Fallout4 Gunslinger of the Commonwealth   作:Ciels

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第十六話 ドラムリン・ダイナー、トルーディ

 

「ジャレドを殺してあげたんだね、坊や」

 

椅子に座るママ・マーフィが言った。俺は頷きつつ、怪しい老婆のすぐそばにある机の上へと腰を下ろすと、まず自分が聞きたい事を真っ先に尋ねた。

 

「奴は俺の事を知っていた」

 

「サイト、なるほどね。あの子はやっぱり力に溺れたかい」

 

意味深な事を呟く老婆の言葉はあやふやで、それでも今の俺には少しばかり理解はできた。

コルベガ組立工場にいたボスレイダー、ジャレド。彼は何やら力を求めていたようだった。その疑問についても、彼が使用していたターミナルの日記を読み解けば自ずと答えは出てきたのだ。

ジャレドは元々クインシー出身で、ママ・マーフィと面識があったそうだ。まだレイダーに誘拐される前、この老婆に言われた一言、怪物になるという予言が、彼を狂わせた。正確には、彼の行く末を言い当てたサイトという力に、彼は取り憑かれたのだ。

 

「これを、ママ・マーフィ」

 

俺はコンバットパンツのポケットから吸入器を取り出す。ジェットと呼ばれる、劇薬の吸入器だった。組立工場にあったものを、彼女のために拝借した。

老婆はそれを受け取ると、吸入口に口を当てて中の薬物を吸う。しばし老婆は目を閉じ、脳を覚醒させたまま夢の世界を彷徨った。もう十分楽しんだのか、目を開けてこちらを力強い眼差しで見つめる。

 

「それで坊や。自分自身の秘密について知りたいのかい?」

 

「いや、ショーンのことについてだ。俺のことは今はいい」

 

なんとも魅惑的な誘惑だった。時折何かとんでもない事を忘れているような気がしてならない自分にとっては、本当の自分を知るという事に対して少しばかり興味があるのも事実。だが、それ以上に攫われた息子の方が断然重要だ。

 

「そうだね……ふむ。坊や、ダイヤモンド・シティのことは前にも言った通り。でもね、詳しいことまでは言ってない。だからね、渋い探偵を探すんだ。彼なら坊やの力になるよ」

 

「わかった。ありがとうママ」

 

礼だけ言ってママ・マーフィの部屋から出ようとする。だが、意外にも老婆は俺を呼び止めた。

 

「レキシントンとコンコードの間くらいにね、店があるの。そこに行ってみるといいよ」

 

「それは、ショーンについてのアドバイスか?」

 

「いんや。あんたに対してのアドバイス」

 

今度こそ、俺は部屋を出た。複雑な情報が混じり合う中、俺の心も少しばかり揺れているのは間違いなかった。

 

 

 

 

「よーしよし、いい子いい子」

 

嬉しそうに鼻を鳴らすドッグミートと戯れる。わしゃわしゃと撫でてやると、ウェイストランドでは珍しいきめ細かく若い肌を犬はベロベロと撫でた。そんな愛情表現に、私も頬を擦り付けてお返しする。

コルベガ組立工場の一件は、あの後目立ったトラブルに巻き込まれる事なく終わった。断崖の居住地にはしっかりと報告を終えたし、それを聞いたプレストンも大喜び。ここによく来るカーラという猫背の商人もそれを知ったらしく、ここに来た際にはやるじゃないかと褒めてくれたりもした。噂はもう広がっているらしく、プレストン曰く新たなミニットメンの志願者が来るかもしれないと意気込んでいる。

それから早2日だが。私はどうにも手放しで喜べないでいた。それは、夫ハーディの事である。

組立工場内を颯爽と殲滅し終えた彼は、いつになく何か考え込んでいて。こちらが聞いてもなんでもないと言って相手にしてくれない。確かに人殺しの仕事だからナイーブになる事はあるかもしれないが、今回のそれはまた違うようにも思えた。考えてみれば、彼がこうなる事はたまにあったような気がする。

 

「まったく何考えてんだか」

 

