【完結】ファイアーエムブレム 烈火の剣~軍師と剣士~ 作:からんBit
ブルガルを出てから十日程の日が過ぎようとしていた。
ハング達からしてみれば、リンだけが馬に乗る状況というのが当然になってきていた。
もちろん、リン本人は隙あらば歩こうとするのだが、ケントとハングに阻まれて未だに成功していない。
そして、その鬱憤は知らず知らずのうちに随分と溜まってきているらしかった。
「ったく、最近お前加減を忘れてないか?」
ハングは左腕の青痣をさすりながら、リンの顔を見上げる。
「ハングの鍛え方が甘いんでしょ」
リンは突き放すようにそう言った。
リンが侯爵家の令嬢であったことを知った後も、ハングとリンの最初の約束は続いていた。その昨晩の稽古で、ハングはリンに滅多打ちにされていた。
「もともと俺は軍師だろうが、そこまで鍛える理由はないだろう」
「あら?なら戦闘中に軍師を一人残して、私たちは敵に当たっていいのね?」
最近、リンの言葉に棘が混じるようになってきている。それもおそらく馬に乗せられている腹いせだろう。
「しかし、毎晩よくやりますよね」
ハング達の会話に空気の読めない男、セインが割り込んできた。
「昼は休憩を挟みながらとはいえ、ずっと歩き通しなのに。二人とも夜には結構本気で打ち合ってますし」
本気。まさしくその通りだ。少しは加減しろ。
と、心の中でぼやいたのはハングだけであり、リンには関係のない話であった。
なにせハングとの夜の打ち合いでリンは実力の半分程度しか出していない。
「俺の場合、本気でかからないと訓練にならないからな。教わる側なんだから。まぁ、教える側は常に手心を加えてるんだろうけど」
そんな愚痴ともつかぬハングのぼやきにリンが食って掛かった。
「それは勉強会でも一緒でしょ。昨日の戦術の話なんて私はさっぱりわかんなかったんだから」
それも、まさしくその通り
普段ならハングもリンの段階に合わせて難度を調節しているのだが、昨日の生徒は一人ではなかった。
「まことに申し訳ございません。臣下である私がでしゃばった真似を」
ケントがハング達の後方から頭を下げた。
実は昨晩は熱心な生徒が一人増えていた。
ケントは毎晩行われるハングとリンの姿を見張りの合間にいつも眺めていた。その生真面目で向上心のある性格からして、剣の打ち合いは割って入れずとも勉強会には少し顔を出したくなったのは無理も無い話である。
「ケントが謝ることじゃないさ。熱中しちゃった俺も悪い」
しかも、リンと違って予備知識が多少はあるものだからハング自身も教えていて楽しかったのもまた事実であった。
その結果、昨日はリンが完全に置いてきぼりになっていたのである
二人に悪意が全く無かったのはリンも知っていたので文句も言わずに昨晩からいたのだが、それで置いてきぼりにされた感情が消えるわけではない。
「リンも悪かったな」
「別にいいわよ、もともとあんまり勉強って好きじゃないし」
「拗ねんなよ」
「拗ねてない!」
ムキになって言いかえすも説得力はあまりなかった。
『毎晩の勉強会が少し面白くなってきた』
と、言っていたのは本人である。
その矢先に締め出しを食らったもんだから拗ねかたも激しい。
いろいろなことが合わさってリンの本日の機嫌はあまりよろしくはないのだ。
それに、この旅の面子では感情を発散させられるような気楽なやり取りができるのはハングしかいない。ハングはそのことを理解して、甘んじてリンの捌け口役を引き受けていた。
「本当に申し訳ございません」
ケントが今日何度目かわからない謝罪をしてくる。
「だから、ケントがそんなに謝んなくてもいいんだって」
「そうだそうだ、ハング殿がこう言ってるんだ。しつこい男は嫌われるぞ」
3人の視線が一斉にセインに向いた。
『お前だけには言われたくない』
誰も口には出さなかったが心は一つであった。
