【完結】ファイアーエムブレム 烈火の剣~軍師と剣士~   作:からんBit

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22章~二つの絆(中編)~

エリウッド達が年頃の会話を終えた頃。

砦の一室では皆が休んでいた。

 

「ニルス、大丈夫?とても・・・辛そう」

「だいじょうぶ、ちょっと疲れてるだけだよ」

 

部屋の隅にいるニルスとニニアン。そのニルスの顔色は悪い。

 

「ちょっと、大丈夫なの?」

 

そんなニルスに声をかけたのは意外なことにセーラだった。彼女はニルスの額に手をあてた。

 

「うーん、熱は無いみたいね。どこか、痛いとことかない?」

「うん、平気だよ」

「すみません、セーラさん。お気を使わせてしまって」

「いいのよ、これぐらい」

 

今のセーラにいつもの高慢な感じは無い。なんだか、普通の面倒見のよいお姉さんだ。

だが、そこにはいつもの彼女には似つかわしくない悲壮感も漂っていた。

 

「いいのよ・・・怪我じゃないなら・・・どうせ、私の杖じゃ治せないもの・・・」

 

彼女のいつもと違うそんな雰囲気に周囲の空気がわずかに沈み込んだ。

そんな雰囲気を打ち崩したのは冷静で少し皮肉の混じった声だった。

 

「君の杖じゃ役にたたないものね」

「なんですって、エルク!」

 

一気にセーラの声に覇気が宿る。

 

「君の杖は人と人の戦いによってもたらされた傷を治すことしかできないものね。それ以外は効果ないんでしょ」

「何よ、エルクのくせに!知ったような口きかないでよ!」

「少なくとも僕は君よりも魔道を学んでる時間が・・・」

「うるさいわよ!ごちゃごちゃ言ってないでかかってきたらどうなの!!」

「かかってきたら・・・って・・・君は一応聖女・・・もういいよ、頭が痛くなってきた」

「軟弱ね、そんなんだからどんどん根暗になってくのよ」

 

それを見て、ニニアンとニルスは顔を見合わせた。

 

「お二人は仲がよろしいのですね」

「どこがよ!!」

「どこがですか!!」

 

息もピッタリである。そんな二人を他所にルセアとプリシラもニルスのことを気にかけて近寄ってきた。

 

「やはり顔色がよくありませんね」

「私・・・白湯でももらってきましょうか?」

 

二人の親切。セーラも含めれば三人分の親切。それはとても嬉しい。

だが、ニルスは自分のこの身体の気怠さが決してそういった類のものではないことを理解していた。

 

「大丈夫だよ。今晩一晩、じっとしてればすぐによくな・・・る・・・・・・」

 

その瞬間、ニルスの体が傾いた。

 

「ニルス!!」

「ニルスさん!!」

 

プリシラとルセアが手を伸ばすが間に合わない。ニルスは吸い込まれるように床に倒れて行った。

 

「いやぁっ!ニルス!ニルスっ!!」

 

ニニアンが倒れたニルスに覆いかぶさるように側に寄った。

 

「ニルス!?」

 

ニニアンの金切り声を聞きつけてリンが部屋に駆け込んできた。

 

「どうした!大丈夫かっ!?」

 

ヘクトルとハング、エリウッドも駆けつけてきた。

 

「ニルス!目を・・・目を開けて!!」

 

取り乱すニニアンの側であたふたしている皆を瞬時に掻き分け、エリウッドが真っ先に駆け寄った。

 

「ニニアン!落ち着いて!」

 

エリウッドはニニアンの肩を掴んで半ば無理やり抱き起こした。

 

「・・・あ・・・わたし・・・」

 

肩から伝わる体温は確かにニニアンの中に入っていった。

 

「落ち着いたかい?」

「・・・・あ・・・はい」

 

ニニアンが落ち着き、ハングとリンが周りの連中に指示を出す。

そして、ヘクトルがこの場を代表してとして指揮を執った。

 

「まず奥の部屋に運んで医者を呼ばせよう」

「動かしてはダメ!」

 

ヘクトルがニルスを持ち上げようとした途端、ニニアンが叫んだ。

 

「ニニアン?」

 

彼女にしてはやけにはっきりした物言いにヘクトルの手も止まる。

 

「すみません、わたし・・・あの・・・」

 

そんなニニアンが自分の声に一番驚いているようだった。

だが、その意見は変わらない。

 

「でも今は・・・弟を動かさないでください。お願いします・・・」

「・・・ニニアンの言うとおりにしよう。何か、考えがあるんだろう?」

 

エリウッドがニニアンを援護する。

 

