【完結】ファイアーエムブレム 烈火の剣~軍師と剣士~   作:からんBit

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間章~向かい風(後編)~

船首に向かったハング。レベッカの言葉通り、そこにはリンがいた。

 

船で馬を運ぶ時に使う小さな厩で彼女は馬の世話を焼いていた。

そこには最近馬の管理が仕事となりつつあるフロリーナとフィオーラ、ついでにヘクトルもいた。

 

「なんで、馬の世話のできない役立たずがここにいるんだ?」

「てめぇ!開口一番に喧嘩売ってんのか!?」

「おっと・・・本音が出た」

「売ってんだな。言い値で買ってやるから表でろ!!」

 

ヘクトルの会話で自分の口の回り具合に満足したハングである。

 

ヘクトルは荒く鼻息を吐き出して、干し草の山に座り込む。

そんなヘクトルの様子をフロリーナがチラチラと盗み見ては百面相をしていた。

 

ハングはフロリーナがヘクトルに言いたいことを抱えているのを知っていたが、下手に口は出さない。

フロリーナをヘクトルに近づけるようなことを言えばリンの怒りの矛先が向いてきてもおかしくないからだ。

 

だが、基本的に鈍感なヘクトルを相手にするとはフロリーナもなかなか苦労するだろうな。

 

ハングはそんなことを思いながらリンに声をかけた。

 

「リン。なんか話があるんだって?」

「え、ええ・・・」

 

ハングを前にしてリンは少し躊躇うような顔になる。

 

「フロリーナ、私達は・・・」

「う、うん・・・」

 

フィオーラに連れられるようにフロリーナはこの場から去って行った。

フィオーラに気を遣わせたことにハングは軽く目礼をする。

 

この場に残ったのはハング、リン、ヘクトルの三人だった。

 

ヘクトルは干し草の上に座り込み、リンはおざなりな手つきでブラシをかけている。

そして、ハングは一本の柱に寄りかかった。

 

ハングはしばらくリンを見ていたが、彼女には口を開く気配がなかった。

 

ならば今は別の要件から片付けることにした。

ハングは干し草の上へと視線を移した。

 

「ヘクトル、エリウッドはどうしてる?」

「相変わらずさ・・・」

「そうか」

 

エルバート様の遺体に防腐処理を施した後、ご遺体はファーガス船長の心意気で船長室に安置してもらえることとなった。エリウッドはこの船に乗ってから、一度もその部屋を出てくることはなかった。

 

ヘクトルが訪れたり、ロウエンが食事を持っていったりしてるが、どうやら父親の手を握ったまま離さないという話だった。

 

ハングは今の自分が行っても逆効果だと思い、エリウッドのもとには一度も行っていなかった。

 

「なぁ、ハング。俺はな、一つだけ聞きたいことがあってここでおめぇを待ってた」

「俺を待つのにどうして厩なんだ?」

「リンディスがいるからに決まってるだろ」

 

ヘクトルがそう言うのはわかっていたし、それに対する返しもハングは用意していたが、ハングは何も言わなかった。

 

「それで、聞きたいことって?」

 

ヘクトルは寝転がっていた体を起こした。ハングを見つめる視線は鋭い。

 

「俺はな・・・お前の口から聞いておきてぇんだ。お前は今・・・何がしたい?」

「・・・それを聞いてどうする?」

「どうもこうもしねぇよ。ただ、お前の旅の目的が今どうなってるのかを知っておきてぇんだ。場合によっちゃ、お前がこの軍を去る可能性もあるじゃねぇか」

 

ハングは目を閉じて頭をかく。

 

ハングの瞳の裏側には様々な死が潜んでいた。

 

ハングの暮らした村の人達。消し飛んだ両親と妹。

魔の島で殺されたレイラ。エリウッドの腕の中で息を引き取ったエルバート様。

 

そして、それらを塗りつぶすようにネルガルの顔が浮かんできた。

 

ハングは後頭部を柱にぶつけた。

 

