Fallout4 Gunslinger of the Commonwealth 作:Ciels
まだNVも完結していませんが、亀更新で頑張っていきますのでよろしくお願いします。
第一話 2077年から、ハーディ
ーー
1945年。太平洋戦争の終わりかけの頃、日本の兵隊だった俺の爺さんのそのまた爺さんは、いつになったら妻とまだ会ったことのない息子の元へと帰れるのかと思いを募らせていたそうだ。
無理もない。いつ攻め込まれるかわからない本土に残してきた家族の心配をするのはヌカコーラに放射性物質が入っていることと同じくらい当たり前のことだろうから。
同じ年に、爺さんの願いは叶った。
広島と長崎に原爆が投下され、日本は降伏。敗戦したものの、爺さんは運良く生き残り、家族の元へと帰ったらしい。
人々は世界の終末を待つ身となっていた。
だが驚くべき事が起きた。人々は原子力を武器としてではなく、無限に近いエネルギーの源として利用し始めたのだ。
できの悪いSF程度にしか考えられていなかったテクノロジーが、生活を一変させた。
家事を担うロボット、原子力で動く車、携帯できるコンピューター。
だが、21世紀になり、アメリカン・ドリームは終わりを告げた。
長年の消費によって主要な資源が枯渇し、世界は崩壊しつつある。
平和は、遠い昔の記憶となった。
人々は、自らのツケを払うときがきたのだ。
2077年現在、総力戦は避けられないどころか目の前に迫りつつある。
俺がいる場所がその証拠だろう。
不安が募る。自分自身、妻、そして幼い息子のことを想うと……
軍にいて俺が学んだ教訓はただ一つ。
2077年初頭。アラスカのアンカレッジ。
俺はアメリカ海軍の特殊部隊員として、今世界で一番寒くて、そして熱い場所において戦いに身を投じていた。
中国軍が、アラスカで見つかった資源を巡って侵攻してきたのが原因で起きたこの戦いは、もう10年以上も続いている。
しかしそれも、もうすぐ終わりを迎えそうだった。
そのとき俺は、集結地点に張られたテント内で、空になったマガジンに弾を込めていた所だった。
カチリ、カチリと、グローブ越しの手に、銃弾がマガジンのスプリングを押し込んでいく感覚が伝わってくる。
30発詰め終えると、膝に付けられたニーパッドにマガジンの後部を軽く叩きつけ、装填された銃弾を整えた。
それを今度はプレートキャリアのポーチに突っ込んで、コーデュラーナイロン製の蓋を閉じる。
空のマガジンは無くなった。
あるのは身体に仕込んだ満タンになったマガジンのみ。いつでも戦える準備はできていた。
「あと数時間で敵陣に乗り込むらしい」
ふと、隣で同じように弾を込める陸軍の兵士が呟いた。
「奴らを万里の長城まで追い返してやる」
同じように、他の陸軍兵士が言う。
皆、やつれた顔をしているが、目の輝きは失ってはいなかった。
俺は机に立てかけられた
俺は海軍だから陸軍の奴らとはあまり話が合わないし、何よりもそいつらの雰囲気がどこか死にそうなもんだから、あんまり一緒にいたくなかった。
テントから出ると先に補給を終えたチームメイトがタバコを吸って待っていた。
「悪い、待たせた」
俺はそう言うと、ポケットからくしゃくしゃになったタバコの箱を取り出し、その中から口で一本タバコを咥える。
「待っちゃいないさ」
チームメイトが言いつつ、ライターを取り出して点火し、俺の口元へと持ってくる。ありがたく俺はタバコに火をつけて、肺をニコチンとタール混じりの煙で満たす。
「帰るまでにタバコ辞めねぇとな」
ニコチンを身体に染み込ませながら、我ながら説得力のないことを言う。
それに付随する形でチームメイトが口を開く。
「赤ん坊、産まれたんだってな」
「ああ。ショーンって名前付けた。アメリカ人らしいだろ?」
薄く笑いながら伝え、残してきた妻とまだ見ぬ息子を想う。
「あんた名前も顔も日本人だもんな」
そう言われ、また薄く笑った。
ハーディ・カハラ。
それが俺の名前だ。階級は大尉。
父は日本人で母はアメリカ人、俺はハーフだった。