「・・・どうか一晩このままに・・・それで・・・治るはずですから」

「治るんなら、別にいいけどな。じゃあ、ニルスを動かさねえよう他の奴らにも言っておかねーと」

「・・・ヘクトルさま・・・・すみません」

 

親切で言ってくれたことを無下にしてしまった詫びなのだろう。

それをヘクトルは笑って流した。

 

「おい、ヘクトル」

「ん?どうしたハング」

「諸々のこと・・・ちょっと後回しだ・・・」

 

ハングの声が低く響く。その隣のリンが剣の柄に手をかけていた。

それだけで、部屋の空気が引き締まる。

 

「気づかないか。耳をすましてみろ」

 

ハングのその言葉に従い、周囲が静まり返る。だが、周囲からは何も聞こえない。

 

「何も聞こえないぞ?」

「それが、問題なのよ」

 

リンがため息混じりにそう言った。そこにハングが補足する。

 

「ここは森の中の古城だぞ。鳥や獣の音で溢れ返ってなきゃおかしいんだよ。それが、一切ない」

 

エリウッドも周囲の雰囲気に気が付いたのか、緊張感をみなぎらせた。

 

「囲まれた・・・と、考えるべきかな?」

「それだけならいいんだけどな・・・」

 

ハングは手のひらに汗が滲むのを感じた。

それと同時に部屋の中に伝令が駆け込んできた。

 

「伝令!東門より敵襲!既に城内に侵入を許しました!!」

「なっ!もう攻め込まれたのか!?」

 

驚くヘクトルに対し、ハングは「やっぱり」と笑った。

 

「ハング、相手に心当たりがあんのか?」

「この手際のよさ、一度味わっただろ?ラウス城でな」

「ユバンズとかいうやつの傭兵部隊か!?」

 

【荒鷲】と称されたユバンズの遊撃隊。

 

「ダーレンめ・・・死んだ後も迷惑残しやがって」

 

亡きラウス侯の忘れ形見といったところだ。

 

「くそっ!ハング、どうする?」

「ニルスが動かせない以上、逃げるって選択肢はねぇ!それに・・・」

 

ハングはヘクトルを見て笑った。

 

「ウーゼル様が来て、城が奪われてましたじゃ格好がつかないだろ?」

「・・・・むぅ」

 

ハングは笑い、息を吸い込んだ。

 

「いくぞ!!ここで奴らとの因縁をぶった切る!!」

 

城壁が震える程の大音量。ハングの鼓舞が響き渡った。

 

 

 

――――――― ※ ――――――― ※ ―――――――

 

 

 

東の門を突破したユバンズの部隊は、南の広場まで攻め込んで戦闘の速度を緩めた。

 

「・・・ここに、フェレ侯公子とその仲間どもがいるのだな?」

 

そう尋ねたのはこの部隊の隊長であるユバンズその人だった。

 

「はい、ユバンズ隊長」

 

そして、その傍に控えていたのはヒースだ。一部が白髪となった髪が特徴的な青年。

槍を手に、ドラゴンに跨っているものの彼からは傭兵としての威圧感は感じられない。

 

それは彼本来の持つ(さが)なのだろう。

 

「よし、ヒースよ、おまえの部隊は砦の西より攻め込むのだ。目的はエリウッドと仲間全員の命。ぬかるなよ」

 

ユバンズの命令に、ヒースは渋い顔だった。

 

「・・・本気ですか?ラウス侯は、我らを切り捨てて姿を消した。ここにいる奴らとは戦う必要がないでしょう?」

「ラウス侯の求めに応じオスティアへの謀反に加わった我ら傭兵騎士団は・・・これ以上、リキアには残れん。奴らを討ち、その首を持ってベルンの【黒い牙】に合流するしかない」

 

ユバンズの言ってることは正論だ。

しかし、ヒースにはそれが正しいことだと思えなかった。

 

「俺は反対です。奴らの仲間には、女や子供がいた。それをどうこうするなんて騎士の・・・いや、男のやることじゃないですよ!」

 

熱くなるヒース。だが、それをかき消すようにユバンズは静かに答えた。

 

「よく聞け、ヒース・・・やつらの代わりにベルン逃亡兵のおまえをベルン竜騎士団に引き渡してもいいんだぞ?そうすれば、我らも正騎士へと仕官の道が開けるかもしれん」

 

ヒースの体が固まる。逃亡兵の末路など絞首台か断頭台だ。

押し黙ったヒースの姿にユバンズほくそ笑んだ。

 

「それでいい。誰しも我が身がかわいいものだ。では、仲間を呼び寄せろ。突撃するぞっ!!」

 

