【完結】ファイアーエムブレム 烈火の剣~軍師と剣士~   作:からんBit

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間章~軍師の長い一日(前編)~

キアラン城の事後処理と皆の休息の為に丸一日城で休むことにしたエリウッド達。

 

そんな城でハングは戦闘の傷の手当てをする間も惜しみ、キアラン領の軍部の編成や滞りまくっている政務に忙殺された。

 

そんなキアラン城の夜。

 

休む間もなく仕事を続けていたハングは夜中を少し過ぎたあたりで多少の書類と共に自室に戻ってきた。

 

「あら、おかえり」

「おう、ただいま」

 

レイラの進言によりキアラン侯の生存は隠すこととなった。

 

【黒い牙】が関わっているのだ。生きていることがわかればまた命を狙われかねない。ことが落ち着くまでそうしておくのが賢明である。

 

そういうことを踏まえた上でレイラはハウゼンをハングの部屋に運んでいた。

 

ハングが使っていた部屋は今も空き部屋のままであり、ハングがこの城にいる間は使われるのは不思議ではない。また、祖父を失ったリンディスが悲しみにくれてハングの部屋を頻繁に訪れるのもさほど不自然はない。

 

レイラにそう説明されて、ハングは赤面しつつも渋面を作った。

 

余計な情報を吹き込んだマシューに鉄拳をぶち込んだものの、ハングは代案を提示することもできず、言われるがままにハウゼン様と同室という現状を受け入れた。

 

そういうわけで、今この部屋はリンとハング、ハウゼンの三人が使用していた。

 

「お疲れ様。お茶入れるわね」

「ありがとな」

 

ハングは礼を言いながら自分の机に書類を広げた。

 

「何の書類?」

「予算だよ。俺らが壊した城門やら扉やらの修繕費」

 

ハングは過去の予算を見比べながら新しい羊皮紙にいくつかの項目を書き込んでいく。

その隣でリンは紅茶の準備を進める。

 

こうして見ると、明らかに二人は『そういう』関係にしか見えない。

だが、それを言う者はいない。

 

「ハウゼン様の容体は?」

 

インクを乾かすために羊皮紙に砂をかけながら、ハングはリンに尋ねた。

 

「先程、目を覚まされて少しお食事をとられたわ。でも、途中で戻してしまわれて・・・」

 

ハングの前に紅茶が運ばれてくる。

 

「そうか・・・」

 

ハングは羊皮紙を丸めて、別の書類を手にとった。

 

「・・・どうして・・・おじいさまばかり・・・」

「・・・ほんとにな・・・」

 

リンは祖父の側に椅子を寄せてそこに座った。

しばらくハングの走らせる羽ペンの音が部屋を支配してしまう。

 

「・・・ふぅ」

 

半時の程を置き、ハングはため息と共に羽ペンを置いた。

 

「・・・終わったの?」

「ああ・・・」

 

ハングは書いていた羊皮紙を広げたまま放置して、椅子から立ち上がった。

腰を回して、凝り固まった筋を伸ばすといい音がなる。

 

「お疲れ様」

「ああ、でも・・・俺にはこれしかできない・・・」

 

ハングはリンの後ろに回り、椅子の背もたれに手をついた。

 

「・・・十分よ・・・キアラン領で政務が滞ってしまえば・・・一番悲しむのはおじいさまだから・・・」

「・・・そうか・・・」

 

ハングはハウゼンの様子を見やる。

皺が刻まれた顔は一年前より少し窶れたようだった。

土気色だった顔色には多少の色味がさしているが、ここ数時間で一段と老けたようにも見える。

 

ハングはリンの背中に目を移した。

 

彼女の背中からは悲壮感は見えない。

 

草原で孤独を長く味わったリン。今更、悲劇のヒロインを気取れる程に幸せな人生を歩んではいない。不幸との付き合い方も、悲しみの抑え方も、涙の止め方も彼女は知り尽くしていた。

 

ハングはその肩に手を置こうと手を伸ばし、途中でやめた。

今のリンには生半可な慰めなど必要ない。

 