中国と揉め切る前に移住してきたもんだから、一応国籍はアメリカで、グリーンカードもある。ていうか、そうでなけりゃ海軍に入れてない。
差別もされたが、それは実力やコミュニケーションで乗り越えてみせた。
「1時間後にパルスフィールドを切りに行くってさ」
チームメイトが言う。
俺は頷くと煙を吐き出す。
「T-51も完璧じゃあないか」
言いながら、頭にはアメリカ軍の奥の手であるパワーアーマーを思い浮かべた。
パワーアーマーとは、簡単に言えば人間戦車だ。漫画で見るような現代版鋼鉄の鎧で、25000ジュール以上の衝撃を吸収し、人工筋肉で補正されたフレームはミニガンをもたやすく振り回せる。
乗り込む人間は、ちょっと大きな着ぐるみを着せられているくらいにしか感じないのに、その効果は絶大だった。
一つあれば町を制圧できるともいわれたし、事実パワーアーマー部隊に遭遇した中国軍の部隊は降伏してしまったらしい。
だが、どんな物にも弱点はある。
それが今、俺たちの数キロ先に展開されているバリアだ。
テスラフィールドとかパルスフィールドとか呼ばれている、一種のエネルギーフィールドだった。
テクノロジーの塊であるパワーアーマーは
「いつの時代もそんなもんさ。結局最後に頼りになるのは人間その身だ」
その言葉に俺は頷く。
俺たちは、1時間後にそのパルスフィールドを切りに行く。
事前の偵察では、発生装置近辺には敵の大部隊と未知の戦車が配備されているようだ。生きて帰れるかわかったもんじゃない。
「嫌な仕事だよ」
「まったく」
チームメイトは同意すると、短くなったタバコを投げ捨てた。
「家族のためにもさっさと終わらせちまおう、大尉」
乾いた笑顔でそう言ったチームメイトからは、これから死にに行く雰囲気が感じられた。
ーー
ふと、自宅の洗面所の鏡で髭を剃り終えた自分を見て、そう呟いた。
もう30を過ぎている筈なのに、どっからどう見ても10代にしか見えないその顔は、でもやはり色々経験しすぎてそれなりに陰りがあった。
「今夜の在郷軍人会館、きっとうまく行くよ」
ふと、洗面所にやってきた妻のアルマが隣にやってきて鏡を覗き込んだ。
「そうかな?」
「そうだよ。ほら、鏡の前に居座りすぎだって。他の準備もして?私もお化粧しなくちゃ」
「あーい」
適当に返事をして鏡から離れる。
アルマの後ろのタオル掛けにかかっている白いタオルを手にとって、顔を拭く。
さっぱりした、これで人前に出ても恥ずかしくはない。
不意に、アルマを覗き見る。
彼女は自分と同い年で、元海軍の狙撃手だ。実は結婚前に彼女から狙撃の教育を受け、そこで意気投合。二重の意味でしごかれながら結婚し、今に至る。
やることがなくなった退役後、彼女は弁護士を目指し、今では学位と免許も持っているのだ。
それにしても。
「……」
彼女の容姿は素晴らしい。
結婚した今でも思う。
髪は金髪で肩よりすこし下まで伸ばし、顔もティーンにしか見えないほど若々しいし(人のことは言えない)、美人だ、可愛い系の。
二重の瞳はやや眠たそうな印象を受けるも、綺麗な青色をしている。
胸もそこそこあって、腰はくびれてて尻は……目の前で化粧品を取るたびにふりふりしている。
「あんた何してんの?」
ふと、上を見上げるとアルマが上半身だけを振り返らせてこちらを見降ろしていた。もちろん怪訝な顔で。
いつの間にか尻に誘惑されてしゃがみこんでいた俺は、咳払いを一つして立ち上がると、背中を向ける。
「ちょっと大量破壊兵器の視察を……」
「あんたほんとスケベね」
ケラケラと笑うアルマ。
だが、笑いが止まると同時に背中に柔らかくて暖かい感触が。
「じゃあ今日の夜、楽しみにしてていいのかな?ん?」
「お〜ほっほっほ、任せといて」
我ながら気持ち悪い笑い声をあげる。
歳をとっても性欲だけは一丁前だ。
結果的に言えば、アンカレッジの戦いはアメリカの勝利で幕を閉じた。パルスフィールドを破壊した俺たちはそのまま敵の将軍を討ち取り、今こうしてとんでもなく長い休暇を貰って家にいる。
ちなみに軍を辞めたかったが特殊部隊は簡単には辞めさせてもらえない。