ハングはネルガルに向かっていった。全身全霊、掛け値なく全てを賭して向かっていった。

それでも、ハングには指一本触れることができなかった。

 

そして、ネルガルが呼び出した一匹の竜。

ネルガルは誇大表現でもなんでもなく世界を滅ぼしかねない力を持っていた。

 

絶望するだけの材料はいくらでもある。

心が折れかけていたことも否定はできない。

 

仲間に顔を見せたくなかったのは敗北者となった自分を見せられなかったからだ。

 

ハングは小さく息を吐く。鼻の奥にタバコの臭いが残っているようだった。

 

ハングは目を開いてヘクトルを見据えた。

 

「俺の目的は変わらない・・・ネルガルを殺す・・・」

 

ハングは鋭く目を細めながらそう言った。

 

ネルガルという強大な奴を目の前にして復讐に対する覚悟が揺らいでいる。

戦っても勝ち目がないのではないかという恐怖が胸の中に蠢いている。

 

そこで諦めてしまえば楽になれるのかもしれない。

 

そんな思いがハングの中にあった。

 

だが、結局のところハングの中にある『死』がそれを拒むのだ。

ネルガルに殺された人達の『死』がハングを駆り立てる。

 

それに、今のハングにはネルガルを追いかける理由が他にもあった。

 

「奴が竜を呼び出して世界を滅ぼしかけてるなら猶更立ち止まってなんかいられない。俺は・・・戦い続ける」

 

ハングはそう言って口元を緩めた。

 

「だから、俺を厄介払いしようとしても無駄だからな・・・俺は・・・この軍の軍師だ」

 

ハングはそう言って不敵に笑う。

 

口にしてみてようやく腹の奥が据わった気がした。

たったこれだけのことに随分と時間がかかってしまった。

 

「そうか・・・ならいいんだ」

 

ヘクトルもそう言って笑った。

 

「これからも頼むぜ、軍師さんよ」

「言われるまでもねぇよ」

 

ヘクトルは干し草の山から立ち上がった。

 

「んじゃ、俺の用はすんだ。ハング、たまにはエリウッドんとこも行ってやれよ」

「ああ、わかってる」

 

本当に大した器だよ。

 

去りゆくヘクトルを見ながら、ハングはそう思ったのだった。

 

ヘクトルが去り、ハングはようやくリンに向き合うことができた。

彼女はもう、ブラシがけをやめていた。

 

「なんだか、久しぶりね」

「そうかもな」

 

ハングが意図的に避けてきたとするなら、それは間違いなくリンだった。

彼女はハングが折れかけている自分を一番見せたくない相手だった。

 

「少し・・・疲れたかな・・・」

「うん・・・」

 

ハングは柱から離れ、リンがブラシ掛けをしていた馬に近づく。

随分と見慣れた馬だと思っていたら、その馬はサカの草原からずっと一緒にいる馬だった。

 

今も荷物運びが主な仕事であることはその馬の鞍で予想がついた。

その背を撫でながら、ハングはリンの側に寄る。

そして、少しだけその体を彼女の肩に乗せた。

 

「わりぃ・・・ちょっと・・・支えてくれ・・・」

「うん」

 

しばしの間、船体の軋む音だけが二人の間に流れていた。

しばらくして、ハングが口を開いた。

 

「ごめんな、お前だって大変だってのに」

 

リンだって抱えてるものが少なからずある。

祖父は傷つき、エリウッドは傷心し、つい先程までハングも泥の底にいた。

 

それでもこうして支えてくれている彼女に、ハングは頭があがらない。

 

「大丈夫。これぐらいへっちゃらよ」

 

ハングは体の位置を動かして、彼女と背中を合わせになって体重をかけた。

 

「お前の背中、ちっせぇな」

「ハングの背中だって小さいわ」

「誰と比べてんだ?」

「ケントとか、ヘクトルとか」

「あれらは鍛えまくってんだ。俺と比較すんな」

 

ハングはわざと体重を強く彼女にかけた。だが、リンは難なく耐えてしまう。

 

