【完結】ファイアーエムブレム 烈火の剣~軍師と剣士~   作:からんBit

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2章~精霊の剣(後編)~

セインとケントの二人を先行させたことで、ハング達は難なく祭壇の壁に到達した。

 

「ハングさん、一応ここの壁が脆そうではありますけど・・・壁を壊すのはちょっと無理そうですよ。斧でもない限り破れそうにない!」

 

セインがヒビの入った神殿の石積みを前にそう言った。

 

「ハング殿、やはり入り口に向かったほうがよいのでは?」

 

ケントが馬に乗りながらそう言う。騎士二人の意見を聞きながら、ハングは石壁に触れた。軽く叩いて奥行を確かめる。そして、ハングは騎士二人に向けて不敵に笑って見せた。

 

「いいから下がってな」

 

その笑みに気圧されるように、セインとケントはハングのそばから離れる。

 

「さて・・・」

 

ハングは左肩を回す。包帯に包まれた左腕の筋が鳴る音がした。

 

「ケント。俺が壁をぶち破ったら飛び込め、そのまま敵を蹴散らしつつ入口を抑えろ」

「は、はいっ!」

「リンがその後に続け、祭壇の中の敵を片付けろ」

「ハングはどうするの?」

「お前と一緒に突っ込む。俺も戦った方がよさそうだ。あまり俺と離れすぎないでくれよ」

「わかったわ」

「それからセイン!」

「まってました!俺はなにをすればいいですか?」

 

暑苦しいまでの張り切り具合にハングの頭に『セインをブルガルに伝令で走らせる』という案が掠めた。

 

「セインは外を警戒しつつ殿を任せる」

「え~~俺最後ですか~」

 

切り捨てたろかこいつ?

 

ハングは割と本気でそう思案した。視界の隅ではケントのこめかみが動いてるのが見て取れる。ハングは諸々の憤りをなんとか押し留め、効果的な台詞をくれてやることにした。

 

「セイン、背中はまかせたからな」

 

その一言で、セインの顔色が急激に変わる。

 

「お任せあれ!このセインめが、リンディス様の美しいその背中に迫る悪漢共をわが槍で突き崩してご覧にいれましょう!」

 

本当に大丈夫か、こいつ?

 

出かかった溜息を押しとどめるのに随分と苦労した。

 

「そんじゃあ、はじめるぞ!!」

 

ハングは気合と共に息を吐き出し、左腕を振りかぶる。大地を踏みしめ、大気を割き、渾身の力を持って左腕を目の前の壁に叩きつけた。重低音が響き、確かな手ごたえが布地を通して鱗に響いた。腕の付け根から伝わる力が拳の先で爆発する。

 

「ウオおぉおお!」

 

口から漏れる裂帛。そしてハングは一気に腕を振りぬいた。

石が裂け、風が吹き抜ける。崩れ去った目の前の空間で砂埃が旋風に乗って踊り出す。

 

「ケント!突っ込め!」

 

ハングが叫び、馬が嘶き、ケントが驚いた顔のまま祭壇の中に駆け込んだ。

 

「リン!行くぞ!」

 

ハングはリンを引き連れ、砂埃の先に飛び込んだ。

そこでは完全な奇襲で取り乱した一味がケントの馬に追い立てられて右往左往していた。

 

ハングとリンは同時に剣を抜く。二人は近くにいる連中を片っ端から切り刻んでいった。

背後からセインが現れて、ハング達の後方を埋める。

ハング達に気づいて剣を抜く奴を切り、背を向けて逃げようとする者を貫く。

ハング達はならず者の一団の戦力を確実に削り取っていった。

 

「リン!あれだ、あいつが頭だ!!」

 

ハングが指さしたのは台座の前で必死に指示を飛ばして状況を収拾しようとしている男だ。

あの首を落とせば、この戦いは終わる。

 

リンが祭壇の中を駆け抜け、一気にその男に肉薄する。

 

「てめぇなにもんだ!このグラス様と勝負しようってのか!!」

 

背中から取り出した大剣。だが、何もかもが遅い。

彼が剣を振ろうとした瞬間には既にリンの剣戟が刻まれた後だった。

 

「こ、こいつ・・・つぇぇ・・・」

 

一度も振られることのなかった大剣を取り落とし、グラスと名乗った男はその場に崩れ落ちた。

 

「頭がやられた!逃げろぉ!!」

 

散り散りになろうとする奴ら。だが、出入り口は既にケントが固めている。

人に仇なす悪漢共だ。情けをかけてやるつもりはハングには最初からなかった。

 