犠牲が大きかった事は言うまでもない……あのチームメイトも含めて。
妻より先にリビングへ行くと、家政婦ロボが忙しなく動き、朝食を準備していた。
Mr.ハンディと呼ばれるそのロボットは、丸い球体にタコ足が生えたような姿をしている。
その球体下部にある低出力ジェットを噴射して浮かぶその姿は、SF映画に出てきそうなものだが、もうこうして現実に存在している。
「ああ旦那様、もうすぐ朝食が出来上がります。朝刊が届いておりますので、コーヒーと一緒にお楽しみいただいてしばしお待ちくださいませ」
「ああ、そうするよコズワース」
コズワース。
それが『彼』に付けられた名前だ。
Mr.ハンディタイプのロボットは主に家政婦任務を目的としており、家のあらゆる事をこなしてくれる。
妻が妊娠した時、俺は絶賛任務中だったために面倒を見られなかった。
そのために、安くない金を払って購入したのがコズワースだ。
とりあえず俺はソファーに座り、テレビをつけて新聞を広げる。
ニュースの天気予報を聴きながら、コーヒー片手に新聞を読む。お、レッドソックスが優勝間近か。
一通り目についた記事を読み終えると、テレビ欄を見た後に窓から外を見渡す。
そこには美しい自然と調和された町が映されており、住人達が通りを歩いていた。
ここ、ボストンにあるサンクチュアリヒルズは、それなりの場所である。
一般的に高級住宅街と呼ばれるこの土地は、伸び伸びと過ごすには快適だった。
そりゃあ買い物で下の街に出るのに車がいるが、そういった事を含めたとしてもここは快適だ。
見栄はって家を建てて良かったと思う。
それにここの住人は俺たちみたいな新参者に対しても暖かく接してくれるし。
ほんと、恵まれてると思う。
「コズワースが居てくれて助かったわ。誰かさんはアラスカに行っちゃうし」
化粧を終えたアルマが、俺の隣に座り、意地悪そうな笑みを浮かべて言った。
「アルマ頼むよ、任務だったんだからさ。俺だって早く帰りたかったよ」
「んふ〜、冗談だよハーディ。もう、すぐ本気にしちゃうんだからさ」
「も〜やめてよそうやって〜」
しばし夫婦の会話を楽しむ。
すると、コズワースが朝食を作り終えてテーブルに並べ始めた。
会話を切り上げ二人で食卓につくと、コズワースが哺乳瓶を持って息子が眠る部屋へと向かう。
「ショーン坊っちゃまにミルクを与えてきます」
そう言うコズワースは実に働き者だ。
朝食を食べ終えると、俺はソファーに座ってテレビを見ながらボーッとする。
アルマは食卓の椅子に座ってグロックナック・ザ・バーバリアンという漫画に夢中になっているため、暇だ。
そういや今日は在郷軍人会館でスピーチしなきゃならなかったなぁ、なんて思っていると、インターホンが鳴った。
俺はアルマの顔を見る。彼女も俺を見ている。
「……分かったよ」
「よろしい」
妻の圧力に負けた俺は、渋々立ち上がり玄関のドアを開けた。
「お忙しいところすみません、Vault-tec社です!」
玄関の前に立っていたのは、いかにもなセールスマンの男だった。
黄色が強いスーツとハットを着飾った彼は営業スマイルを振りまき、挨拶をする。
「Vault-tec?地下シェルター作ってる会社の?」
Vault-tecという会社については色々聞いている。なんでも来るべき日のために核シェルターを国家ぐるみで製作している会社であり、そのシェアはトップだとか。
ただ、まだまだ完成している数も足りなくて国のトップ連中もイラついてるんだとか。
「ご存知で何よりです旦那様。我が社は核の脅威に怯えず贅沢な暮らしができる居住空間を提供いたします」
「そうっすか」
俺の素っ気ない態度にもセールスマンは笑みを崩さない。
「実は緊急の要件でして、お国に貢献なさっている旦那様とそのご家族には、近所のVault111への優先入居権があることをお伝えするためです」
「ああ、裏山でなんか工事してましたね」
あれはVaultの工事だったのか。
どうりで州軍と陸軍の奴らが警備を固めていたわけだ。
「お時間はとらせません。ちょっとした書類を書いていただければ良いのです」
「はぁ。まぁそれだけなら」
