【完結】ファイアーエムブレム 烈火の剣~軍師と剣士~   作:からんBit

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21章~新たなる決意(中編)~

ハング達はこのまま食堂や自室に戻る気にもなれず、星でも見ようかと宿の外に出た。

今日の空は曇りではないが、快晴とまではいかない。頭上の星空は約半分だった。

 

宿の外からはハング達が先程までいた部屋の明かりが見えていた。

 

その窓を見ながらリンがヘクトルに話しかけた。

 

「・・・よかったの?ヘクトル」

「ん?」

「あなただけでもついていてあげたら?」

「んー・・・そう思ったんだがな・・・」

 

ヘクトルが目だけでハングに同意を求めてくる。ハングは肩をすくめてその返事とした。

 

「横にもう一人、泣きそうな面したやばいのがいたからな・・・」

 

ヘクトルが言いたいのはニニアンのことだ。それを聞いてニルスは姉がいないことにようやく気がついたようだ。

 

「え?あれ!ニニアンがいない!ぼく探してくる」

「ちょい待ち」

 

駆け出そうとするニルスの襟首をハングは捕まえて持ち上げた。

 

「ちょ!ハングさん!?降ろしてよ!!」

 

俗に言う『猫掴み』という奴だ。ニルスはじたばたとしてみたが、足が地面に届いていないのでどうしようもない。ハングはそのニルスをヘクトルに向けた。

 

「お前の姉貴も大変だったんだ。そっとしておいてやれよ」

「そ、そんなこと・・・」

「わかってないから、俺がこうやって吊るしてるんだからな」

「う、ううう・・・・」

 

ようやく大人しくなったニルスをおろし、ハングは首を一度、二度とならした。

 

「さて、これからどうするかだな・・・」

 

そうハングが言うと、リンが躊躇うように口を開いた。

 

「ネルガルはどうしたかしら・・・」

「そんなに気を遣わなくていい。名前ぐらい普通に言え」

 

ハングは苦笑いをしながらニルスの答えを待った。

 

「・・・あいつは死なないよ」

 

リンとヘクトルが同時にハングの表情を追った。

だが、ハングの苦笑いは揺るがない。

 

ネルガルがそう簡単に死なないということはハングにもなんとなくわかっていた。

 

「あいつは・・・ネルガルは、自分の体にも【エーギル】を使うんだ。だから、傷もすぐに治る・・・老けることもない」

 

ハングはエルバート様があの時に使った短剣を思い出していた。

あれは確かにネルガルの身体に刺さっていたというのに、血が一滴たりともついていなかった。

 

「生きている人間の血は赤い。ネルガルはもはや人間じゃないってことか」

「・・・少なくとも、今は・・・」

 

そんな奴の野望を止める。そして、できることなら息の根も止める。

ハングは頭を振って頭の中から余計なことを放り出した。

変に考えこめば、固めたはずの決意が揺らぎそうだった。

 

ハングは気分を切り替えるために別の話題を出した。

 

「それよりも・・・」

 

ハングはエリウッドの部屋の窓を見やる。

 

「どうなってんだろうな?」

「気になるっちゃ気になるな?」

 

ハングの意見にヘクトルも同意する。

普段は覗かれる機会の多いハングだ。たまには覗く側にまわってみたいものだった。

だが、無言の圧力がリンとニルスからあり、ハングとヘクトルは断念したのだった。

 

その頃、話題の中心であるエリウッドの部屋では涙を流していたエリウッドがようやく顔をあげたところだった。

 

「・・・エリウッド様・・・」

 

エリウッドはその声に驚き、目元をぬぐった。

誰か部屋に残っているとは思ってなかったのだ。

 

「ニニアン・・・居たんだね」

 

エリウッドは少し赤くなった瞼をさすって、笑う。

 

「すまない、みっともない所を見せた」

 

エリウッドはそう言って笑顔を見せる。

 

エリウッドは痛みを抱えている。心を抉るような傷を負ったのだ。痛みがあって当然だった。

それなのに、笑いかけられたニニアンの方が痛そうな顔になっていた。

エリウッドはそんなニニアンの心の機微がわからないようなつまらない男ではない。

 

「起きていて大丈夫か?あんな目に遭って・・・顔色が悪いようだけど、休んでなくていいのかい?」

 

エリウッドは優しく微笑む。

 

