Fallout4 Gunslinger of the Commonwealth 作:Ciels
Center axis relock system、通称CARシステムという射撃法がある。これは近接戦闘に特化したもので、約9ヤード以内で有効とされている。ざっくり言うと半身になって銃を斜めに構え、銃をコントロールしている側の目を隠し、片目のみで狙うというもの。慣れないうちは難しいかもしれないが、慣れるとかなり狙いやすく、構えやすいことに気がつく。それにこの構えは手を伸ばさないので、小回りも効けば体のサイズも小さくなるのだ。もし敵が銃を奪ってこようものなら腕を伸ばして銃口で殴ればいい。
この工場内でも前述の射撃法は有効である。狭いし迷路みたいなこの場所では、いつ敵と遭遇するかわかったもんじゃない。いくらPip-boyに生体センサーが備わっているとはいえ、そればかり気にしていてはミスに繋がる。最後は自分の感覚が頼りになるのだ。
ある程度工場内を探索した。地下の下水道、管理室、パーツの生成ライン……いたるところにレイダーやタレットが配置されていた。幸いなことに、夜間ということもあって警備は甘い。危ないのはタレットくらいなものだ。道中、全て排除した。また、近隣にお住いのフェラル・グールが侵入しようとしているらしく、定期的にその姿を見る。見た目はやはりゾンビで気持ち悪いが、落ち着いて対処すれば敵ではない。それに聴覚が悪いためにこちらに気がつかないことも多い。
さて、最後にやってきのは車の組み立てライン。階段を登り適当な遮蔽物に身を隠し、この工場で一番広いフロアを監視する。
「アルマ、ハーディ」
無線機でアルマと交信する。
『ハーディ、アルマ。送れ』
「現在組み立てライン。おそらくこのフロアで最後だ」
『了解。こちらは異常なし。早く終わらせちゃってね。終わり』
通信を終え、単眼鏡で再度確認する。
どうやらボスはここにいるらしい。警備システムがここだけ異常に固い。タレット2機、赤外線探知式のサーチライトが3機、歩哨が3人……そして奥に座しているのが1人。座ってるのがボスだろう。
レイダーの全排除が目的である以上、あのボスだけ狙撃すればいいというわけでもない。どう切り抜けようか。
「……いいもん見っけ」
と、すぐ近くの暗闇に、面白いものを見つけた。プロテクトロン……警備用の二足歩行ロボットだ。恐らく元々ここの警備用のものだろう。今はポッドの中で待機中になっているが、近くに操作ターミナルがあるのでそれで起動できるはずだ。
俺はこっそりターミナルへと近寄り、キーボードを叩く。遅れて起動した画面には、やはりプロテクトロン起動関連のプログラムが。どうやらまだ使えるようだ。
ジャレドは静かにその時を待っていた。眠ることもせず、ただ椅子に座って瞑想する。近くの机の上には空の劇薬の注射器が複数転がっている。
彼はビジョンを見た。ここからそう遠くないどこかの街に、目的とする老婆がいる。彼女が椅子に座って風景を眺める中、周りで街作りに没頭している男たちが慌ただしく作業している。
ジャレドは元々、クインシーの住人である。小さい頃にレイダーに誘拐され、自らもレイダーとなり成り上がる前の事だ。当時、同じくクインシーに住んでいた老婆、ママ・マーフィに予言されたことがあった。
ーーお前は怪物になる。
当時幼かったジャレドや街の者たちはママ・マーフィの言っている事は妄言だとして流していたが、今となってはそんな事はない。なぜなら、その予言通り、ジャレドは一つのレイダー組織の長まで上り詰め、怪物となったのだから。
だからこそ、ジャレドは思う。ママ・マーフィの言っていた事は確かな予言であったと。そして、その力は本物なのだと。ならば、自分もその力を欲すると。
クインシーの襲撃に参加したレイダーとは、彼の配下の者である。ガンナーに襲撃協力を依頼された時は、願っても無いチャンスだった。あの老婆を捕まえ、その力を解析し自分のものにできる……ミニットメンが奮闘したせいでコンコードまで逃げられ、挙げ句の果てに謎の協力者に部隊を壊滅させられたのは想定外だったが。しかしそこは、自分の能力がまだ未熟なのだと認めるほかない。
ジャレドは、サイトに目覚めつつあった。まだ思った通りのことは見えないが、薬物を用いることによって過去に起きた事を視ることができるようになったのだ。ただ、それもかなり限られるが。
「……サイトが告げている。あの男は危険だ」
一人、呟く。あの男。過去より来りし悪魔。いや、様々な場所と時に偏在する、救世主なのか。
「……奴のチカラも俺のものに……近くまで来ている」
「ジャレド!おいジャレド!大変だ!誰とも連絡が取れない!」
と、唐突に彼のいるライン管理室にレイダーがやって来る。ため息をつくジャレド。
「わかってる!今瞑想中だぞ!」
先程の口調とは打って変わり、同じように汚い言葉遣いへと変わる。
「わかってるだと!?ならなぜ指示を出さない!?俺は……」
そこまで言って、レイダーは口を止めた。瞑想を中断されたジャレドの機嫌があからさまに悪い。
「あ、ああ済まない。だが指示をくれなきゃこっちも動けないんだ」
取り繕うレイダーにジャレドはため息で返した。
「奴はもうここまで来てる。タレットの警戒レベルと警備に回ってる奴らをまとめろ!クソ」
そう言って立ち上がり、アサルトライフルを手にするジャレド。その時だった。