ため息をつく。ドッグミートはそんな私を怪訝な顔で見つめた……ような気がした。

今も隠れてママ・マーフィの部屋で何か話してるみたいだし。プレストンの目は誤魔化せても、私の目は誤魔化せないよ。

そんな風に考えていた時だった。数日前に建てたコンクリート製の複合住宅から、我が夫が何やら考え詰めたような顔をして出て来たのだ。私とドッグミートはバレないように物陰に隠れる。そうだ、せっかくだからイタズラして憂さ晴らししてやろう。そう考えた私は、自宅兼市長舎に向かうハーディの後ろへと忍び寄った。そして、後ろから目隠ししてやろうと手を伸ばしーー

 

「だーれ」

 

だ、と言う前にハーディが振り返って私の手を掴み上げた。

 

「あだ!あだだ!痛いハーディ!」

 

「おお悪い……いや何やってんだ急に」

 

パッと手を離したハーディに冷静に突っ込まれる。

 

「むー、たまには付き合いたての頃みたいに目隠ししてあげようと思ったのに」

 

「あぁ、そうか、すまん」

 

「また何か考え事?ママ・マーフィよりも私に言ってほしいな」

 

どこか上の空な夫に尋ねる。彼は少しバツが悪いという表情で苦笑いした。

 

「ちょっとショーンの事でね。何かアドバイスがないか聞いてたんだ」

 

「あのサイトってやつ?」

 

「うん。ダイヤモンド・シティで探偵に会えって言われた」

 

そこでママについての会話は途切れる。まだ何か隠しているようにも見えるが、彼は意外にも頑固だから口が硬い。これ以上質問してもはぐらかされてしまうだろう。

 

「ちょっと、行きたいところがあるんだ」

 

私がしようとしていた、新しい話題を振ってきたのは彼の方だった。どこ?と尋ねると、店、とだけ彼は言う。どうやら彼の隠された悩みと関係しているようだった。

 

 

 

 

 

 

 

ドラムリン・ダイナーという商店がある。

コンコードを南下してレキシントン方面へ行くと道路上に唐突にあるその建物は、戦前のコンビニエンスストアを再利用しているだけだ。あまり核の被害が多くなかったこの場所は、今も看板のネオンが点き、旅人や商人にとっては、ある種の休憩地点と化している。

だが、集まって来るのはそれだけではない。時折略奪目当てのレイダーやスカベンジャーがここへちょっかいを出しに来る事もあった。だが、それらは大抵ウルフギャングと呼ばれる小規模な自称ワル達に妨害される。

ウルフギャングはショバ代をドラムリン・ダイナーから徴収する代わりに、ならず者が来ないように目を光らせていた。彼らは名前の割にはショボいギャング集団で、収入源もここのショバ代と薬物の売買のみというチンケなものだが、それでも一方的に略奪できないとあってはレイダーも手を出しづらいものがある。

そんなわけで、一見うまく言っているように見える両者。だが、今ばかりはそうでもなかった。

店の中ではそれなりの歳であろう女性が水平二連のショットガンをウルフギャングの二人に構えて威嚇しており。対するウルフギャングも各々の火器を構えて抵抗している。だが、幸いなことに撃ち合いはまだ発生していなかった。

 

「……お前な、そりゃ相手の母ちゃん怒るに決まってんだろ」

 

俺はウルフギャングの一人に呆れた。どうやらこいつもそれを分かっているようで、言い返せないでいる。

ママ・マーフィが言っていた店に来てみれば、何やら不穏な空気が流れていたのでウルフギャングをなだめて事情を聞いてみれば。彼らは店主の息子に薬を提供していたらしい。しかも、キャップと呼ばれる通貨が払えない事を見越して、そのまま薬漬けにしーーもう薬から離れられなくなった所に取り立てに来る。そんな、昔からあるようなセコイやり方に店主の女性が激怒するのも仕方ない。

 

「そうは言うけどな、これは商売だ。文句言うんだったらどっか行ってくれ」

 

ウルフギャングが煙に巻くように言った。俺とコズワースは顔を合わせた。正確には、アイセンサーにこちらも目を向けた。

 

「まったく酷い事をなさるのですね彼らは。旦那様、いかがなさいますか?」

 

コズワースが問う。ウェイストランド流ならば、ここいらで血が流れるのだろうが。あいにく今の俺はそんなに血に飢えていない。

 

「ちょっと待ってろ、あの婆さんと話してみる」

 

「ああそうか助かる、何かあったら加勢するぜ」

 

「いらねぇ」

 

こんな下らない事に巻き込まれた事にイラついているのか。いや、それ以上に息子のことや、自分の事で一杯なのだ。

 

 

 

