【完結】ファイアーエムブレム 烈火の剣~軍師と剣士~ 作:からんBit
「ヘクトル様!東に敵部隊です」
「ロウエンの部隊を向かわせろ!後方に弓部隊を送れ」
「ハング達が洋館に入りました!!マシューとドルカスも侵入できております!!」
「オズイン!援護にむかえ!洋館の中に敵を一人も入れんじゃねぇぞ!」
幾つもの指示を出しながら入ってくる情報を整理して戦場を組み立てる。
ヘクトルが総指揮を任されるのはこれで二度目だ。ヘクトルは後方で指示を出すより、前線で味方を引っ張る方が得意である。あの時は二度とやりたくないと思ったものだが、人生というものはいつもままならない。
「・・・・・・・」
「ケントとセインは南の離れを確保しろ!」
「・・・・・・・」
「宝箱だぁ?んなもん勝手に開けて使え!!」
「・・・・・・・」
そして、ヘクトルがままならないと思うものがもう一つ。
「・・・・で、お前はなんで震えてんだ?」
「あ、あああ、ごごごめんなさい!!」
フロリーナに涙目で謝られたヘクトル。これでは見るからにヘクトルが悪役である。
なんでこんなことになったかというと、実は自然な流れであった。
この場所は多少開けているとはいえ、樹海の内側であることには変わりがない。
空は分厚い木々に覆われており、しかも今は黒い霧が視界を塞いでいる。中途半端に空にあがれば、樹木に突撃する危険が高いのは明白であった。
結果、フロリーナとフィオーラはヘクトルの護衛役という任務が与えらていた。
そして、フィオーラはヘクトルの指示でやや高所からの監視を行ってもらっているのでヘクトルの近衛兵としてフロリーナが残ったのであった。
「・・・・・・」
だが、そのフロリーナといえば物言いたげな視線を永遠に送ってくるだけでひたすらに黙っている。ヘクトルとしてはその視線が非常に困っていた。苛立たしく思う程ではないのだが、どうにも気にかかってしまうのだ。
「ったく・・・」
ヘクトルは愛用の斧を地面に突き立てた。
この暗闇の中で下手に動けば純白で目立つペガサスは恰好の的である。
それは、動きたくて仕方のないヘクトルにとっては良い枷となっていた。
「・・・どうすりゃいいんだよ・・・」
「ああああ、あの!」
「あ?」
震えた声は当然フロリーナのものだ。
「わ、私が左翼に出ましょうか?」
ヘクトルのさっきの愚痴を戦場の話だと思ったらしい。
確かに左翼は苦戦しているようだが、もうすぐ騎馬部隊が合流する手筈になっている。
特に問題は無い。
「いいんだよ。おめぇはここで待機してろ。敵が抜けてきた時に備えてりゃいいんだよ」
「わかりました」
普段はグズグズとしているくせに戦闘のこととなると、途端に顔色が変わる。
物言いもはっきりとし、視点も的確だ。涙を浮かべてても戦う時は戦う。
『いつもそれぐらいの気概でいりゃいいものを』
だが、ヘクトルはすぐにその想いを打ち消した。
ヘクトルは自分の親友のことを思い出していた。
エリウッドは普段は温厚を絵に書いたような人物だ。だが、一度戦闘となると先陣を切って仲間を引っ張る。
それは昔から変わらない。虫も殺せないような柔和な顔をしていながら、いざ喧嘩沙汰となるとヘクトルと肩を並べて拳を振っていた。
戦場にいる時と、普段の時の彼は随分と異なる。
だが、もしエリウッドが普段の時も戦場のような行動をする人間であったなら、ヘクトルは決して彼のことを生涯の友とまでみなさなかったと思っていた。
人の心というものはいつも不可思議で、掴み所がなく、だからこそ歯痒くもあり、面白くもある。
ヘクトルはどうしても単純に物事を考えすぎる。
そのせいで私生活で失敗したことも、決闘で負けたこともある。
だが、どうしても自分というものを変えられない。
ヘクトルはフロリーナを横目で見やる。
フロリーナは暗闇の中で常に目を凝らし、耳を澄まし、敵の動きを捉えようと必死であった。身体は今も小刻みに震えているものの、戦いから目を逸らすことは決してしない。
ヘクトルはそんなフロリーナの姿を興味深そうに眺めていた。
「ヘ、ヘクトル様!敵です!!」
「おっと!」
飛んできた斧をフロリーナが持っていた槍で叩き落とした。
いつの間にか、フロリーナは戦闘態勢にあり、目の前には敵が迫っていた。
「ったく!らしくねぇな、俺も!!」
ヘクトルは自分に一喝を入れ、斧を構える。