皆の心が一つとなっている間も一行の足は止まらない。
リン達は山脈のふもとの町へと辿り着こうとしていた。旅路は順調であり、この町では立ち止まらずに素通りする予定であった。
だが・・・
「これは・・・」
その町を前に絶句するリン。目の前に広がる廃墟のような建物群を『町』と呼ぶのはなかなかに難しかった。
「こりゃ、ひでぇや・・・」
ハングの言葉に異を唱える者はいなかった。
壁の一部が盛大に壊された家、もはや消し炭と化した瓦礫、家畜の死体が異臭を放っていた。輝かしいステンドグラスがあったであろう教会はすでに荒れ果てている。道端に捨てられた錆びた斧には血の跡がまだ残っていた。人の死体が目に見える所にないだけまだマシだった。
「そこらじゅう荒れ放題ですね。ここの領主は、何やってんでしょう?」
セインがそう言いながら馬に駆け上って槍を手に取った。まだ賊が周囲に潜んでいる可能性があるので、周囲を警戒しているのだろう。
リンもすぐに馬から降りて、ケントと代わる。
「そう簡単にどうにかできる場所じゃないんだよ。特にこの辺はな」
町に足を踏み入れながらハングは右手に見える山を睨みつけた。
それはサカの草原とベルン王国を分ける山脈。その中でも一際大きな山がハングの視線の先にあった。それを追うようにしてリンもその山に視線を移す。
その眼には煌々と仄暗い炎が宿っていた。
「・・・この山、タラビル山には領主たちも手出しできないような、とても凶悪な山賊団が巣食ってるの。山を挟んで、ちょうど反対側に私達の部族がいたわ」
ハングの視線がリンに戻る。
「私の部族は・・・タラビル山賊の一団に夜襲をかけられて、一晩でつぶされたわ・・・運良く生き残ったのは、私をいれて、10人に満たなかった・・・血も涙もないヤツら・・・絶対に・・・許さない・・・!」
似たような感情をハングは知っていた。
言葉にしてしまえば同じものになってしまうその感情。だが、ハングのそれとリンのそれは全く別のものであることもハングはよく知っていた。
二つと同じ復讐なし。
誰が言ったか知らないが、その通りだとハングは思っていた。
「・・・リンディス様」
「・・・・・・」
セインが囁くように名を呼び、ケントは黙ってそのリンの瞳を見つめる。ハングも何の言葉もなくリンを見ていた。
「私は・・・ここから逃げるんじゃない・・・いつか必ず戻ってくるわ。強くなって・・・あいつらなんか歯牙にもかけないくらい強くなって・・・みんなの仇をとってやる。そのためには、なんだってするわ!」
『殺してやる!絶対に殺してやる!お前だけは絶対に許さない!』
声変わりをする前の自分の声がどこか遠くから聞こえた気がした。
『使えない強さなんていらないんだよ!俺はあいつを殺せる力さえあればいい!』
リンと同じ決意。だが、全く違う決意。それでも、求めている『強さ』は一緒だ。それは決して『優しい強さ』では無い。
ハングはリンに引きずられるように思考の渦へと深く沈み込んでいく。
そこに囚われそうになる直前、ハングの意識を気楽な声が掬い上げた。
「その時は・・・俺も連れて行って下さい」
セインが遊びにでも行くような感覚でそう言っていた。
「・・・セイン」
彼の名を呟いたリン。その顔はハングと同じようにどこか拍子抜けしたようなものになっていた。そこに、少し笑顔になったケントが言葉を差し込んだ。
「私も、お忘れなきよう」
「・・・ケント」
ハングは小さくため息を吐きだした。
「俺も付いてくからな」
「ハング、あなたまで?」
「当然だろ」
リンの口元にはほんのりと笑みが広がっていた。
もう、彼女の目に暗いものなどありはしない。そこには感謝の念だけが残っていた。
「・・・みんな・・・ありがとう・・・」
呟くような声はしっかりと全員の耳に届いていた。
棘付いた空気が和らいでくのを肌で感じる。
