Fallout4 Gunslinger of the Commonwealth 作:Ciels
サンクチュアリ・ヒルズは大きな街ではない。
高級住宅街として開発されてきたこの場所は、核が落ちる数年前にようやくできた場所であり、世界規模のインフレも重なって当初の予定よりも入居者が集まらなかった。
だから高級住宅街とは言いつつも、俺が土地を購入した時には価値は大分落ち着いていた。珍しく運が良かったんだろう。
とにかく、いくつか連なる家々を抜けるとサンクチュアリ・ヒルズの看板が姿を見せ、その先には崩れかかった木造のオールド・ノース・ブリッジがあり、コンコード川を跨いでいる。
さらに進むと、名物のミニットマン像が。
歴史に詳しい人なら分かると思うが、ミニットマンとはアメリカ独立戦争で活躍した民兵組織である。1分で駆けつけるとまで言われた彼らは、イギリス軍相手に猛威を振るった。後に功績を讃えられ、この場所に銅像が建てられたのだが、正直今となっては射撃の練習に使う的にしかならないのだろう。錆びた銅像のあちこちに、銃弾で空いたと思われる穴がちらほら見て取れた。
「
早朝。その橋とは少し離れた所で、俺とアルマが周囲を観察している。
200年経とうが、この場所は変わっていなかった。周囲を囲む森林。そしてミニットマンの銅像から見える、レッドロケット・トラックストップ。いわゆるガソスタだ。
休日になるとよくフュージョン・コアを補充しに来る車で溢れていたのを覚えている。
石油の枯渇問題の後、アメリカは原子力によるエネルギーに頼りきりになっていたのは知っていると思うが、車も同じで原子力で動いていた。
フュージョン・コアと呼ばれる小型の核燃料と、それを用いたエンジンで動く車は、意外にも音が静かで乗り心地が良い。
もちろん古き良きガソリン車を乗り回す金持ちもいたが、世間ではすっかり原子力で動く車が普及していた。
俺の家にも一台ある。廃車になってうんともすんとも言わなくなっちまったが。
クソ、一括で払ったのに……まだ2年しか乗ってないぞ。
話を戻そう。
現在の目的地はコンコード。
サンクチュアリ・ヒルズを出て、南東に進み、レッドロケット・トラックステーションを抜けると辿り着くその街は、老人が多かったイメージがある。
ほとんどの住民が白人のコンコードは、過疎ではないものの、年々人口が減っていた。それに伴い犯罪も減っていたが。
そもそもボストンの犯罪数は少ない方なのだが、人間がいる限り犯罪もなくならないもので、定期的に暴力事件が起こっていたのを覚えている。
コズワース曰く、複数の人間と思われる生体反応が確認されたコンコード。果たして友好的な人間か。その調査が任務……任務でいいか。任務である。
「あんまり変わらないね。橋が半分崩れてるくらいで」
「この辺は建築物が少なかったからなぁ。それに、核弾頭が落ちたのはケンブリッジとかそっちの方だったよ」
Vault111のエレベーターを降りる際の光景を思い返す。
専門家ではないから詳しい事は分からないが、おそらくケンブリッジ方面に落ちたであろう核弾頭の破壊力は、そこまで大きくない。とは言っても、街を一つ破壊するには十分だし、衝撃波だってサンクチュアリに到達していたが。
しばらく割れたアスファルトを下っていく。
本来ならば道を歩きたくないが、Pip-boyには生体反応を感知するレーダーも備わっているらしく、今のところ100メートル圏内に人はいない。
狙撃されたらひとたまりもないが、今は速度を優先する。
数分して、レッドロケット・トラックステーションの看板が見える。
赤いロケットを模したそれは、数日前に見たばかりなのにすっかり朽ち果てていた。しかし核爆発の衝撃波を食らって200年経った今でもそびえ立つロケットは、むしろ誇らしい。
と、そんな時。
Pip-boyに生体反応を確認した。
数は一つ、アルマにしゃがむように言い、二人して道を外れる。
草むらの中に入り、双眼鏡でトラックステーションを確認する。生体反応はあそこからだ。
「……ありゃ犬だ」