書類……仕事的にあんまり深い事は書けないが、それでもいいなら書いてやるか。もしもの時のために、家族が安心できるのが一番だ。
「素晴らしい!それでは……」
セールスマンから渡された書類に目を通し、記入していく。
何やら個人的な事が多かったが、軍の機密に触れていない範囲なので全部答える事ができた。
セールスマンに書類を渡すと、何やら小さい機械に通す。そして一枚の紙が出て来る。
「素晴らしい!これでVaultへの入居手続きは完了です。未来への備えも完璧です。本日はありがとうございました。こちら、Vaultの証明書でございます」
その紙を受け取ると、俺は愛想笑いしてさっさと追い出す。
「はいどうもー、ありがとうございます」
扉を閉め、再びソファーに戻ってくつろぐ。ふと、先程貰った紙を見てみる。
どうやらさっき答えた質問から得た情報をもとに、俺の簡単なステータスを導き出したようだった。
「へ〜。こんなんあんのか」
9 Strength(筋力)
9 Perception(洞察力、五感)
10 Endurance(耐久力、持久力)
8 Charisma(カリスマ性)
7 Intelligence(頭脳、知性)
9 Agility(俊敏性)
1 Luck(運)
紙にはそう書かれている。
やたら運が低いが、まぁ今まで経験してきた事から推察するに妥当だ。
そもそもこれ10段階評価だよな?
とにかくそれを終えてまたソファーに腰掛ける。うーん、昼間は暇だから、昼食を摂ったら近所の公園にでも散歩しに行くのもありだなぁ。
そんなことを考えていると、寝室の方からロボット執事の声と赤ん坊の泣き声がが響いてきた。
「奥様、旦那様!ショーン坊っちゃまの状態がよろしくありません。どうにも落ち着きませんので……親の愛情を求めているようです」
困ったような声色でコズワースが助けを求める。
まぁ、いくらロボットでもできないことの一つや二つはあるだろう。我が息子はつくづくロボット泣かせのようだ。
「あら、ショーンはパパが恋しいのかしら?」
「ママじゃなくてか?」
「仕事で全然あいてにしてあげてないからじゃない?」
「わかった、僕が悪かったよーっと」
立ち上がり、ショーンの部屋へと小走りで急ぐ。
こんな会話をしているが、何も息子の世話が面倒なわけではない。単純に、仕事のせいで会えない期間が長すぎた息子に、どう接していいか分からない時があるのだ。
アルマもそれを見越して俺を積極的にショーンと遊ばせている。
あらゆる銃火器を扱い、陸や海、それだけでなく空からの任務をこなす俺が、息子の扱いに手こずるというのはなんということだろうか。
「あぁ旦那様、ショーン坊っちゃまに父親の愛情を与えてやってください。旦那様の得意分野です」
「皮肉かそれ?」
コズワースの本気か冗談か分からない言葉は放っておいて、俺はショーンのベビーベッドの真横に来て息子を上から覗き込む。
ショーンは相変わらず元気一杯に泣いていた。
俺は片手をショーンの前に出してその小さな手と遊んでやる。
「ほーらショーン、泣きやまないとBUD /Sに連れてくぞ〜」
「あんたは鬼か」
「いや冗談だって」
いつの間にかアルマが扉の所で壁に寄りかかってこちらを怪訝な目で見ていた。
ショーンはそんな二人のやり取りを見て安心したのか、今度はきゃっきゃと笑い出す。なんともまぁコロコロと機嫌の変わる赤ちゃんだこと。
「ほら、せっかくメリーをつけてあげたんだから動かしてみれば?」
アルマが顎で指す部分は、ショーンのベッドに取り付けられた赤ちゃんをあやす小さなメリーだ。
帰ってきてすぐにレキシントンのベビー用品店で買ってきたそれは、今ではショーンのお気に入りだった。
電源を入れ、軽く手で回す。
するとおもちゃのロケットがくるくると回り出し、同時にオルゴールのような音楽が流れ出す。
ロケットに手を伸ばすショーンの機嫌は、ますます良くなったようだった。
不意に俺までもオルゴールのメロディに聴き入ってしまう。どうもこのメロディには聞き覚えがある気がする。子供の頃、親父もこんな風に俺をあやしていたのだろうか。
