【完結】ファイアーエムブレム 烈火の剣~軍師と剣士~ 作:からんBit
【竜の門】へと続く遺跡の前でハング達は敵と相対していた。
「・・・待ちかねたぞ。フェレ公子よ」
「誰だてめぇは!?」
遺跡に続く道を塞いだ騎馬にヘクトルがそう尋ねた。
「私はカムラン。この場の副指令をあずかるものだ」
エリウッドが十分な間合いを保ったまま前に出る。
「父はどこだっ!?」
「奥だ・・・この奥にいる。だが、お前たちは会えないだろう・・・たとえ、ここを突破できたとしても奥の間への通路は、ラウス侯によって守られている。・・・あきらめないのか?まぁ、たとえ、あきらめたとしても今さら許してはやらぬがな。ふははははは」
腹の立つ高笑い。ハングはそれを見ながら、剣に手をかけた。
「言いたいことはそれだけか?」
「なに?」
次の瞬間、ハングの手から剣が飛んだ。強靭な左手によって放たれた一撃。
投げられた剣は回転しながら、カムランの喉首に突き刺さった。
力なく下がっていく槍を持つ腕、そしてその男は剣の重さに従って馬から滑り落ちていった。
「敵陣の前に単騎で突出してきて、ただで済むわけがねぇだろうが、バカが」
ハングは死体となった首から剣を引き抜き、血を払った。
ハングは指示を出そうと後ろを振り返る。すると、なぜか妙な視線を集めていた。
「な、なんだよ」
「いや、今のはちょっとだけこの男に同情の余地があるかな~って・・・」
そう言ったのはギィだった。
その意見をハングは鼻で笑う。
「化けて出てきたら謝罪しとくさ。それよりも、ニニアンが連れ去られた以上もたもたできねぇ。敵の戦力がわからない以上、無暗なことはしたくねぇが状況が一刻を争う。部隊を三つにわけてできるだけ早くこの建物を制圧する。エリウッドは西側の建物を経由して遺跡に侵入しろ。壁をぶっ壊してでもなだれ込め。ヘクトル、正面は任せる。力押しでダーレンの部隊を粉砕しろ。リンは東の離れから侵入、制圧しろ。各個撃破だけはなんとしても避けろ。いいな!!」
短い返事を聞き、ハングは部隊を編制していく。
「温情は無用だ!!叩き潰せ!!」
ハングの発破が激しく響き渡った。
――――――― ※ ――――――― ※ ―――――――
「おい、お前!そこで何をしている!?」
「何してるとはごあいさつだなぁ?」
そんな会話がなされたのは西側の遺跡内部だった。
両者は暗殺者の空気をまとっているが、その片側にはどこか別の風が香っていた。
「オレのこと知らないなんてお前、新入り?」
「え?あ・・・ひと月まえから【竜の門】の配属に・・・」
その男は色素の薄い長髪と左目を跨ぐような大きな切り傷が特徴の優男だった。
飄々とした空気でありながら、秋の木枯しのような雰囲気を持つその男はラガルトという。
「だろうな。オレはラガルト。聞いたことないかい?」
「ラガルト・・・?ま、まさか【疾風】のラガルト!?その実力は【四牙】に次ぐとも言われる・・・?」
「そうそう、それだ」
「し、失礼しました!!」
「いーよ、別に」
愛想笑いのような軽い笑み。暗殺者でありながら、今の彼の立ち振る舞いはどうも緊張感に欠ける。
「それでは、私は持ち場につきます」
「おう、そんじゃ適当にがんばりなよ~」
軽く手を振って見送るラガルト。その男が角を曲がって見えなくなる。
その時、ラガルトの雰囲気が変わった。彼は手元の短刀を手の中で一回転させた。
「・・・さてと。持てるだけお宝とったら【黒い牙】ともお別れだ。沈む船にいつまでも乗ってる義理はないってね」
軽い口調で呟くラガルト。だが、その中には割り切れない思い、そして積み重なった疲れが見え隠れしていた。
「確か、宝物庫は東側に・・・」
「ぐわぁぁ!!」
「うおっと!」
突然、ラガルトの足元に男が飛んできた。その顔を見てラガルトはため息を吐く。
「だから『適当に』って言ったのにな・・・」
その男はさっきラガルトと会話した男だった。
だが、先程まで輝いていた目は虚ろに変わり、胸には風穴が開いている。
彼は既にこと切れていた。
ラガルトはこの男が飛んできた方向の気配を探る。
「・・・もう来たのかよ。いくらなんでも早すぎるだろうが」