しばらくして、祭壇から戦闘の音が消える。

 

それを確認して、ハングはようやく息を吐き出した。

 

ケントは残党の片付けを終えて既に戻ってきている。

リンは何かを見つけたのか、厳かな手つきで鞘に入った剣を台座に戻していた。

そして、セインはというと、どこからか祭司と思われる御老人を連れていた。

 

「あっ!祭司様!」

 

リンがその老人に駆け寄った。

 

「おお、そなたは確かロルカ族の・・・」

「族長の娘リンです。祭司様、おケガは?」

 

リンと祭司が話し始める隣でセインは妙に鼻高々である。

そんなセインにハングが歩み寄った。

馬から降りたセインとハングの視線の高さはさほど変わらない。

 

「どこであの御老人を見つけたんだ?」

「いや~逃げる敵を追いかけてたら勢いで扉を壊してしまいまして。そしたらその奥の小部屋に祭司様がいらっしゃるじゃ無いですか!騎士たるものの役目として、動けぬ御老人をお護りするのは当然です!」

「そうか?」

「はい!」

 

ハングはその顔にほんのりと笑みを浮かべた。

 

「なるほど、それで俺の指示を無視したと」

「へ?」

 

そこまできてようやくセインは理解する。

ケントは途中から、リンは最初から気づいていた。

 

「いや、で、ですがハングさん。祭司さまをお護りするのは・・」

「ああ、それは正しい判断だった」

 

ケントが見回りと称してこの場から消えた。

リンが冷や汗をかきながら会話を途切れさせないように必死に昔話に興じていた。

 

「だがな、なんで俺達の背中を任せていた奴が敵を深追いしてんだ?」

「あ、えと、そ、それはですね・・・」

 

ハングが更に笑みを深めた。

 

「軍師ってのは信頼されてなんぼなんだよな~まぁ、会ってまだ間も無い俺の指揮なんて信じられないのもわからないわけでは無いけどさ~」

「い、いえ!私はハングさんのことを間違い無く信頼しております!」

「なのに、俺の指示を無視したと」

 

笑顔のまま、ハングが一歩前に出る。セインはもはやハングから視線を外せない。ハングの圧力がセインの視線を完全に釘付けにしていた。

 

「ここじゃあなんだからさ、ちょっと外で少し話そうか?」

「は、はい!」

 

セインが先に歩き出し、笑顔のハングがその後に続いて祭壇の外へと続く階段を上っていった。

 

「セイン!てめぇなぁあああ!!俺の言ってる意味が理解できねぇぇのかぁあ!!」

「す、すいませぇえええん!!」

 

雷が落ちた。形容では無く、本当に一発の雷が落ちた。少なくとも、その場にいた全員がそう錯覚していた。

 

 

――――――― ※ ――――――― ※ ――――――

 

 

「ハング殿、終わりましたか?」

「おう、セインも理解してくれたみたいだしな」

「は、はぁ」

 

ハングは軽快な足取りで祭壇の入り口から階段を下りてくる。その後ろにセインはいない。ケントも彼がどうなったかはあえて聞かないことにした。今回はセインの自業自得ではあるので同情の余地はない。

 

「あ、ハング。もういいの?」

 

祭司様と話をしていたリンの顔は若干引き攣ったものになっていた。

 

「おう、待たせたな」

「壁の件だけど、祭司様は精霊の怒りは感じられないって。良かったわね」

 

例え精霊であろうと、さっきの怒鳴り声を聞いた後では意見も変わるだろうなとリンは思っていたが口には出さない。

 

「そりゃ助かるけど。後で祈りの一つでも教えてくれ」

「ええ、わかったわ」

 

ケントはそこかしこに倒れているサカの戦士達の手当をはじめている。ハングとリンもそれを手伝う。皆は傷だらけで動けそうにはなかったが、祭司の杖の加護により一命は取り留めているようであった。そうこうしているうちにブルガルからの応援が来て、祭壇の中は一時的に野戦病院のような有様になっていた。

 

人の手が増え、状況が一区切りついたころを見計らい、祭司はリンやハング達を祭壇の台座へと呼んだ。

 

「さて、リンよ」

「はい」

「助けてもらった礼といってはなんじゃが、おまえさんたちには特別に【マーニ・カティ】に触れることを許そう。剣の柄に手をあてて旅の無事を祈るがいい」

 

その途端にリンの頬が高揚で赤く染まった。彼女の興奮が後ろにいたハングとケントにも伝わってきていた。

 

