【完結】ファイアーエムブレム 烈火の剣~軍師と剣士~   作:からんBit

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21章~新たなる決意(前編)~

港町バトン

 

エリウッドと共にエルバート様のご遺体を見送ったのはつい今朝のことだった。

既に周囲は暗く、ハングは宿屋の食堂で一人白湯をすすっていた。

 

フィオーラやカナスも加わり、だいぶ大人数となってきたハング達だが、ハングがファーガス海賊団の名前を持ち出せば宿の心配は無かった。

 

夕食も済ましたが、寝るにはまだ早い。

ハングは地図を前に次の目的地を思案していた。

 

そんな時、ふと食堂に一人の少年が入ってきた。

 

ニルスだ。

 

「よう、ニルス」

「ハングさん」

 

ニルスは笑顔で答えてくれた。ニニアンが今日の昼頃に目を覚ましたのだ。

目が覚めた彼女は意識も記憶もはっきりしており、もう自己紹介も必要なく、顔を見られる度にビクつかれることもなくなった。

 

そして、今晩にでも彼女から【魔の島】での詳しい話を聞くことになっていた。

 

「こうして落ち着いて話すのは再会後は初めてだな」

「うん、そうだね。ハングさん、ずっとなんか怖かったもん」

 

ネルガルとの邂逅以降、ハングが皆を避けてたのと同じくらい周りもハングを避けていたらしい。そのことを知ったのはついさっきだ。

 

『・・・ごめんなさい。近寄りがたかったものですから』

『あんたが、怖い顔でうろついてるからこんなことになってるんでしょ!プリシラをビビらせてるんじゃないわよ!』

 

ハングはプリシラとセーラに言われたことを思い出して頬を揉む。

 

「なぁ、ニルス。俺ってそんなに怖い顔か?」

「うん」

 

即答されたことに感涙を禁じ得なかった。

 

「普段はそうでも無いんだけど、考え込んでる時とかはやっぱり怖いよ。『近寄るな』オーラがすごい出てるし」

「傷口に毒を塗り込むな。痛いだろうが」

「それって、痛いですまないと思うよ?」

 

一年前より少しは返し方も上手くなっていた。

 

「しかし、まぁ・・・少しでかくなったか?ニルス」

「そうなのかな?リン様にも言われたけど。自分じゃわかんないや」

 

そういうものだろう。ハングが自分の人相を確認できないのと一緒だ。

 

「でも・・・」

 

不意にニルスの目元が陰った。少し目尻が光ったような気がした。

 

「本当にハングさんなんだね。なんだか凄く懐かしいや」

 

ニルスは震えそうな声でそう言った。

ハングは弾けたように笑ってみせる。

 

「大げさな、せいぜい一年ぐらいだろ?」

 

だが、ニルスの表情が好転することはなかった。

 

「ぼくら、ハングさん達と別れてから・・・いろんなことがあったんだ」

 

『いろいろなこと』

 

ニルスの苦労の中にどれほど【黒い牙】の情報が含まれているのか。

ハングはそれを思い、一瞬考え込みそうになったが、思いとどまった。

つい先程、その行為が『近寄るな』オーラを噴出させると言われたばかりだ。

 

だから、ハングは笑ったままニルスの頭に手を置いた。

 

「わっ、なに?」

「なんでもねぇよ」

 

そしてぐしゃぐしゃと頭を撫でまわす。

最初は驚いていたニルスも徐々に撫でられるままになっていった。

 

体を拭くこともできない船の旅もあり、ニルスの髪は固くなっていたがハングは構わずに撫でまわす。

 

「ハングさん・・・」

「ん?痛かったか?」

 

ニルスは首を横に振る。ハングの手の下にはもう泣きそうな顔は無かった。

 

「ありがとう」

「礼を言われることは何もしてないよ」

 

ハングはニルスの頭から手を放した。

ちょうどその時、食堂にフィオーラとギィという珍しい組み合わせがやってきた。

 

「ですから、傭兵という稼業というのはきついですよ」

「むぅ・・・よくわかんねぇけど。大変だってのはよくわかった」

 

ハングはニルスを膝に乗せて、二人に声をかけた。

 

「二人が一緒とは珍しいな」

「あっ、ハング!お前、俺と勝負しろ!!」

「順を追って話せ」

 