今の彼女にとって大事なのは心を落ち着ける休息の時間なのだ。

 

「さて、そろそろ寝るか?」

「・・・ええ」

 

そして、二人は部屋を見渡した。

 

寝具はある。寝床ではハウゼンが寝ている。接客用の柔らかい長椅子は一つ。

 

二人の視線が交差した。

 

 

――――――― ※ ――――――― ※ ―――――――

 

 

「ウィル!やめなよ!」

「いいじゃん、別に。風呂を覗くわけじゃないんだから」

「でも・・・」

「そういうエルクだって付いて来てるんだから、興味あるんだろ?一緒に見てみようぜ」

 

ハングの部屋の窓の外にて、リンの待つ部屋にハングが戻ってきた気配を敏感に感じたマシューの報告により、野次馬部隊が出動していた。

 

「でも、ウィルの手際には驚いたわね」

「これでも弓兵ですよセーラさん。高い位置を確保するのは基本です」

 

窓の外に簡易な足場を作り、安定した態勢での覗き。これの設置するまで殆ど時間はかかっていなかった。それには空中で静止し、資材を運ぶことのできるペガサスナイトの協力なしでは達成えなかっただろう。

 

「って!フロリーナさんまで来てるんですか!?」

「・・・エルク、大きい声はあまり・・・」

「すみません、プリシラ様・・・・って!えぇ!」

「うるさいぞエルク!男なら腹決めろ」

「セインさんまで・・・」

「エルクさん、お茶いります?」

「・・・・・・」

 

レベッカにお茶を差し出され、エルクはため息をつくことも忘れてしまった。

いつの間にかかなりの大人数になっている。

 

皆の気持ちはただ一つ。

ハングとリンがどこまで進んでるのか確かめてみたいだけだ。

 

その心はエルクとて同じ。

 

「さぁて、今夜は二人っきり。しかもリンディス様は傷心気味だ。ここでいかなきゃ男じゃないぞ!」

 

無責任な台詞を放ちながら、ウィルが一番のりで窓から部屋の中を覗き込んだ。

 

「あれ?なんか喧嘩してる?」

「え!?」

 

一同がほぼ同時に声を出した。そして、窓と言わず壁と言わず、とにかく会話を聞こうと耳をくっつけた。

 

『わからずやめ!そんな固い頭してっから戦術の一つも身につかねぇんだ!』

『ハングこそ、頭でばっかり考えてるから剣の腕がいつまでも底辺なんじゃないの!』

『そんな俺に一本取られてるお前はどうなんだ?』

『一年前の話でしょ!昔のことを蒸し返す男は嫌われるわよ』

 

紛れもなく喧嘩している。ハウゼン様が寝ているので極めて小さい声だが、皆が寝静まっているこの時間帯だ。二人の声はよく通る。

 

「ハングが声を荒げるなんて・・・」

 

エルクがそうぼやく。

 

ハングは怒る時にはよく声を荒げる。特にあの物理的圧力まで感じる威圧感を放ってるときにはよくそうなる。ただ、その時は必ず相手がしてはならない失敗をした時だ。

 

日常でそんな態度をとるのは珍しい。

 

「リンディス様が相手か・・・ある意味仲が良い証明なんだろうけどな」

「でも、以前も喧嘩というか口論ぐらいは毎日のようにやってましたけどね」

 

ウィルとセインが分析している隣ではプリシラ、フロリーナ、レベッカが僅かに頬を高揚させて語り合っていた。

 

「・・・わぁ・・・これが夫婦喧嘩というものなんでしょうか?」

 

プリシラが不思議そうにたずねる。

親友が結婚なんてまだ考えたくないフロリーナは必死に否定する。

 

「・・・ふ、二人はまだ結婚してないです!」

「じゃあ、痴話喧嘩?」

 

レベッカはそう言って頭をひねる。

 

「倦怠期?えーと、なんだか違うような・・・」

 

本人達が聞いたら猛烈に言いたいことがあるだろう単語を並べるレベッカ。

 

いつの間にかこの女性三人の距離が少し縮まっているようだった。

 