「でも、ハング殿は付いてきてどうするんですか?山賊相手に小細工してもあんまり意味無いんじゃないですか?」
「セイン、てめぇな・・・」
一度こいつには戦術と戦略の意味を叩きこむ必要がありそうだった。
ハングとリンに笑顔を届けてくれた男だが一瞬だけ切り捨ててやろうかとも思う今日この頃である。
物騒な顔をするハングの隣でリンはくすぐったそうに笑っていた。
「ならその時のためにも、ハングも少しは剣の方もましにならないとね」
「そりゃ・・・まぁ、使えるにこしたことはないけどさ・・・」
どうしてもハングは剣の扱いが苦手だった。槍や斧を手に取る気は今のところない。
「俺は・・・サカの我流に近い剣術より理に適った騎士の剣術を学んだ方がいいと思うんだが?」
そう言うと、ケントがすぐに反応した
「なら、今度は私と手合せしてみませんか?」
「ケントと?でも、お前絶対に加減できないだろ」
「それはセインを相手にするときだけです」
「えっ!相棒、それはないだろ~」
セインの訴えを無視して話は続く。
「あ、だったら今夜はケントに少し手伝ってもらう方向でどうかしら。私も騎馬相手の戦い方ってのも少しやってみたいし」
「あ、それじゃあ、ケントは俺と稽古だな。リンはセインと手合せしてみたらどうだ?」
ハングが面白い悪戯を見つけたかのような笑顔でそう言った。リンはそれを斜目に見ながら眉をひそめた。
「おぉっ!いいですねその案!リンディス様!今夜は俺がたっぷりと稽古を・・・」
「セイン、やるなら遺書は書いておいてね。それとハング、稽古の時に【マーニ・カティ】を預かっててくれない?間違って抜いてしまわないように」
「リンディスさま~~」
情けない声を出す騎士。町の中を歩きながら、和やかに話す4人。
その時、彼らは町の奥から穏やかではない怒鳴り声を聞きつけた。
――――――― ※ ――――――― ※ ―――――――
ガラの悪い男が二人。彼らは一人の女の子にガンを飛ばしながら威嚇の声をあげていた。
「おう、おう、おう。おねえちゃん!この落とし前はどうしてくれんだ?ああ?」
そう言った声の主は背中に情けない程にはっきりとした蹄の跡がついていた。だが、その声の威勢の良さだけは間違いなくゴロツキのものだった。
それをまともにくらった小さな女の子は怯えたように肩をすくめてしまった。
彼女の身体は小刻みに震え、肩まで伸びた少し癖のある髪が揺れていた。その髪は色素が薄く光加減で紫のようにも見える。それと、同じく色素の薄い肌と相まり、彼女は全体的に薄明に見えた。整った顔立ちと触れれば折れそうな程の細い体つきは殴り合いなど到底できそうもない。身なりを整えて、然るべき場所に出席すれば貴族の箱入り娘のようにも見えるであろう。
だからこそ、こんな町に一人でこんな子がうろついていれば、遅かれ早かれゴロツキに絡まれることになったであろうことは想像に難くない。彼らからしてみれば彼女は良いカモである。
だが、本来なら彼女はそんな対象からは外れてしかるべきなのだ。
彼女が身につけている衣服は町娘のそれではない。必要最小限の鎧と槍を携え、彼女の後ろでおとなしくしているペガサスがいる。それを見れば彼女の生い立ちの想像はつく。彼女は『ペガサスナイト』。白い天馬を操る騎士である。
「・・・あ、あの・・・私・・・その・・・」
だが、そんな事実を全く感じさせないのが彼女のおどおどとした態度と小さな声だ。もう、今にも泣き出しそうである。
それを見ながら、ゴロツキの一人が下卑た笑みを浮かべた。
「アニキ、この娘なかなか上玉ですぜ。連れて帰ったらボスに褒美がもらえるんじゃあ?」
「そうだなぁ。このねえちゃんはオレにケガをさせたんだ。それぐらいしてもらってもバチは当たらんだろうさ?」
「・・・あ、あの・・・その・・・ご、ごめんな・・・さい・・・」
彼女は目に涙を浮かべ始めた。こうなれば彼女もただの女の子であった。