既にラガルトのいる東側に続く道は戦闘の気配に満ちていた。
ラガルトは足音で敵の戦力を把握しようとする。
今、攻めてきてるのはリキアの連中。ウハイを倒した相手だということはラガルトも知っていた。
「まぁ、俺も仇討ちってがらじゃねぇし。しかたねぇこのままトンずら・・・」
その独白が終わらぬうちに今度はラガルトの右側の壁が粉砕された。
「おいおい、こっちもかよ」
ラガルトは砂埃にせき込みながらその場から距離をとった。予想通り、砂埃が収まらぬうちに巨大な火球が飛んできた。瞬時に周囲が地獄の底のような光景に変り果てる。
ラガルトはここで背を向けるのを愚策と踏んだ。逃げれば追うのが人の心理だ。
そこで、ラガルトは逆の手段をとった。
警戒態勢を解き、意気揚々と声をかけることにしたのだ。相手にこちらの戦意のなさを伝えて見逃してもらう魂胆だった。
「おやおやこれは珍客だ」
ラガルトはそう言った。
「ん?誰だ・・・」
「こんなところまでわざわざご苦労さん」
「てめぇは?黒い牙か?」
砂埃の向こう側にいたのは黒いくせ毛の男だった。
くたびれたマントが風になびいて揺れていた。
ラガルトはその男を前に口端を釣り上げる。
ラガルトは自分の運命も捨てたものじゃないと思った。
なにせ、敵の軍師とこうも早く交渉できる機会が得られたのだから。
ラガルトは世間話でもするかのように話を続ける。
「ああそっか、あんたは俺のこと知らねぇのか。まあ、とりあえずその物騒なもん下げてくれるか?」
「・・・・・」
ハングは構えていた剣を下げた。
ハングはエリウッド達と共に壁を破壊し、建物の中に強引に道を作ってここまで進軍してきた。
相手が想定しないであろう道を通った奇襲は敵の防御線を乱し、敵の統率の攪乱が狙える有効な手段だ。
だが、それは進軍するハング達にも同じことが言えた。
こちらが予期していた以上に敵に突如遭遇することもありうるのだ。
そしてハングはこうして予想外の相手と対面していた。
ハングは剣を下げつつも素早く反撃できる位置に構える。
そんなハングにラガルトは笑顔を崩さずに言った。
「違う、そっちの剣じゃなくてさ、その左腕を下げてくれって言ってんだ」
「・・・・・・」
ハングは平静を装いつつ、構えていた左腕をおろした。
だが、内心は自分の今までの記憶を全力であさっていた。
ハングがこの奇怪な左腕のことを教えた人物なんてそうはいない。
「で、てめぇはなんなんだ?」
「俺か?俺は・・・元【黒い牙】かねえ?」
「【黒い牙】か!!」
「いや、だから“元”だって。今はただのドロボウだよ。あんた以外と今余裕ないみたいだな」
ハングは押し黙ってしまった。そして、すぐにそれが失敗だと気付く。
「図星か」
「・・・・だったらなんだ」
ハングはラガルトが敵だろうとそうでなかろうとぶった切っておくべきではないかと思案していた。
その時、ようやく後続がやってくる。
「ハング、どうしたんだい?」
エリウッドを先頭にギィ、エルク、レベッカ、ドルカスが現れる。
「いや、敵じゃねぇらしいが、油断ならない奴が目の前にいたから、とりあえずぶった切るか串刺しにして嬲り殺そうかと思ってただけだ」
「あんた、なかなかえぐいこと考えてたんだな」
ラガルトはそう言って薄ら笑いを浮かべた。
「彼は敵ではないのか?」
エリウッドもまた剣を軽く構えながらラガルトに向き直る。
「元【黒い牙】だってよ」
「そう、だからお互い見なかったってことで・・・それじゃあ」
ラガルトが背を向けようとする。その彼にエリウッドが声をかけた。
「待ってくれ!」
「ん?」
首だけで振り返るラガルト。
「敵でないなら力を貸してくれないか?」
「オレが?お前に?」
ハングはエリウッドの行動に少し眉をひそめたが、口をはさむことはしなかった。
「僕は・・・【黒い牙】のことを知りたいんだ・・・頼みます」
「驚いたな。本気で【黒い牙】と戦う気か?」
「はい」
「相手が義賊のブレンダンじゃなくてネルガルって気味の悪いヤツだとは・・・」
「分っています」
しばし、目で会話する二人。
ハングはラガルトをもう一度観察する。
飄々とした雰囲気と気楽な態度に騙されそうになるが、彼の動きにはまるで隙がない。