双眼鏡のレンズに映ったのは、一匹の犬。首輪は無く、ボロボロのテディベアを用いて遊んでいる。
「野良犬には見えないね。毛並みも良い」
同じように観察するアルマが言った。
トラックステーション内に生体反応は無し、周囲にも人影はなく、また襲撃に向きそうな場所もない。
なら問題無いか。罠の可能性も無さそうだ。
「ねぇハーディ」
「ダメ」
「まだ何も言ってないよ」
「言いたい事はわかる」
興味津々のアルマを抑える。
アルマは動物好きで、よく近所の犬や猫と遊んでいたらしい。アラスカから帰ってきて、家の前に我が物顔で猫や犬がくつろいでいたから驚いたものだ。
でも、今の状況を鑑みて、犬と戯れるのは容認できない。
もし下手に優しくしてついてこられても困る。余剰分の食料はない。
「う〜ちょっとだけだから!ね?」
「声がでかい。……まぁ、ちょっとだけだぞ。連れていきはしないからね」
「わかってるよ」
妻にはことごとく甘い。
それも仕方ない事だと、一人納得させる。
息子は奪われ、世界は荒廃している。心をリフレッシュさせる何かが必要だとは思う。……こう言うところが過保護って言われるんだろうな。
はしゃぐアルマをよそに、周囲を警戒しながらトラックステーションへと到達する。先頭はもちろん俺だ。
早くわんちゃんと戯れたいのは分かるが、それで襲撃されようものならたまったもんじゃ無い。
周囲に危険がない事を確認し、犬へと近づく。
犬は最初こそ警戒していたが、すぐに懐いたように俺へと向かってきた。
そんな犬っころに、俺も思わず頬を緩めた。
「おおシェパードか。お前一人か?」
ライフルは握ったままで、しゃがんで犬を撫でる。鼻を鳴らして俺の手に頭を擦り付けてくるその様は、可愛いという以外に形容できない。
しかしここまで懐いているとなると、元は飼い犬だったのだろうか。
「むー、私にも!」
後ろでアルマが騒ぐ。
わかったわかったと言いつつ、俺は手を離してポジションをアルマと代わった。
犬はアルマにも懐いていて、ぺろぺろと彼女の手を舐めている。俺も舐めたい……じゃなくて、どんな病原菌を持ってるか分からないからやめさせなくては。
「アルマ、あんまり舐められると病気になるぞ」
「大丈夫だよ、Pip-boyで確認してるから」
そう言いながら、アルマは左腕を見せてくる。確かにディスプレイには
こうまで懐いていると手放す時に困ることになる。
まぁ、今は遊ばせてやろう。
「ちょっと中見てくる。遊んでても良いけど、気は抜くなよ」
「はーい」
生返事な妻に呆れた笑みを見せながら、俺はトラックステーションの中を物色しに行く。
中には十分もいなかった。
医療品はすでに誰かに取られた後だったし、弾薬もあるはずない。あったのは使い切ったフュージョン・コアと、車をいじる時に用いるワークベンチのみ。車好きのローザの家にもあったやつだ。
収穫は無いに等しい。
ふと、外で犬と戯れる妻を眺める。
彼女は楽しそうにテディベアを介して犬と遊んでいる。
……もし核が落ちなければ、ここにショーンも加わって遊んでいたのだろうか。
家族で、公園で。
休みの日にはこうして遊んで。
昼にはアルマが作ったサンドイッチを食べて。
普通の家族みたいに……
「……」
少し感傷に浸りすぎた。
俺は見えないようにトラックステーションの中へと入り、タバコを出す。
結局、やめられそうにない。
くしゃくしゃの箱から一本取り出し、咥えてから火をつける。
すぅーっと煙を肺に取り込む。
200年ぶりだからだろうか、ニコチンが一気に回って頭が
煙を吐き出すと、もくもくと立ち昇る煙が窓の外へ流れていった。
「うわ!なにこいつら!」
アルマの大きな声が聞こえたのもこの時だった。
瞬時にタバコを置いてあった灰皿に捨て、ライフルを両手で保持する。
外へ出ると、数匹の馬鹿でかいネズミがアルマと対峙していた。
毛が無いネズミは、牙をアルマと犬に向けている。
犬も臨戦態勢に入っているらしく、低いうなり声を上げてネズミを睨む。
「ネズミか!?」
「アルマ、排除しろ!こいつらは危ない!」
アルマも
引き金を引くのとネズミが襲いかかってくるのは同時だった。
