【完結】ファイアーエムブレム 烈火の剣~軍師と剣士~   作:からんBit

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17章~謎の行方 ③~

廊下に響く激音。ヘクトルとレイヴァンの一騎打ちはその打ち合いが何合目かを数えられる段階はとうに越えており、ただ集中力と持久力の勝負となっていた。

 

「ハァ・・・ハァ・・・やるじゃねぇか」

「・・・・・・」

 

レイヴァンが仕掛けた。間合いギリギリからの上段への攻撃だ。

ヘクトルはわずかに体を逸らしてかわす。

 

レイヴァンは返す剣で更に追撃。

ヘクトルはヴォルフバイルの柄でその攻撃を受け止めた。

一瞬、お互いの動きが止まる。

 

「うおらぁぁぁあぁあ!」

 

雄叫びと共にヘクトルは力任せにレイヴァンとの間合いを潰し、膝蹴りを繰り出した。

ヘクトルの膝がレイヴァンの腹にめり込む。腹部にかかった圧は肺へと至り、レイヴァンの身体から空気を抜き出した。

 

「ぐふっ・・・」

 

レイヴァンの表情が揺らぐ。ヘクトルは剣を弾き、追撃で斧を横に振るった。

 

レイヴァンは回避は不可能と判断し、剣を盾のようにして構えてそれを受け止める。斧の刃で大剣の剣腹が激突する。レイヴァンの潰された肺が荒れた息を繰り返す。

だが、レイヴァンはただ守勢に回ったわけではない。柄の長いヴォルフバイルを振り切った直後の防御が手薄となったその瞬間にレイヴァンは踏み込み、最速で頭突きを見舞った。

 

ヘクトルの視界に星が舞う。

 

危険を察したヘクトルは後方に大きく飛んだ。レイヴァンの追撃はない。ヘクトルの膝蹴りが確実に脚の力を削っていた。

 

ヘクトルは頭を振って気を取り直す。

 

「なかなかやるじゃねえか・・・」

 

レイヴァンからの返事は無い。

ヘクトルはそんな彼を見てニヤリと笑ってみせた。

 

「ここまでの奴とはなかなか会えねえ。どうだ、俺たちの仲間にならねぇか?」

「・・・・・・」

「ま、そんな顔になるよな」

 

レイヴァンは目を細め、顔を強張らせる。有体に言えば、呆れていた。

命を狙う相手を仲間に加えようとするなど、正気ではない。

 

「まぁいいや。それじゃ、そろそろ疲れてきたんでな」

 

ヘクトルはヴォルフバイルを構える。

 

「決着付けさせてもらうか」

「・・・望むところだ」

 

レイヴァンも剣を青眼に構えた。

 

「おらぁあああぁあ!」

「うおおおおぉお!」

 

お互いが踏み込む。得物を握る手に力がこもる。

 

最後に二人が選んだ戦法は同じだった。

 

あえて防御を捨て、お互いの急所を狙う一撃必殺。

 

速かったのはヘクトルだ。

 

攻撃速度の話ではない。反応速度の話だ。

 

ヘクトルは反射に近い速度でレイヴァンの攻撃に反応し、腕に巻いた手甲でで剣を受けとめた。

剣が金属を割る歪な音がした。防ぎきれなかった切っ先がヘクトルの腕の皮と肉を切り裂さく。

だが、その攻撃はそこで止まった。

 

対してヘクトルの攻撃はもう止まらない。ヴォルフバイルの重量にヘクトルの剛腕を乗せた一撃がレイヴァンの首へと迫っていた。

 

取った!

 

ヘクトルはそう確信した。

 

その瞬間、信じられないことが起きた。

レイヴァンが剣を手放したのだ。それは咄嗟の行動とは思えない。あらかじめ準備していた速度だった。

 

極限状態の殺し合いの中、ヘクトルはわずかな一瞬が何分にも引き延ばされたような感覚に陥った。

走馬燈のような世界でヘクトルはレイヴァンの手に短剣が握られているのを見た。

 

こいつ!刺し違える気か!

