【完結】ファイアーエムブレム 烈火の剣~軍師と剣士~ 作:からんBit
峠一つこえればそこから先は砂漠地帯。
そんな場所に位置する町、キガナ。
辺境とも言えるその位置の町が賑わうにはそれ相応の方法が必要だった。
町の住民が思い付いた方法は二つ。
近くの山々から豊富に取れる砂を用いた硝子工芸を町の特産品とすること。
そして軽業師や道化師達を優遇することによる大道芸の町にすること。
美しい工芸品と楽しい大道芸
その二つを大黒柱にした町を目指した。
そして、この町はいつの間にかオスティアで一二を争う観光の町になっていた。
そんな観光の町であるだけに、難なく馬やドラゴンを含めた全員が泊まれる宿を見つけられたハング達一行は砂漠に入る準備の為にこの町で一泊することを決めた。
旅を繰り返してきた仲間達もここでは見張りに立つ理由は無い。
思い思いに羽を伸ばすことを許可された彼らは友人達と徒党を組み、町を練り歩きに出かけていった。
それは久々に息を大きく吐き出せる瞬間だった。
だが、例外が一人いた。
「はぁ・・・」
ハングだった。
この軍の軍師は窓の外から漏れてくる陽気を振り払うようにため息を吐いた。
彼のため息はウィルやエルクの誘いを断ったことや、格闘している部隊の資金管理の書類が原因ではない。
彼のため息はもっと深くて重かった。
理由はただ一つ。リンのことだった。
ウィルやケントを経由して聞く彼女の近況はどれも決して芳しくは無かった。
元気が無い
食欲が無い
寝不足らしい
この前落馬した
そんな話を聞くだけでも十分にキツイ。
だがそれ以上に、ここ数日リンに避けられてるということが何よりもこたえていた。
そして今朝方、偶然出くわした途端に逃げ出されたのがハングにとっての決定打であった。
「はぁ・・・」
当然、日課の稽古も無くなった。
ハングの本職は軍師であるし、二三日稽古を休んでも困りはしないが、やはり調子が出ない。
「嫌われちまったのかな・・・」
口にしてみると腹に石でも埋め込まれたかのような気分になる。ハングは机の上の羊皮紙を脇にどけて机に突っ伏した。
窓の下から盛大な拍手が聞こえる。
この陽気がリンの気分を持ち上げてくれることを願うばかりだった。
その時、背後の扉からノックの音が聞こえた。
「どうぞ~・・・」
気の抜けた返事ぐらい勘弁して欲しい。ドアを開けて入ってきたのはエリウッドだった。
「やぁ、元気ではなさそうだね」
机に突っ伏したままだったハングは気の抜けた顔をあげた。
「エリウッド・・・・」
気分が滅入ってたので誰かと話をしたかったところだ。
そう思ったのだが、エリウッドの後ろに続いて入ってきた人物を見てたちまち無表情になってしまった。
「よう・・・ニニアン・・・」
「はい・・・こんにちは」
エリウッドの後ろに付き従う彼女。
二人は町を一通り見たのか、玩具を与えられた子供のようにふくよかな顔をしていた。
しかもニニアンの髪には今朝は無かった髪留めが刺さっている。
控え目な色合いの色硝子が埋め込まれた髪留めはニニアンによく似合っていた。
誰が選んだかは聞くまでもない。
なんだろうか・・・
ハングはなぜか胃の辺りがむかついてきた。
「どうだい?進んでいるかい?」
「・・・まぁな・・・」
ハングはなるべく普通の声音を保つ。
返事の内容が曖昧なのは本当に仕事が進んでいないからだ。
「・・・やっぱり・・・外に出れませんか?」
ニニアンはハングを案じるようにそう言った。
「そうだな・・・少なくとも今日の買い出しの集計を整理しないことにはここから動けない」
買い物はマリナスに一任した。そういう意味では彼が一番の貧乏くじだが、彼は商人なので買い出し一つでも収穫があるそうだ。
「ま、身体が空くのは夕飯後あたりだな」
どうせ、出かける気分では無い。
そう言外に言い放ち、ハングは肩をすくめた。
ニニアンとエリウッドは一度顔を見合わせ、頷いた。
そして、ニニアンはエリウッドから小さな布袋を受け取り、ハングへと差し出した。
「あの・・・これ、焼き菓子です」
差し出された布袋の口を開けるとハーブのかぐわしい香りがふわりと鼻をくすぐった。
焼きたて特有の温もりを含んだその空気は疲れた頭を隅々まで癒してくれる。
とても、嬉しい。
本当に嬉しいはずなのだが・・・
「気にいってもらえたかな?ニニアンが選んだんだ」