「そこを動くんじゃないよ。あんたウルフギャングとなんか話してたでしょ」

 

ショットガンの銃口がこちらに向く。俺は両手を上げて敵意が無い事を表すと、目の前の女性に言った。

 

「落ち着け。単なる仲介だ」

 

「仲介?なら伝えて、金は払わない」

 

「おい落ち着けよ……ああクソ」

 

悪態が漏れる。なんだってこんな役割ばっかりなんだ。

 

「いいか、あのアホ共はクソみたいな詐欺師だが。あんたの息子さんは実際に薬を受け取って使っちまってるんだ。あんたは払う義務がある。多かれ少なかれ、な」

 

ムムム、と目の前の女性が悔しそうに唸る。頼むから穏便に済んでくれ。俺に銃を抜かせないでくれ。そう願いながら隣でうるさく宙に浮くコズワースを見つめた。

 

 

 

 

「さて、軽くなった財布の中身を埋めてくれると嬉しんだけど」

 

結果的に、騒ぎはすぐに終わりを迎えた。店主トルーディが半額分払う事でウルフギャングは渋々了承したのだ。最初こそ詐欺師連中はその申し出を拒否したが、俺が彼らのした事を非難すると、なんとか首を縦に振らせた。どうやらこちらの武装を見て、彼らは少しばかり怯えていたらしい。まぁ、自動小銃と防具、それにロボットを引き連れた奴なんて俺も相手にしたくない。

 

「それじゃ飲み物を」

 

「はいよ。ついでに食い物も買いなさいな」

 

「あいあい分かったよ」

 

やる気がなさそうに頷く。トルーディはここらでは珍しいサンセット・サルサパリラをカウンターの上に出した。一緒に袋に入ったソールズベリーステーキも添えて。

 

「それにしても、あんたこっちに来てたんだ」

 

ふと、サルサパリラを飲む俺にそんな事を言ってきた。まるで何の話か分からない俺は彼女に聞き返す。

 

「どっかで会ったか?」

 

つい最近目覚めたばかりだから会った人間は全員覚えている。覚えていないのは戦前のどうでもいい人間か、親しい者以外の死体だけだ。

 

「モハビで会ったじゃない。グッドスプリングスで。あの子とは会えたの?」

 

「モハビ?西海岸か?人違いだろ」

 

そうかしら、と言ってまた自分の作業に戻るトルーディ。厄介ごとに巻き込まれるわ間違われるわ、ロクでも無いな。おまけにママ・マーフィの言ってた事も外れてる。何も俺の事について分からないじゃ無いか。

 

しばらく一人、食事をして時間を潰す。アルマはサンクチュアリに残してきた。別に彼女が関わる事でも無いし、無駄に危険に晒したくは無い。一応護衛として連れてきたコズワースは、外でフラフラと動き回っては時折ウルフギャングの二人に説教している。コズワースも、Vaultから出てきた時はちょっとおかしかったが今じゃ元通りだ。まぁ、200年守ってきた家が魔改造されて落ち込んでた事もあったようだが。

 

「はぁ、こっちに来るんじゃなかったかしら」

 

不意に、トルーディが不満を口にした。誰にでもよくある、独り言のようだったが、多分俺にわざと聞こえるようにしてるんだろう。クソ、穏便に済ませてやったんだぞこっちは。

 

「そんなにモハビがいいならなんでこっちに来たんだ」

 

お返しにと、俺は悪意を混ぜてそう尋ねた。

 

「荒れたのよ、あっちも。あの子が色々動いてくれたけど、故郷のグッドスプリングスはもう元には戻らなかった。だからチャンスを求めてこっちに。まぁ、実際はNCRとリージョンの奴らから離れたかったからだけど。それとあのヘンテコロボット共」

 

「大変だったんだな」

 

あまり興味がないように俺は言った。西海岸がどうあろうと、こっちにその影響が来ることは今はもう無いだろう。アメリカは広い。文明がほぼ消え去った今となっては、移動に一苦労だ。だから、そのなんたらってのもこっちには来ないはずだ。

 

「あの子がいてくれたらこっちでも商売がうまくいっただろうに……嘆いても仕方ないけど」

 

「あの子って?」

 

「運び屋」

 

何か引っかかった。どうしてか、運び屋というどうでもいい言葉が頭に残る。俺は今までの態度を一変させて、しかしバレないように平静を保ちつつ尋ねる。

 

「どんな子だったんだよ」

 