いきなりギィに噛みつかれた。ギィが最近、手当り次第に軍の連中に喧嘩を売って自分を鍛えているのは知っている。

今の実力ではマシューに勝てないので腕を磨こうとでも考えたのだろう。

ギィにしては珍しく正しい判断だった。

 

だからと言って、ハングにはギィの勝負を受ける理由がない。

 

「とにかく勝負だぁ!」

 

ハングは隣のフィオーラに視線だけで訴えるが、彼女も困ったように肩をすくめただけだった。

 

「よし、いいだろう」

「そうか?よし、じゃわぁあああああぁぁぁ!!」

 

ハングは白湯の入っていた木製のコップをギィの眉間に投げつけた。

紙一重で避けられてしまったが、それはそれでいい。

 

「危ないじゃねぇか!?」

「だろうな」

 

木製とはいえハングは左腕で投げたのだ。

コップはなかなかの速度で飛んでいった。

 

「『だろうな』・・・って。畜生!ハング今すぐ勝負しろ・・・お・・・お・・・」

 

意気込んでいたギィが前のめりに倒れていく。

床に無様に横たわったギィの目は虚ろ。彼は気絶していた。

 

「ハングさん、これでよかったのかい?」

「悪いな。世話かけた」

 

ハングはギィの後ろに立っていたラガルトに軽く頭を下げる。

 

ハングがコップを投げたのはギィを攻撃する為ではなく、彼等の後ろにいたラガルトの注意を引く為だった。

そして、ラガルトは見事にこちらの意図を察してくれた。

 

「で、フィオーラさん」

「あ、はい」

 

ニルスがケラケラ笑いながらハングの膝から飛び降りたのを見届けて、ハングはフィオーラに声をかけた。

 

「なんで、ギィと一緒に?」

「私も、最初はハングさんと同じように勝負を挑まれたのですが。いつの間にか傭兵稼業の話になってまして」

「そういうことか・・・」

 

そんな時、食堂にセインが顔をのぞかせた。

 

「ハング殿、ここにいらっしゃいましたか」

「セイン?どうした?」

 

セインは珍しく随分とかしこまった態度だった。

 

「リンディス様とヘクトル様がお呼びです。ニルス君も一緒にと」

「ああ、わかった」

 

これから、ニニアンとエリウッドを交えての【魔の島】での思い出話をすることになっていた。あまり愉快な話になるとは思えない。

セインの顔がしかめっ面なのはその為だ。流石のセインでもこんな時に軽薄な態度を取るべきでないことぐらいは心得ていた。

 

「ニルス、行くぞ」

「・・・うん」

 

床に這いつくばったギィで遊んでいたニルスも神妙な面持ちで顔をあげた。

ハングはラガルトにギィの後始末を頼み、食堂を後にしたのだった。

 

「セイン殿」

「なんでしょう、フィオーラさん」

「あなたはそんな顔もできるのですね」

「これでも・・・努力してます」

 

フィオーラは思わずといったように噴出したのだった。

 

 

 

 

――――――― ※ ――――――― ※ ―――――――

 

 

 

ハングとニルスは2階にある部屋に向かった。

そこには既にエリウッド、ヘクトルが難しい顔をして座っていた。

 

「よう、ニニアンは?」

「リンディスの奴が連れてくるってよ」

 

ヘクトルが仏頂面のままそう言った。

それを見て、ハングは隣のニルスがなんだかむっとしていた。

 

「この人、誰?」

「ん?まだ自己紹介してないのか」

 

どうやらニルスは見ず知らずの人物がリンを呼び捨てたのが気に入らないようだった。

 

「見た目と口と中身があれな奴だが、一応オスティア候弟のヘクトルだ」

「おめぇ、最近俺に喧嘩売る頻度があがってねぇか?」

「まぁ、悪い奴じゃない。少なくとも信頼は置いていい」

 

ヘクトルが間に挟んだ台詞などなかったかのごとく、ハングは言ってのける。

ヘクトルの向こうでエリウッドが疲れたように笑っていた。

 

「あ、みんな揃ってるわね」

 

そんな時、ニニアンを支えながらリンが入ってきた。

 

「ニニアン、こっちの椅子に。リンディスも」

「ありがとう、エリウッド」

「・・・ありがとうございます」

 

こういう時に自然に女性を労わる行動できるエリウッドはやはり貴族なのだなぁ、などとハングは思った。

ハングは椅子に腰かけたニニアンに話しかける。

 

