【完結】ファイアーエムブレム 烈火の剣~軍師と剣士~   作:からんBit

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22章~二つの絆(前編)~

春・夏・秋・冬

 

巡り巡る一年。だが、その土地に四季は存在しなかった。

ベルンの山の頂に残る一面の雪。

遥か昔、一匹の氷竜が羽を休めた時に雪を全て踏み固めてしまったとの伝説が残るその土地。万年雪の大地に建てられた石の砦。

 

それは【黒い牙】の本拠地の一つだった。

 

今、その砦の一室に四人の人間が集められていた。

 

一人は部屋の隅で影に同化しているように佇み、もう一人は壁に寄りかかり、窓の外の雪を見ていた。そして、残り二人は部屋の中にある椅子に腰かけ、杯を重ねて時間をつぶしていた。

 

そんな部屋の扉が開く。

 

四人の視線が一旦そこに集まった。

 

入ってきたのは、筋骨隆々の大男。全身に走る傷は今までくぐってきた修羅場の数と同義であった。城壁を破るための巨大な破城鎚すら受け止めたとの話まである男。

 

【黒い牙】の首領。

 

ブレンダン・リーダスその人だった。

 

だが、四人の視線はその男から更に後ろへと向けられた。

 

黒い髪、妖艶な体、扇情的な仕草、高圧的な瞳。彼女がソーニャだ。

 

「ジャファル」

 

そのソーニャが部屋の隅にいた男に声をかけた。ジャファルは微動だにしない。まるで、彫像のようだ。

 

「ウルスラ」

 

ウルスラと呼ばれたのは壁際の青藍色の短い髪の女性。藍染めの魔道士の服を着た冷静と冷酷の間にいるような美しい女性だった。

 

「ロイド」

 

ロイドは酒を飲んでいた男の一人だった。精悍な顔つきをした優男風の男。

殺伐とした【黒い牙】に似つかわしくもない男だったが、彼も立派な暗殺者だった。

 

「ライナス」

 

ロイドと酒を交わしていた男が眉をしかめる。彼がロイドの弟のライナスである。ブレンダン程ではないものの、盛り上がった筋肉が服の上からもわかる。彼

 

「全員そろったようね?おまえたち【四牙】を集めたのは、他でもないわ・・・始末してほしい標的がいるのよ」

 

『標的』

 

その言葉で、全員の目の色が変わった。

 

ソーニャは続ける。

 

「名は、フェレ侯公子エリウッド」

 

ジャファルがそれだけ聞ければ十分だと言いたげに目をソーニャからそらした。

 

「・・・フェレと言うとリキアの領地の1つですね?」

 

質問したのはウルスラだった。

 

「そう。でもただの田舎貴族だと見くびらないことね。奴には仲間がいるわ。同じリキアの公子どもが。一人一人の力は、お前たちに遠く及ばないにしても・・・油断は死を招くわ」

「・・・心しておきます」

 

ウルスラは最低限の礼を欠かさない程度に頭を下げた。ウルスラもソーニャも魔道を進むもの。ウルスラはソーニャと自分の実力差は知っていた。

 

ソーニャは椅子に腰かけたままの兄弟にも話を振った。

 

「ロイド、ライナス。あなたたちリーダス兄弟にも動いてもらうわ。いいわね?」

 

ロイドは持ったままになっていた杯を置き、ソーニャを睨みつけた。

 

「ひとつ聞きたい。これは親父の・・・【黒い牙】首領の命令なのか?」

 

暗殺者が放つ混じり気の無い殺気。それをソーニャは笑って受け流した。

 

「ふふ、当然じゃないの。ねえあなた、そうですわよね?」

 

ソーニャはブレンダンに体を押し付けるようにして、寄りかかった。

ブレンダンは眉一つ動かさなかったが、ロイドとライナスは眉間に皺を刻む。その二人から目を逸らし、ブレンダンは曖昧に頷いた。

 