「どんなって……いい子だったよ。可愛くて、礼儀正しくて。でも、とんでもなく腕っ節は強くてね。しばらく会わなかったらモハビの騒動のど真ん中にいたみたいで、あの子も苦労したんだって言ってたよ」

 

「それは、俺と間違えた奴なのか?」

 

「いや。だってその子、女の子だもん。あんたに似た奴は、その知り合いみたいだったよ。あの子も探してたし、そいつもあの子を探してた。でも、どうなったのかは分からない。しかしまぁ随分と熱心に聞くんだね」

 

「あぁ、いや別に。ちょっと気になっただけだ」

 

そう。気になっただけ、それだけだ。

聞いていても何も思い出せなかったし、なによりもVaultで寝ている間に起きた事なんて知るはずがないんだから。

きっと、気のせいだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

俺がサンクチュアリに戻ったのは、次の日の朝のことだった。コズワースと戦前の事について下らない世間話に近いものを駄弁りながら戻ったのを見て、アルマは少しばかり機嫌を損ねていたらしい。そんな彼女に真っ先に謝罪をしたが、それでも彼女の機嫌はあまりよろしいものではなかった。

それからまた一日が経ち。新しい居住者達がサンクチュアリにやってきたと思った。だが、それはどうやら俺の勘違いのようで、彼らは新しいミニットメンに職探しをしにきたのだそうだ。

 

「ミニットメンは職業案内所じゃないんだがな」

 

心に正義を掲げる将軍補佐は口ではそう言ったが、内心は少しばかり喜んでいるようにも見えた。何にせよ、仕事が増える。

 

それから一週間、俺とガービー、そして新たなミニットメンはちょっとした大工の真似事をしていた。サンクチュアリの余っていたスペースに、ミニットメンの営舎と事務所を備えた建物を作ったのだ。当然、資源はあまりなかったからあのカーラに頼んで物資を売買してもらったが……それのせいで俺が目論んでいた武器工場で完成した試作の武器を半分以上手放さなければならなかったのは痛い。

とは言え、長いこと商人をやっているカーラからして言えば、武器の質はかなり良かったらしいので、一応商品になるという事が分かったのは嬉しい限り。

ちなみに、製造しているのは構造の簡易さと弾薬の供給量から、コンバットライフルと呼ばれる民間用の小銃と、10mmピストルだ。10mmピストルについてはもう語るところがないが。ホームディフェンス用の武器として売られていたコンバットライフルは、簡易な構造と安価な値段で幅広くこのマサチューセッツ州で販売されていた。古臭い鉄と木だけで作られてはいるが、それなりに信頼性は高く、オプションも豊富で、人気があったのを覚えている。使用弾薬もアメリカ人が大好きな.45口径で、近距離での威力は問題ない。個人的に、新しいミニットメンの武装はこの二つで決まりだった。

ガービー曰く、レーザーマスケットはミニットメンの誇りなのだそうだが、レーザー兵器の壊れやすさを知っている身としては、新生ミニットメンの武装を変えざるを得ない。それに組織のトップがそう言っているのだから、彼も渋々了承した。

さて、新生ミニットメンの諸君がここの建物を使うようになって早2日。今まではお客様だった彼らにも、早いとこミニットメンになって俺たちの負担を軽減してもらわなければならないと感じていたわけで。今日からは、俺とガービーが主導で訓練を始めることとなっていた。なお、警備部長のジュンも含める。

 

「じゃあまずは基礎的な体力トレーニングから」

 

ちょっと投げやりな物言いだが、体力が無いと民兵なんてやってられない。だが、俺の予想に反して連邦の民はそれなりに優秀だったようだ。皆トレーニングで死にかけてはいるものの、基準は合格している。

だが、そこからが問題だった。射撃はそれぞれ得手不得手があるものの、連邦で暮らしている以上それなりに腕はある。それはいい。だが、兵の運用やら分隊での行動の基礎など、部隊が行動するために必要なものが一切無い。

これには頭を抱えた。仕方のないことではある。だって、あの華やかな時代は200年も前に終わっていて、その時に教えられていた事などほぼ伝わっていないのだから。

 

初日にして問題にぶち当たった俺は、一人夜風に当たりながら、建物の裏手でタバコを吸っていた。肉体的にもそうだが、精神的にも疲れていたのだ。無理もない、あれからほぼ休まずずっと何かしていたのだから。