アルマがベッドのそばに寄り、肘をベビーベッドにかけてショーンを眺める。
「ふふ、よしよし。ちゃんとしてればパパそっくりだね」
「ちゃんとしてなくてもそっくりだっての」
「あら、そうだったわね」
「ハハァ」
乾いた笑いをこぼす。
本当にこの子ったら失礼しちゃうけど、そういうとこ含めて好きなもんだ。
「なぁ、朝食も食べたことだし、ちょっと公園にでも行かないかな?天気も良さそうだし、さ」
さっき考えていたことを提案する。
アルマは何やらいたずらっ子な表情になり、
「ふーん?それで?本当は何がしたいのかな、この旦那さんは?」
にひ、と小悪魔な笑みを浮かべるアルマ。
参ったな、たまには二人で昔みたいに公園デートしたいとか言ったらまたなんか言われそうだ。
俺がちょっとばかし言い淀んでいると、またもやコズワースが、今度はリビングから声を発した。
「旦那様!奥様!こちらにいらしてください!」
何やらまた問題があるようだった。
話の腰を折られた俺は少し不機嫌そうに、
「なんだどうした?皿でも割ったか?」
と、冗談めいて言ってみるが、
「早くいらしてください!」
というコズワースの嘆願にも似た言葉に少しざわつきを覚える。
アルマと目を合わせる。お互い何かを感じ取った事で、足は必然的にリビングへと運び、アルマもショーンを抱きかかえた。
リビングへ入る所で、テレビを食いつくように見ているコズワースが目に入る。
耳を澄ましてニュースを聞く。
『続いて……えぇ……閃光があったとの報告が』
狼狽えるニュースキャスター。
家族一丸でテレビに食いつく。
『目も眩む閃光との事……大爆発の音……確認を……確認を取っている所です』
全身の毛が逆立った。
言葉が出なかった。
脳はすぐさま起きた出来事を理解したが、それを拒否したくて身体が動かなかった。
「なに?なんて言ってるの……?」
退役したとはいえ、アルマも元軍人だ。
その言葉の意味は、本当は理解しているはずだった。
だがキャスターは無慈悲にも、現実を突き付ける。
『どうやら現地支局との連絡が、完全に取れなくなった模様です……い、今、確認の報告が……ニューヨークとペンシルバニアで、核爆発を確認したとの報告です……』
終わったと、思った。
何もかも、すべてが終わったと思った。
複数の大都市への核攻撃。
それが意味するのは、一つ。
世界の終焉、それだけだった。
『神よ……』
キャスターが言い終えると同時に、テレビが電波を受信しなくなる。
「え、うそ」
「Vaultへ急げ!早く!!!!!!」
軍や戦場以外であげたことの無い大音量で叫ぶ。
一瞬アルマは身を震わせたが、頷いてショーンを抱えたまま玄関へと向かう。
俺はテレビの台の引棚を探る。
焦りながら、中から一つの鉄の塊と、IDカードを取り出した。
急いで扉の空いた玄関を抜ける。
抜けて、立ち止まる。
そして振り返る。
家の中には、相変わらず家族の一員であるコズワースがいた。
「っ……」
彼は連れていけない。
Vaultにロボットを置いておけるスペースがあるとは限らないし、この混乱だ。きっとVault111には近隣の住民が殺到しているだろう。機械であるコズワースよりも、人間を優先するのは当たり前だった。
でも、こいつだってもう家族の一員なのだ。
「旦那様」
躊躇う俺にコズワースは、落ち着いた声色で言う。
「お気をつけて」
「……ごめん、コズ」
それだけ告げると俺は足を進め、パニックに陥っている人々が逃げ惑うストリートを走る。
「ああ、核攻撃なんて本当なの!?」
「わからない……!」
向かいのローザ家が混乱している。
空では軍用のティルトローター機であるベルチバードが飛び回り、周辺の地域に避難勧告をしていた。
通りを抜け、Vault111に通じる林道へと来る。
パニクる人はもちろん、大きなスーツケースに物を詰め込みすぎたばっかりに、容量を超えて溢れてしまっている人もいた。しかも詰め直そうとしている。そんなもの、今は重要じゃ無いだろうに。
しばらく上り坂を走ると、列ができていた。