「それで、こっちのペガサスはどうします?」
だが、その一言で彼女の目の色が変わった
「その子にさわらないでっ!!」
強い口調と共に彼女はペガサスに伸びた手を叩き落とした。
「いって!なんだこのアマ!」
こめかみに青筋を立てて彼女の前にゴロツキが立つ。今度は彼女は怯えなかった。
「・・・私はどうなってもいい・・・から・・・その子は・・・逃がしてあげてください・・・お願いです」
彼女はペガサスの前に立ちふさがる。先程のように目に涙を浮かべてはいるが、その眼には強い意志が見え隠れしていた。
ただ、それでゴロツキが引き下がることはない。むしろ、逆に嗜虐心を刺激されたかのようだった。
「へっへっへ おねえちゃん!ペガサスってなぁ、イリアにしかいねぇめずらしい生き物だからな。売り飛ばしゃあ、高い金になる。逃がすなんて、とんでもないぜ。」
容赦の無い言葉が暴力のように繰り出される。
「そんな・・・」
「おらっ!行くぞ!!」
ゴロツキが少女の細い手につかみかかろうとしたその時だった。
その場に新たな乱入者が現れた。
――――――― ※ ――――――― ※ ―――――――
ハング達がいる場所からは建物の影になって騒ぎの場所は伺えなかった。
その場に寄るか否かをハングが考えている間に、リンはその建物の隙間から白い羽のようなものを見つけていた。
「・・・あれは、ペガサス?まさか・・・!!」
独り言のようにそう呟いてリンが駆け出した。
「あっ!リンディス様!!」
慌てて追いかける、セインとケント。
だが、彼らの静止も聞かず、彼女は一目散にその騒ぎの現場に駆け込んでいった。
「フロリーナ!フロリーナ!?フロリーナでしょ!?」
その場にいるペガサスナイトの女の子にリンは大声で叫ぶ。
「リン!?」
女の子が振り返る。その先にリンの姿を見つけた拍子に、女の子の目から涙の堰が決壊しそうになる。リンはすぐさま彼女の傍に駆け寄った。
「フロリーナ!あなた、こんなところでどうしたの?」
「リン!ほんとうにリン?私、私・・・」
リンを前にしたことで、彼女の『決壊しそう』が『決壊した』に変わった。
大粒の涙を流す彼女の目元をリンはやさしく拭ってやった。
「もう・・・ほら、泣かないの!」
「うん」
感動の再会の傍にケントとセインが駆け込む。ケントは抜け目なくごろつきを警戒し、セインもまた抜け目なく儚げな印象のペガサスナイトを観察していた。
ケントがごろつきに睨みをきかせながら声をかけた。
「お知り合いですか?」
「私の友達よ。イリアの天馬騎士見習いのフロリーナ。この子、ものすごく男の人が苦手で・・・」
リンは子供をあやすようにフロリーナに尋ねた。
「ね、フロリーナなにがあったのか私に話してちょうだい」
フロリーナは涙を止めて話し出した。
「・・・あの、ね・・・私、リンが旅にでたって聞いたから・・・追いかけてきたの。それで、この村が見えたから・・・リンのこと聞こうと思って、下に降りたら・・・この人たちがいたのが見えなくて・・・その・・・」
そこまで聞いてリンには結末がわかった。
「またペガサスでふんづけちゃったの!?」
リンは『また』と言った。実は前科持ちのフロリーナである。
小さく頷くフロリーナにリンは出そうになる溜息をなんとか押しとどめた。
そこで、ようやくゴロツキ共が声をあげた。
「ほらっ、聞いたろうが!悪いのは、その女なんだよっ!!アニキを踏みつけた落とし前をつけてもらわねぇとなっ!」
リンは押しとどめた溜息を吐きだして、自分の後ろに逃げたフロリーナに声をかけた。
「ちゃんと謝った?フロリーナ」
「うん。ごめんなさいって何度も言ったけど・・・その人たち、聞いてくれなくて・・・・・・」
「泣かないで。大丈夫よ」
「リン・・・」
感謝と感動が入り混じり、フロリーナの頬を一筋の涙が伝う。それを指で拭いてやったリンは毅然とした態度でゴロツキに向き合った。
