【完結】ファイアーエムブレム 烈火の剣~軍師と剣士~   作:からんBit

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間章~現在地不明(前編)~

オスティアへと進路をとり、旅路を急ぐハング達。

しかし、本日は思わぬ障害に出くわしてしまい、彼らは森と平原の境で野営せざるおえなくなってしまっていた。

 

「まさか、道を間違えるとはな」

「俺の責任じゃねぇっての。だいたい、俺だって言いたいことは五万とあるんだ。黙って働けバカ傭兵」

 

ぶつくさと文句を垂れつつも、ハングとレイヴァンの二人は薪拾いに精を出していた。

 

生きている木の枝を折ると木の精霊に祟られる。

薪にするのは落ちている枝にするというのは旅人の常識だ。

 

だが、今は青草の生い茂る季節。

手頃な枝の収集はなかなかに難儀する。

 

「おまえが注意してればこんなことにはならかったんじゃないのか?」

「それに関しては全員が同罪だ。上の命令に疑問持たなくなったら人間お終いだぞ」

 

ハングとレイヴァンは森の深いところに入らないように注意しながら、歩き回る。

 

「上に意見できる奴などそう居ない」

「この部隊にそれが当てはまるとでも?少なくとも俺には全員気兼ねなく話しかけてくんぞ」

「それもそうか」

「なんだよ、やけに素直だな。気持ち悪い」

 

酷い言い草だが、この程度で腹を立てていてはハングには付き合ってられない。

レイヴァンは後でハングの指の一本でも踏んづけてやろうと思いながら足元の枝を拾った。

 

「この程度の人数だ。全員の戦い方を熟知してないと軍師は務まらんだろ」

「・・・バカ傭兵に軍師を語られるとはな」

「やかましいぞ、クソ軍師」

 

ハングは枯葉の下から乾いた枝を掘り起こした。

 

「おい、バカ傭兵」

「なんだ、クソ軍師」

「お前・・・俺達が次に接触しようとしてる人物。わかってるよな?」

 

不意に風が吹いた。木の枝が揺れ、木の葉のこすれる音が森に鳴り渡る。

ハングは脇に抱えた枝の束の中に新たな枯れ枝を差し込み、レイヴァンに背を向けた。

 

レイヴァンから返事はない。

 

「お前がオスティア家に恨みを抱いてんのは知ってる」

 

ハングは木の根元からまた一本薪を拾う。

 

「今回の会談はオスティアの隅のさびれた砦で内々に行われる。暗殺には絶好の機会だ」

「・・・・だからなんだ?」

 

ハングは脇に抱えた枝を地面に置く。

 

「俺がな、復讐についてどうこう言える立場じゃないことぐらいわかってるさ。ただな・・・」

 

ハングはゆっくりとレイヴァンを振り返った。

レイヴァンは森の獣に襲われることを考え、いつもの大剣を背負っていた。

 

「相手がオスティアとなると、話は別だ」

「・・・・だから・・・なんだ?」

 

ハングは左腕を前にだし、右手で剣の柄を握る。

 

「本当のところ・・・聞かしてもらおうか」

 

レイヴァンが眉をひそめて、剣に手を伸ばす。

レイヴァンの抱えていた薪が重力に従って落ち、地面に散らばる。

 

「こっから先、お前はどうするつもりだ?」

「・・・・答える義務はない」

「かもな・・・」

「やけに素直だな。気持ち悪い」

「お前に皮肉が言えるとは驚きだ。首の上に載ってるのは帽子の置台じゃなかったわけだ」

 

お互いの間合いを図りつつ、二人はにらみ合う。

 

「クソ軍師、お前が俺に勝てるとでも?」

「さぁな。でも、俺の左腕がどんなもんかは知ってんだろ?容赦はしねぇぞバカ傭兵」

 

空気が張り詰め、そして・・・

 

「・・・やめとくか・・・」

「だな・・・」

 

ハングは剣から手を放した。

それは、レイヴァンも一緒だった。

 

「俺が勝てるわけねぇや」

「当たり前だ、俺はこれで食ってるんだから」

 

