Fallout4 Gunslinger of the Commonwealth   作:Ciels

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第九話 コンコードから、屋内戦

 

 

玄関ホールに侵入する。

慎重に、持てる技術を出し惜しみせず、安全を確認した。

ホールの一階部分には誰もいなかった。

だが、吹き抜けになっている中央の階段部分はそうではない。

 

レイダーが、自分たち以外のものに銃口を向けて奮闘していたのだ。

 

「クソ、とっとと負けを認めろ!」

 

ガラの悪い女レイダーが、二階の踊り場から三階の部屋めがけて銃を撃つ。

こちらには気がついていないようだ。

 

俺はハンドサインだけでアルマに指示を送る。回避、潜入。

すると犬もこの意味を理解しているのか、アルマと共に右の小部屋前へと移動した。

この犬、こうまで賢いのになぜさっきはあんなヘマを犯したのだろうか。わざとか?

 

踊り場の敵を警戒しつつ俺も小部屋への入り口へ向かうと、今度もまた俺が先頭で中へ侵入する。

小部屋かと思ったそこは、通路だった。

核が落ちる一年ほど前に越してきたばかりな上に、任務が忙しかったから自由博物館なんて行ったことなかった。

間取りが分からない。

 

それは育児と勉強に没頭していたアルマにも言えたことで、二人してこの迷路を進んでいく。

 

俺、犬、アルマの順で慎重に進んでいくと、人影が見えた。それもたくさん。

 

身体の筋肉が強張るが、それも一瞬のこと。人影は、自由博物館に飾られている、兵隊のマネキンだったのだ。

 

だが気は抜けない。

この状況で敵がマネキンに紛れていることは無いとは思うが、一つずつ見回してマネキンであることを確認する。

 

過去に、中東での作戦に従事していた時のことだ。

中国軍による民間人の虐殺現場の死体に紛れ、人民解放軍の特殊部隊(クリムゾン・ドラグーン)が紛れていたことがあった。

殲滅することはできたが、突然の奇襲によってチームメイトが二人死んだ。

だから、こういった場所ではより慎重になってしまう。

 

「まったくひでぇ有様だぜ」

 

不意に、進行方向の部屋から声が聞こえた。アルマと犬を待機させ、一人慎重に確認しにいく。

すると部屋には、何やら死体を漁っているレイダーらしき人物が、背を向けていた。

俺は腰に仕込んであったナイフを取り出す。

そしてゆっくりと、音を発てずに近づいた。

 

「しょべえもんしか持ってねぇのかミニットメンの奴らは。薬の一つもありゃしねぇ」

 

言い終えてから、男のクビに力の入った右手を回し拘束する。そして暴れ出す前に左手のナイフで頚動脈を切断した。

ドバッと、男のクビから血が吹き出る。

そのまま肋骨を避けてナイフを心臓に突き刺す。

刃はあまり長いものでは無いが、心臓なんて少し破いてしまえば人間は死ぬ。

 

数秒男はもがいていたが、喋る事も出来ずにそのまま死んだ。

死体をゆっくりと寝かせると、ナイフに着いた血を男の衣服で拭って鞘に戻す。

 

「えっぐ」

 

後ろではアルマがこちらを覗いていた。

 

「普通だよ。行こう」

 

そう、普通だ。

戦場なんて行ったらもっと酷い死に方もする。バラバラになったり、ミンチになったり。

敵も味方も同じように死んでいくのを見てきた。

 

まぁいい。とにかく先へ急ぐ。

部屋を抜けると、そこは中央ホールの階段踊り場だった。

上を見上げると先ほどの女レイダーがまだ撃っている。

 

上へ上がるためにはこいつを回避するのは無理だし、そもそもレイダーの排除を頼まれている。

 

よく見れば、三階にはもう一人レイダーがいた。

同時に排除してしまった方が安全だった。ここは犬に役立ってもらおう。

 

犬を見据えてハンドサインを送る。

ーー女のレイダーを排除しろ。

 

犬は了解したのか、鼻息を荒くすると女レイダーに突っ込んだ。

女レイダーが驚いたのもつかの間、犬はそいつを押し倒して喉元に食らいつく。

 

「ぐぎゃぁああ!!!!!!」

 

女の悲鳴で上にいた男が異変に気がついた。が、その時にはもう俺のライフル(AR-15)が男を捉えていた。

 

外で撃った時よりも大きな銃声がライフルから発せられるのと、男が撃たれて手すりを崩して落下していくのは同時だった。

 

鈍い落下音が響き、一階のホールに男の死体が転がる。

犬を見てみれば、もう決着がついておすわりしていた。まるで俺が上の敵を倒す事が分かっていたようだった。

 

