【完結】ファイアーエムブレム 烈火の剣~軍師と剣士~   作:からんBit

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3章~小さな傭兵団(後編)~

ハングは不敵に笑い、皆を見渡した。

 

「相手はどうやら俺達の包囲殲滅を狙ってる。だったらこっちが取るべき方法はそう多くない。一点突破して奴らの背後を取るか、方陣を築いて針鼠と化すか。今回は前者でいく。ケント、セイン。馬の機動力を存分に生かせるのは街の中央広場しかない。お前たちは馬の突進力を生かせる大通りから中央広場になだれ込め、優先すべきは弓兵だ、一気に突っ込んで殺しきれ」

「わっかりました!このセインにお任せあれ!」

「了解しました!最善を尽くします」

 

騎士二人の敬礼を横目に、ハングはリンとフロリーナへと目を向ける。

 

「この騎士二人が中央広場までなだれ込めば、敵の戦力はそこに集まると踏んでいい。お前たちは小道を通りながら敵を確実に仕留めて、中央広場に奇襲をかけろ。どの時点で仕掛けるかはリンに任せる」

 

ハングのその指示にリンは疑問符を浮かべた。それはついこの間、ハングに教えてもらった戦術の基本にそぐわない内容だったからだ。

 

「戦力を二つに分けるの?」

「そうだ。人数不利の俺達が戦力を分散するのは確かに下策とされている。だが、今回ばかりはそれを考慮する必要はない。この町は瓦礫と塀で囲まれた狭い道が多く、数の有利不利はほとんど関係ない。その上、敵が包囲殲滅を狙ってくれてるおかげで、散兵ばかり。敵が散っている今のうちに手分けして頭数を確実に減らす。視界が悪く、相互の連絡手段も薄いこんな場所じゃ、平地の戦術なんてもんはほとんど役に立たないんだよ」

 

ハングはまくし立てながら、周囲の様子をつぶさに観察していた。彼の耳には周囲のゴロツキの足音や話し声が入ってきており、敵の位置を探るのに余念がない。

 

「セイン、ケント。敵が中央広場を越えてこっちに来たみたいだ。今が絶好の機会だ一気にいけ!派手に暴れろ!」

「はいっ!」

「おっしゃぁあ!いくぞぉおお!」

 

ケントとセインが走り去る。それを見送りながらフロリーナはリンの袖を引っ張った

 

「・・・リン、この方は?」

 

リンや騎士に指示を出す男の人。しかも、リンと親しげである。フロリーナが興味を持つのも当然だった。

 

「彼はハングよ。まだ見習いだけど私専属の軍師。ね?」

 

最後の疑問符はハングに向けられていた。それを受けたハングは少し肩をすくめて頷いた

 

「そうなの・・・あ、あの・・・ハングさん・・・?よ、よろしくお願いします・・・」

「おう、こっちもよろしくな。と、まあ挨拶はこれぐらいにしてさっさと行くぞ。ケントが派手に動いてくれている間が肝なんだ」

「セインは?」

「あいつは終始戦い方が派手だから、今更言及する必要はない」

 

扱いが徐々にひどくなっていくセインであった。

 

「あっ、そうだ、ハング」

「あぁ、そうだな。リン、行ってきてくれ」

 

しばしの沈黙が流れた。

 

「まだ、私何も言ってないんだけど」

「この辺の家にはまだ人の気配がある。下手に戦闘に巻き込まれる前に知らせたいんだろ?急いでるんだから手短にいくぞ。お前とフロリーナは向こう側から、俺はこっちの方から行く。合流はしない。さっき説明したルートでさっさと奇襲を加えろ。フロリーナは弓兵に注意を怠るなよ。他に何か言いたいことは?」

「あなたのその嫌味ったらしいぐらいに相手のことを見透かした言動は時には控えてほしいかな」

 

ハングはリンを無視して、近くの民家の中に侵入していく。

 

「すごい人だね」

 

フロリーナがキョトンとした顔で言った。

リンは小さくため息を吐き出す。

 

「すごすぎて付いていくのが大変なのよ」

 

そんなことを言いながら二人もまた目の前の民家に入っていった。

 

 

――――――― ※ ――――――― ※ ―――――――

 

 

民家に足を踏み入れたハングは飛んできた皿を回避したところだった。

 

「『誰かいませんか?』なんて言ってる場合じゃないなこりゃ」

 