ライフルの
目の前で動かなくなるネズミ。
銃声で痛む耳をよそに、アルマを見る。
「こっちくるな!」
飛びかかってくるネズミを避け、着地したところに銃弾を叩き込む。
瞬間的に3発の弾丸がネズミの腹にめり込むと、ネズミは物言わぬ塊へと変わった。
安堵するのもつかの間、アルマの横からもう一匹のネズミが飛びかかってくる。
「クソッ!」
そいつを狙うが、間に合うか分からない。
その時だった。
「バゥッ!!!!!!」
先ほどまでアルマと遊んでいた犬が、ネズミに飛びかかったのだ。
空中で取っ組み合いになり、2匹はアルマの目の前に落ちる。
もがくネズミを押さえつける犬は、その鋭い牙で喉元に食らいついた。
ブチブチっと、肉が引きちぎれる音と共に、ネズミの喉から血が溢れる。
「うっわエグ!」
アルマが感想を漏らす。
同意見だった。先ほどまであんなにかわいげのあった犬は、今ではハンターのように、獰猛にネズミの喉を引き裂いているのだから。
ネズミが事切れると、犬は何事もなかったかのようにその場を離れてアルマの元へと駆け寄る。
流石に血だらけの口をアルマにつけようとはしなかった。中々に賢い犬だ。
もしかしたら、訓練を受けているのかも。
何はともあれ、ネズミの集団を始末した俺たちは、銃声によって何者かの気を引いてしまった可能性がある。
いち早くこの場を離れることが優先事項だった。
「久しぶりに撃ったからびっくりしちゃった」
興奮が冷め切らないのか、アルマが息を切らして言う。
仕方ないだろう。最近はスポーツシューティングくらいでしか銃を撃っていなかったのだから。
「耳は大丈夫か?」
「うん。耳鳴りも治ったよ」
周辺を警戒しながら言う。
銃声というのは、思っているよりも大きい。耳栓無しでは耳を痛めかねない。
現に、俺は痛い。まぁすぐ治るだろうが。クソ、急だったから耳栓するの忘れてた。
「ここを離れよう。面倒に巻き込まれるのはゴメンだ」
「うん、そうだね」
了承を得て、俺とアルマはコンコードへの道を再び歩き出す。
が、足音が一つ多い。
嫌な予感がして後ろを見ると、犬が付いてきていた。
「……」
「アルマ、ダメだぞ」
物欲しそうな目で犬を見るアルマに釘を刺す。こうなるから反対したのだ。
犬も犬で、上目遣いで俺とアルマを交互に見ている……
「……ダメ?」
今度はアルマまで上目遣いでこちらを見る。可愛らしい二人の上目遣いが俺を攻める。
流石に焦った。
もしかしたら、アルマはこうなることを予期していたのかもしれない。向こうの作戦勝ちだった。
こうなれば俺に拒否権は無い。
ため息をつくと、俺は渋々言った。
「ちゃんと面倒見るんだぞ」
アルマの笑顔が弾ける。
「やった!ハーディ大好き!」
「はいはい」
大好きと言いつつも、犬へと駆け寄るアルマ。
やはり俺は過保護なようだ。
その時、状況は緊迫していた。
手製のレーザー兵器を手にするアフリカ系の男は、バルコニーを開けて外の様子を見ようとする。
刹那、バルコニーの窓枠に銃弾がめり込んだ。同時に銃声が響く。
すぐに隠れて外を見下ろすと、いかにもなレイダー達がこちらに銃を向けているのが見えた。
そして、その足元には倒れて血溜まりを作る同胞の姿も見て取れた。
「クソ……」
バルコニーの扉を閉め、手にした銃に付いているクランクを回す。
「プレストン、外は?」
オーバーオールを着た、メカニック風の男が訪ねてくる。
プレストンと呼ばれた男は首を横に振った。
「ダメだ」
「そうか」
えらく淡白な受け答えだった。
それはこの数日で、こんな状況が当たり前になってしまったことを意味していた。
ついさっき、仲間が死んでしまったのに、もうあまり心が痛まない。
そのことに、プレストンは自分自身に嫌悪感を示す。
部屋を見回すと、怯えるように縮こまる男とそれを慰める女、そしてえらく落ち着いているお婆さんと、メカニック風の男だけがいる。
どう見ても、戦えるのはプレストンしかいなかった。つまり、自分が死んでしまえば、彼らを守れるものはいない。
そんな時、メカニック風の男は話を変える。