「それで、ニニアン。落ち着いたのか?」

「はい・・・ご迷惑をおかけしました」

 

彼女の顔色は相変わらず真っ白だが、以前よりは頬に赤みが戻っている。

 

「ならいい・・・それで・・・本題に入りたいところなんだが・・・」

 

本題。それはネルガルの真意だ。

だが、早急に話を進めるべきではないようにハングは感じていた。

 

エルバート様を見送ったのは今朝のことだ。エリウッドがまともな状態ではないのはわかっていた。

ハングはヘクトル、リンと順に目配せを送り、最後に隣のニルスと視線を合わせた。

 

「ニルス・・・」

 

不意にエリウッドが声を発した。

 

「父とはどこで?」

 

エリウッドの視線はニルスをとらえている。表情も船の上よりかは柔らかい。

だが、声に染みこんだ感情はそう簡単には隠すことはできていなかった。

 

ハングがもう一度ニルスを見る、ニルスもハングのことを見上げていた。

 

ハングは小さく頷いた。ニルスはそれを見届けてから、エリウッドへと視線を戻し、語りだした。

 

「【竜の門】で・・・だよ。捕まってたぼくらを逃がしてくれたんだ・・・」

 

静寂の中にニルスの声だけが響く。

 

「それから小船で海にでたんだけど、ぼくだけ投げ出されちゃって。気がついたら・・・ヴァロール島に逆戻りだった。それから、ずっと一人で・・・島の遺跡に隠れてたんだ。そしたら・・・ 突然大きなキケンを感じて、【竜の門】に駆けつけたら・・・あんなことに」

 

ハングはニルスの頭の上に手を置いた。

 

「俺達が船でニニアンを助けた時・・・記憶を失ってた。逃げてたことは予想できたことだったんだが・・・俺のミスだ・・・ニニアンを連れ戻しちまった・・・」

 

ハングは胸の内で溜息を吐く。全ての責任があるとまでは言わないが、ハングの判断で竜の出現の一歩手前までいったのは間違いなかった。

 

唇をかみしめるハング。

 

そんなハングに、ニニアンがわずかに首を横に振った。

 

「・・・いえ・・・ハングさんはなにも悪くありません・・・・・・ニルスが海に落ちた時、わたしは・・・どうしていいか分からず・・・心を閉ざしてしまった。わたしがしっかりしていれば・・・この事態は避けられたはずなのに・・・もうしわけ・・・ありませ・・・ん」

 

頭を下げて、目を閉じるニニアン。目元が光ったように見えたのは錯覚ではないはずだ。リンがそんな彼女の背をさすってやる。

 

「・・・ニニアンは、ぼくより強い力の持ち主だけどその分、心も体も弱いんだ・・・ネルガルは、そこにつけこんで・・・」

 

乾いた音がした。ヘクトルが自分の手のひらに拳をぶつけた音だった。

確かに胸くそ悪い話だった。

 

「・・・やつらが君たち姉弟を狙うのは【竜】を・・・呼び出す力があるからか?」

 

エリウッドがそう尋ねた。その質問にはニルスが答えた。

 

「・・・正確に言うなら、【竜の門】を開く力を持つから・・・かな。一度開けてしまったら、ネルガル一人ででも竜を呼び出せるよ」

「マジかよ」

 

ハングはそう呟いて天井を仰いだ。

 

既に人外のような奴だとは思っていたが、そこまでの存在になっていたとは思っていなかった。戦慄を禁じない皆に向かってニルスは更に言葉を続けた。

 

「・・・ただし、どちらの行為もたくさんの【エーギル】が必要だけど」

「【エーギル】?」

 

聞きなれない言葉だった。

 

「ネルガルは、そう呼んでいた。人間の心の強さとか・・・生きる力そのもののことで・・・ネルガルは、その【エーギル】を奪うんだ」

「・・・【エーギル】を奪われた人間はどうなるんだ?」

「・・・すぐに死んでしまう・・・」

 

ハングの脳裏に【竜の門】で苦しみだしたエルバートの姿がよみがえる。

エフィデルが手のひらを向け、苦しみ出したエルバート様。

あれはその【エーギル】を奪われていたということか

 

「ニニアンも、ぼくもそんなに力があるわけじゃない。ハングさんも知ってる、あの“特別な力”だけだ・・・だからネルガルは、かなりの量の【エーギル】を手に入れる必要があった。それで、まず腹心の部下であるエフィデルを野心のあるラウス候に近づけてリキアに争いの種をまいたんだ・・・」