「サーチライトに何かかかった!だれかいるぞ!」
他のレイダーが叫んだ。
今度は意気揚々とし、通路へと出るジャレド。薬のせいか精神が不安定だ。
通路へと出ると、タレットはもちろんレイダー達が出入り口付近に銃を向けて警戒していた。奴だと、思った。あの悪魔が来たのだ。
ジャレドは身なりを軽く整え、咳払いする。そして元々現場監督用のマイクを手にすると、スピーカーのスイッチを入れた。
サーチライトが人型の何かを晒す。
「おほん!……お前がここに来る事はわかっていたぞ、過去より来りし悪魔よ。さあ、その姿を見せろ!そしてその力を俺によこせ!」
「何言ってんだ?さっぱり理解できないぞ?」
「お前は黙ってろ……!」
何も事情を知らないレイダーが問うが、ジャレドはマイクを遠ざけて静かに叱る。そして、その者が姿を現わす。
重苦しい足音、金属が擦れる音……
「侵入者ヨ、名ヲ名乗リナサイ」
プロテクトロンが、サーチライトに照らされる。ジャレドは唖然とした。悪魔でもなんでもない、ただのロボットがやって来たのだから。
『お前がここに来る事はわかっていたぞ、過去より来りし悪魔よ。さあ、その姿を見せろ!そしてその力を俺によこせ!』
組み立てライン内のスピーカーから声が響く。やたらセリフ口調だが、過去より来りし悪魔というのは俺のことだろうか?なぜその事を知っているのかは分からないが、プロテクトロンに気を取られている今がチャンスだ。物陰から物陰へと移動しながら、奴らの裏へと回る。
「おい、プロテクトロンだぞ!あれが悪魔か?」
「うるさい!とっとと黙らせろ!」
何やらレイダー達が言い争っているが、気にせず進む。迅速に、そして隠密に。そうやっているうちに、奴らの立つ通路の真下へと到達した。この位置ならタレットからは死角で狙えない。レイダーだけに専念できる。
「攻撃シマス」
丁度プロテクトロンも攻撃を開始したようだ。レーザーの発砲音と光線が、レイダー達に襲い掛かる。
「うお!撃ってきやがった!」
「ぶっ壊せ!」
応戦するレイダー達。これを利用しない手はない。
俺は手始めに、拳銃で一番離れているレイダーに狙いを定める。背負ったライフルは使わない。金網の足場が間にあったとしても、9mmの拳銃弾なら貫通できるし十分だ。
「いてぇ!食らった!」
真上にいるレイダーが腕にレーザーを受ける。
「しゃがんでろ!クソ、弾だって高いんだぞ!」
リーダー格の応射が激しくなる。もうプロテクトロンはもたないだろう。早めに片付けなければ。
一番遠くでコンバットショットガンを乱射するレイダーの胴体を狙う。アーマー類はつけていないから、数発撃ち込めば死ぬだろう。
引き金を絞る。ハンマーが下がり、弾薬の雷管を叩いた。同時に、発砲。こちらの音はサプレッサーで抑制されている上に、真上でライフルを撃ちまくっているためにかき消される。
「ウグゥあ!?」
胸を撃たれてよろめくレイダー。続けて二発、三発と撃ち込むと、そのまま倒れて動かなくなる。
「クソ、1人やられた!」
「プロテクトロンめ!」
どうやらまだこちらの存在に気がついていないようだ。プロテクトロンのせいにされている。なら続けて真上で負傷した奴を排除しよう……と、考えた時。
「あ」
負傷したレイダーと、金網の足場越しに目が合う。流石に焦った。そのまま引き金を引いてレイダーの目に二発ほど撃ち込んだ。
「うげっ」
顔面に弾を喰らい、失命するレイダー。その時にはもうプロテクトロンは鉄屑へと変わってしまっていた。つまり、発砲がボスにバレたのだ。
「そこにいたか!」
レイダーのボスが真下、足場を挟んだこちらに銃を向ける。俺は全力で物陰へと走り込んだ。
刹那、発砲音。今さっきまで俺が居た場所に、5.56mm弾の嵐が降りかかる。
「あぶね……」
ボソッと呟く。呟きつつも、俺は管理室の支柱を登る。こちらの姿をはっきりとは見られていない。位置を変えれば奴は俺がまだ下にいると勘違いしたままだ。
鉄骨を登り切り、管理室の屋根へと到達する。タレットは屋根に設置されているものの、俺とは反対方向を向いているために見つかる心配はない……が、潰しておくに限る。
こっそりとタレットの後ろから近づき、ナイフを取り出す。タレットは中距離での戦闘は滅法強いが、近距離、かつ背後からの工作に弱い。特にコンバット・インヒビター。敵味方識別装置などが組み込まれたこの装置を破壊してしまえば、あとは同士討ちを見守るだけだ。
こっそりと、ナイフでコンバット・インヒビターの配線を切り落とす。旧型のタレットで良かった、新型は配線が隠されているから。
ビーッという電子音とともに、タレットが壊れ、もう一台のタレットに銃口を向ける。そして発砲。撃たれたタレットも応戦し出す。
さすがに巻き込まれたくないので少し離れる。すると、正常な方のタレットは鉄屑へと変貌した。壊れたタレットも、被弾のせいでボロボロだ。
俺はまたボロボロタレットに近づき、ナイフを装甲の隙間に差し込んでかき混ぜた。これでタレットの内部はズタボロ、動力系の配線も断ち切ったから動かない。
「クソ!悪魔め!」
ボスが撃たれたタレットを見ている。その隙に、俺は屋根から少しだけ身を晒して拳銃を撃ち込んだ。
「いてぇ!」
だが、胴体に当たった一撃はアーマーによって阻まれた。一見すると革製のアーマーだったが、内側に鉄板でも着込んでいるのか?