Clear(よし)、前進しよう」

 

その一言で今の光景を片付けると、階段を上る。

 

 

階段を上り、三階に続く経路を探す。

老朽化のせいで床が崩れており、階段までたどり着けないのだ。

よじ登ってもいいのだが、その最中に隠れている敵に撃たれたく無いし、そもそも敵の排除が目的だから部屋は隅々まで確認する。

 

次の接敵は、細い通路を進んだ先の部屋だった。ここでもやはりというか、兵士姿のマネキンが展示されており、二人のレイダーはそんな中で何やら不満を漏らしていた。

 

「クソ、あんな奴ら放っておきゃあいいのに」

 

「まったくだぜ。グリッスルの命令じゃなきゃこんなとこまで来ちゃいないさ。ジャレドの奴、なんだってあんなババアを連れてこいだなんて言ったんだ?」

 

どうやら彼らは誰かに派遣されてきたようだった。ジャレドにグリッスルね……なるほど、覚えた。

そして彼らが何を欲しているのかも分かったところで、こいつらには消えてもらおう。

 

俺はPip-boyの収納機能を開いて、火炎瓶を亜空間から取り出す。

先程レイダーの死体から拝借したのだ。

もう彼には必要ないだろうからな。

 

ついでにポケットからライターを取り出し、火炎瓶に詰められている布に火を付ける。滑らかに燃える布。

俺は火炎瓶を、壁一枚向こうにいるレイダー二人めがけて放り投げた。

 

「なんだ!?」

 

気づいた時にはもう遅い。

パリンと瓶が割れて、中のガソリンがレイダー達の足元に撒き散らされる。

加えて布についていた火が、ガソリンに引火した。

 

「うわ!うわあああぁああ!!!!!!ぎゃああああああああ」

 

二人して熱さのあまり叫び喚き、転がり回る。

いくら消そうとしても、ガソリンが燃えていては簡単には消せなかった。

 

俺は壁から身を出し、急ぎもせずにライフル(AR-15)で二人の身体を射抜く。

彼らの命を奪った弾丸が、結果的に熱さから彼らを救ったというのは皮肉だろう。

 

「うっ……」

 

ふと、アルマが死体を見て鼻を手で覆う。まぁ、今回ばかりは普通じゃない光景だった。

あまりにも当然のように、効率的に殺そうとしてしまう癖がある。今だって、火炎瓶を使えば楽に殺せるからと、酷いことをした。

 

「すまん、流石にキツイか」

 

「うん……しばらくステーキは食べられそうにないね」

 

ははは、と自嘲気味に笑うアルマ。

ああクソ、俺だってこんな光景を見せて気を遣わせたい訳じゃないんだ。

でも、ここは戦場だ。だから仕方ない。

俺は自分にそう言い聞かせて先へ進む。

 

 

 

 

 

 

「開けやがれこの!開けろってんだ!」

 

レイダーの一人が、ミニットメン達が籠城する部屋の扉を蹴り破ろうとしている。

しかし思いの外扉が開かず、鍵もしめられてるからビクともしない。彼の経験上、きっと扉の裏に何か重いものを置いている。

 

そんな乱暴な相方に、後ろでその光景を見ていた二人目のレイダーは呆れる。

 

「おい、もうよそうぜ。こんなことする価値があのババアにあるとは思えねえ」

 

「うるせぇ、すっこんでろ!俺は今頭にきてんだ!」

 

キレて真っ赤になったレイダーは耳を貸さない。それどころか、今度は持ってきたバットでどんどんと叩き始めた。

 

貧乏くじだなぁ、なんて呆れたレイダーは思う。そもそも今回の略奪は、戦果らしい戦果がない。

ミニットメンはろくなものを持っていないし、そもそも残り少ないミニットメンとクインシーだかどこかの町の居住者どもを襲うにしては、こちらの人数が多すぎたのだ。

 

結果的に、赤字という言葉が実に的確に響いていた。

 

「ったく、好きにしろ。俺はタバコ吸ってくるからよ」

 

そう言いながらレイダーは相方を残しその場を去る。そういやさっき、何かが割れる音がしたなぁ、なんて思いつつも、きっと誰かが勝手に酒でも飲んでガス抜きしてるのだろうと思った。

 

なんたって、不満を抱いているのは彼だけではない。かなりの人数が、この命令を、そしてそれを命じたジャレドというボスに対して不信感を抱いているのだから。

 