「む・・・ああ・・・そうだ」

「ほら、わかったでしょう?エリウッドを始末するのは【黒い牙】の首領ブレンダン・リーダスの意志・・・おまえたちも一員ならその忠誠を示しなさいな。それとも・・・相手が怖くて動きたくないの?ロイド」

 

これには吠える者がいた。

 

「ソーニャ!てめー兄貴に向かって・・・!」

 

ライナスがいきり立つ。だが、それはロイドが無言で止める。

 

「・・・わかったよ」

 

ロイドはソーニャを睨みつけた。

 

「ソーニャ、あんたに言われるまでもない。親父の下で、【牙】の掟を果たしてきたのは俺たちだ」

 

ロイドもまた、父親であるブレンダン程ではないにしろ、いくつもの夜を越えてきた。

彼の持つ覚悟も生易しいものではない。

 

「そいつが悪人なら、ためらう理由はない。【牙】は何者も逃さない。俺たちリーダス兄弟が【牙】の裁きを下す」

 

ロイドはそれだけを言い放ち、ソーニャから視線を背けた。

ソーニャはそれをつまらなさそうに兄弟を眺めた後、残る二人にも声をかけた。

 

「ウルスラ、ジャファル。おまえたちもわかったわね?標的を見つけたら、最優先で始末するのよ」

「ソーニャ様のご命令であらばなんなりと」

「・・・命令は受けた。それを果たす」

 

ウルスラとジャファルの返事にソーニャは満足そうに頷いた。

そして、ソーニャは一度部屋を見渡し、改めて今回の目標を宣言した。

 

「標的の名はフェレ侯公子エリウッド!必ず仕留めるのよ、【黒い牙】の名にかけてね!」

 

 

 

――――――― ※ ――――――― ※ ―――――――

 

 

 

春・秋・夏・冬

 

 

巡り巡る一年。四季折々の花に囲まれてその砦は存在していた。

 

この場所で戦いがあったこともあったが、それは遥か昔のこと。ここに国境がまだ在していた時代の遺物である。同盟領地が減り、境界線が変わり、今となってはその存在意義をなくしてしまった古城。

 

普段は多少の兵を置いている山間警備の拠点ではあるが、平和を享受し続けたおかげで今となっては知る人ぞ知る憩いの場である。

 

そんな城に失われたはずの緊張感が漂っていた。

 

「・・・兄上から連絡がきた。すでに、こっちへ向かってるから俺たちは待ってるようにだとさ」

 

城の一室でヘクトルはそう言った。

森を抜け、吊橋を渡り、道とは呼べぬ道を越えて彼らはようやくこの城に辿り着いた。

ここで丸一日の休憩を取り、オスティア侯爵ウーゼルの伝令が飛び込んできたのが今しがたであった。

 

「ウーゼル様が、直々に来られるのか?」

 

机の上の地図と睨めっこをしていたエリウッドとリンが顔をあげる。

ハングが出した問題に苦戦する二人を面白そうに眺めていたハングも視線をそちらに送った。

 

「前にも言ったが。今、オスティア城と城下町あたりには各国の密偵がうようよいる。ゆっくり話すならこの砦の方がいいって判断だろ」

 

そう言ったヘクトルにエリウッドが質問した。

 

「・・・侯爵ご自身が動かれる方が目立つのではないか?」

 

その問いをヘクトルは一笑に付す。

 

「供を2名ほど連れての隠密行動は、兄上の得意技だ。心配いらねーよ」

 

堂々と言い切ったヘクトルに皆は苦笑いだった。

 

「さすがは、ヘクトルの兄さんね。行動が型破りだわ」

「・・・なんか文句あんのか?」

「いいえ、別に。お会いするのが楽しみだなって思っただけよ。ね、ハング」

 

振られた話題にハングは肩をすくめた。

 

「俺は会わないぞ」

「え?どうして?」

「あのな、忘れてるかもしれないけどお前ら三人は名家の生まれで、俺はただの旅人。非公式とは言え、そう簡単に領主と謁見なんざできない」

 