そして何より、動いたときの物音がほとんどしなかった。
彼は自分のことを“ドロボウ”だと名乗ったが、その動きの端々から暗殺者としての技術が漏れ出していた。
そして、ラガルトは不意に笑った。
「・・・いい度胸だ。気に入った!だが、オレは今の【黒い牙】のことはほとんど知らないがねぇ。それでもいいってんなら」
「ありがとう!僕はエリウッドだ」
「オレはラガルト。ま、死なない程度に協力させてもらうかな」
握手を交わす二人。ハングはそれを待って、ようやく口を挟んだ。
「一つ、聞きたい」
「なんだ?」
「数日前、レイラを・・・ここに潜っていた間者をやったのはお前か?」
エリウッドの視線がハングからラガルトへと移る。
ラガルトは一瞬驚いたような顔を見せたが、すぐさま首を横に振った。
「・・・いや、違う。俺はここ一月はこの島で仕事はしてない」
「・・・わかった」
ハングはそれだけを言って引き下がる。
ラガルトの言葉が真実かどうかはわからない。
だが、今はその言葉を信じることにした
そして、今度はラガルトが質問をする番だった。
「なあ・・・俺からも一つ聞いていいか?」
「なんだ?」
「ウハイは・・・どうやって死んだ?」
「・・・・・・」
ハングがその質問に答えるのに少し間が空く。
「・・・ウハイは・・・誇り高く・・・死んでったよ」
「・・・そうか」
それを聞き、ラガルトはため息を吐き出した。
「そうか、ならいいんだ。それならな」
ラガルトの表情から先程までの飄々とした雰囲気が消えていた。
無味無臭の薄ら笑いの下から現れた顔は少しだけ疲れているように見えていた。
「・・・・話し合いは終わったか?」
その台詞はドルカスの口から放たれた。
何事かとハングが聞くまでもない。西側から増援が来ていた。
ここまではハングの想定通りだった。
ドルカスが前に出て、細い廊下に陣取った。
その後ろでエルクが魔導書を開いた。
「ここは僕らが食い止めます。ハングさんとエリウッド様は先に行ってください」
精霊がエルクの周囲に渦巻く。その隣にラガルトが短剣を片手に並んだ。
「それじゃ、俺もここで働くかね。フォローはしてやるよ」
「エルク・・・大丈夫だとは思うが・・・こいつが裏切るような仕草を少しでも見せたら、構うことねぇから、瞬時に焼き殺せ。その許可は与えておく」
「わかりました」
「・・・おいおい・・・」
嫌そうな顔をするラガルトをハングは斜目に見やる。
「念のためだ。お前が変な行動をしなけりゃ問題ない」
「仕方ない・・・か。それじゃあ信頼は行動で勝ち取るとしますか」
敵に向き直るラガルトから視線を外し、ハングはエリウッドに目で合図を送り、駆け出した。
二人が目指すのは【竜の門】。
敵は既にヘクトルとリンの対応に追われていて手薄。
ハングとエリウッドは警備の少ない遺跡内の敵を蹴散らしながら進んでいく。
そして、その遺跡の奥部。
【竜の門】の最奥へと続く道の前にはこの騒動を巻き起こした中心人物が鎧を纏って立っていた。
「ダーレン!お前の野望もここまでだ!!」
「フハハハハハ。貴様ごときにこのわしは倒せん!!」
ラウス侯ダーレン。
ネルガルの甘言に惑わされ、エフィデルに踊らされ、このリキア全土に戦乱の種をばらまいた男だった。
エリウッドが一歩前に出てレイピアを構え、ダーレンも槍を構えた。
ハングもまたエリウッドの隣に並んで険を構えた。
「初めまして、だな。ダーレン」
「誰だ、貴様は?」
「俺は軍師・・・軍師のハングだ。とりあえず、キアラン候の仇討ってことにしとくか」
ハングは姿勢を落として戦闘態勢を取った。
「ああ、あの老いぼれのところの部下か・・・あのジジィめ、わしに意見などしおって!いなくなってせいせいしたわい」
「・・・・ぶち殺す」
ハングは自分がダーレンの言葉に意外な程に怒りを覚えたことに驚いた。
だだそれは自分で操ることのできる範囲の感情だ。ハングは怒りを左腕の血流に乗せ、筋肉を躍動させる。
ハングが真っ先に仕掛けた。続いてエリウッドも前に出る。
袈裟切りに剣を振り下ろすハング。最速の突きを差し込もうとするエリウッド。
「ふん!甘いわ!」
二人の攻撃は甲高い金属音に阻まれる。