彼自身も辛い。でも、自分よりも他者を優先するその行動力こそがエリウッドの良さなのだ。

エリウッドはふとニニアンの手元についた傷に気が付く。

 

「・・・よく見たら、あちこち傷だらけじゃないか・・・」

 

切り傷、擦り傷、打ち身。彼女の手の甲だけでもそれだけの外傷が見られた。

先程まできちんと包帯を巻いていたのだが、あまり大げさにしたくないニニアンの要望で今は外していた。

 

「きちんと手当てしないと・・・かわいそうに」

 

エリウッドは部屋に置いてある傷薬の口をあけて中の軟膏を取り出した。

 

「ほら、手を出して」

 

エリウッドはそう言ってニニアンに近づく。ニニアンは少し躊躇うような仕草を見せた。

 

そんなニニアンに対してエリウッドは安心させるように笑みを深めた。

 

それはハングとは違う方向で人を安心させる笑みだった。

 

ハングの笑みは人の元気を掻き立てるような、祭りに誘うような笑みだ。

エリウッドは陽だまりの中に誘い込むような、そんなとても暖かな笑みだった。

 

ニニアンはその陽気に誘われるように、差し出されたエリウッドの手に自分の手を重ねた。

 

その手に軟膏が塗られる。

 

傷を持ち、火照った皮膚にはその冷たさが心地よかった。

その手つきは常に懸命で、動き一つ一つにエリウッドの心遣いがしっかりと染みこんでいた。

 

「・・・どうして」

 

ニニアンが不意に呟いた。

 

「え?」

 

彼女の手に向いていたエリウッドの意識が彼女の瞳に移る。

 

「どうしてエルバート様も・・・エリウッド様も・・・こんなにやさしい・・・の・・・?」

 

ニニアンの目尻に大粒の涙が溜まっていた。

 

「わ・・・わたしっ・・・わたしのせいで・・・こんな・・・こんな酷いことに・・・!」

 

ポロリと、涙がこぼれる。それが決壊の合図だったかのように彼女の瞳から次々と新たな水滴が零れ落ちていく。歯を食いしばり、目を閉じて、必死に何かを懺悔しようとするニニアン。

 

エリウッドは懐から手巾を取り出した。

 

「ニニアン、そんなに泣いたら体に障るよ」

 

エリウッドは彼女の涙を拭いてやる。自分の涙は乱暴にこすって拭いていたエリウッドだったが、ニニアンの涙は吸い取るように丁寧に丁寧に拭いていく。

 

「ニニアン、僕はもう大丈夫だから・・・泣かないでくれ・・・」

「ごめんなさい・・・ごめん・・・なさ・・・」

 

エリウッドはしばらくの間、ニニアンの瞳から溢れる涙を根気よく拭い続けた。

 

「落ち着いたかい・・・」

「・・・はい・・・」

 

エリウッドは手巾を懐にしまい、やりかけていた彼女の手当を再開した。

そして、それも終盤に差し掛かったころにエリウッドは少しだけ強い声で話し出した。

 

「・・・これだけは言っておこう」

 

エリウッドは包帯の先を二つに裂き、それで結び目を作る。

 

「父のことは・・・君の責任じゃない」

 

緩まないように結び目を調節するその手際はやけに手馴れていた。

 

「君だって辛い思いをしたんだ」

 

エリウッドは手当を終え、彼女の目を真っ直ぐに見つめる。

 

「ニニアンが気に病む必要は無いんだよ」

「・・・エリウッド様・・・わたし・・・わたしは・・・」

 

その時だった。ニニアンの表情が変わる。

 

「どうしたんだ?」

 

そして、何かに集中するかのように目を閉じた。

 

「・・・あ・・・」

「ニニアン?」

「・・・敵・・・・・・来ます!!」

 

エリウッドは立てかけてあった剣をとって部屋を飛び出した。

 

 

 

――――――― ※ ――――――― ※ ―――――――

 

 

 

ニニアンが感じたものも当然ニルスも感じた。

 

「みんなを呼んで!敵が来る!!」

 

ヘクトルが舌打ちと共に、悪態を吐いた。

 

「少しくらいエリウッドを休ませてやれよ・・・!」

 

リンも自分の剣に手をかけながら、周囲を警戒する。

 

「仕方がないわ、私達だけでやりましょう。ハング!・・・・ハング?」

「ハングさん?どうしたんですか?」

 

ハングは皆から少し離れ目を閉じて、空を仰いでいた。

 