随分と歓迎されているようだった。家の奥には簡素なバリケードが築かれ、その隙間から鏃がこちらを狙ってるのが見えていた。

下手なこと言えば次は脳天を打ち抜かれそうだった。

 

「村からでていけ!山賊どもめ!!」

「帰れ!帰れっ!!もう、金目の物なんかないっ!」

 

バリケードの奥から聞こえる複数の声、間違いなく自分を山賊と勘違いしているのだろう。

 

そんなに人相は悪くないはずなんだが。疑心暗鬼とはよく言ったものだ

 

ハングはそんなことを思いながら、すぐに両手をあげて戦いの意志がないことを示した。

 

「待ってくれ!俺たちは山賊なんかじゃない!!町を助けたいんだ。話を聞いてくれ!」

 

そう言うと、自分の眉間を狙っていた鏃がバリケードの裏に消えた。

そして、若い声が聞こえてくる。

 

「・・・みんな、ここにいてください。おれが見てきます!」

 

バリケードの向こう側から、矢をつがえながら一人の男が出てきた。

短い髪は茶色。青を主体とした旅人の服装。少し童顔気味だが年はハングやリンと大差ないだろう。鋭く、険しい顔付きの中にこの人物の人の好さがわずかに覗いていた。

 

「君は何者だ?」

「俺はハング、旅の者だ。今から山賊団と戦いになるからその間に町の人たちに避難してもらおうと思って来た。できれば弓を下してくれないか?命を狙われながら喋るのは慣れてないんだ」

「あ、すまん。そうだったのか」

 

慌てて弓をおろす青年。

 

ハングは少し呆れてしまった。もし、ハングが嘘八百を述べていたら今頃彼は殺されていた。そんなことを思うハングに青年は自己紹介を始めた。

 

「おれはウィル。同じく旅の者だ。この町には世話になったんだ。俺もこの町を守りたい。よかったら協力させてくれないか?」

 

とりあえず、そのすぐ人を信じるのはやめたほうがいいぞ。

 

出かかった言葉を飲み込む。今は時間がもったいない。

 

「戦力は多い方がいい!よろしく頼むぞ、ウィル!」

「こっちこそよろしく頼む」

 

ハングが差し出した手にウィルの手が重なる。満面の笑みのウィルには警戒心の欠片も無い。

 

ウィルは家の中の人に二言、三言言葉をかけてハングと共に家を出た。

 

「この辺りの住人はみんなあそこにいたのか?」

「ああ、そうだよ。そこを最終防衛線にして、奴らを追い払うつもりだったんだ。それよりさ、あの人達が山賊だよね?」

 

ウィルが指さした先は中央広場だった。そこでは複数の男達が武器を手に騒ぎ立てていた。

 

「囲め囲め!囲んでぶっ殺せ!!」

 

まごうことなく山賊であった。

 

「そうさ。あいつらがこの町を荒らした奴らだ」

「でも、あいつらどこに向かってんだ?こっちに気付いてないのかな?」

 

ウィルの言うとおり山賊達はこちらには気付く様子は無い。

ハングが見渡す限り、周囲の敵は全て中央広場に集いつつあった。

 

「陽動がうまくいってる証拠だ」

「陽動!?すごいな!ハングって戦術家かなんかか?」

「細かい話は後回し、今は手薄になった奴らの側面を叩く。ウィル援護は任せたからな」

「了解!」

 

ハングが走りだし、ウィルもそれに続くように走り出す。

 

中央広場では緑の槍と赤の剣が踊り狂っていた。彼らは中央広場の中で騎馬を縦横無尽に走り回らせて戦っている。

駆け抜けざまに剣で切り、突撃と共に槍で貫く。その動きは見事としか言いようがない。ケントとセインは誰も寄せ付けない勢いで駆け回っていた。その激しい動きでは弓矢で狙いを定めることもできないだろう。

 

正直、加勢がいるかどうかは疑問だったが、二人が疲れて動きが鈍る可能性もある。

決着は早めにつけるにこしたことはない。

 

ハングは目の前で中央広場に向けて弓を引き絞っている男めがけ、剣を引き抜いた。

その瞬間にハングの後方からウィルの援護射撃が放たれた。風を切る音がして二本の矢がそいつに突き刺さる。痛みにうめく山賊。その怯み切った顔をハングは剣で切り飛ばした。

 

周囲の山賊達が新たな乱入者に色めきたった。

 

「なんだお前!」

「くそっ!新手が来たぞ」

 