呆れたようにハングはそう言った。

だが、リンは納得がいかない。

 

「そんな・・・だって私たちとは普通に話してるじゃない」

「お前らは別だ。初対面でいきなり敬語を使われるいわれが無いと言われたんだぞ」

「まぁまぁ」

 

ほっとけばいつまでも続く論争の間にエリウッドとヘクトルが入る。

これが、旅の間ならよい暇つぶしなのだが今はそういうわけにもいかない。

 

「リンディス、ハングにはハングの考えがあるんだよ。確かにウーゼル様は僕達とは身分も名声も違いすぎる。さすがにハングも看過できないんだよ」

「こいつなりの敬意の表しかたってことだ。それぐらい飲んでやれ」

「・・・・んぅぅ」

 

エリウッドとヘクトルに言われてリンが曖昧に返事をする。

肯定とも否定ともとれない返事だ。やはり、どうも納得がいかないらしい。

貴族社会というのが肌に合わない彼女にはある程度は仕方ないのだろう。

 

「と、いうか二人共」

 

あとはリンの本人の問題だと投げ捨てて、ハングは仲介してくれた二人に声をかけた

 

「なんでいつもこんな感じで俺を助けてくれないんだよ」

 

普段からこうしていてある程度仲裁してくれればハングの仕事は減る。

 

「・・・そりゃぁ・・・なぁ?エリウッド」

「ねぇ、ヘクトル」

「あぁ、もういい。それ以上何も言うな」

「・・・夫婦喧嘩は犬も喰わないってな」

「痴話喧嘩は見ていて楽しいし」

「何も言うなと言っただろうが!!」

 

からかわれることに耐性がつきつつあっても、苦手なものは苦手である。

 

「クッソ!いつか絶対に復讐してやる」

「はっはっはっ、俺は当分はねぇだろうから、無駄な意気込みだぜ」

 

ヘクトルがそう豪語した。それを怪訝な目で見つめる視線が一つ。

 

「な、なんだよ、リンディス。なんか文句あんのか?」

「・・・・いいえ、別に」

 

あまりにも、冷たい一言。次の瞬間に剣が抜かれてもおかしく無いほどの殺気がリンの周囲に渦巻いていた。その時、一人の少女が部屋に飛び込んできた。

 

「リンディス様、あ、あの、ケントさんとウィルさんが・・・」

 

フロリーナが入ってきた途端にリンの殺気がかき消える。

 

「ええ、わかったわ。いきましょ」

「・・・・・」

 

フロリーナから返事が無い。

 

「フロリーナ?」

「あ、あの・・・」

「どうしたの?」

「あ・・・あ・・・」

 

フロリーナはぐずぐずと部屋の入り口にいる。彼女は何かを言おうと口を開いて、閉じるを繰り返していた。

そんな彼女にヘクトルが声をかけた。

 

「おい、どうしたんだ?大丈夫なのか?」

 

ハングはやれやれと首を横に振る。エリウッドも似たように肩をすくめていた。

 

「きゃっ!す、すみませんでした!!」

「あ、フロリーナ。待って!」

 

リンは飛び出していったフロリーナを追って駆け出していった。

もちろん、出て行く時にヘクトルに一睨みを飛ばすことを忘れてはいない。

 

「なんだったんだ?あいつ?」

 

それでもヘクトルはこれである。

ハングは『つまらん』とでも言いたげに背筋を伸ばした。

そんなハングにエリウッドが耳打ちする。

 

「ハング」

「なんだよ」

「僕らであの二人を何とかできないかな?」

 

何を言ってんだこの野郎は。そういうのは本人の問題だろう。

 

ハングはそう言いかけたのを喉元で止めた。好奇心が勝ったのだ。

 

「悪くない話だけどなぁ・・・」

「だって、このままじゃくっつくものもくっつかないじゃないか」

「確かにな・・・」

 