「でも、原因は何かしら?ハングはともかく、リンが譲らないのは珍しいわね」

 

セーラの言った言葉に一年前の面子は頷く。

ハングのことをまだよく知らないプリシラがエルクに尋ねた。

 

「そうなんですか?エルク」

「ええ。というより、ハングさんにリンディス様が常に丸め込まれていましたので」

 

それを聞き、レベッカとプリシラは頷いた。その様子は容易に想像できる。

 

「でも、今日はハング殿が感情的すぎるな」

 

セインが冷静に分析する。

 

「やっぱり疲れてるんだろうな。今日の仕事量も半端じゃなかっただろうし」

 

そして、部屋の中で二人の戦いは続いていく。

 

『だから・・・お前が上でいいって言ってるだろうが!』

『ハングは疲れてるのよ!あなたが自覚してないだけ!そんなハングを下になんかできないわ!』

「えーと・・・何の話かしら?」

 

セーラの言葉には誰も返事しない。もはや、皆が一字一句を聞き漏らすまいと耳を押し付けて、想像力を全開で働かせていた。

 

ハング達の口論は続く。

 

『お前だって女の端くれなんだ!俺が疲れてるの知ってるなら大人しく従ってくれ!』

『だめよ!これだけは譲れないわ!今日はハングがソファで寝て!』

「ソファ?あ、寝る場所の話みたいですね・・・」

「なぁんだ。そういうことだったのか」

 

一同は拍子抜け半分、安心半分といったところでため息を吐き出した。

 

「寝る場所で喧嘩なんて子供みたいですね、エルク」

「お互いが譲り合って喧嘩になってるみたいですし、そう一概には言えないと思いますよプリシラ様・・」

 

エルクはそういって壁から耳を離した。

 

「あ~あ、つまんない。二人がもっと進んでるのかと思ったのに」

「まぁ、まぁ、今日はお二人共戦いで疲れてるんですから」

「でもね、セイン!私は退屈なのよ!」

 

リンとハングの喧嘩もそろそろ終幕を迎えそうだった。

 

『このままじゃラチがあかねぇ。お前はどうすりゃ満足なんだよ』

『ハングがソファで寝てくれないなら、私は黙らないわ』

『だったら、二人で床に寝るって選択肢は無しか?』

『無しよ』

「私達も戻りましょうか?」

「そうだね、これ以上面白くならなそうだし」

 

レベッカとウィルを筆頭に皆が足場から降りようとした。

 

その時、ハングの苛ついた声がした。

 

『・・・だったら、二人でソファに寝るか?えぇ?』

 

外にいた人達の脚が止まる。そこにリンの苛ついた声も聞こえてきた。

 

『いいわね、それでいいんじゃない?もっとも、それだとハングの方が緊張して眠れないかしら?』

『何言ってやがる?お前が隣に寝てるだけだろ?』

『じゃあ、それでいいわね?』

『ああ!望むところだ!!』

「え?それでいいんですか?」

 

エルクの口から思わずこぼれた台詞に一同は胸の中で同意する。

 

彼らは明かりの消えた部屋に向かい、手を合わせた。

 

「ご馳走様でした」

 

何人かは明日のハングの表情を楽しみにし、何人かは話のタネを得られた喜びで頬を緩め、何人かはリンディスを少し心配しながら中の様子を想像する。

 

どちらにせよ、皆は得られた物に満足してそれぞれの寝室に帰っていったのだった。

 

 

 

――――――― ※ ――――――― ※ ―――――――

 

 

 

翌朝、食堂に朝食をとりに来たエリウッド。

彼はそこでなんだかやけに疲れているハングに遭遇した。

ハングは半分程目を閉じながら眠そうにパンをかじっていた。

 

「やあ、ハング。おはよう」

「お~・・おは・・おは・・・おはよ~・・・」

 

挨拶をしながらハングの向かいに座るエリウッド。

それに対し、ハングはあくびをかみ殺しきれず、大口を開けて挨拶した。

 

「どうしたんだい?やけに眠そうだけど」

 