「ねえ!ちゃんと謝ったんならそれでいいじゃない。見たところケガもないようだしもう許してあげて」
だが、ごろつきももう我慢の限界だったようだった
「そうはいかねぇ。力ずくでも、その女はもらうぞ!」
二人に伸ばされたごつい腕。その腕を槍先がかすめた
「こらぁ!お前らこんな美しい花に素手で触れるとは何事だぁぁ!」
何の話をしていたのかわからなくなるのでセインには黙ってほしいのだが、それを咎めてくれる人はここにはいなかった。
「ちっ!」
舌打ちをしたゴロツキ共が数歩後ずさる。ケントとセインを前にして歯ぎしりをする。頭の悪い人間でも2対4の不利は悟っていた。それならば、ゴロツキの思考回路は単純である。仲間を増やせばよいのだ。
ゴロツキは町の中心に向かって、叫んだ。
「おい!みんな町を囲め!!女は傷つけるな!男はやっちまえ!!」
瞬時に町が殺気に包まれた。やはりこの町にはまだ山賊が潜んでいたらしい。
その殺気を肌で感じてリンは剣を引き抜いた。
「へへっ!お前ら、生きてこの町から出れると思うなよ!!」
「待てぇっ!!」
セインが追いかけようとするが、ゴロツキ共は崩れた塀をよじ登って町の奥へと消えていった。
これでは馬では追いつけない。周囲からは複数の足音が聞こえだしており、ケントとセインは深追いを諦めて防御を固める判断を下した。
その考え方は正しい。だが、問題は次の行動である。それに関して彼らは策を有していなかった。
「ハング!応戦するわよ!!」
リンの声に返事は無い。
「ハング?」
リンはその場を振り返った。いるのはフロリーナのみ。前方には馬に乗ったケントとセインだけ。ハングの姿はどこにもない。
「リン・・・私・・・」
フロリーナがリンに話しかけようとした。だが、リンはその先を制した。
「フロリーナ、あなたも天馬騎士のはしくれでしょ。戦えるわね?」
「・・・うん!」
元気な返事だった。それはそれで頼もしい。だが、リンの中の不安が消えない。
この町はあちこちが塀で区切られ、瓦礫が散乱している。まるで迷宮のようになっているこの場所ではどこから攻めるべきなのか、どこから攻められる可能性がるのかがまるで見当がつかない。
「こんな時にどこいったのかしら」
声に混じるのは苛立ちというより不安のほうだった。
いつから彼はいなかった?
私がフロリーナに駆け付けたときにもういなかったのでは?
潜んでいた山賊に襲われでもしたのだろうか?
リンの中に最悪の思考が渦巻く。
「ハング・・・」
「呼んだか?」
後ろから突然声がして、驚いて振り返る。
そこには左腕でゴロツキの1人らしき男の首を掴んで引きずるハングがいた。
「ハング!どこ行ってたのよ!」
「悪い悪い!手近なとこにこいつがいたからちょっと情報を集めてたんだ」
引きずられるゴロツキにはかろうじて息はあったが、顔にひどく殴られた跡があった。
「拷問してたの?」
「失礼な!俺は丁重に扱ったぞ。こいつが俺の拳骨に殴られないと喋りたくないって言い張ったから、しょうがなく、殴ってやることにしたんだ」
『それを世間一般では拷問と呼ぶのでは?』と、この場にいた誰しもが思ったが口には出さなかった。
とりあえず、ハングが無事に指揮を執ってくれる。そのことがリンを安堵させた。
「もう、勝手にいなくならないでよ」
リンからすれば何気ない台詞であっただろう。だが、その言葉にハングの眉がピクリと不自然に動いた。
それに気が付いた者はいない
「悪い、心配したか?」
「少しだけ・・・」
「悪かった。本当に悪かった。けど、お前が駆け出した時にトラブルに首突っ込むのがわかってたからさ。これぐらいの情報は欲しかったんだ」
なんだかリンが悪いような言草に少し引っ掛かりを覚えながらも、リンは気持ちを切り替えた。
「じゃあ、ハング。指示を頂戴」
「了解したよ」
ハングは意味ありげにニヤリと笑ってみせた。