「・・・なんのために?」

 

そう問うたのはエリウッドだ。

 

「・・・【エーギル】は人によって強さが全然違うんだって。心と体が強い人なら、一人でも普通の人の何百倍の力を持つらしいよ。でも、そういう人の数は本当にわずかで・・・『さがしだすのが困難だ』っていつもこぼしてた・・・手間はかかるけど、戦争を起こさせるのが一番確実な方法なんだって・・・」

「そういうことか・・・」

 

ハングは吐き捨てるようにそう言い、苛立ちを紛らわせるように頭をかいた。

 

戦争になれば、人が集まり、戦う。残るのは常に強き者だ。

戦争の果てに残った連中を回収すれば確かに確実だろう。

 

「・・・つまり、篩にかけるためにリキアに内乱起こす気だったのかよ!?」

「たまには理解が早いじゃねぇかヘクトル」

「やかましい!・・・畜生!俺たちの国をなんだと思ってやがるっ!!」

 

リンも唇をかみしめる。

 

「それじゃあ、ラウスがキアランを襲ったのは・・・」

「俺達が動いたことで内乱が不意になったからな、せめて一戦交えて使えそうな人間を選別したんだろう。そのために一番歯ごたえのある相手を狙ったってわけだ。後は・・・時間かせぎ・・・そんなとこか」

 

無理にオスティアを攻めたり、守りの手薄な地方に進軍しなかったのはそのためだ。

そのことを読み切れなかったハングを誰も責められはしない。

今回はあまりにも軍略に関する規則を相手方が無視しすぎだ。

 

ハングは先程胸の内に留めておいた溜息を吐き出した。それを合図にニルスが話を戻した。

 

「・・・エフィデルが、エルバートおじさんを【竜の門】に連れてきたんだ。『理想的なエーギルの持ち主を見つけました』って・・・ネルガルは、戦いを起こす手間がはぶけたって・・・上機嫌だった。おじさんの連れてた騎士たちからも【エーギル】がいっぱい取れたから・・・おじさんからならもっと強い【エーギル】が・・・」

 

それ以上はまずい!

 

ハングが止める前にリンが声を張った。

 

「ニルス!」

 

ニルスの体がビクリと震える。そして、ニルスの視線がエリウッドをとらえた。

 

「あ、ごめんなさい・・・エリウッドさま」

「いいんだ・・・【竜の門】で、父を見つけた時部隊の者たちは・・・もう、生きてないだろう・・・とわかっていたんだ・・・」

 

それがどうして『いいんだ・・・』なんて言葉につながるんだ。

これ程に説得力の無い言葉は久々に聞いた。

 

部屋の中の空気が曇っていくようだった。

 

「・・・おじさん、言ってたよ」

 

ニルスがそれを破ろうと、務めて明るい声を出した。

 

「息子が1人いるんだって。せっかく剣術の才能があるのに戦うことがキライで・・・でも心の優しい、人の痛みのわかる子だから自分よりも、いい領主になるはずだって・・・」

 

それはエリウッドのことだろう。

 

「家族の暮らすリキアを戦火に巻き込むくらいなら・・・自分が犠牲になってでも、なんとしても止めてみせるって・・・」

 

エルバート様がこの内乱の渦中に飛び込んだのはその辺が理由なんだろうとハングは思う。残念なのはその真意をもう知ることはできないことだ。

 

「【竜の門】で生きる希望を無くしてた、ぼくらに・・・ずっと明るく話しかけてくれた・・・自慢の息子と美人の奥さんの話ばかりだったけど」

 

そういうところは相変わらずだったようだ。

 

「でも、ぼくもニニアンも・・・おじさんが大好きだったよ。おじさんの話す、家族の話に・・・すごく力づけられたよ」

 

それで、ニルスの話は終わりだった。

エリウッドは自然と俯いてしまっていた。

 

心に空いた穴はそう簡単には埋まりはしない。

 

ヘクトルが不意に席を立った。

 

「・・・ヘクトル?」

「今は、一人にしてやらねぇと」

 

リンはまだ涙をこぼしていないエリウッドを見て、やはり席を立った。

ハング達がいたのでは泣くに泣けないだろう。

 

「そうね・・・ニルス・・・ハング・・・」

「ああ」

 

ハングはニルスの背に手をあてて、部屋を後にした。

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