 

ヘクトルは踏み込んだ足をずらして無理やり半歩下がる。

 

短剣をかわすことを最優先するヘクトル。そのせいで斧に余計な力が入り、軌道が逸れる。

ヴォルフバイルはレイヴァンの首をとらえきれず、胸板を切り裂くにとどまった。

鮮血が飛び散る。だが、出血が派手な割に手応えがない。

 

ヘクトルは飛びのくようにその場から離れる。レイヴァンの短剣が空を切った。

レイヴァンは追撃ができずにその場に片膝をつく。ヘクトルの手甲に食い込んだままだった剣が外れ、血が滴り落ちた。

 

それでも両者は目を離さない。それはまるで二匹の獣だ。

 

二人は自分の体を叱咤し、震える脚で立ち上がる。

 

「まだ・・・まだだ!!」

 

レイヴァンが吠える。

 

「ああ、まだまだぁぁ!!」

 

ヘクトルが気合の裂帛を放つ。

 

そして、二人が駆けだそうとしたその時。

 

「はいはいはいはい!そこまでだ!」

 

そこに手を叩いて注目を集めながら現れた人が一名。

 

 

レイヴァンの後方から堂々と歩いてくるのはハングだった。

突然の来訪者に二人の動きが止まる。

 

ハングはレイヴァンとすれ違いざまに脚を払って床に倒す。

 

「のわっ!!」

 

既に疲労困憊であったレイヴァンはあっけなくその場に横たえられてしまった。

 

「貴様!!手を出さないと・・・」

「ああ『他の連中は手を出さない』って俺は言ったな。だから『俺』以外の他の連中は手を出してない」

 

レイヴァンの顔が苦々しく歪んだ。

そして、そんな顔をしているのはレイヴァンだけではない。決闘の場を邪魔されたヘクトルもまた、ハングに対して険しい顔をしていた。

 

「ハング!なんで戻ってきた!」

「んなもん、お前が必要だからだ」

 

あっさりと即答されて、ヘクトルは唖然とする。

 

「俺は『時間を稼げ』と言ったろうが決着付ける必要はない。プリシラ、さっさとそこのバカ貴族とそこのバカ傭兵を治癒してやれ」

「は、はい!」

 

ハングはプリシラに向けてそう言った。

 

「プリ・・・シラ・・・だと?」

「ん?どうした?バカ傭兵」

「・・・・・・」

 

変な渾名を付けられて下からハングを睨むレイヴァン。

ハングもそれを睨み返す。

 

「・・・・・・」

「・・・・・・」

 

そのにらみ合いはヘクトルの回復を終えたプリシラがレイヴァンに近づいていたことで一時中断となった。

 

プリシラは殺意を剥き出しにするレイヴァンになんの躊躇いもなく近付いていく。

一応ハングとオズインが見張っているとはいえ、その肝の据わり方はそこらの深窓の令嬢とはわけが違う。

ハングはオズインにプリシラの護衛を任せて、ヘクトルに近づいた。

 

「で?まだ戦えるか?」

「あ、ああ・・・まぁ戦えはするが・・・」

「ならさっさと前線に行け!グズグズすんな!」

「お、おう!」

 

ヘクトルは不思議なものを見るような目をしながら、前線へと戻っていく。

ヘクトルにはハングがなぜか怒っているように見えていた。

 

そんなハングにオズインがこっそりと声をかける

 

「それで、なにかありましたか?」

「・・・まぁ・・・そうですね」

 

ハングは自分の感情が妙にささくれ立っているのを感じていた。

 

その原因は主にルセアにあった。ルセアが外に出ない理由はハングにはだいたいの予想がついていた。

ルセア本人は何も喋ろうとしなかったが、状況証拠が整いすぎている。

 

地下牢から出てきたレイヴァンと一人地下牢で待つルセア。この二つを繋ぐのはそれ程難しいことではない。

 

ハングはレイヴァンへと視線を向けた。

 

彼は治癒の杖を受けて回復した体を起こしたところだった。

 

「あの・・・大丈夫ですか?」

 

レイヴァンは体を回して節々の動きを確かめてみる。

完全では無いが、体は思うように動くまでに戻っていた。

 

「プリシラと・・・言ったか?」

 

レイヴァンはハングの方を警戒しながら小声で尋ねた。

 

「は、はい・・・あの・・・あなたは・・・」

「・・・俺がわからないか。無理もないか」

 