「おめぇは援護しろ!俺が前に出る!伝令が来たらてめぇが話聞いとけ!!」
「は、はい!」
フロリーナのはっきりとした返事に苦笑し、ヘクトルは気持ちを引き締めた。
――――――― ※ ――――――― ※ ―――――――
洋館の中に入ったニニアンとリンはこの館の中央にある大きな部屋へと来ていた。
ふらふらと進んでいくニニアンを見ながら、リンはその部屋の中の不思議な風を感じ取っていた。
リンが最初に感じていた怖気を呼ぶような風はもう感じない。
その代わり、火照った身体を冷ましてくれるような心地よい冷たさを持った風がこの場には満ちていた。
部屋の中には様々な本があちこちに積み上げられ、壁には本棚が所せましと並んでいる。部屋の真ん中にある机の上には羊皮紙が散らばり、様々な記号や術式が描かれていた。
リンは手近な本を手に取り、一冊開いてみた。中は見たことの無い文字が書かれていた。その文字の形が気味が悪かったのもあって、リンはすぐに本を元に戻した。
「ニニアン・・・ここって、いったい・・・」
「・・・・・」
返事がない。リンは顔をあげ、ニニアンを探す。
彼女は一枚の絵を見ていた。
さほど大きなものではない。本棚の隙間に何かの気晴らしに飾ったかのような絵だ。
ニニアンはその絵をなぜか食い入るように見つめていた。
リンは埃のついた手を払う。
その時だった。
「よう、ここにいたのか」
「あ、ハング・・・エリウッドも・・・私達を迎えにきたの?」
「まぁ、そんなところだ」
リンは首をひねる。ハングもエリウッドも剣を引き抜き、しきりに後ろを警戒していた。
ヘクトルに追い回されでもしたのだろうかと思ったが、それにしては目が笑っていない。
「ハング、何かあったの?」
「あったっていうか・・・あってるっていうか・・・でも・・・なんだここ」
ハングは今しがた自分が入ってきた扉から一歩外に出てはもう一度入るということを繰り返していた。
「・・・ハング・・・これは一体・・・」
「俺にもわかんねぇよ・・・これも結界なのか?」
二人は切羽詰まったように小声で話をしている。
本当にどうしたのだろうか?
リンには二人の態度がまるで理解できなかった。
リンは疑問に思っていた。
『なぜ二人はこんな静かな場所で殺気をみなぎらせているのだろうか?』
「・・・あの、二人とも・・・」
「まったく、軍主と軍師が二人で単独行動するとは・・・」
ハングとエリウッドが瞬時に後ろを振り返って剣を構えた。リンもほぼ反射的に剣を引き抜く。
ハング達が入ってきた扉に一人の男が立っていた。背格好からして闇魔道士だとリンは推測した。
エリウッドが剣を構えながら声を張り上げた。
「ニニアン!」
「は、はい!・・・・あ、皆さん・・・どうしたんですか?」
エリウッドの声が届いたのか、ニニアンの意識がこちらに戻ってきた。
「僕の後ろにいるんだ!」
「は、はい」
エリウッドはニニアンとテオドルの間に立つ。
「ハング!どうなってるの?この人はなに!?」
「敵襲だよ」
「敵襲!?」
リンは驚いてハングを見る。冗談を言っている雰囲気ではない。
「そんな・・・でも・・・」
「この場所・・・やっぱなんかおかしいんだよ。外の気配がまるで感じられねぇ!」
この部屋は静かだ。静かすぎる。
外ではヘクトルが指揮を執り、兵が走り回り、武器がぶつかり合っているというのに、この部屋に入った途端にその全てが聞こえない。
リンは自分の中の感覚にかなりの自信があった。それは長年山賊や狼の脅威を身近に感じながら遊牧を続けるサカの民ならではのものだ。その直感ですらまるで何も掴むことができていない程であった。
テオドルは困ったように顔をしかめていた。
「しかしあなた達は命を狙われている自覚が足りないんではないですか?追う方のことも考えていただきたい」
「でも、こうやって予想外の動きをしたからこそ。敵の大将を誘い出せたんじゃねぇか」
「そうですね。まさか既に屋内に伏兵を配置しているとは思いませんでした」
テオドルはそう言ってリンの方を睥睨する。
テオドルはエリウッドとハングを相手にするなら二対一でも勝てる自信があった。少なくとも、どちらか一人は確実に始末できると思っていた。だが、三対一で勝てると思うほど愚かではなかった。
本来なら三十六計を決め込みたいところだが、できない理由がある。