「ハング!!・・・どうしちまったんだ、こいつ?」

 

ハングは自分の耳に全神経を集中していた。様々な音がする。

 

今は夜とはいえさほど遅い時間でもない。周囲の民家、獣の声、波の音などがハングの耳に飛び込んでくる。

その中にわずかだか羽ばたき音が混じっていた。

 

鳥の類にしては力強すぎる。ペガサスにしては重い。

 

「やっかいだな・・・」

「ハング!聞いてる!?」

 

リンが隣で叫んでいたのは知っていたが無視していた。

 

「ヘクトル」

「ようやく帰ってきたか」

 

ハングはヘクトルの皮肉を無視して、話を続ける。

 

「竜騎士だ。やっかいだぞ」

 

ヘクトルの表情が変わる。

 

竜騎士とはベルンに生息するドラゴンにまたがる騎士達のことだ。

 

彼等の特徴は空中からの攻撃もさることながら、ドラゴンそのものの凶暴性と鱗の硬さがある。厄介な相手であることに意見を挟む奴はいなかった。唯一の弱点は魔法と弓だが、こう暗い中で天高く舞い上がられると手が出せない。

 

しかも、運のないことにファーガス海賊団も急ぎの仕事で港を開けたとこだ。

 

さて、どうするか・・・

 

「みんな、ここに居たか!」

「エリウッド!」

 

宿からレイピアを抜いたエリウッドが飛び出てきた。

宿の中から仲間達が動き出している声も聞こえてきており、準備はすぐに整いそうだった。

 

「みんなも戦う準備はできてるね!よし、応戦態勢にはいろう!!村の人々に迷惑がかからないよう戦いを長引かせないようにしたい。首領格の者を討って敵を追い払うんだ!!ハング、できるね?」

「簡単に言ってくれるな。だけど、お前がやるって言ってんだ。やるさ。それが俺の仕事だ」

 

ハングは拳をエリウッドの胸板に叩きつけた。

 

「大丈夫か?」

「ああ、僕は大丈夫だ。ハングこそ大丈夫かい?」

「当たり前だ」

 

エリウッドの拳がハングの胸を打つ。

 

二人には悲しんでる暇も、振り返っている暇も、痛みに縮こまる暇もない。それが今はこんなにも心地良かった。

 

「それでハング、策は決まったかい?」

「決まらないことがあったか?任せろよ」

 

ヘクトルが斧を取り出し、ハングの傍に控えるようにしていたニルスに声をかけた。

 

「おい、チビ!おまえは宿に隠れてろよ!」

「やだよ、ぼくだって役に立てるんだから!」

 

確かに一年前の戦いでニルスの力をハングは知っている。ハングとしてはその言葉は否定はしにくい。

ニルスの説得に少し難儀するかと思ったとき、リンが助け舟を出してくれた。

 

「ニルス、あなたがいると助かるけど・・・でも、今はニニアンの近くにいてあげたようがいいんじゃない?」

「あ・・・うん!」

 

先程までニニアンが気がかりだったニルス。

リンの言葉を聞くや否や脱兎のごとく、宿へと駆け込んでいった。

 

「助かった」

「これぐらい」

 

リンと手を打ち合わせる。ハングは一呼吸置き、後ろに仲間が続々と集結してるのを確認した。

 

「そんじゃ、行こうか。踊るにはいい月だ」

 

珍しい冗談を放ちながら、ハングは戦いの指揮を始めた。

 

 

――――――― ※ ――――――― ※ ―――――――

 

 

「ニニアン!ダメだよ、どこに行くんだ!?」

 

ニルスの声が宿の廊下に響く。ニニアンの様子を見ようと戻ったその先で、外に出ようとするニニアンと鉢合わせたのだ。

 

「わたし・・・お手伝いするわ」

「無理だよ!まだフラフラしてるのに!」

 

服の下は傷だらけ、度重なる出来事で疲労も限界に近い。

 

だが、ニニアンは折れない。

 

「少しでも・・・」

 

ニニアンは自分の手を握りしめる。そこにはエリウッドに手当してもらった包帯が巻かれていた。

 

「少しでもエリウッドさまを助けてあげたいの」

 

軟膏の冷たさとエリウッドの指先から伝えられた温もりが包帯の下に包まれている。

ニニアンはそれを握りしめて、瞳に光を宿した。

 