レイヴァンが息を吐く。途端にその顔から硬さが消える。

その顔になって初めてプリシラは思い出と重なる姿を見た。

 

「・・・もしかして、レイモンド兄様、ですか?」

「大きくなったな、プリシラ」

「兄さま!兄さまなのですか!?」

「感動の再会を邪魔して悪いが」

 

ハングが突然に声をかけた。それはあからさまに狙って声をかけたものであった。

 

「レイモンドとかいったか?バカ傭兵」

「その名は捨てた。今はレイヴァンだクソ剣士」

「悪いが俺は剣士じゃなくて軍師だ。ついでに名前はハングだ」

 

罵詈雑言の応酬とまではいかないが、殺伐としたやり取りだった。

そこに居合わせたプリシラとオズインは珍しい生き物でも見るようにハングを見ていた。

ハングがここまで短絡的な侮辱をするのを二人は初めて見ていた。

 

「でだ、バカ傭兵。お前はヘクトルに恨みがあるらしいが、お前の・・・妹・・・なのか?まぁ、いい。とにかくお前の大事な人らしいプリシラはこちらの庇護の下にある」

 

随分と直接的な交渉である。オズインはそう思った。

 

要約するとプリシラを人質として投降しろと言っているのだ。

 

「・・・それで、条件はなんだクソ軍師」

 

憎々しげなレイヴァンを前にハングはあっさりと言ってのけた。

 

「お前を傭兵として雇う」

「・・・は?」

「え?」

 

目を丸くするレイヴァンとプリシラ。その顔は確かに似ていた。

 

「バカ傭兵、お前はヘクトルと互角の勝負ができるだけの腕がある。その戦力が俺たちは欲しい。そして、お前は妹のプリシラと共にいられる上に標的の近くに常にいられるんだ。悪い取り引きじゃねぇはずだが」

「正気か?クソ軍師?」

「正気だ。バカ傭兵」

 

視線を合わせる二人。

 

プリシラはその二人に交互に視線を送っていた。

レイヴァンはハングの目から真意を読み取ろうとしていたが、結局のところ眉間に皺を寄せて頷いた。

 

「・・・いいだろう・・・後悔しても知らんぞクソ軍師」

 

ハングは口の端で笑う。

 

「はぁ?捨て身の攻撃を軽々しく防がれるような奴なんざ、別に脅威でもなんでもねぇんだよバカ傭兵」

 

悪口を言いながらも握手をかわす二人。

 

「契約金の話は後回しでいいか?」

「ああ、俺はどう動けばいい?クソ軍師」

「とりあえず、ルセアさんを迎えに行けバカ傭兵」

 

レイヴァンは少しだけ笑う。随分とつまらなそうな笑みだった。

 

「なんだよ、後悔してんのか?バカ傭兵」

「ぬかしてろクソ軍師」

 

レイヴァンが剣を担ぎなおし、地下牢へと向かう。

ハングはその背中を見送りながら、プリシラとオズインに声をかけた。

 

「プリシラはこっちに来てくれ、玉座に向かう」

「は、はい・・・あの、ハングさん」

「ん?」

「ありがとうございます!」

「別にいいんだよ・・・」

 

随分と元気なプリシラを連れてハングはオズインと共に廊下を走り出した。

ハングは並走するオズインを横目に見ながら拗ねたような声で呟いた。

 

「反対しなかったですね?」

 

当然、レイヴァンの話だ。ハングはオズイン主君を狙う傭兵を雇ったのだ。

ハングとしても小言の一つは覚悟していた。

そんなハングにオズインは笑って答えた。

 

「ハング殿は反対しても思い留まりはしなかったでしょう?」

 

ハングは黙る。沈黙はすなわち肯定である。

オズインはまだ見習いであるこの軍師の肩を軽く叩いたのであった。

 

 

 

――――――― ※ ――――――― ※ ―――――――

 

 

 

「ここを抜けば玉座よ!」

「踏ん張りどころだ!押し込め!」

「どけぇぇええ!」

 

戦場は後詰で参加したヘクトルが玉座の扉を押し切り、集結を迎えた。

その後、ハング達も合流したが、辿り着いた玉座の間にはダーレンはおろかハウゼンの姿もなかった。

 