中央広場に生じた混乱。それに乗じて騎士の二人はすぐさま動いた。

ハング達に注意が向いた山賊を片っ端から切り捨てていく。

 

「うわぁぁ、騎士も来たぞ!」

「くそぉ、なんなんだこいつら!」

 

ハングは飛んできた矢を左腕で叩き落とし、次の弓兵に狙いを定めた。

後方からのウィルの矢が敵の動きを止めてくれる。それにより生じた隙を逃さず、ハングは広場を駆け抜けた。顔の前に構えた左腕が矢を弾く。ハングは一気に間合いを詰めた。

 

一閃

 

弓兵の弓ごと腹を両断する。

 

「死ねやおらぁぁ!」

 

ハングの後ろに迫る山賊。その山賊の斧が紅の騎士に止められる。

ハングは背後をケントに任せ、もう一人の弓兵の喉に剣先を突き刺した。

 

「ハング殿!セインが・・・」

「わかってる、あいつが敵の頭に突っ込みたがってるんだろ!?」

 

ケントの動きが止まる。

 

「セインが突っ込む前に周囲の掃除が先だ。行くのはいいが、横やりを入れさせるな!」

「広場の外にいる山賊達はどうします?」

「そいつはリンが対応してる!どうせ、すぐに合流するさ」

 

ハングの言った通り、リンとフロリーナは既に中央広場の外にいた山賊達の排除を終えていた。

 

フロリーナが槍で敵を牽制し、そこにリンの剣が走る。リンの剣が振り切られた直後はペガサスの体とフロリーナの槍が隙を埋める。二人は互いの呼吸をピタリと合わせ、狭い通路内を十二分に利用して立ち回っていた。

 

その二人もすぐに中央広場に現れた。そのせいで混乱がさらに増していく。

その中ではすでに数の有利などもはや無意味だ。 遠距離攻撃や外からの援軍といった不測の事態を呼び込む要因はハングは徹底的に排除している。

 

もはや、負ける要素はどこにもなかった。

 

そして、その戦いは敵の首領に突っ込んだセインが終止符を打った。

 

「ぐ・・・後悔・・・させてやる・・・ガヌロン山賊団の・・・兄弟たちが・・・黙ってねえからな・・・」

「くるなら来い!ガヌロンだろうが何だろうがこのセインがいる限り至高の宝玉には手を出させはしない!」

 

セインの高らかな宣言を聞きながら、崩れ落ちるごろつき。

その死体に背を向けたセインは中央広場から山賊が逃げ出していくのを見て、満足そうにうなずいた。

 

セインは今の自分のいる部隊に確かな手ごたえを感じていた。

 

頼れる相棒、美しき貴族の姫君、そして最高の軍師。これはなかなかに良い部隊じゃないか。山賊相手とはいえ、ここまで安定した戦いをしたのはいつ以来だ?いやぁ、本当にリンディス様はいい軍師を連れてきてくれたもんだ。おかげで、リンディス様にこのセインの素晴らしい姿を見せることができた!

 

セインは鼻高々に皆が集まる場所へと戻っていった。

そこではさっきから弓で援護してくれていた若者の紹介が行われていた。

 

「こいつはウィル、頼りになる援護はこいつのおかげだ」

「やめてくれよハング」

 

ウィルは照れたように頬をかき、改めてみんなに頭を下げた。

 

「ウィルって言います。今回はありがとうございました。しかし、皆さんお強いですね!俺、驚いちゃいましたよ」

 

その丁寧な口調にハングは引っ掛かりを覚えた。

 

「あれ、なんで俺にだけタメ口なんだお前?」

「え?ハングって年上なのか?」

「あぁ・・・タメでいいや」

 

そうしてウィルは一人ずつ握手を交わしていった。だが、ある人物の前で止まった。

 

「あ、あれ?なんか、固まってる?」

 

フロリーナの前だ。

ウィルは手を差し出すもフロリーナはぴくりとも動かない。いや、多少動いてはいた。小刻みに震えているのだ。

女の子を怖がらせていることに、さすがのウィルも動揺していた。

そこにリンが助け舟を出す。

 

「ごめんなさい、ウィル。この子、フロリーナっていうんだけどもともと男の人が苦手なのに加えて、あなたが弓を使うアーチャーだから・・・」

「ああ!そうか!それじゃ、弓が怖いの仕方ないよな」

 

ウィルは朗らかな笑顔に戻って手を引っ込めた。

 