鍛え方がそもそも違うのでそれは仕方ないことであった。

 

リンが少し鼻をひくつかせた。

ハング自身の風の匂いに加えて、甘い匂いが漂ってるのを感じたのだ。

 

「これ、タバコの匂い?」

「ああ、さっき少し吸ってた。やっぱり臭うか?」

「私もきついのは苦手だけど。これぐらいなら好きよ」

「そっか」

 

今度はリンも押し返してきて、体重同士でお互いを支える。

お互いの背中から感じる鼓動がとても心地よかった。

 

また言葉が途切れる。

 

波の音がする。

甲板の喧騒が聞こえる。

馬が一頭嘶いた。

 

「俺には・・・復讐だけだった」

 

そんな中でハングはぼそりとそう言った。

 

「復讐さえできれば・・・後はどうでもいいと、そう思ってた・・・」

 

ともすれば、船上の喧騒に飲み込まれそうな声なのにリンにははっきりと言葉が届いていた。

 

「今は・・・違うの?」

「さぁな・・・ネルガルを殺してやりたい、その気持ちは確かに残ってる・・・」

 

ハングは右手を握りしめる。

リンがその拳を柔らかく包んだ。

 

ハングはその温もりを感じ、無意識に息を吐き出した。

 

「でも今は・・・ネルガルから世界を守りたいって気持ちも確かにあるんだ」

「・・・・・」

「竜を見た時、俺は・・・これを世界に放っちゃいけないと思った。ネルガルを殺せなくても止めなきゃならないと思った」

 

それはハングの中に芽生えた新たな気持ちだった。

 

「お前は・・・こんな気持ちだったのか?」

「・・・え?なんのこと?」

「・・・いや・・・やっぱりいい」

「え?え?」

 

初めてリンと会ったあの日。リンの復讐を聞かされたあの日。

ハングはリンのことを同類だと思っていた。

復讐に捕らわれ、ただひたすらにそこに突き進むだけの強さは脆い。

 

そんな彼女を1人にしてはいけないと思ってハングは一緒に旅立つことを了承したのだ。

 

だが、彼女はハングとは違うことを旅をしながら知った。

 

ハングには復讐だけだった。

リンには強くなり、山賊からサカの草原を守りたいという想いがあった。

同じ目的を持っていても、ハングには憎悪しかなく、リンには愛があった。

 

ハングにはその強さが眩しかった。

彼女の持つ強さが羨ましかった

 

それはハングが失ってきたものだった。

 

ハングにも仲間を守りたいと思っていたこともあったのだ。そのために技を磨き、戦術戦略の術を身につけた日々が確かにあった。

 

色々なことがあり、忘れてしまっていたそれをハングはようやく思い出した気がしていた。

 

ハングは最近思うことがある。

本当に一人になってはいけなかったのは、自分自身だったのではないかと。

 

「俺は・・・仲間を・・・皆を・・・守りたい」

 

ハングの背後でリンが大きく息を吐き出した音が聞こえた。

 

「全部、ヘクトルに取られちゃったわね」

 

リンが言いたかったことも、聞いてみたかったことも。

ヘクトルの一言ですべてを済まされてしまった。

 

リンの中には少しだけ敗北感が居座っていた。

ラガルトにまで声をかけて、ハングを呼んでもらったというのに自分は何もできなかった。

 

ハングは口の中だけで笑う。

 

「あいつは、どうしてこういう時だけは頼りになんのか。普段は山賊みたいな野郎なのに」

 

ハングがそう言うと、リンがクスクスと笑った。

彼女の小さな笑い声がハングの耳に心地よく響いていた。

 

「ハング、私からも一つ聞いていい?」

「ん?」

 

ハングはコツンとリンの後頭部に自分の頭をぶつけた。

 

「ハングの家族ってどんな人だったの?」

「そうだなぁ・・・」

 

ハングは遥か昔に思いを馳せる。

 

森を駆けて遊んだ日々。妹を理由もなく殴ってしまった記憶。母親に叱られ泣いた夜。父の冗談に笑いあった食卓。

 

