Fallout4 Gunslinger of the Commonwealth 作:Ciels
長い長い、地獄へと通じるようなエレベーターリフトを降りて行く。
その間ずっと俺の頭の中では、先ほどの閃光がフラッシュバックしていた。
唐突に訪れる終末。
今までしてきたことが、一瞬にして光に呑まれて消えて行く。
育ってきた土地、歴史、秩序、その全てが、無かった事になってしまった。
唯一残されたのは、妻と息子のみ。
深い絶望の中で、俺は縋るように地上を、上を見上げた。
真っ暗闇。
安全のために閉まったであろう出入り口は、今や鋼鉄の扉しか見えない。
それでもと、周りを見渡す。
数人の、逃げ延びた人がいるだけだった。
サンクチュアリには何百人か人が住んでいたはずなのに、十人ちょっとの人しか見えない。
車好きのローザはもちろん、お隣さんすらそこにはおらず、あの光と爆風に呑まれてしまったのだ。
しばらくして、下から灯りが見えた。
ようやくVault111のフロアに着いたようだった。全身の力が抜けながらも、アルマの腕から自力で立ち上がり、深呼吸をする。
そうだ、俺がこんなんじゃダメなのだ。
俺はカハラ家の主人で、アルマの夫であり、ショーンの父親だ。
まだ二人がいる。俺にはまだ……希望がある。
エレベーターリフトが完全に降り切ると、フェンスが開いた。
正面玄関には既に避難していた人々や、Vaultのスタッフや警備員が俺たちを出迎えていた。
セキュリティが整列して並ぶようにと指示を出す中、スタッフの一人が待ってましたと言わんばかりに営業スマイルを向け言った。
「皆さん、安心してください!Vault111は地下における素晴らしい未来です!」
とてもじゃないが肯定はできなかった。
一緒に降りてきた住民の中にはそれを聞いて安心した者もいたが、俺たち夫婦はこの薄暗い地下シェルターに対して不安しか無いのは明らかだった。
セキュリティが階段を登るように促す。
先頭が行くと、俺たち夫婦もその後ろを歩む。
「信じられない……あと数秒遅かったら全員が……」
「そんなことを考える必要はありませんよ!今は安全なのですから」
恐怖に怯える住人の一人をスタッフが宥める。
俺はどうもその態度に疑問が尽きなかった。
今まさに核攻撃が起きて、アメリカが消滅した可能性があるのにこいつらはなんでこうも淡々と仕事ができるのだ?
ミサイルによる攻撃が済んだ後に起こることは直接侵略以外あり得ないのに、こうも他人事のように接せられるのだろうか。
仕事と言われればそれまでだが、どうも彼らにはそれ以上に、他の何かを感じてしまうのは杞憂なんだろうか。今まで散々国内外のテロ組織や中国軍相手に戦ってきたから、そう感じてしまっているだけなのだろうか。
「これが……新しい家?嘘でしょ……?」
アルマが鼻で笑う。
無理もなかった。照明は薄暗いし、工事がまだ完全に終わっているわけではなかったのか配管がむき出しになっているところがある。
とてもじゃないが家とは呼べる代物ではない。
言われるがままに階段を登り、配管が伸びたままの正面ゲートを通る。
アナウンスが流れているが、耳に入らなかった。
ゲートのすぐ横にあるコントロールパネル付近では、青くてぴっちりした変態スーツに身を包んだ職員がチェックリストに何かを記入している。
ゲートから10メートルほど行くと、先に行った数人が簡易受付のような場所で何かを受け取っていた。さっきの青いスーツだ。
受付の前に来て、女性のスタッフに話しかける。彼女もまた、青いスーツに身を包んでいる。
「あの」
「あぁ、Vaultスーツを一人一つ受領してホールまでお進みください」
言われた通りにそれを受け取る。
アルマはショーンを抱いているため、代わりに俺が受領した。さすがに
「ドクターの指示に従ってホールまでお進みください」
女性の横にいる、白衣を着た中年男性の後ろを歩く。
「ここが新しい家だよショーン」
アルマが、腕に抱いたショーンに語りかけた。あれだけのことがあったのに、ショーンは興味津々といった様子でキョロキョロと周りを見ている。
「きっとここが気に入られますよ!ここは我が社の中でも最高の設備が揃っていますから!……他のが悪いわけじゃありませんがね?」
そう言うドクターは自信満々に、しかしそれは自分自身に言い聞かせているようにも感じられた。
ふと、廊下に膝をついて嘆いている夫婦がいた。
「家が……財産が消えてしまった……」
その言葉に、俺も同情してしまう。
同じ境遇の人しかここにはいないのだ。
「ママとパパは