「・・・あ、あの・・・・・・ごめ・・・んなさい・・・でも・・・弓を見たら・・・どうしても・・・ふ、ふるえて・・・・・・」

「いいよ、いいよ!気にしないで」

 

一通り挨拶が終わったところでリンがフロリーナに向き合った。

話は今回の事件の発端へと遡った。つまり、フロリーナがリンを追ってきてこんなところまで来てしまった理由だ。

 

「フロリーナ・・・どうして追ってきたの?危ないじゃない」

 

厳しい口調だったが、友達を心配する感情が見て取れた。

そんなリンにフロリーナは体を縮こまらせながらもはっきりとした声で言った。

 

「イリア天馬騎士が、一人前になるための儀式・・・覚えてる?」

 

少し間をおいてリンが口を開く。

 

「確か、どこかの傭兵団に所属して修行を積んでくる・・・だったわよね?」

 

頷くフロリーナ。

 

「じゃあ、フロリーナあなたも旅を?」

 

フロリーナは再び頷いた。

 

「私・・・傭兵団をさがす旅にでることをリンに話しておこうと思って。それで、サカに行ったらリンが変わった雰囲気の人と旅に出たって聞いて・・・だから・・・」

 

ハングとリンの目が合う。ハングは頭をかいてウィルに問いかけた

 

「なぁ、ウィル。俺って人相悪いか?」

「悪くはないけど、妙に均整が取れすぎなんだよね。地味ってわけじゃないんだけど、なんか『ただものじゃない』って思わせるって感じかな。なんかそのせいで初対面の人はちょっと警戒しちゃうんじゃないかな」

 

苦笑するハングを横目にリンは再びフロリーナに視線を向ける。

 

「心配してくれたのね?ありがとう。でも私は・・・あなたの方が心配」

 

フロリーナはその台詞にきょとんとして自分を指さす

 

「私?」

 

そんなフロリーナの肩に手を置いてリンは諭すように言葉を続ける。

 

「いい?フロリーナ。傭兵団っていうのは普通男ばかりなのよ?フロリーナが1人でそこに入って修行だなんて・・・むちゃだわ」

 

縮こまらせていたフロリーナの体がさらに小さくなったように見えた。

 

「・・・やっぱり、そう思うよね・・・天馬騎士になるのは小さい頃からの夢だったから、必死で頑張れば、なんとかなるかと思ったんだけど・・・私も今日のことで自信がなくなっちゃった・・・」

 

彼女の目に、ほんのわずかの涙が浮かんだ。

 

「・・・あきらめたほうが・・・いいのかなぁ・・・・・・」

「フロリーナ・・・泣かないで・・・」

 

助け舟を求めるようにリンはハングとケントを交互に見やる。

だが、リンが求めていた答は意外な場所から訪れた。

 

「そう!あきらめる必要はありません!俺に名案がありますっ!可憐なフロリーナさん!!」

「セイン!」

 

ケントが制しようと前に出たが、すでに時すでに遅し。走りだしたセインの口は止まらない。

 

「フロリーナさん!あなたも、俺たちと一緒に旅をすればいいのです!我らは、このウィルを加えて今や立派な傭兵団も同然!!」

「お、おれもっ!?」

 

突然振られた話題に戸惑うウィル。それを無視して、セインは大仰に地に膝をついて天に祈りをささげながら喋り続けた。

 

「ここで、お会いしたのも神のお導き!運命だったのです!!ささ、このリンディス傭兵団で、ともに修行を積もうではありませんか!」

「・・・セイン・・・この、お調子者が・・・!」

 

下心しか見えないセインに対し頭痛がしてきたケント。労いの意味をこめてハングがその肩に手を置いた。

 

「『リンディス』?ねえ、リン・・・『傭兵団』ってどういうこと?」

「・・・詳しい話は、追い追いね。ちょっと乱暴な気もするけど、セインの言うとおり、いっしょに来る?フロリーナ?」

 

その言葉の効果は絶大だった。瞬時に笑顔を取り戻すフロリーナ。

 

「・・・リンと旅ができるの?本当に?だったら私・・・すごく嬉しい!」

 

そして、最大の笑顔を見せる男がもう一人。

 

「やったー!! 美しいフロリーナさん!俺はキアランの騎士、セインと申しま・・・」

「きゃあっ!ち、近よらないで・・・ください」

 