ダーレンは槍を手元で回転させ、ハングの剣を弾き、エリウッドの突きを逸らした。
「くそっ!」
そして、ハングが再び武器を構えるより早く、ダーレンは槍を手元に引き戻していた。
剣を弾かれ、ガラ空きのとなったハングの足元から槍の切っ先が駆け上がる。
血しぶきが舞い、ハングの身体が飛ぶ。
「ハング!!」
「大丈夫だ!かすっただけだ!」
ハングは受け身を取って着地し、素早く身体を起こした。
ハングの頬につけられた切り傷から血が滴る。ハングは無理に受けることは危険と判断し、攻撃を避けるために自分から後方に飛んでいた。
「ふふははは、貴様は口だけのようだな!!剣の腕も身体の捌きを悪い!」
「うるせぇ。俺は軍師だって言ってんだろ!」
年老いた愚鈍とはいえ、貴族として十分な教養と剣技は積んできたであろうダーレン。
案外手ごわい相手に二人は間合いをはかるように後退する。
ハングは切り裂かれた頬の血を左手で拭った。左腕に隙間なく巻かれた包帯に血がつく。
ハングは左右や後方の気配を探る。
リンやヘクトル達が確実に進軍してきている。戦闘の気配が徐々に強まってきていた。
予想以上に進軍が遅い。
ハングは左腕の動きを確かめるかのように肩を回した。
「エリウッド・・・暴れるぞ」
「ああ」
一年前、エリウッドとハングはニニアンを取り戻すために共闘した。
今更、隠す必要もない。ハングは左腕の包帯をほどき、地面に落とす。
むき出しになったどす黒い爪。深緑に輝く鱗。異形の左腕が風に晒される
左肩から突き出した歪な肉体を見てダーレンは不快感に顔を歪ませた。
「なんだ・・・貴様は・・・」
「だから、さっきから軍師だって言ってんだろ!」
ハングは左腕を前に突き出して、右手で剣を構える。
エリウッドはそれを軽く一瞥しただけで、何も言いはしなかった。
「さて・・・こっからは本気・・・なんて言うつもりはねぇけどさ」
ハングの隣でエリウッドが再びレイピアを構えた。
「覚悟を決めてもらおう。ダーレン!!」
威勢よく啖呵を放つ二人を前にダーレンは笑う。
「フハ・・・フハハハ!世界を統べる王・・・このダーレンにあくまで逆らうか!」
「当然だ。例え全世界がてめぇを崇めても。俺は絶対に抵抗してやる。例え世界中がてめぇを肯定しても、俺だけはてめぇを否定してやる!」
「同感だ。ダーレン、あなたはリキアに悲しみと痛みを振りまいた。その罪は決して消えはしない」
「御託はよい!かかってこい!!」
ハングが駆け出す。それに合わせるようにダーレンが槍を突き出した。
ハングはその槍に切っ先から目を逸らさない。ハングは右足を踏み込み、左腕の拳で槍先を迎え撃った。
「っっつ!!」
槍先が鱗を貫通するようなことはなかったが、衝撃が骨を駆け巡る。
しかし、間合いは詰めた。
ハングは素早く手を開き、槍の穂先を握った。ダーレンの槍を封じる作戦であったが、そこはダーレンも心得ていた。ダーレンは素早く槍を振り、梃子の原理でハングの手から槍を取り戻す。
だが、既に隙は作った。
エリウッドが突っ込む。槍を引き戻して防御する時間はない。
そのはずだった。
「やはり甘いわ!!」
ハングとエリウッドは信じられないものを目撃した。伸びきっていたはずのダーレンの槍が目にも止まらぬ速度でダーレンの手元に戻ったのだ。
ダーレンは槍を振ってエリウッドの剣の軌道を逸らす。そして、そのまま攻撃に転じ、槍を突き出した。
エリウッドは素早く後退して回避する。
ハングとエリウッドは再び間合いの外で武器を構える。
そして、二人はダーレンの武器を改めて観察した。
「歯車仕掛けの機械槍かよ・・・」
「実物は僕も初めて見た」
ダーレンの槍には細い鎖が繋がっていたのだ。
ダーレンは鎧の中の仕掛けでその鎖を巻き取ることで槍を引き戻した。
「やっかいだね」
「なぁに、そうでもねぇさ」
ハングは不敵に笑ってみせた。エリウッドはその様子を不思議そうに見た。
この状況でよく笑える。
そう思ったエリウッドの口元も自然と笑みの形に変わっていた。
感情は伝染する。ハングはそのことをよく理解している。
だからこそ、厳しい状況の時ほど笑ってみせるのだ。
それに、決して策がないわけではなかった。