「屋上を見てきたんだが、使えそうなものがあった」
「なんだ?」
自らの感情を押し殺しつつ、その話題が良いニュースである事を祈り尋ねる。
するとメカニック風の男は不敵な笑顔で言った。
「戦前のパワーアーマーが一機だけ放置されてる」
「俺はパワーアーマーなんて使ったことないぞ」
だが、期待に反してプレストンは首を横に振った。
「わかってる。でも物は試しだ」
男に説得され、プレストンは渋々頷く。
確かにパワーアーマーは強力だ。あれがあれば、レイダーを蹴散らすのも容易だろう。
「まぁ、動力のフュージョン・コアがないんだけど」
「試す前に終わってるじゃないか」
パワーアーマーを起動させるには、フュージョン・コアが必要だ。
あれが無ければ、パワーアーマーは置物と変わらない。
結局の所、彼らはレイダー相手に籠城戦しかできない。しかも、圧倒的にあいてが有利だ。
プレストンは椅子へ座る。
もう自分にできることはないのかもしれないと思いもするが、それでも諦めたくなかった。
外で扉を破る音が聞こえる。
レイダー達が、自分たちが籠城する建物に押し入ってきた音だ。簡易的なバリケードはあるが、自分たちがいる階に来るのも時間の問題だろう。
覚悟を決める。
ここで死んだら、仲間達に申し訳が立たない。だから自分を奮い立たせる。
もう一度武器のクランクを回してエネルギーをチャージする。
そして自分たちが入ってきた扉へ飛び出そうとした、その時。
「なんだあいつら!」
「止めろ!止め、うガァ!」
外から悲鳴が聞こえてきた。
味方はもういないはずだ。外にいるのは、レイダーしかいない。
何事かと、プレストンはそっとバルコニーの扉を開けて外の様子を覗く。
すると、外のレイダー達が次々と倒れていくではないか。
何事かと思い、メインストリートの奥を見下ろす。
「
「
「ワンッ!ワンッ!」
道路の奥から、男女と犬が突撃してきている。
銃弾をかわしながら、次々とレイダーを殺していくその姿は、一見奇怪だった。
それでも、プレストンからすれば予期せぬ幸運が舞い降りたと言わざるを得なかった。
考えるよりも早く、バルコニーを開け、謎の侵入者に対応しているせいで背を向けるレイダーに銃撃をお見舞いする。
ライフルから放たれたレーザーは、向かいの建物の屋上にいたスナイパーを貫いた。
すぐにクランクを回してエネルギーを充填する。
そして、今度は地上の敵を狙って引き金を引いた。
「おいミニットメンが撃ってきてるぞ!うぐぅ」
プレストンに気を取られたレイダーが、侵入者の銃撃で沈む。
無駄がない射撃だった。
胴体と頭に1発ずつ。見ただけでわかる、あの男は高度な訓練を受けている。
見とれているのもつかの間、いつのまにかあれだけいたレイダー達は死体にすり替わっていた。
それでも侵入者の二人はこちらに銃を向けて警戒している。
「待て!撃つな!」
プレストンは銃を上げ、敵意がないことを示す。男は相変わらずこちらに銃を向けていたが、親指でレバーを動かして安全装置を入れていた。
どうやらレイダーや、自分たちを追ってきたガンナーではないようだった。
「アメリカ海軍のカハラ大尉だ!そちらの所属を言え!」
旧世界の国の軍隊であるという男は、プレストンに尋ねる。
「コモンウェルス・ミニットメンのプレストン・ガービーだ!」
「ファービー!?」
「ガービーだッ!!!!!!おい、あんたの腕を見込んで手を借りたい!レイダー達が押し寄せてきてる!中へ入って掃討してくれ!」
男はひとまず銃を降ろし、後ろからやって来た女と顔を見合わせる。
よく見れば、彼らが連れている犬は、自分たちの仲間が育てていたシェパードだった。もっとも、だいぶ前にその仲間は死んでしまったが。
数秒して、ようやく決心したのか男は叫ぶ。
「良いだろう!ちょっと待ってろ!」
それだけ言うと、男が先頭になって建物へと入っていく。
誰だか知らないが、チャンスを逃すわけにはいかなかった。
ようやく希望が見えてきたプレストン。
後にこの出会いが、連邦と呼ばれるこの土地の未来を大きく変えることになる。
将軍、ちょっと変わった話がある