以外はここを素通りさせてもらうこと」
「・・・いいだろう」
男はほとんど考える間もなく、道をあけた。
それほどにヘクトルに執着があるようだ。
それに、どうやらラウス兵というわけでも無いらしい。
「リン、キアランの皆と共に地下牢へ行くぞ。マシューとエルクも俺達についてきてくれ。エリウッドは残りの奴らを連れて玉座の間の制圧。マーカスさん、エリウッドの補佐を頼みます」
「任されましょう」
ハングは後方を振り返る。
「念のためにオズインさんとプリシラはここに残ってもらう」
「はっ!」
「わかりました」
そして、ハングはヘクトルの方を向く。
「死ぬなよ」
「へっ、誰に言ってやがる」
ハングはリン達と共に地下牢への階段を下って行った。
「ヘクトル、先に行ってるよ」
「おう、必ず追いついてやる」
エリウッド達もいなくなり、廊下に残るのは四名。
「さてと、てめぇ・・・名前は?」
「レイヴァン」
「そうか・・・」
2人が武器を構えて相対する。
「それじゃあ。始めるか!」
次の瞬間、武器のぶつかり合う音が激しく鳴り響いた。
――――――― ※ ――――――― ※ ―――――――
目の良いマシューを先頭にして階段を駆け下りるキアラン勢。
マシューは律儀に牢屋の見張りを続けるラウス兵を階段の下に見定めた。
「止まれぇ!貴様、ラウスじゃないな!」
槍を向けるラウス兵。マシューはそのまま階段から飛び降りて、そのラウス兵の頭上に着地した。
ラウス兵を踏みつけながら鎧の隙間に短刀を差し込み、首筋にある血管を確実に引き裂いて仕留める。
鎧の隙間から血を噴出して倒れる男を蹴り倒し、マシューは冷たい石の床に着地した。
1人目をやられて周囲の兵が動揺したところに階段の上からウィルの矢とエルクの火球が降り注いだ。
そして、怯んだ隙に剣士と騎士が踊りこめば地下牢の制圧は容易だった。
「リンディス様!ケント隊長!」
「戻ってきてくれたんですか!?」
口々に感嘆の声をあげるキアラン兵。
牢屋に捕らわれている兵士の数はハング思っていたよりも多かった。
さすがに半端な鍛えられ方はしていないようだ。
「フロリーナ!ウィル!無事だったか!!」
「先輩方も!よかったです!」
「・・・あ、あの・・・えと」
牢屋を次々と解放していくハング達。
「って、うおぉい!副隊長であるこの俺!セインには誰にも声無しなのかよ!」
「貴様らぁあぁああ!なにをしている!」
「うおっ!くっそぉラウス兵の生き残りかよ!!ここで、俺の必殺を・・・」
組み合うセインとラウス兵
「お前ら邪魔!!」
ハングがラウス兵の首に左腕を叩きつけた。強烈な一撃にラウス兵は空中を一回転して、床に叩きつけられた。
「あ、あれ・・・」
「セイン!遊んでねぇで、さっさと地下牢を解放しろ!俺じゃ誰がキアラン兵かまではわかんねぇんだ!」
「なんか最近俺の扱い酷くないか・・・」
涙目になるセインを尻目にハングは城の地下牢をざっと見渡した。
「あ・・・」
「え?」
その時、輝くような碧眼と目が合った。
「ルセアさん!?」
「ハングさん!?」
鉄格子越しにいたのはルセアだった。
「あ、と、とにかくこの牢屋を・・・」
「鍵は開いてますよ」
「そうか・・・って、なんで開いてんだ!?」
あまりにも突然の再会にハングの思考は一旦停止してしまっていた。
「私と共に捕らえられていた人たちが鍵を隠していたらしく、自力で開けてケントさん達と合流しまして」
「あ~・・・なるほど・・・」
ハングは牢屋の扉を開けて中に入った。
「ハング、こっちは終わったわ・・・って、え!!ルセアさん!?」
「なんだ、リンも知らなかったのか?」
「ええ・・・」
もし、ルセアが捕らわれていることを知ってたうえでハングに情報提供を怠っていたとなればハングの雷は免れない。リンは図らずも危険を回避したのだった。
「数日前から傭兵としてお世話になっておりまして」
「そうだったの。だったら声をかけてくれればよかったのに」
「あのな、今のお前は常に『リンディス様』なんだぞ。おいそれと声をかけられるか」
唸るような声をあげるリン。お姫様扱いを嫌う彼女らしい反応である。
「・・・しかし・・・」
ハングは少しルセアの様子を観察する。
「えと・・・なんでしょう?」
見た目は美女であるルセアを観察すると、変な気分になってくるのだがそれは置いておく。
「手、震えてんな」
「・・・あ」
ルセアは修道士。十分な戦力ではある。戦いの場に怯えるような人でないことはハングも知っていた。
「ルセアさん。鍵のかかってない牢から出なかったのもなんか理由があるんだろ?」
「・・・はい」
ハングはリンと顔を見合わせた。
「理由は聞かねえけどよ・・・ま、戦えるなら追っかけてこい。俺たちはキアラン城を取り戻す」
「・・・申し訳ありません」
「謝んなよ。そういうこともあるさ」
ハングはその牢から出ようと扉に手をかけた。
「り、リンディス様!ハングさん!」
ルセアが少しだけ声を張った。
「神のご加護を・・・」
ルセアらしい鼓舞であった。
「ありがとな」
「行ってくるわね」
ハングとリンは笑顔を作り牢屋を離れた。
牢屋のすぐ外には解放されたキアランの兵士達が集まっていた。
「リンディス様、戦えるのはおよそ二十人。動けぬ者がその倍程おります」
リンディスはケントから報告を受け、そのまま視線をハングに送る。
その意図を察し、ハングがリンに代わり指示を出した。
「五人は怪我人と共にここを護衛、十人は城外の警戒、残りは城内の掃討。人選は任せる」
「はっ!」
「よし。ケントとセイン以外はエリウッド達と合流する。行くぞ!」
ハング達は階段を駆け上がり、キアラン城の戦いへと戻って行った。