だが、そのどれもこれもがやはりあの忌まわしき記憶に辿り着いてしまう。

ハングは自分の業の深さにつくづく呆れる。

 

どこまで行っても、自分の過去にはこれしかないらしい。

 

ハングはそれでも自分の記憶にある限りをその場で語ったのだった。

 

「ハングは・・・幸せだった?」

「ああ・・・多分な」

 

その時、船の帆が風を掴んだのか、急に船脚が増したようだった。

 

 

 

――――――― ※ ――――――― ※ ―――――――

 

 

 

ハングは日の傾きかけたころに船長室を訪れた。

 

ハングが【竜の門】から纏っていた疲労と失意に彩られた煙ったような気配は消え、いつもの抜け目のない雰囲気が戻っていた。

 

ハングがドアをノックする。

 

返事は無かった。

 

だが、それで引き返していてはこの船が沈むまでエリウッドには会えないとヘクトルから聞いていた。

 

「入るぞ」

 

ハングは船長室に足を踏み入れた。

 

海賊時代には度々訪れていた船長室。そこは、相変わらず不気味なほどに明るかった。窓の多い船長室には夕焼けの光が強く差し込んでいた。泣く子も黙るファーガス海賊団の船長は太陽の光が何よりも好きなのだ。

 

その光の中でエリウッドはベッドの傍に座り、ハングに背中を向けていた。

ベッドにはエルバート様の亡骸が横たわっていた。

 

ハングはとりあえず深呼吸をした。

 

覚悟を決めてかからないと今のエリウッドに話しかけられなかった。

 

「エリウッド・・・」

「ハングかい?」

 

背中越しに聞くエリウッドの声は普段より掠れているようだった。

ハングはファーガス船長がいつも座っていた椅子を引き寄せて腰かける。

 

「エリウッド・・・俺・・・」

「謝らないでくれ」

 

ハングは機先を制されてしまった。

 

「ハングが何のために戦ってきていたのかは知っていた。それが、今回失敗したんだ。少しぐらい皆と離れる時間があってもたいしたことじゃない」

 

ハングはバツが悪そうに頭をかいた。

 

こんな時でもよく人を見ている。いつもなら『狸貴族め』と言うところだが今のエリウッドにそんなことを言っても意味はなかった。

 

「それだけじゃねぇさ」

 

ハングはエリウッドの背中に話しかける。

 

「それだけじゃねぇだろ。俺が謝ることはさ・・・」

「まさかとは思うが」

 

エリウッドの語気がわずかに強まったのをハングは感じた。

 

「父の死を自分の責任だと言うつもりじゃないだろうね?」

 

ハングは答えない。エリウッドは警戒するように間を置いた。

不意に船が減速したのをハングは感じた。船が不規則に揺れる。

 

その揺れが消えてからハングはようやく口を開いた。

 

「全てが俺の責任と言うつもりはないさ」

 

そこまでハングは万能ではない。そのことはハング自身が一番知っている。

ハングはどこにでもいる普通の個人にすぎない。その個人のできることには常に限界がある。

 

だが、やはりその『個人』の連携を指揮する立場にあったハングには責任があった。

 

「だから・・・まあ・・・それは謝らない。謝ってもお前は受け取ってくれないだろ」

「・・・うん」

 

謝罪は相手に受け取ってもらってこそ意味がある。

だから、ハングは言葉を堪え、胸の中だけで後悔を繰り返す。

それを次に生かせなければ、反省の意味がない。

 

だから、ハングが謝りたかったのは別のことだった。

 

「悪かったな・・・ここに来たのがニニアンじゃなくて・・・」

 

エリウッドが思わず振り返った。その先には力を抜いたハングの笑みが待っていた。

 

「ようやく、振り返ったな」

「なっ・・・」

 

ハングは動揺したエリウッドの前で足を組んだ。

 

「どうした、エリウッド?怒ったか?」

「怒りはしない。驚いただけだ。いきなりそんな冗談がハングから飛んで来るとは思わなかったからね・・・」

 