「そ、そんな・・・エリウッド様がお店を教えてくださって・・・」
「僕もマーカスから聞いただけだよ、これはニニアンからの贈り物だと思っていい」
「お金だって・・・エリウッド様に出していただきました」
「でも、ニニアンのおかげで少しまけてくれたんだから」
なぜだろう・・・
笑顔の二人を見てると、憎悪を覚えてしまう。
「どうしたんだい、ハング。やけに遠い目をしてるけど」
「あ、悪い。直視できないんだ」
「ん?何をだい?」
ああ・・・こいつ・・・
「エリウッドの頭に岩が落ちてこないかな・・・」
「嫉妬は見苦しいよ。ハング」
「エリウッドぉぉぉぉお!!!お前、わかってやってやがったな!!」
「さすがに自分達が周りからどう見えるかは承知してるよ。ニニアン、無理に付き合わせて悪かったね」
「い、いえ・・・私も・・・エリウッド様と一緒に町を回れたのは・・・楽しかったですし・・・」
ハングの目の前で再び繰り広げられる二人のやり取り。
エリウッドは男女の仲の良さの素晴らしさを見せつける為にこんなことをしに来たのだ。
しかも、わざわざニニアンと前準備してまでだ。
「いい度胸してんじゃねぇかこの狸野郎!外に出るまでもねぇ、ここでもつ鍋にしてやんよ!!」
「もつ鍋って食べたことないんだけど、美味しいのかい?」
「んなこたぁ、どうでもいいんだよ!!」
怒鳴るハングと微笑むエリウッド。取っ組み合いでもはじめそうな雰囲気だが、どちらかが手を出さない限り乱闘にはならないのはお互い承知している。
まくしたてるハングをエリウッドは飄々と受け流す。
それはハングが疲れ果てるまでしばらく続いたのだった。
「はぁ・・・はぁ・・・もういい!!」
負け惜しみのように言い放ったハング。
ハングは腹立ちまぎれにもらった焼き菓子をかみしめる。
少し冷めてしまっていたが、それでもしっかりとした味わいは保たれたままだった。
そして、美味しいのがまた腹立たしい。
ハングがエリウッドを睨み付けると柔らかな微笑が返ってきた。ハングは舌打ちを一発放って視線をそむける。
「ハングさん・・・」
そして、視線を変えた先にはニニアンがいた。
とりあえず、彼女には何の罪もないのでハングは一度深呼吸した。
「・・・・少しは元気、出ましたか?」
そして、息を大きく吸い込んだところでハングの体が止まった。
ハングは素早い動きでエリウッドの顔の方を向きなおした。
待っていたのは相も変わらない柔らかな微笑だった。
この野郎・・・
ハングはそこで止めていた息を吐き出した。
感情を吐き出して、肩の力が抜けている。
先程までの自分がずいぶんと後ろ向きだったというのがよくわかった。
「ハング、気が滅入るのはわかるけど。あまり思い詰めない方がいい」
エリウッドの言葉にハングは白紙のままの羊皮紙へと目を向ける。
「・・・わかってるよ。仕事に支障は出ねぇようにするさ。これは俺の問題だからな」
「違うよ。これは『君達の』問題だ」
ハングは目を細めてエリウッドのにこやかな顔を見上げた。
その優男風の顔の裏側に何が隠れているのか。
それはハングにも見通せない時がある。
「狸貴族め・・・」
「何のことだい?」
「とぼけやがって・・・」
ハングは確実に少し軽くなった胸を撫で下ろす。
「エリウッド・・・」
「なんだい?」
「下からチェス盤でも借りてこようか」
リンのことは気になる。だが、今ハングにできることは何もない。せいぜい待つことぐらいだ。
なら、せめて彼女が帰ってきた時に受け止められるぐらいの気持ちのゆとりは持っていなければならない。
エリウッドはハングに発破をかける為にニニアンとの仲を見せつけるという手段に出たのだろう。
その方法の是非は置いておくとして、少なくともハングは多少気が晴れた。
「いいね。言っとくけど僕は結構強いよ」
「そこは心配してない」
席を立ったハング。
ニニアンが気をきかせて「取ってきましょうか?」と言ったが、ハングはやんわりと断った。
「いや、俺が行くよ。言いだしっぺが働かないとな。なんかついでにいるものあるか?」
「あ、ありがとうございます。私は大丈夫です」
「僕もないよ」
「了解」
そして、ハングは宿屋の受付に行くために部屋を出た。
部屋の戸を閉めてふと思う。
「エリウッド、気になる女性はいないとか言ってたよな・・・」
あの時はその言葉をそのまま信じたが。相手はエリウッドだ。
どこまで本心で言っているのかわかったものではない。