ハングは左腕を振り上げ、石畳に叩きつけた。激しい音がして、爪が石畳に食い込む。
「先行くぜ!!」
ハングはそう叫び、腕の力で無理やり飛んだ。向かった先はダーレンの頭上。
ダーレンの上空を飛び越え、ハングは通路の奥へと着地した。
「なにっ!!」
「機械仕掛けってのは歯車の重みで動きが鈍い。それに、精巧な作りのせいで急激な運動についてこられない。狭い場所なら確かに有利だがな、背後が・・・」
ハングは着地と同時に再度腕を突き立てて自分の身体を『投げる』。
「がら空きだぁ!!」
ハングの剣は細い。その攻撃では鎧を切り裂くことはできない。ましてや鎧の間隙を狙うような芸当もできない。
だからハングはがただの体当たりをぶちかました。
必要なのはダーレンをその場から動かすことだった。
「重い鎧は・・・年寄りは効くだろう!!」
一歩踏み出すだけで重厚な鎧がガチャガチャと不快音を響かせる。
ダーレンが呻く声をハングは確かに聞いた。
自身の体重と鎧の重量、そしてハングの突進の重みの負担は全て膝と腰に集中する。
その隙を逃すエリウッドではない。
ダーレンが二歩目を踏み出す前にはエリウッドの最速の突きがダーレンの体に吸い込まれていた。
「ぐふっ・・・?」
エリウッドの体重移動と蹴り足による突進力。それをレイピアの切っ先に集めた一撃はダーレンの鎧の隙間を縫い、骨と筋肉を貫通して喉を貫いた。
エリウッドは素早く剣を引き抜く。創口から血が吹き出た。
「これは・・・わしの血か?」
気道を気づ付けられてラングレンの口から血が逆流する。
「エフィデル!早く来ぬか!!お前の主が・・・」
ダーレンは誰かを探すように周囲を見渡す。
だが、彼の周囲には誰もいない。
自分の息子も、ラウス領の兵士もいない。
ダーレンはそれでもエフィデルを呼び続ける。
「エフィデル・・・お前の・・・主が・・・呼んでおるのだ・・・わしは・・・」
ダーレンの身体から徐々に力が抜けていく。
「わしは世界を・・・統べる・・・王・・・ぞ・・・」
ダーレンの身体がゆっくりと崩れ落ちる。
「わしは・・・・世界の・・・・王・・・・」
それでも彼はうわ言のように自分を『王』だと言い続けていた。
血だまりが床に広がっていく。次第に静かになっていくダーレンに向けてハングは呟いた。
「あんたの下に仕える者はもういねぇんだよ・・・自分で捨ててきたんだ。今のあんたは裸の王様だ」
ハングの声が聞こえたかどうかは定かではない。
エリウッドが祈りを捧げるように目を伏せていた。
その直後、遺跡の正面扉が粉砕され、ヘクトル達が飛び込んできた。
「ダーレン!!・・・って、エリウッド。もう終わってたのか」
「ああ、今しがたね」
エリウッドはレイピアを鞘にしまった。
ヘクトルの背後から騎馬部隊や天馬部隊も流れ込んでくる。
ハングはすぐさま次の指示を出した。
「リンの方でまだ戦闘音が聞こえてる。ケント、セイン援護にまわれ。マーカスさんと、ロウエンは西側の援護に。フロリーナとフィオーラさんは上空を旋回、周囲の警戒にあたってください。プリシラはここで待機」
ハングの指示に従い、皆が行動を開始していく。その背後で、エリウッドとヘクトルはダーレンが塞いでいた通路の奥を見つめていた。
「この奥に父上が・・・」
エリウッドは胸元で拳を握りしめていた。
居ても立っても居られない気持ちはハングにも理解できていた。
そんな二人を前にしてヘクトルが痺れを切らしていた。
「ハング、早く行こうぜ!!」
「待て、まだ面子が揃ってねぇ」
「面子?」
「ああ、あと一人・・・そいつがいないことには許可は・・・」
そのハングの背後から声がかかった。
「それって私のこと?」
ハングは振り返ることなく、その声に答える。
「随分と早い到着だな?」
「誰かさんの予想より敵が多かったから仕方ないでしょ」
ハングの後ろに立つリンはかすり傷一つなく立っていた。
彼女はエリウッドとヘクトルの顔を見渡し、表情を引き締めた。
「私が最後みたいね、行きましょうハング」
「・・・ああ・・・行こう!!」
そう言ったハングの瞳は既に燃える炎のように揺れていた。
この先にエルバートがいる。ネルガルがいる。
この先にいる。
四人は通路の奥へと駆け出した。