エリウッドは驚いたまま、あることに気が付いた。

いつの間にか、父の手を放していた。

 

ずっと握りしめていたその手は思った以上に冷たくなっていた。

 

エリウッドはその手を反対側の手で温める。

ハングはそれを見ながら、顔から笑みを引っ込めた。

 

「ハング・・・聞きたいことがある」

「俺も、聞かれると思ってたよ」

 

エリウッドはエルバートの遺体から目を離し、ハングへと視線を向けた。

 

「ハング、君は父と会ったことがあると言っていた。その話を聞かせてくれないか?」

「ああ、そうだろうな」

 

ハングとエルバートの出会い。

 

ハングは懐からキセルを取り出して、火をつけた。これが、最後のタバコだった。

 

「・・・多分、予想はついてると思うけどな」

 

ハングは煙を吐き出して、語り始める。

 

「俺は、フェレで行き倒れた」

「・・・やっぱりかい?」

「悪いかよ」

 

ハングはもう一度キセルに口をつけ、煙を吸い込む。

 

「・・・俺がファーガス海賊団から離れて。最初にまわろうと思ったのはフェレだった」

 

ハングはあの頃に思いを馳せる。

 

「そこで、行き倒れた時に森に巣食う盗賊集団の討伐に来ていたエルバート様に出会ったんだ」

 

ハングはその時にエルバート様から貰った水の味を今でも鮮明に思い出せる。

ハングが初めて一人で旅をして、初めて感じた他者の親切だった。

 

「それで、俺はその盗賊退治に参加した」

 

その先の話はエリウッドも知っている。

その当時、ハングは軍師として本当の本当に駆け出しだった。

だが、ハングは机上で予想される事象を完璧に現実に変えた。

 

その活躍で、盗賊の一団だけでなく、彼らの根城まで潰すことに成功したのだ。

 

「その数日の間、何度も正規で雇いたいと言われたよ」

 

『私には息子がいてな。多分、君と同じぐらいの年齢だ。強い子なのだが、あまりに優しすぎるきらいがある。ハング君が支えてくれると嬉しいのだが』

 

何度となく、ハングはそう言われた。

 

『これがな妻のエレノアの作ってくれた手拭なんだ。いい刺繍だろ?私の自慢の品なんだ』

 

たき火を囲み、野営を繰り返してる間にもハングにとても気安く話しかけてくれた。

 

『先日、城をあげての祭りがありましてね。侯爵様ったら奥方様に引きずられて倒れられるまで踊ってらしたんですよ』

『こら、エナーフ!!そんな話はせんでいい!!』

 

部下に慕われ、町の人に慕われ。そんな姿がとても似合う人だった。

 

「そうか・・・そんな風に僕のことを言っていたのか」

「ああ・・・」

 

別れる段になっても最後までハングにフェレで働かないかと声をかけてくれた。

 

『自分はまだ、世間を知りません。もっと学ばなければならにことが多すぎます。それに・・・』

 

その続きを話そうとして言葉に詰まってしまったハングの肩に優しく手を置いてエルバート様はこう言った。

 

『ならば、いつでもよい。私は待っているよ。もちろん、収穫祭に来てくれるだけでも大歓迎だ』

 

ハングはこの人は本当に貴族なのかと何度も疑った。まるで、親戚のおじさんだ。

 

「そんな人だったからな・・・エルバート様の失踪騒ぎを聞きつけて、俺はフェレに行ったんだよ」

「そうだったのか・・・」

 

人望や器という言葉はエルバート様には堅すぎて似合わない。

 

あの人はとても・・・

 

「優しい人だったよ・・・」

「うん」

 

ハングはキセルの中身を捨てた。

 

「優しい・・・人だった・・・」

「うん・・・」

 

どこか遠くで、カモメの鳴き声が聞こえたのだった。

 

ハングとエリウッドはしばらくの間、沈んでいく夕陽を見つめ続けていた。

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