事の発端は、ガンナーと呼ばれる傭兵集団との接触だった。

本拠地があるレキシントンのみならず、もっと南にも勢力を広げたいと思っていたボスのジャレドは、(キャップ)と領土を求めて彼らの手助けをした。

クインシーの虐殺と呼ばれるこの事件は、直接的に町の住民を殺しまくったガンナーはもちろんのこと、それに手を貸したジャレド一派の名をも轟かせる結果となったのだ。

 

だが、それくらいからどんどんジャレドがおかしくなっていった。

なんでもそのクインシーから逃げてきたミニットメンと一緒にいる老婆を知っているらしく、そいつを捕らえろと言うのだ。

 

重度のヤク中であるジャレドだったが、今までの略奪や命令はもっと合理的だった。

だが、今回の一件以来、成果を上げても赤字続きのレイダー達には不満が募っていったのだ。試合に勝って勝負には……勝っているのか負けているのか。とにかくレイダー達はそれが気に入らない。

 

「グリッスルがいなきゃとっくに辞めてるっての」

 

そう呟き、レイダーは壊れかけたタンスに寄りかかってタバコを吸う。

 

副リーダーのグリッスルという男がいる。彼はジャレドの副官で、非常に頭が切れてレイダー達からの信頼も厚かった。

彼が襲撃部隊のレイダー達をまとめていなかったら、今頃離反していたかもしれない。

 

「ったくよぉ」

 

そうしてタバコの半分程が灰と化した頃だった。

ポトリ、と手にしたタバコを落としてしまった。

 

いかんいかん、とタバコを拾おうとするが身体が動かない。

それどころか、口から何かが溢れてくる。

レイダーの理解を超えた何かが起きていた。そしてとうとうそれを理解する前に、男の意識はこの世から消えてしまう。

 

 

 

 

背後からナイフを男のクビに突き立てる。クビに刺すというよりは、頚椎を潰す、という方が正しい。

脊髄を破壊すれば動物は身体の自由を奪われる。それが頭に近い部位ならば即死レベルの重症だった。

 

レイダーの身体から力が抜ける。

俺はナイフを突き刺したまま、レイダーの脇に腕を通し後ろへ引きずった。

そしてナイフを引き抜いてから物陰に死体を隠す。

おそらく、こいつを除いてレイダーはラスト一人だ。

 

最後のレイダーは怒り狂ったように扉に打撃を加えていた。

何が彼をここまで追い込んでいるのかはわからないが、背を向けている以上殺すのは簡単だった。

 

だから今度も、背後からレイダーを抹殺しようとしたのだが。

 

「待って」

 

アルマがそれを制した。

 

「私がやる。殺しの感覚を思い出さなきゃね」

 

ギラついた光を宿した瞳で、そう言った。

俺は内心複雑だったが、彼女がそう言うのならやらせてやろうと思った。

これからこういう事が、幾度となく起こる気がしたからだ。

 

アルマが先導する。

俺と犬も少し後ろからいつでも援護出来るように構える。

 

アルマはそっと男の背後に近寄る。

すると、男の肩とクビを思い切り掴んで横の壁に叩きつけた。

 

「うべらっ!」

 

顔面を強打したことによってレイダーがおかしな声を上げる。

だがこれで終わる我が妻ではない。

すぐに、今度は反対側の柵に男を叩きつける。

 

フラついていた男は体勢を崩し、柵に顔面をまたしても強打した。

おそらくこの時点で、あのレイダーは失神しているに違いなかった。

 

だが、アルマは男の後頭部に回し蹴りを決める。見事な蹴りだった。

伊達にクラヴマガを習っていたんじゃない。

 

柵に男の頭が減り込む。

続けざまにアルマの腕が男のクビを絞める。

そして、

 

ボキッ。

 

鈍い音と共に、ようやく男は死ぬ事ができた。

 

「わーおなんと」

 

思わずその華麗な格闘術に感嘆の息が漏れる。

アルマはやりきったというような顔でこちらを見た。良い殺し屋の顔だった。

まるで始めて会ったときのような……恋にまた落ちそうだ。

 

「どう?習い事も無駄じゃなかったでしょ?」

 

自信満々に言うアルマに、俺は笑みを向ける。

 

「だな。そんな君を久しぶりに見たよ。懐かしい」

 

「やだ、年寄りみたいだよ?」

 

「こうしてまたドキドキできるならそれもいいかもな」

 

「ふふ、上手いわね」

 

隣で犬があくびする。

と、そんな甘い空気の中、先程レイダーが怒りを向けていた扉が開いた。

そっと、中から恐る恐るといった表情でプレストンが顔を見せる。

 

「おお、これは……早かったじゃないか。こっちへ来てくれ二人とも」

 

そう言って、プレストンは俺たちに部屋の中へ入るように促した。

二人の時間を邪魔された俺とアルマは少しばかり無口になった。

 

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