「あ、ありがとうございます!」

 

大きな所作で頭を下げるリンを見ながら、ケントがハングにしか聞こえないような声で呟いた。

 

「余程嬉しいようですね」

「ま、剣士にとっちゃ一生の思い出だろうな」

 

軍師にはその気持ちはあまり理解は出来ない。騎士には多少理解できるものの、それ以上に大事なものが多かったりする。

それでも、二人とも剣を扱う者の端くれ。リンの興奮にあてられ、二人も少し血を熱くしていた。

 

「で、では・・・」

 

リンが堅苦しい動きで差し出された剣を手にとった。

 

その時だった。

 

空気が明確に変わった。

祭壇の中に漂っていた血の匂いや、死体の腐臭が一蹴され、清浄な空気が吹き抜けた。

 

そして、それ以上に目に見える大きな変化があった。

 

「今・・・」

 

リンが呟く。

 

「剣が光った?」

 

ハングも呟く。その言葉が終わらぬうちに、再び祭壇内に光が満ちた。ブルガルから来た人達も手を止めて、光の差す方を何事かと見つめていた。

 

リンが手にした剣から強い光と弱い光が交互に放たれ、次第に光が収束していく。

 

「おお・・・おお・・・」

 

その剣の姿に誰かが感嘆の声を漏らした。ハングもまた目の前の光景に半ば茫然としていた。

 

「これこそ、精霊の御心じゃ・・・」

 

祭司がそう言った。

 

「リンよ・・・そなたは精霊に認められたようじゃ」

「どういう意味ですか?」

 

リンの声が震えている。その声には恐れよりも興奮に満ちていた。そんなリンに祭司は優しく声をかけた。

 

「【マーニ・カティ】の持ち主になるがよい」

「そ、そんなことできません・・・」

 

その声は悲鳴に近かった。だが、祭司は首を横に振り、諭すように言葉を重ねる。

 

「剣がそれを望んでおる。その証拠に・・・抜いてみるがいい」

 

リンが手の中の剣に視線を落とした。柔らかな手つきで柄を握り、横に滑らせる。

 

「あ・・・」

 

封印がされたはずの鞘から鮮やかな刀身が姿を見せた。

現れたのは小波のような刃文。反りの少ない片刃の刀剣。そして、その剣は喜びを表現するかのように薄っすらと光を帯びていた。

 

「抜けた・・・」

 

未だ信じられぬものを見るかのように、リンは手元を見つめる。

祭壇の中にいる人達も皆目を大きく見開いていた。

誰も声をあげない。今、この祭壇が特別な神聖な場所になっているということを誰しもが頭ではなく肌で理解していた。

 

「生きてる間に【マーニ・カティ】の持ち主にめぐり会えるとは・・・わしは果報者じやな」

 

その言葉がリンの耳に届いていたかは怪しい。リンはまだ惚けたまま剣を見ていた。

 

「私の剣・・・」

 

そんなリンに祭司が強い声で言い放つ。

 

「さ、旅立つのだリンよ。この先、どんな試練があろうとも、その剣を握り、運命に立ち向かっていけ」

「は、はい!」

 

リンの強い声が祭壇の中に響き渡る。優しい風がその中を駆け抜けていった。

 

 

 

 

――――――― ※ ――――――― ※ ―――――――

 

 

 

祭壇を出てしばらく、リンは鞘に入った【マーニ・カティ】を見つめ続けていた。

リンだけではなく、ハングやケントもリンの手元の剣に視線を置いていた。

そこに、祭壇の入口で合流したセインが最初の声をかけた。やっと精神的怪我から立ち直ったらしい。

 

「これが【マーニ・カティ】ですか・・・なるほど、珍しい剣ですね」

 

セインは剣を抜いた瞬間には立ち会っていない。それゆえの感想である。

 

「・・・なんだか、信じられない気分だわ。サカで1、2を争う名剣が・・・この手の中にあるなんて」

 

リンは腰に帯びるのも畏れ多いといった感じだ。

 

「優れた武器は、己の持ち主を選ぶ・・・それは、サカだけでなく大陸中でよく耳にする話ですよ」

 

ケントがそう言った。

 

「私は、リンディス様の剣技を拝見して常人ならざるものを感じていました。あなたこそ、剣に選ばれてしかるべき方だと思います」

 

ハングはケントの言葉に目を細める。

 