ハングとレイヴァンは自分の落とした薪を再び拾い集める。

 

「おい、クソ軍師」

「なんだ?」

 

同じく自分の足元の枝を拾っていたレイヴァンは声だけで呼びかける。

 

「今度のオスティアとの会談。俺は接触しない」

「・・・へぇ・・・どんな風の吹き回しだ?」

「・・・俺の勝手だろ。なんならお得意の洞察力で見破ったらどうだ?」

「あのな、俺は読心術なんざ使えないんだ。人の頭の中なんて読めるか」

 

顔をしかめるハングをレイヴァンは鼻で笑った。

ハングは後で足の指の一本でも踏んづけてやろうと思案する。

 

レイヴァンは話を続ける。

 

「俺はお前が気に食わん」

「それは、俺も一緒だ」

「だが、最近はそうでもない・・・」

 

それを聞き、ハングは少なからず驚いた。

ハングはレイヴァンの顔をまじまじと見てしまう。

レイヴァンはその視線を浴びても、何の変化もなく立ち上がった。

 

「クソ軍師・・・お前は恵まれてるな・・・」

「・・・んなもん、言われるまでもねぇよ・・・」

 

ハングはレイヴァンに見下ろされる。

それがなぜか、悪い気がしなかった。

 

「・・・俺も・・・恵まれているんだろうか?」

 

ハングは押し黙る。その答えをハングは提示してはいけない気がした。

 

レイヴァンが何を思ってそんなことを言い出したのか、ハングにはわからない。

だが、失ってきたものを数えることを止め、得たものを数え始められるようになるには人の助けは役に立たない。

それは自分で気づかなければならないものだ。

 

ハングは結局何も答えない。そんなハングにレイヴァンはほんのりと笑ったのだった。

ハングはレイヴァンが目の前で笑ったのをはじめて見ていた。

 

「俺は・・・」

 

レイヴァンは再び口を開いた。

 

「まだ、わからん・・・」

 

そして、少し離れた場所に歩いて行った。

 

「まだ・・・な・・・」

 

そして、枝を拾う。

 

「そうか・・・」

 

ハングはそれだけ言って、止めていた手をまた動かしだした。

しばし、静かな時間が流れる。

 

「よし、この辺でいいか。そろそろ戻るぞ」

「ああ・・・」

 

その時、野営地の方から声が聞こえてきた。

 

「お~い、ハング!ヴぁっくん!どこだ~」と、ウィルの声だ。

「ヴぁっくんさ~ん」と、レベッカの声だ。

「ヴぁっく~ん!!」と、ロウエンの声だ。

「って、ロウエン!?あいつにもそう呼ばれてんのか!バカ傭兵」

 

レイヴァンを見ると、そこには全てを受け入れた男の顔が待っていた。

 

「・・・もう、諦めた」

「あ・・・うん・・・まぁ、頑張れ・・・」

 

ハングはレイヴァンと会ってから初めて彼に同情したのだった。

 

 

 

――――――― ※ ――――――― ※ ―――――――

 

 

疲れた顔のレイヴァンに何か声をかけることはできず、ハングはそのまま野営地へと戻ってきた。

 

「ハング殿。ここでしたか」

 

そこで真っ先に声をかけてきたのはマーカスだった。

後ろには先日からこの部隊に加わったイサドラがいた。

 

こうやって声をかけてもらうことが随分と久々に感じる。【竜の門】の出来事の後から本当に避けられていたんだと実感する。

 

「先程まで薪拾いに出てまして。何か問題でも?」

「ああ、いえ。姿が見えないので気になっていただけですよ」

 

マーカスの後ろに控えるイサドラは眉一つ動かさない。

ロウエンは言うに及ばず、ケントにも並ぶ騎士だとハングは感想を抱いた。

 

「それにしても・・・」

「ええ・・・それにしても・・・」

 

ハングとマーカスは同時に空を見上げた。

 

「ここ・・・どこですかね・・・」

 

ハングとマーカスは同時に溜息を吐いた。

さすがのイサドラも少し遅れて溜息を吐いた。

 