セインが握手しようと近づいた途端にペガサスの影に隠れて逃げるフロリーナ。

その姿に何かを感じたらしく、セインはウットリした顔で掌を自分の胸にあてて感動を表現した。

 

「ああ・・・なんて奥ゆかしいんだ!」

 

ケントは我慢ならず拳を振り上げたが、その前にすべきことがあると思い至った。

ケントはリンに向かって丁重に頭を下げた。

 

「すみません。『傭兵団』だなどとふざけたことを・・・」

 

それに、リンは笑って答えた。

 

「ううん、私は賛成よ。フロリーナのことほっとけないもの。それより、面倒をかけると思うけど頼んでもいい?」

「はっ!おまかせ下さい」

 

生真面目にも再び頭を下げるケント。

 

「わっ!わわわっ!ハング殿!何するんです!!このセインめが何か悪いことをしたでしょうか!

「とりあえず、お前は・・・しばらく何も出来なくなるまで殴ったほうがいいと判断した」

「そんな!俺はフロリーナさんと、お茶でもと・・・って、うわぁ!」

 

ハングの左腕で後ろ襟を掴まれて引きずられるセイン。

 

「ハング殿!ハング殿!ハング様!離してぇぇ!」

 

視界からセインが消えて、すぐにセインの悲鳴が聞こえてきた。少しの間続いた悲鳴は夕焼けの中に消えていった。しばらくして、ハングだけが戻ってくる。その手は少し赤い染みが付いていた。

 

そんなハングにウィルが遠慮がちに口を開いた。

 

「あの・・・おれも、本当についてっていいのかな?」

「あ~・・そうだったな。ウィルが良ければ来てくれるとありがたいんだけど」

 

今回はウィルは完全に巻き込まれた形である。彼にはハング達の旅に同行する理由はない。

だが、ハングは戦略的にも心情的にも彼と一緒に旅をしてみたかった。今の旅では騎士達は『リンディス様の専属軍師』として接してくるし、女性であるリンとは気を使うところもある。気楽に話せる同性の友人が欲しかったというのがハングの本音である。

 

「いや、それなら俺としてもむしろ助かるよ。実を言うと、旅の途中なのに金を盗まれて途方にくれてたんだ」

「どうせ、騙されたんだろ?」

「えっ!なんで?なんで、わかったんだ!?」

 

だって、良いカモだもん。

 

ハングはそのことを口には出さず、適当に言葉を濁してすませた。

 

「まぁ、いいや。じゃあ、おれも今日から傭兵団の一員ってことで、よろしくお願いします!!」

 

頭を下げるウィル。

 

「おう、よろしくな!」

 

その時、フロリーナがリンの背後に駆け込んでいった。

 

「り、リン・・・助けて・・・」

「あぁ、待ってください!愛しのフロリーナさん!」

 

まだ、こりてなかったらしい。

剣の柄に手をかけるリンとケント。

ハングに至っては既に抜いていた。

 

セインの悲鳴が再び周囲に響き渡る。山から帰ってきた木霊も加わりセインの声はいつまでも響いていたという。

 

「まったく!本当に本能で生きてるんだから!」

「申し訳ありません、次からはこんなことが無いようにしておきます」

 

ケントは気絶したセインを足で脇にどけながら頭を下げた。

 

「なぁ、ハング。セインさんていつもあんな感じなのか?」

 

ウィルがそう尋ねる。

 

「いや、今日はまだマシなほうだ。なぁ、ケントさん」

「はい、いつもはもっと見境がありません」

 

雑談しながらも荷物を整理して持ち物を馬に乗せる一行。

騒がしいながらも楽しいひと時。

 

その中でスッとリンがハングに言葉を漏らした。

 

「リンディス傭兵団、か・・・なんだかにぎやかになってきたわね、ハング」

「あぁ、そうだな」

 

リンから向けられた笑顔。

 

ハングはなんとか笑顔を取り繕った。耳奥に響いていたのは『あの言葉』

 

『もう、勝手にいなくならないでよね』

 

ハングの中にその言葉が染み込んでいった。

 

 

『俺らの前から勝手にいなくなるなんて許さないからな!』

『いいか、貴様がここを抜けることは隊長の私が許さん!』

『ハング、背中は任せるからな。後ろにちゃんといろよ!』

 

 

かつての居場所が、今の居場所に重なって見えた。

 

ハングは胸の奥で決意を新たにする。

 

もう二度と・・・失ってなるものか・・・

 

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