ヒースはそれ以上は何も言えず、同じ部隊の者達と西側へと飛んで行った。

 

それに対して、城の内部ではハングの指示で【シューター】の稼働に全力を注いでいた。

 

「おい!ドルカス!これはこっちでいいのか?」

「・・・そこに置け」

「ドルカスさん、そこ抑えててください」

 

ウィルとレベッカが中心となり、それを指揮していた。

 

それ以外の騎馬部隊とオズインやヘクトルなどの重装歩兵は激戦場となることが予想される、南の出入り口に固まっていた。

 

「ヘクトル様」

「なんだオズイン、また小言か?」

 

道を間違えたことについて永遠と小言をもらったのはまだ記憶に新しい。

 

「いえ、ここ最近の見事な戦いぶり・・・このオズイン、我が眼を疑わんばかりです。本日は先日の非礼を詫びるのと同時にそれをお伝えしようと思いまして」

「お!めずらしくわかってんじゃねーか!」

 

久々に褒められて調子をあげるヘクトル。

 

「特にその斧さばき、相当な訓練の賜物とお見受けします。どちらで習われたのですか?」

「そりゃ、おまえ闘技場にきまってんだろ!連日、学問所を抜け出しちゃー戦士どもと腕を競い合ってたからな」

 

そう言って胸を張るヘクトル。オズインがわずかに目を細めたのに彼は気付いていなかった。

 

「ほう・・・闘技場に通われてたと」

「そうそう、兄上に告げ口されないよう教師どもを脅して・・・」

 

そして、ようやく気付いた。ヘクトルが改めてオズインを見るととんでもない形相のオズインがいた。

 

「あれ?ヤベ・・・」

「とうとう尻尾をつかみましたよ!やはり、ウーゼル様のお言いつけを破っておられたか!」

 

しまった、と思ったがもう後の祭りだ。

 

「オスティア侯弟ともあろう方が連日、闘技場に入り浸られるなどウーゼル様がこの場におられればなんとおっしゃったことか・・・これは、報告せねばなりませんな」

 

そういうことか!

 

ヘクトルは質問の意図に今になって気付いた。これから兄との久々の会合なのだ。

 

「わかった!わかったから兄上は勘弁してくれっ!!」

「・・・2度と行かないと約束されるのでしたら考えなくもないですが?」

「もう絶対に行かねーから!男同士の約束だ!!」

「では、そのように」

 

土下座まで考えていたヘクトルはようやく一息ついた。

そして、ぼそりと呟いた。

 

「ちくしょう!この性悪じじいめ」

「思い違いを正すならば・・・」

 

ヘクトルはギョっとしてオズインを見た。聞こえたらしい。

 

「私はまだ30代です。ですから“性悪じじい”ではなく“性悪おやじ”が適当ではないかと。では、失礼」

 

オズインはそのまま前線へと移動していった。ヘクトルも続く予定のはずなのだが、それができる精神状態ではない。

 

「へ?30代・・・って嘘だろう??」

 

オズインはどこをどう見ても五十には手が届いてそうな顔だ。それが三十代って・・・

 

「ん?」

「・・・・・ふぇ・・・」

 

ヘクトルは自分の周りにフロリーナしか残っていないことに気が付いた。

 

「うおっと!ぼぉっとしてらんねぇ!おい、お前も行くぞ」

「・・・・・」

 

無言で何度もうなずき、ヘクトルに続いてフロリーナも駆け出して行った。

 

 

 

――――――― ※ ――――――― ※ ―――――――

 

 

 

戦闘が始まる。それをハングは後方から見ていた。

周囲には横になっているニルスとそれを見守るニニアン、そして護衛のレイヴァンとルセアがいた。

渋い顔をするハングにレイヴァンが声をかけた。

 

「どうだ、戦況は?」

「お前に話して理解できんのか?」

 

憎まれ口は相変わらず。ハングはいつものやり取りを終え、戦況を伝えた。

 

「南は互角だな、シューターが相手に回ってるのが痛いが、なんとか持ちこたえられそうだ。だが、西は防御に徹するしかないな。そっちまで手が回らん」

 

南にもうひと押し戦力を投入できれば話が変わるが、そのひと押しがない以上この布陣でいくしかない。

 

「伝令だ」

 

そこにラガルトが突如現れた。

 

「お前、どっから湧いて出た」

「人をボウフラみたいに言うなっての」

 

密偵ってのはどいつも同じ返答をするものらしい。

 

「それより、伝令は?」

「西に回っている敵の戦力が思った以上に多い。今はいいがそのうち間違いなく崩れる。頭数をそろえないとどうしようもないぞ」

 

ハングは「仕方ない」と呟いた。

 