「いつか、てめぇの化けの皮を剥がしてやるからな・・・」
ハングは物騒な文句を垂れながら、階段を一歩ずつ降りて行った。
――――――― ※ ――――――― ※ ―――――――
ハングを誘ったウィルとエルク。
振られてしまった彼らは偶然出会ったダーツとニルスを連れて町に繰り出していた。
「おぉ!!」
「すげぇぇ!」
大道芸人達の技に見惚れて足を止めていた彼ら。
前で食い入るように見ているのはダーツとウィルだった。
「エルクさん、あの魔法は?」
「風の理魔法だね。結構高位の魔法だよ」
そして、舞台を盛り上げる為の演出を眺めているのがエルクとニルスだった。
傍から見ればどっちが子供かわかったものではない。
「ニルスはああいうのは興味無いのかい?」
「ううん。僕も好きだよ、凄いと思うもん」
「だったら、僕に構わず前で見てきていいんだよ」
それなりの人だかりができているのでエルクは遠慮していた。
「うーん・・・ほら、僕らって旅芸人でしょ」
ニルスとニニアンが来てから夕食の席では度々笛の音が流れていた。
「だから、こういうの参考にできないかなぁ・・・なんて思ってさ」
旅芸人の日々は決して楽ではない。
彼等の苦労を思い、エルクはニルスに対する評価を少し改めた。
「・・・しっかりしてるんだね」
「そうかな?セインさんからはもっと働けって言われたよ。姉さんを楽にしてあげるために」
「あの人は・・・」
変なこと吹き込んだ旅の同胞にエルクは頭を悩ませる。
後でハングさんにでも報告しておこうか・・・
そう思い、エルクはすぐに思い直した。
なんでもかんでもハングに頼る癖がついてる。
これはよくないことだ。
「いや~凄かった凄かった」
「よくあんなことできるよな、ダン」
「だから!俺はダーツだ、間違えんな!」
エルクが少し自分の世界に入ってる間に大道芸はどうやら終わったらしく、二人が前線から戻ってきた。
「それで・・・えーと・・・どこいくつもりだったんだっけか?」
「バカだなダーツは。ええとな・・・何だっけか、エルク?」
この二人は・・・
少し間の抜けた友人達にエルクは呆れた笑顔を浮かべた。
「二人とも、何か小腹がすいたんじゃなかったのかい?」
「ああ!そうだった!!」
「そうだそうだ、お腹減ってたんだ」
アハハハとお気楽に笑う二人を前にエルクとニルスは顔を合わせて苦笑いをしたのだった。
「あっ!エルクじゃない!!」
セーラの声がした。
「それじゃあ、俺らは先に行ってるぞ!」
「エルク、後よろしく!!」
一瞬でダーツとウィルが人混みの中に消えた。
「ぼ、僕も・・・」
逃げようとするニルスの手をエルクが素早く掴む。
「アハ、ハハハ・・・ハ・・・エルクさん・・・だめ?」
「頼む、一人にしないでくれ」
もうどっちが子供かわかったものではなかった。
「よかった、エルク。人手が足りなかったの。手伝いなさい!」
エルクは既に頭痛がしそうな頭を無理やり自分の後ろに向ける。
そこにはマシューとセインをつき従えたセーラがいた。
既に二人も男手がいて、これでもまだ人手が足りないのかと言いたいところだ。
「・・・それで、何のようだい?」
「決まってるじゃない、荷物持ちよ」
そんなに買い物ができる程の金銭をセーラが持っているとは思えない。
ニルスを含めて4人もいればそう重い物を持たされることもないだろう。
だが、そんなエルクの期待を裏切るかのようにセーラは高らかに宣言した。
「これで駒はそろったわね。それじゃあ、行くわよ」
「行くってどこへ?」
「決まってるじゃない。皆のとこへよ」
エルクは急いでマシューとセインに視線だけで問うた。
「多分、エルクの考えは間違ってないと思うぞ」
マシューの声は疲れ切っていた。それだけで、顔が引きつりそうだ。
そして、今後の具体的な予定はセインの口から伝えられた。
「これから部隊の女性達と合流だ!我らは可憐な花畑に土足で踏み込む無礼な輩を排除するために呼ばれたのだ!!」
一人息巻くセイン。
簡単に言うと・・・
「女性の買い物全部の荷物持ちってことだね・・・」
ニルスは逃げ出さなかったのを本当に後悔していた。
どこの世界に行っても女性の買い物が長いのは変わらない。
せっかくの休暇なのに・・・
エルクとマシューは揃って溜息を吐き出した。
「さぁ、行くわよ!!」
「はい!お供します!」
元気なのはセインだけだった。