考察はほどほどに、俺はその場を離れる。すぐにボスはアサルトライフル、R-91をこちらに撃ち込んできた。
屋根の上からフロアへと飛び降りる。5メートルほどあったが心配無い。これくらいパラシュート降下でよくやる。
着地と同時に前転して衝撃を殺す。背負ったライフルが中々痛いが、仕方ない。そういうものだ。
「クソ!逃げるな!」
相変わらずボスは屋根へと撃ち込んでいる。俺はコソコソとボスの裏側へと移動した。
「絶対その力を手にいれてやる!」
何やら意識が高いボスがそんなことを言って弾倉を変えている。今がチャンスだった。足場によじ登り、ボスの背後から強襲する。その際こちらに気がついたようだが、弾切れの銃では何もできない。
俺は左手で銃を払い、ボスの太ももに一発撃ち込む。
「グア!?」
怯むボス。だが、やはり腐ってもレイダーのボス。空いた左手で殴りかかってきた。それをいなすと、出血している足を蹴って払う。すぐに殺すのはやめた。こいつには聞きたいことがある。
仰向けに倒れこむボスの頭に、しゃがみこむように膝を乗せる。視界を塞がれると人間は行動がかなり制限されるものだ。そしてそのまま、無事な右足に一発撃ち込み、ライフルを手にした右腕を掴み、ライフルを奪いつつ肘の関節を逆に押し込む。嫌な音を発てて右腕は簡単に折れてしまう。
「ぐあぁああああ!!!!!!」
苦痛に悶えるボス。俺は身体の方向を変え、ボスの胴体へとのしかかった。そして顔に右手の拳銃と左手の奪ったライフルを銃を突きつける。
「質問に答えろ」
そう言うと、ボスは苦痛に苦しみながらも笑った。
「悪魔め……」
「お前は俺について何を知っている?」
一方的に質問する。
「どうかな……?過去からやって来たって事か?それとも……お前が永遠の中で何度も同じ事を繰り返すって事かな!!!!!!」
唐突に、まだ生きている左腕が俺目掛けて伸びてくる。すぐに右手でそれを左へいなし、ライフルを捨てて腕を掴む。そして拳銃で奴の左腕を撃ち抜いた。
「あがぁああ!!!!!!」
「無駄だ。勝敗は見えている」
だが、それでもボスは笑った。
「ああ、確かに視えてる……ようやく俺にもサイトが……」
「なに?」
サイト。ママ・マーフィの能力のことか?
「へっへへへ……視えたぞ、悪魔め。お前は……息子と……会って……苦しむ……残酷な……運命に、なぁ!」
ピン、と音がした。奴の右手を見てみれば、いつのまにか手榴弾が。しかも安全ピンとレバーが外れている。
「この……!」
咄嗟にボスから離れ、足場から飛び降りる。そして組み立て中の車へと身を隠した。
「ハァーッハッハッハ!!!!!!せいぜい過酷な運命に苦しめ!Vaultの悪魔よ!」
刹那、爆発。手榴弾の爆風と破片が隠れている車の表面に突き刺さった。
爆発が収まり、先ほどまでボスがいた足場を見る。やはり、もう足場は爆発で吹き飛び、ボスの身体も無残なことになっていた。そこら中に残骸が転がっている。
俺は無線機のスイッチを入れる。
数回の呼び出しの後、アルマが応答する。
「あー、目標達成。合流ポイントで落ち合おう」
了解、という応答の後、無線を切る。
どうにも心が晴れない。あの男が言っていた言葉……妄言だと思いたいが。
帰ったらママ・マーフィに聞いてみよう。
最後は駆け足になりました。