「・・・なんなんですか、ここは・・・」
「俺が知るか」
テオドルは高位の闇魔道士であり、転移魔法も使用できる。だが、テオドルはそれを使えない。この空間が転移魔法を阻んでいるのだ。
この部屋は外の雑事を全て遮断し、それでいて中にいる者を護ろうとする意思が働いていた。
ハングはこの部屋こそがこの館を包む不思議な程に優しい結界の中心地だと判断した。
「こんな時・・・」
「あ?」
「こんな時、思うんですよ。もっと力があれば、とね」
ハングが一気に間合いを詰める。それに対してテオドルが片手を突き出した。二人の間に闇の塊が生まれる。
ハングはそれを予想していた。ハングは姿勢を落とし、右前方に足から滑り込む。そのままハングは剣を構え、下からテオドルを切り付けた。
「おらっ!」
「くっ!」
しかし、浅い。血飛沫すら飛び散らない。皮を切り裂けたかどうかも怪しい。
だが、隙を作れれば十分だ。
「はあぁぁっ!!」
左からリンが斬りかかった。
「そうはいきません」
テオドルの周囲に黒い煙が激しく渦巻いた。近くにいたハングとリンが吹き飛ばされる。
ハングは背中から本棚に激突し、リンはなんとか床に受け身を取って立ち上がった。
「私をナメないでいただきたい」
テオドルはそう言ってエリウッドに狙いを定める。
その直後、テオドルの耳元で声がした。
「それはこっちの台詞だ」
テオドルが振り返るより速く一本の剣がその身体を貫いた。
「ば・・・ばか・・・な・・・」
後ろにいたのはハングだった。
ハングは激突した直後に左腕で床を弾き、テオドルの後方に飛んでいたのだ。
「俺は・・・闇魔道士に負けるわけにはいかねぇんだ・・・」
崩れゆくテオドルの身体。貫かれた剣で支えられながらテオドルは霞みゆく視界の中でハングの顔を見ていた。
仄暗い天井を背景にしてテオドルを見つめるその顔の中に、二つの双眸が輝いていた。
「ああ・・・・なる・・・ほど・・・・あなたは・・・そうか・・・」
それを見てテオドルは笑う。自分の死が訪れようとしてるのに、彼は笑う。
ハングを見ながらテオドルは笑う。
テオドルは力を欲っしていた。だが、その力は手に入らなかった。
だが、満足だ。
『お前が闇を見つめる時、闇もまたお前を見つめ返す』
闇に見つめられたまま死ねるのなら、それも悪くない・・・悪くない・・・
意識が消えていく中、テオドルは最期までその闇を見ていた。
――――――― ※ ――――――― ※ ―――――――
ハングは剣を手放し、テオドルの死体を床に沈める。このまま剣を引き抜けば返り血で部屋が汚れてしまう。
ハングはテオドルの死体を部屋の外に押し出してから剣を抜いた。この珍しい結界の部屋をわざわざ血で汚したくなかったのだ。
そして、ちょうどそこにマシューとドルカスが通りかかった。
「おっ、その様子だとお探しのもんは見つかったみたいッスね」
「ああ、なんとかな。そっちは?」
「・・・あらかた片付いた」
ドルカスがいつもの抑揚の無い声でそう言った。
「しっかし、ハングさんもなかなか酷なことしますね。何度も若様に指揮を一任するなんて」
「あいつは実戦で身につけさせるのが一番手っ取り早い」
「違いないですね」
人にはそれぞれ、学問の分野に得意不得意があるように、学び方にも得意不得意というものがある。
リンは対話を挟みながらの授業の方が覚えが良い。
エリウッドは本を熟読し、一つ一つ消化していくことで知識を身に付けていくのが得意。
そして、ヘクトルは実戦で呼吸を身につけるタイプだ。
ハングは三者三様の指導で確実に指揮をとれる人間を増やしていっていた。
よく見ている。
マシューはいつも素直にそう思うのだ。
「外の戦場ももうすぐ終わりそうです。というわけでイチャついてる暇はありませんよ」
「・・・エリウッドにそう伝えとくよ」
マシューはケラケラと笑った。
「・・・こっちの戦闘が終わったら迎えをやる。それまではおとなしくしてろ」
「了解です。二人も気をつけて」
マシューとドルカスにそう告げてハングは部屋へと戻って扉を閉めた。
『・・・からかうのも程々にしとけ』
『え~だってエリウッド様をからかうわけにはいかないじゃないですか。若様は鈍感すぎる上に男前すぎて全然面白くないし』
『・・・面白かったらやるのか?』