ハングは気まずそうに目を逸らす。

 

「どうかしたのかい?」

「・・・いや・・・その・・・」

 

ハングはちらりとエリウッドを見る。そのエリウッドの目が純粋に心配してくれてるのがハングにはとても痛い。

 

普段のハングであればエリウッドの口元が絶妙に笑っているのに気が付いていただろう。だが、今のハングは心労と寝不足でそれどころではなかった。

 

ハングは身体ごと顔を横に向けながらぼそぼそと話す。

 

「昨日・・・俺の部屋でリンも寝たろ?」

「ああ、なるほど。わかったよ」

「ちょっと待て!お前は多分勘違いしてるぞ!!今お前が考えたことを言ってみろ!!」

 

思わず体をエリウッドに向けるハング。

 

「色々あって眠れなかったんじゃないのかい?」

「ちげぇえええぇえぇ!」

 

ハングの心からの叫びが食堂に響き渡る。

 

「違うのかい?」

「突然何を言い出しやがるかこの狸貴族は!いくらなんでも順序をすっとばしすぎたろうが!」

「でも、じゃあどうして?」

「う!それは・・・その・・・」

 

その時になってハングはようやくエリウッドが終始楽しそうに笑っていることに気が付いた。

完全にエリウッドに弄ばれていることを悟ったハング。だが、ハングにはこれをひっくり返せるだけの手持ちが無かった。

 

 

「で、どうしてなんだい?」

「えーと・・・だから・・・その・・・その・・・二人で・・・長椅子に寝たんだ」

「二人で?」

「・・・二人で・・・」

 

エリウッドはハングの皿に乗っていたパンを手にとった。

 

「それはまた思いきったことをしたね」

「違う!違うぞエリウッド!あ、あれは売り言葉に買い言葉でそうなっちまっただけだ!決して下心があったわけではない!」

「それで、眠れなかったわけだ」

「う、うー・・・ちくしょう!寝られるかよ!ソファの幅なんてたかがしれてるんだぞ!リンと・・・リンと・・・うわぁぁ!俺の馬鹿野郎!」

 

そのまま崩れるように机に突っ伏すハング。見ていて飽きない反応をしてくれるのはエリウッドとしても嬉しい。

 

「それで、リンディスは何か言ってたかい?」

「・・・なんか気まずくて顔見れねぇんだよ」

 

ハングは腕の隙間から顔だけをあげてそう言った。

 

「昨日は体のほとんどをくっつけて眠ってたのにかい?」

「・・・誤解を招く言い方はやめろ」

 

ハングは再び腕の間に顔を埋めてしまう。余程、昨晩のことを引きずっているらしい。

 

確かに普段から隙を見せないようにしているハングにしては随分と致命的な失敗だ。

そんなことをして、自分が平常心でいられないことぐらいわかっているだろうに。

やはり、疲労が溜まっていたのだろう。なにせ、フェレ領を出てから連戦に次ぐ連戦なのだ。いくらハングといえども、気の緩む瞬間もあるというわけだ。

 

エリウッドはパンを齧りながらそう思う。

 

とはいえ、からかう側としてはそうでなければ面白くない。

 

実は昨晩の部屋での話はエリウッドは既に知っていた。

 

朝からお喋りなシスターが朝から所構わずしゃべりまくっていたので嫌でも耳に入る。

既にこの城の中で昨晩の話を知らない者を探す方が難しいであろう。

 

おそらく、ハングは今日一日皆からからかわれ続けるのだろうとエリウッドは予想していた。

 

多少は同情もあるが、そんなものは今のハングを目の前にしたらすべて消えていった。

それ程に今の弱り切ったハングは楽しみがいがあった。

 

「おう、ハング。おはよう」

「おう、ヘクトルか・・・おはよう・・・」

「昨晩はリンディスを抱きしめて寝たって聞いたけど本当か?」

 

ハングの絶叫が再び食堂内に鳴り響く。

 

相手にしなきゃいいのに

 

などとエリウッドは思いつつ朝食のパンを再びかじったのだった。

 

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