確かにここはオスティアとの国境付近であることは間違いないのだ。

それなのに、ここがどこだか皆目見当がつかない。

 

目印となる山もなく、近くに村もない。

自分達の進んできた道を地図をたどればこのまま北東に向かう道があるはずなのだが、残念ながらその道がない。

 

「イサドラさんもすみません、従軍そうそうこんなことになってしまって」

「いえ、ハング殿が謝罪なさることではありませんよ」

「それは・・・そうなんですが・・・」

 

実のところ大罪人は別にいる。

今頃その彼は天幕の中で懇々とお説教を食らっているところだろう。

 

「残念なのは、これが急ぎの旅だってことですよね。景色を楽しむわけにもいかない」

 

リンに出会う前は旅から旅への生活だったハングにとっては旅とはそういうものだった。風の向くまま気の向くまま。

 

「とにかく、朝一でこの森を抜けるしかありませんな。東に進んでいけばどうあがいても街道にぶつかるでしょうから」

「どちらにせよ、強行軍になりますね」

 

ハングは少し憂鬱だ。少人数であった昔ならいざしらず、ここまで大所帯になったこの軍を上手く動かして森を抜けるのは大変だ。

気が滅入るハングにイサドラが笑いかけた。

 

「ハング殿、我々もお手伝いいたしますので。そう気を落とさないでください」

「え?あれ?顔に出てました?」

 

イサドラに指摘を受けて、ハングは頭をかく。

 

「いえ、それほどではないですよ。ですが、なんだか疲れたような顔になりましたので」

「まぁ、否定はしませんが」

「しかし、ハング殿は随分と変わりましたね」

「そうですか?」

 

ハングはエルバートの部隊に従軍した時に彼女に出会ったことはある。

だが、その時はイサドラとはあまり話す機会が無かった。

 

ハングは自分がどう見えているのか怖さ半分、興味半分で尋ねた。

 

「それで、どう変わりました?」

「昔はもっと、こう・・・意地の悪い、皮肉屋な人でした」

「フハハハハハ」

 

イサドラのその台詞を聞いて笑い声をあげたのはマーカスだった。

マーカスの視線にハングは両手をあげて降参を示した。

 

「ええ、ええ。そうでしょうとも。私は性悪で皮肉屋で腹の中真っ黒ですよ」

「誰もそこまではゆうておりませんよ」

 

そして、マーカスはまた笑った。

ハングとしてはいささか面白くない。

 

確かに度々誤解を与える発言をしたり、わざと何も言わなかったりして勘違いさせるぐらいはやってきたが、そこまで言われるほどではないはずだ。

 

「だが、イサドラ。今のハング殿は印象が異なったのだろう?」

「はい」

 

確かにそうだ。ハングはそっちも気になった。

 

「まだまだ半人前・・・と、言ったところでしょうか」

「こりゃ手厳しい」

「軍師というのは他者に本質を悟らせないぐらいでちょうどよいのですから、性悪で皮肉屋になりきれてなければいけませんよ。それに、あの時のあなたは腹の中にいくつもの秘密を抱えて生きているように見えました。自然とそんな評価にもなります」

「・・・・・・・・」

「ですが、今のハング殿は本音を土の中に埋めていないように見えます」

 

イサドラの視線が真剣味を帯びてハングを射抜いていた。

 

ハングは素知らぬ顔をしながらも、喉の奥に何かが詰まったかのような息苦しさを感じていた。

自分の根幹が見抜かれる瞬間というのは何時でも何処でも緊張が走り抜ける。

 

しばしのにらみ合いの後、ハングは負けを認めたかのようにフェレ流の敬礼を返した。

 

「不詳、ハング。これからも精進することにします」

「がんばってください」

 

まったく、手ごわい人が軍に加わったもんだ。

しっかりしてないと、戦死扱いで厄介払いされてもおかしくない。

 

「それでは、この薪をかまどに届けないと今日の飯が遅くなりますんで。俺はこれにて」

「はい。それでは我々は周囲の警戒にあたります」

 

そうして、ハングは二人に別れを告げて野営地の中心へと向かった。

 

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