そんな会話がドアの向こう側から聞こえてくる。あの二人はあれで意外と気が合うらしかった
部屋の中ではリンがなんだか所在なさげに佇んでいた。
「どうした?」
「入れないのよ」
「は?」
リンの視線の先にはエリウッドとニニアンが並んで立っていた。
二人は先程ニニアンが見つめていた絵を眺めている。
その二人の間にはリンの言う通り、割って入れる隙間は無いようだった。
二人が見つめる一枚の絵。そこには、人と竜が描かれていた。
森のような場所に光が差し込み、その中で人と竜が並んでいる。
人はその手を竜の頬にあてて優しく微笑み。竜も静かにその場に座って澄んだ瞳で人の目を見つめていた。
人と竜。
かつて人竜戦役という戦争があったということが信じられない程に、その絵には優しく、強い想いが詰まっていた。それはこの場所に満ちる不思議な結界の象徴のようにも思えた。
「不思議な絵だな」
「ええ・・・」
仲良く並んで絵を見つめるエリウッドとニニアンに気を遣い、二人の声は小声だ。
「人と竜っていったら、戦ってる絵しかないと思ってたが。こんな絵もあるんだな」
「私も始めて見たわ。ねぇ、ハング。人と竜はこんなふうに寄り添うことってあったのかな?」
ハングはその絵と、絵の前で寄り添う二人を見ながら答えた。
「こんな絵があるんだ。そういうこともあったんだろうな・・・だってあの絵・・・」
ハングは戦闘で強張った肩の力を抜き、自然な笑みを浮かべた。
「随分と幸せそうじゃないか」
ハングはその場に腰を下ろす。その隣にリンも腰掛ける。
ハングとリンはいつしか、その絵を見つめるエリウッドとニニアンの後ろ姿を眺めていた。
――――――― ※ ――――――― ※ ―――――――
ハングがテオドルを倒した直後から黒い霧は晴れはじめ、戦闘が片付く頃には跡形もなく消えていた。
そして、迎えと共に館から出てきたハング達4人を見て、ヘクトルは不機嫌そうに鼻を鳴らした。
「なんだ、ヘクトル。ずいぶんなお出迎えだな」
「戦場をほっぽり出した軍師が何ほざいてやがる」
「まぁ、言い訳はできないけどな」
それでも悪びれることなく笑うハング。ヘクトルはとりあえず彼の腹に一発いれておいた。
「エリウッド!お前もだぞ!俺に全部仕事押し付けやがって・・・って、あれ?あいつ・・・どこいった?」
「さっきマーカスさんに連れていかれたわよ」
最近は説教はもっぱらハングの仕事だったが、久々にマーカスの説教が始まるだろう。
ハング程ではないがマーカスのあれもなかなかに恐ろしい。
「ま、とにかくお疲れさん」
「ああ、疲れた」
ハングは改めて自分の出てきた洋館を眺める。
「どうした?まだ、心残りでもあんのか?」
「いや、そういうわけじゃない」
結局、ニニアンの記憶は戻ることはなかった。だが、ハングにはいくつか気になることがあった。
ニニアンが歩いた道をたどったところ、草木の中に石畳の跡を見つけた。
彼女は覚束ない足取りのように見えたが、実は誰よりもしっかりとした地面の上を歩いていたのだ
それに、ニニアンは何かに導かれるようにあの部屋にたどり着いたとリンは言っていた。
ハングの中にいくつかの推論が浮かび上がる。
「ハング、行きましょう」
「【竜の門】は近いぞ」
ハングは仲間の声に振り返る。
「ああ、そうだな、でも、その前にエリウッドが解放されるのを待たねぇとな」
どこからかマーカスの懇々とした説教が聞こえてくる。
「それもそうね・・・って、あぁあ、ニニアン、埃だらけになっちゃったわね」
「あ・・・はい・・・」
途端にすっ飛んでくるセイン。
「ニニアンさん!この愛の下僕!セインめがブゴぉあ!」
フィオーラとケントが見事な手際でセインを打ちのめした。
「フィオーラさん、お手数おかけしました」
「いえ、私にも個人的な理由がありましたから」
引きずられ、再び馬に括り付けられるセインを見ながら、ハングは自分の中の推論を振り払った。
それは今は重要なことではない。今はネルガルのことが先決なのだから。
ハングはそう思いながら、最後にもう一度だけその洋館を振り返ったのだった。
いつもご愛読ありがとうございます。
実はまたもやリアルが忙しくなりそうで、また1週間程更新が滞りそうです。いや、下手したら2週間かも・・・
なんとか1週間で収めようと頑張りますが、その時はご容赦ください。