そんな声も聞こえてくる。
俺はアルマの顔を見る。俺の両親はもう居ないが、彼女の両親はマイアミで元気に暮らして居た。きっと心配しているはずだ。
「ハーディ、私は大丈夫」
そう言う彼女の笑顔は、とても脆い。
俺は頷くことしかできなかった。
気を紛らわせるためにドクターに質問する。
「どのくらいの期間ここにいることになるんです?」
するとドクターはバツが悪いように、
「あぁ、オリエンテーションですべてお話しします。まずは医学的な話を片付けてしまいましょう」
と答える。
特に何も異論は言えないので、大人しく従うことにした。
ホールに到着すると、奇妙なものがまず目に入った。
それは、人1人を完全に収納できるような形をしているポッド。
それが複数並んで居て、まるでSF映画でよくある小型の脱出用宇宙船のようだった。
「どうだい?ぴったりだろう?似合ってると思わないか?」
先に到着してVaultスーツに着替えた1人がそう言った。
それに対してスタッフが、スーツはファッショナブルかつ利便性に優れてるだのと言っている。なんともまあお気楽だと思ったが、もしかしたら空元気なのかもしれないのでそっとしておく。
「さあここです!着替えてポッドの中へ!除染やらを済ませてしまいましょう!あぁ、奥さんは赤ちゃんと一緒にね」
ドクターが止まり、二つのポッドを指差す。
ポッドは対になっていて、入ればアルマの顔とショーンは見えるようだった。
「着替えてって、更衣室は?」
俺が尋ねる。
こんな人目の多いところで妻の生着替えを見せられるかこの野郎。
「申し訳ありませんが、ポッドの陰でお願いします。今はまだ更衣室も利用できませんので」
「ああそうかい!ならあっち行ってろ!彼女の着替えを一眼でも見たら殺すぞ!」
募っていた憤りが、こんな所で破裂した。ドクターが悪いわけでも無いのに。
周りのスタッフや住民もこちらを見るが、俺と目を合わせた瞬間にはもう別の方向を向いていた。
「ねぇ、落ち着いて。私は大丈夫だから。なんならハーディが壁になってよ。そうすればポッドの陰なら見られずに済むからさ」
「……まぁ、そうだな」
彼女の提案に乗る。
もし見られたらそいつの目を潰してやる。
なんとか着替えが終わり、俺もピッチリスーツを着る。しかしまぁ、スイムスーツみたいな圧迫感があるが、案外着心地はいい。蒸れないし。素材はなんだろうか。
拳銃はなんとか、見えないように隠した。ポケットピストルだから小さくて助かる。
とにかくスーツを着たら、あとはポッドに乗って除染するだけ。
その時だった。
ショーンが急に泣き出したのだ。
「ほらほら、パパはあそこにいるよ〜」
アルマが宥めてもなかなか泣き止まない。
俺は困ったように笑い、アルマのもとへと歩く。
「ほーら、いるだろ?ちょっと我慢しててな」
ショーンの小さな手を握る。
息子はまだ泣きそうな顔をしてはいたものの、なんとか静まった。
息子が元気なら何よりだ。
そうしてとうとうポッドに搭乗する。
少しひんやりするが、耐えられないものじゃ無い。
ただ、寒さのせいか、はたまた家族が一時的に離れているせいか、少しばかり寂しく感じられた。
ハッチが閉められ、窓ガラス越しに反対側にいるアルマとショーンを見た。
2人はこちらに笑顔で手を振っていた。
もちろんショーンはまだ幼くて手を振る動作なんてできないから、アルマが彼の手を握ってゆっくり振っている。
そんな光景を見て、寂しさが和らぐ。
我ながら気の利く素晴らしい妻だと思う。
『バイタル正常、実行します』
アナウンスが除染の開始を告げる。
しかし、除染とはどの程度のレベルまでするのだろうか。まさかRADアウェイでポッドが満たされるとかではあるまい。
俺は深呼吸して、落ち着く。
肺に冷たい空気が入り込む。
そうしてアナウンスのカウントダウンが始まる。
ポッドのどこかからか、冷たい空気がより一層入り込んだ。
『3、2、1』
カウントダウンが終わる。
一気に寒さが増す。
何かがおかしい。
まるでアラスカにいる気分だ。
窓ガラスが凍りつく。
既にポッド内の気温はマイナスを超えていた。
指先の感覚が消える。凍傷寸前のような気分だった。
寒さで薄れそうな意識を起こしてアルマを見る。彼女もまた、その異常な寒さに何かを訴えていた。
が、それも彼女の瞳が閉じられたことで終わりを告げる。
ショーンを必死に抱きかかえたまま。
凍る。
頭が鈍くなる。
視界が暗くなる。
これは、冷凍、除染、じゃ、な
そして、長い眠りが始まる。
長い長い、世界が変わり果ててしまうくらいの長い眠りが。