「おじいさまっ!おじいさまっ!!どこ!?」

 

リンがあげる叫びが虚しく城内に響く。

 

「どこか別の城に移動させられたのか?」

「そんなはずあるか!城から出る連中は全部マシューが抑えてるんだ!城内を探せ!少なくともハウゼン様はどこかにいるはずだ!」

 

皆が散っていくなか、ハングの声にも焦りが見えていた。

ここにいないことが何を意味するか、ハングにはわかりすぎる程にわかる。

 

「・・・おい・・・」

 

その時、玉座に近寄っていたヘクトルが皆を呼んだ。

 

「どうしたの!?」

「ヘクトル、何か見つけたのか!?」

 

エリウッドとリンが近づく。ヘクトルは玉座のすぐそばの地面を指さしていた。

 

「ここを見ろ・・・血の跡だ」

 

玉座にこびりついた血。黒く変色していてもわかる。それは間違いなく血の跡だ。

 

「いやっ!ウソよ!!」

 

取り乱すリン。目の前の現実が霞んでいくように揺らいだ。自分の足にまるで力が入らない。

彼女はただその場から逃げるように数歩後ずさった。

その時、リンの背中が誰かにぶつかった。

 

「・・・・あ」

 

リンが見上げると真剣な顔のハングがいた。リンの体がハングの腕に掴まれる。

 

「落ち着け、バカ」

 

短く、それでいて冷静な声。そこに熱を吸い取られるかのようにリンの頭に登っていた血が引いていく。

 

「まだ、死んだと決まったわけじゃねぇんだ」

「そ、そうね・・・そうだわ・・・」

「お前が落ち着かなくてどうする」

「え、ええ」

 

ハングはリンを掴んだ手を離さずに、リンの呼吸が落ち着くのを待った。

しばし静かな時が流れる。

 

「・・・ハング」

「平気か?」

「うん・・・大丈夫・・・」

 

リンはハングに預けていた体重を自分が取り戻す。ふらつきそうになる脚を叱咤してリンは自分の両足で立った。

 

「とにかく、おじいさまを探しましょう」

「ああ!」

 

その時、激しい音がして扉が開き、誰かが玉座の間に飛び込んで来た。

 

「ハングさん!ヘクトル様!」

「マシュー!?」

 

息を切らし、頬を高揚させて走り込んで来たマシュー。

 

「どうした?」

「はぁ・・・はぁ・・・えーと・・・と、とにかくこっちへ来てください!」

 

ハングはすぐさま駆け出した。

 

「僕らも行こう」

「ああ」

 

ハングを追って走り出した三人、マシューに先導されて向かったのは城の片隅にある部屋だった。

そこはかつてハングがこの城に滞在していた時に使っていた部屋であった。

 

「・・・はぁ・・・はぁ・・・」

 

部屋に飛び込むハング。そして、部屋の中の様子を見てハングは力なく笑う。

 

「は・・ははは・・・はははははは!」

 

その部屋の寝台にハウゼンが横になっていた。規則的に上下する胸部から生存も確認できる。

ハングは安心して力が抜けたかのように、半開きのドアにもたれかかった。

 

「・・・お待ちしておりました。ハング殿ですね」

 

突然声をかけられ、ハングは驚いて声がした方を向く。そこに他に誰かがいるとは思わなかったのだ。ハングに気配の一切を悟らせなかったその声の主は女性であった。

 

「おじいさま!」

 

追いついて来た三人が部屋に入ってくる。リンは一直線に寝台の側へと駆け寄った。

ハウゼンの意識は無かったので、感動の再会とはいかなかったが祖父が無事な様子にリンの目頭が熱を帯びる。

リンは自分の信じる神に感謝を捧げていた。

 

その様子にヘクトルとエリウッドも安堵したのか、大きくため息を吐きだした。

 

「・・・良かった・・・」

 

リンとハウゼンの様子を見ながら、ハングもまた気が抜けそうなほどの安堵が胸に広がっていくのを感じていた。

 

これ以上、あいつには家族を無為に失って欲しくない。

 

それがハングの偽りのない本音であった。

ハングは目元に柔らかな笑みを浮かべながら、寝台の隣に膝をつくリンの背中を見つめていた。

 

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