軍師が戦場に出るのはよくはない。居場所が不明となり指揮系統が乱れればそれは軍全体の生死に関わる。

だが、今の状況ではそうも言ってられない。ハングとラガルトという二人でもいないよりましだ。

 

「ラガルト、俺とお前の二人で西の援護に向かうぞ。お前はマーカスさんにその旨を伝えてから合流しろ」

「了解」

 

そして、ラガルトは来たときと同じように突如として消え失せた。

 

「そんじゃバカ傭兵、ここは任せた。そこの姉弟に指一本触れさせんなよ」

「当たり前だ。それが仕事だ」

「ルセアさん、後よろしくお願いします」

「はい」

 

ハングはマントを翻してその場を後にした。

 

その西口ではエリウッドとリンがギィとマシューを連れて何とか持ちこたえていた。

ギィが息を切らしながら、敵の鎧ごと切り捨てたところだった。

 

「おらやぁぁぁ!見たかマシュー!!」

「はいはい、すごいねすごいね。それより、エリウッド様、ひとまず息を整えましょう」

 

狭い出入り口は既に突破され、小さなホールでの乱戦となっていた。

それでも、敵の第一陣をしのぎきり、ちょうど小休止を迎えていた。

 

「はぁ・・・はぁ・・・そうだね。さすがにこの人数だけでは厳しい」

 

汗をぬぐうエリウッド。リンも息を整えて壁に寄り掛かっていた。

 

「はぁ・・・ハングに応援を頼んだほうがいいかしら?」

「そうだね・・・マシュー、伝令を・・・」

 

その時だった。

 

「きみがこの軍の指揮官か?」

 

不意に出入り口から飛び込んできた竜騎士。反射的に剣を構えた四人。

 

「待て、戦う意思はない」

 

その竜騎士は槍を置いて、ドラゴンから降りた。

その相手の行動にエリウッド達の剣は行き場を失ってしまう。

 

「あなたは・・・?」

 

それでもエリウッドは剣をおろさず、警戒したまま質問した。

 

「俺は・・・」

「エリウッド!加勢に来たぞ!!」

 

来訪者というのは重なるものだった。今度はラガルトを連れたハングが入ってきた。

一瞬、全員の注意がそちらに向くが、敵兵を目の前にしているエリウッド達は決して相手から目を逸らさない。

 

「ハング、実は今この人が・・・」

 

エリウッドが剣を向けたまま状況を説明しようとした。

しかし、エリウッドの言葉は尻切れになってしまった。

 

その理由は一つ。

 

「えと、ハング?」

 

ハングが部屋に入ってきたその場で棒立ちになっていた。

目を見開き、無防備な姿勢を晒して、ある一点を見つめていた。

 

ホールの中が不可思議な沈黙に包まれていた。

 

戦闘音は聞こえる。戦場のうめき声も混じる。

だが、それをかき消す沈黙。

矛盾しているようなその状況をハングは作り出していた。

 

リンもギィもマシューもラガルトも、その空気にのまれ、無意識に息をのんだ。

 

その沈黙の中でハングの声が響く。

 

「・・・・ヒース・・・なのか?」

 

彼の声が向かった先は今しがた現れた竜騎士。

 

「ハング・・・」

 

ヒースと呼ばれた竜騎士がハングの名を呼ぶ。

お互い、亡霊にでもであったような反応だった。

 

ヒースと呼ばれた男がハングの方に足を一歩踏み出した。

 

ハングは動かない。ヒースが駆け出す。

 

「・・・・っ!ハング!!」

 

一歩遅れてリンとエリウッドがハングを守ろうと動き出した。

その竜騎士は敵なのだ。ハングが危ない。

 

だが、反応が遅れたせいか間に合わない。

 

ヒースとハングが接近する。二人は手が届く距離まで駆け寄る。

 

そして・・・

 

「・・・・え?」

 

リンとエリウッドが手を伸ばした先で、二人はお互いの肩に顔をうずめて固く抱き合っていた。

ハングの表情は二人からは見えない。ヒースと呼ばれた男の表情もだ。

だが、そこには言い知れない感情が込められているのはすぐにわかった。

 

「あ・・・」

 

そして、リンは思い出した。

 

ハングがあの海賊船の上で教えてくれたことを思い出していた。

 

『『最愛の相棒』・・・そいつの名前はリガード、俺の最初で最後のドラゴンだ』

 

あの時は応えてくれなかった疑問。その答えが目の前にあった。

 

「生きてたのかよ・・・ヒース・・・」

「お前もな、ハング・・・」

 

涙ながらにそう言った二人。

 

そう、ハングは元竜騎士。

 

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