その列の前にはVault111のフェンスがあり、更にパワーアーマーを着た軍人たちが列をなす彼らを止めている。
その中に、アルマとショーンの姿があった。
「アルマッ!」
列に割り込み無理やりアルマの隣へと向かう。
「ハーディ!こっち!」
彼女の手を取って無理やり隣へやって来ると、前方の状況を確認する。
その先頭では、先程家に来たVault-tecのセールスマンがいて、何やら兵士と言い争っている。
「そんなバカな!私はVault-tecの社員なんだぞ!?」
「リストにはありません」
どうやら彼は社員なのにリストに載っていなかったようだった。
気の毒だが、気にしていられない。
俺はアルマの手を取り、人々を掻き分けながら先頭へと向かう。
先頭に着いた時、痺れをきらしたパワーアーマー兵が手にしたミニガンの砲塔を回転させ始めた。
これには流石にセールスマンも驚いて撤退せざるを得なかった。
「上に報告するからな!」
捨て台詞を吐いて元来た道を下っていくセールスマン。
すれ違いざまに目があったが、睨まれようが今はどうでもよかった。
「米海軍特殊作戦コマンドのハーディ・カハラ大尉だッ!リストに載ってる、入れてくれ!」
使えるものはなんでも使った。
卑怯と言われようが、家族を生かすためならなんでもする。
パワーアーマーの隣にいた兵士はクリップボードのリストを確認する。
「乳児……成人女性、成人男性……よし、進んで」
ようやく道が拓けた。
アルマを半ば抱きかかえるようにしてフェンスをくぐり坂を登る。
と、道が拓けたことで足止めされていた後ろの人たちも雪崩れるようにフェンスを通過しようとしたが、パワーアーマーがそれを許さない。
俺は、つい先日までご近所付き合いしていたその人達を振り返ることなく見捨てた。
坂を登りきり、ベルチバードの横を通り過ぎる。
すると、崖のそばで立ち止まっている人たちが見えた。
「早くゲートに乗って!」
近くの兵士が俺たちを誘導する。
乗れってことは、エレベーター式なのだろうか。
その人たちのところへ行くと、足元が土では無いことに気がついた。
鋼鉄の、大きな歯車に、俺たちは乗っていたのだ。
これがゲートなのだろう。
どうでもいいから早く入れてくれ。
「もういい!ゲートを下げろ!」
兵士の一人が叫ぶ。
すると辺り一面に警告音が鳴り響いた。
ようやく降りられるようだった。
「二人とも大丈夫か?」
抱きしめながら早口でアルマに確認する。
彼女は不安そうな顔で頷いた。
「大丈夫だよ、この子は無事だよ」
「お前は?大丈夫か?」
「うん、うん、大丈夫」
そんなはずなかった。
これから核が落ちると言うのに、大丈夫なやつなんているはずがない。
俺とアルマは、お互い心を安心させたいがためにそれを言っていたのだ。
その時、ようやくエレベーターが下り始めた。
なんとも呑気なその速さは、苛立ちと焦りを募らせるばかりだった。
「クソ、遅ぇ!」
言葉が荒くなる。
今はまだ胸くらいまでしか下っていない。
「!伏せろ!」
ふと、何かを感じた俺はアルマを伏せさせた。
刹那、俺の視界を眩い光が覆う。
瞬間的に目を閉じ、次に開けた時には絶望。
遥か彼方の空に、大きなキノコ雲が立ち昇っていたのだから。
「衝撃に備えろッ!!!!!!」
すぐにその言葉が出たのは、軍人として人々を守る使命感があったからかもしれない。
伏せたアルマに覆いかぶさった次の瞬間には、俺たち避難民の頭上を爆風が通り過ぎ去った。
とんでもない威力だった。
外にいた人々は死んだ。断言できた。
それくらい凄まじかった。
泣きそうだった。
アンカレッジで戦友が次々に死んでいっても泣かなかった俺が、今は泣きたくて仕方なかった。
あいつらが死んでも守った国が、消えてしまうその光景に耐えられなかった。
「……、ハーディ」
腕の中のアルマが名前を呼ぶ。
目と目が合うと、彼女はおでこをコツンと、俺の額にぶつけた。
「私はいなくならないから。ショーンもだよ」
言葉が出なかった。
周りの人々が怯えて声をあげる中、特殊部隊として活躍したこの男はただ妻の母性に甘えているだけだった。