「おじさまの命・・・わたしが奪ってしまったから・・・こんなことでつぐなえるとは・・・思わないけど」

 

紅の瞳がきらめいていた。

 

「ニルス!お願いよ・・・」

 

ニルスは姉のことをよく知っている。

 

今の彼女がぼろぼろだということも。彼女の中で本人がまだ気づいていないであろう真意も。

ついでに、強情な時はどうやったって揺らがない姉だということも百も承知だ。

 

「・・・わかったよ」

 

ニルスが折れないと、この姉は意識を失わない限り止まりはしないだろう。

それはニルスの望むところではない。

 

「じゃあ、手を出して」

「ニルス?」

「ぼくの力をわけてあげる。そんな動けない体じゃ足手まといになるだけだろ?」

「ニルス、ごめんね」

「いいよ、もう諦めてるから」

 

力を分ける。それは感情論ではない。

彼ら姉弟にとってそれは感情論などではない。

 

二人は手を胸の前で絡めるようにして繋いだ。

 

薄らと二人の間に光が纏われた。

 

神々しい光とは言い難く、優しい光とも違う。

それは精霊の放つ光に極めて近いものだった。

 

「・・・フゥ」

 

光がおさまり、ニルスが近くの壁にもたれかかった。

 

「これでいい。ぼくの分も、がんばって」

「ありがとう」

 

駆けていくニニアン。それを見ながら、ニルスはその場にしゃがみ込んでしまった。

 

「疲れた~・・・」

 

気怠そうなニルスの声が聞こえた。

 

 

 

――――――― ※ ――――――― ※ ―――――――

 

 

街では既に部隊が展開し、戦闘に入っていた。

その最後尾にいたエリウッドにニニアンが駆け寄っていった。

 

「エリウッド様!」

「ニニアン!?出てきてはだめだ!!」

「・・・わたしも、お手伝いさせてください」

「エリウッド・・・っと、あれ、ニニアン?」

 

指示を出そうとした、ハングの動きが止まる。

 

「手伝い?君にまで戦わせる気は・・・」

「・・・わたしは、神の舞い手。踊ることで・・・エリウッド様たちをお助けできます」

 

そして、ハングとエリウッドの目の前でそれは始まった。

 

ニニアンが舞う。足を滑らせ、風に衣を乗せ、指先に至るまで研ぎ澄まされ、見る者の意識を一気に引き寄せる。

それは、散りゆく粉雪のような繊細な舞だった。言うならば、風に吹かれ、揺れ惑う、春先にふる、名残り雪。

 

そして、ハングは気が付いた。

 

彼女の指が光っていた。よく見れば、光っているのは指輪だった。

そして、踊りが終わる。それと同時にエリウッドに変化が訪れた。

 

「・・・これは・・・・・・体が・・・何かの力に包まれて・・・?」

「【ニニスの守護】を使ってエリウッド様のために踊りました」

 

【ニニスの守護】

 

一年前にハング達が取り返した指輪だ。

 

「ほんのひと時ですが、体を守る力が上がっているはずです・・・・・・どうかお願いです・・・わたしもお側に・・・!」

 

その時、ハングは頭をはたかれた。

 

「いって!なんだ?」

 

振り返るとリンが怖い顔で睨んでいた。

 

「ぼうっとしないの!!」

 

リンに怒鳴られる。ぼうっとしてたのは確かだったが、ハングは首を傾げた。

 

「何怒ってんだ?」

「怒ってない!!」

 

そう言いながら、彼女は明らかに怒ってた。

その後ろではエリウッドとニニアンの間で意見がまとまっていた。

 

「わかった、それで君の気が済むのなら・・・さ、戦いを続けるぞ!僕から離れないで!!」

「はい!」

 

ハングはリンの機嫌はとにかく後回しにすることにした。

 

「エリウッド。ニニアン連れてくなら、お前の裁量に任せる」

「ああ・・・わかってる」

「姫様は大事にしろよ」

 

エリウッドはそれには意味ありげに笑って答えた。

 

「ハングもね」

「ん?どういう意味だ?」

「答えは自分でみつけな」

 

ハングはその言い方が少し癪に触ったが、余計なことを言っても藪蛇になりそうだったので無視することにした。

 

「とにかく、お前の身体が何かに守ってもらえるなら好都合だ。前線まで飛び出す、はぐれるなよ!!」

 

ハングはエリウッドと共に大通りで展開される戦闘の前線へと飛び出した。

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