フロリーナとヘクトルがお似合いかどうかはこの際放っておく。

極めて好意的な見方をすれば、可憐な野花とそれを愛でる勇者の図にも見えなくもない。

 

「それに、友人としてはヘクトルにはああいう女性が似合うと思うんだ」

「それも、ごもっとも」

 

城の中に閉じこもりっぱなしの姫様がヘクトルに合うとは思えない。

もっと言ってしまえば、戦場であれぐらい頼りない女性に共をさせればヘクトルも下手には暴走しないだろう。

 

「でもよ。本人の意思はどうなんだ?ヘクトルがフロリーナに気があるなんて話聞いたことないぞ」

 

もっともな意見をハングは言ったつもりだった。それなのに、エリウッドは意外そうな顔を見せていた。

 

「あれ、俺変なこと言ったか?」

「ハング、ヘクトルを見ててわからないかい?」

 

そんなことを言われ、言葉の意味を考えるのにハングの思考が一瞬止まった。

 

「はぁっ!?」

 

そして、解答に辿り着いた。

 

「それって・・・えぇ!!」

「なんだよ、さっきから二人でこそこそとしやがって」

「ヘクトル・・・」

 

ハングは悪友の顔をまじまじと見つめた。

 

「な、なんだお前まで」

「ヘクトル、ごめん。俺はお前を見誤っていた」

「はぁ?なんの話だ?」

「まさか、お前がそこまで奥手な人間だとは思わなかった」

「何の話をしてやがる!!」

 

 

ヘクトルのフロリーナに対する態度が好意の現れだとするならば、なんとわかりにくい。エリウッドが心配になるのも大いに頷ける。

 

「ヘクトル、俺らにまかせとけ・・・お前の幸せは俺達が守る」

「ハング、お前エリウッドに何吹き込まれたんだ・・・」

 

ヘクトルが親友を見ると、エリウッドはなんでもない様子を保ちながらも体を震わせて笑っていた。

 

「ハング、目を覚ませ!!お前はこいつの手のひらで踊ってるだけだぞ」

「ああ、そうだ。時には踊るのも悪くない」

「理解した上だったのか・・・」

 

つまり、からかわれたのはヘクトル一人であった。

 

「はぁ・・・もういい」

「ヘクトル、諦めるなよ。おもしろ・・・じゃなくて、相談のしがいがないだろ」

「お前・・・わざとか?」

「当然」

「てめぇ!!今日という今日は勘弁ならねぇ!!目に物見せてやらぁぁぁ!」

「まぁまぁ、ヘクトル。ハングも冗談が過ぎただけで・・・」

「エリウッド!!てめぇも同罪なんだよぉぉぉ!!」

 

ハングとエリウッドは大笑いしながら、ヘクトルを抑えにかかったのだった。

 

「それで、エリウッドはどうなんだよ?」

「え?なにがだい?」

 

ハングは気絶させてしまったヘクトルの上で胡坐をかいていた足を崩し、片膝をたてて座った。

 

「どうって・・・思い人とかいるのかって話」

「あ、それか。僕は今はいないよ」

 

完全に断言した。

 

「いないって本当にか?」

「ここで嘘をついても仕方ないよ」

「そりゃそうなんだが・・・」

 

となると・・・

 

「不憫だな・・・」

「ん?誰がだい?」

 

そう尋ねたエリウッドは本当にわかっていないようだった。とぼけてる様子もない。

 

だが、本当にわかってないのだろうか?

 

「もしかして、僕に好意を持ってる人がいるのかい?」

「ほんっっとうに・・・気づいてないのか?」

「・・・・?」

 

ハングは肩の力を抜いた。

 

「いや、いいや。俺が口出すことじゃない」

「そうなのかい?」

 

なんとなく、手を貸す必要があるのはヘクトルじゃなくてエリウッドのような気がしてきたハングであった。

 

 

 

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