「それはいくらなんでも褒め過ぎじゃないのか?」

「ハング殿はリンディス様の剣の腕を信じていらっしゃらないのですか?」

「そうは言わねぇよ。まだ荒いが、リンの剣の才はいずれエレブ大陸に響き渡ると俺も思って・・」

「や、やめてよ二人とも!」

 

褒めちぎる二人に悲鳴をあげるようにして、リンは言葉を遮った。

ケントは生真面目な顔を、ハングは悪戯が成功したかのような無邪気な笑みを向けてきた。

リンはハングのその笑顔を見て、からわかわれていたことを悟ったが、悔しいのでそのことは黙ってておく。

 

「私は、そんなんじゃ無いわよ。ただ、少し剣が弓より得意なだけで・・・」

 

決して部族の中でも一番ではなかった。だから、自分が剣に選ばれるなんて大層な存在になってしまっていたことがなかなか受け入れることができない。

悩むリンにセインが声をかけた。

 

「こう考えてはどうでしょう。武器にも、使いやすいとか使いづらいとか自分との相性ってありますよね?この【マーニ・カティ】はリンディス様の気にとても合う・・・そんな風に思っていればいいんじゃないですか?この剣、俺たちには使えないみたいですし」

 

なかなかに弁が立つ。ハングはそんなセインに少なからず驚いていた。

 

「ほう、たまには言いこと言うじゃねぇか。闇雲に女性を口説いてきたわけじゃないんだな」

「そ、そんな言い方はないですよ~」

 

セインが熱苦しく抗議の声をあげる横でリンは再び手元の剣を見つめた。

 

「私に合う、私にしか使えない剣・・・そうね・・・それなら、なんとなく理解できるわ」

 

そう言って、リンは再び剣を抜いた。

 

「ハングも見て。これが【マーニ・カティ】・・・私だけの剣よ。大切にしないとね」

「そうだな。まぁ、少なくともセインを切ることは無いように注意しないとな」

 

セインが再び声をあげ、リンが笑い、ケントが僅かに頷いて同意を示した。

 

「さぁ、いきましょう。予想より時間もとっちゃったし」

 

剣を鞘にしまい、腰に帯びたリン。

そのもとに再び馬がひかれてくる。

 

「もう!私は歩くって言ってるでしょ!」

「いえ、そういうわけにはいきません!」

 

ケントが直立し、セインが身を乗り出し、ハングがカラカラと笑った。

 

彼らの旅はまだ始まったばかり。

 

 

――――――― ※ ――――――― ※ ―――――――

 

 

キアラン

 

土地はさほど豊かとは言えぬものの、リキア同盟の中心近くに位置し、交易の盛んな領地と言えるであろう。現在の領主であるキアラン侯爵ハウゼン様の善政は有名であり、税とは別に民達からの献金まであるほどであった。その為、キアラン城は質素ながらも清掃が行き届き。全ての場所が明るい光に満ちている。

 

「何!?マデリンの娘がまだ生きておるだと?」

 

だが、どんな場所にも常に例外は存在した。

 

ひと気の無い廊下。この先には見張り用の塔しか無い。見張りの人間を少し調節するだけでここは何の変哲もない廊下から密会の会場へと早変わりする。

 

「部下よりの報告です。マデリンの娘はケント、セイン両名と行動を共にしているとか。いかがいたしましょう?このままではいずれ・・・」

 

キアラン侯弟ラングレンにそう報告をする兵士は見張りの格好をしているものの、その身から出る気配は一般兵とは随分とかけ離れていた。密偵と思われる男を傅かせ、ラングレンは苛立ちを露わにした。

 

だが、それも束の間。彼はその案件を頭から追い出した。

 

「ベルン北域は山賊どもの横行する地と聞く。ただの小娘が、ここまで来られるはずもないわ」

 

鼻から息を強く吹き出して、自分の気持ちを入れ替える。可能性程度の未来の不安要素など、目先の問題に比べれば瑣末なことであるとでも言いたげであった。

 

「それより、早く兄上の・・・奴の息の根を止めねばならん・・・例の毒・・・ぬかりはあるまいな」

 

ラングレンの声が一際に低いものとなる。それは傍から聞けば地の底より這いだしてきたかのような声であった。

 

「疑う様子もなく、口にしております。侯の病死は時間の問題かと・・・」

「くく・・・もうすぐじゃ。もうすぐこのキアランはわしのものになる!・・・フフフフ・・・ハハハハハハハ!」

 

乾いた笑い声は廊下を僅かに反響し消えていく。残った音の余韻が唸り声のようにいつまでともその場に響いていた。

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