 

「やっぱり禁煙してなかった」

 

不意に建物の角からよく知っている声が聞こえて、ドキッと心臓が跳ね上がった。アルマが、目を細めてこちらをジッと見つめていたのだ。

 

「あぁ、アルマ」

 

どう言い訳しようか悩む。結婚してから表では禁煙していた事になっていたから、彼女は裏切られたと感じていてもおかしくはなかった。でも、やっぱり俺のかみさんだ、俺の困惑する顔を見て少しばかり笑うと、言った。

 

「冗談。前から知ってたよ、臭い消せてないし。しょうがないよね、ずっと戦場にいたんだもん、気を紛らわせるものがないと」

 

ああ、と自信なさげに頷く。そんな俺に何を思ったのか、彼女はそっと俺のそばに寄ってきて、コテン、と頭を俺の肩に乗せた。同時に、俺もタバコを急いで携帯灰皿に突っ込む。

 

「お疲れ様、あなた」

 

彼女がそう言うと、心の疲れがじわじわと癒されていく。そんな彼女の頭に、自分の頭を重ねる。問題は山積みなのに、なんとも幸せな気分だった。しばらく俺は妻に甘える。

ニコチンが回ったのか、アルマがいてくれるおかげか。その日の夜は、えらく機嫌が良かった。

 

「でもタバコはやめてね」

 

「あ、はい」

 

我が家の奥さんは計算高い。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

同じ頃、ダイヤモンド・シティ。連邦において最も栄えているこの街は、ボストンの激戦区であるボストンコモンから南西に数キロ歩いた場所にある宝石箱だ。

街を覆う緑の高い壁は、見るものが見ればかつてそこが野球場であった事を容易に想像できるだろう。今は連邦の民によって街として築き上げられているその場所は、誰もが羨む安全な街としても知られていた。

だが、そんな街にも悪人はいるものだ。この男もそのうちの一人で、改造されて防御力が高められた服は、一見で傭兵か何かであると分かる。腰には大口径のリボルバー、頭髪はハゲていて、顔には古傷。

サンクチュアリの夫婦が探している男が、そこにいた。

 

夜の街を彼は歩く。マーケットのイカれたロボットからヌードルを二つ買うと、彼は自宅へと足を進めたのだ。

紙の器に入ったそれは、熱々で、食欲をそそるが、今の彼には別にどうって事なかった。

自宅に着くと、彼はしっかりと扉に鍵をかける。そしてヌードルを散らかったテーブルの上に置くと、同居人が部屋にいない事に気がついた。

彼はため息をついて呆れた後、机の裏に隠されたボタンを押す。すると、本棚が設置された壁でしかなかった場所が、横にスライドする。隠し扉だ。

開き終わってから、彼はのっそりとした動きで開いた扉の奥を覗いた。小さな電球一つだけついた隠し部屋。そこに、探していた、小さな同居人がいた。彼は椅子に座り、熱心に、黙々と男の物である銃をいじくり回している。

 

「楽しいか、それ」

 

男が尋ねる。すると、小さな同居人は手をピタッと止めて振り返った。

やや金髪に近い茶髪は眉のあたりまで伸び、その顔は東洋人風。目の色も黒色で幼い。されど、その目には何か力強さを感じる。まるで、あのVaultで必死に男を罵倒した夫のような。

 

「やぁ、ミスター。少し借りてるよ」

 

声も外観に沿うように幼いが、どこか知性を感じさせる。男はヌードルを二つとも手にすると、同居人のそばの椅子に座った。

 

「飯、買ってきたぞ」

 

「ありがとう。ちょっと今手が離せなくてね、そこに置いておいてくれないかな」

 

口元だけ笑い、そう言う同居人。だが、目は手元の銃から離そうとはしない。そんな幼い銃職人を見て、男は言う通り作業台の上に一つだけヌードルを置き、片方を食す。

 

「シアーの解放が遅くてね」

 

ヌードルを半分まで食した所で、同居人が呟いた。男は職業柄、それが銃の部品の事を指しているのだと理解する。

 

「撃発までに時間がかかると、そういうことか」

 

「その通り。おまけに板バネも劣化してる。でももう修理したよ」

 

そう言って、同居人は慣れた手つきで銃を組み立てる。すると、数秒でその銃は元の形へと戻った。男が腰に下げるのと同じ、.44口径のリボルバー。彼が組み立てた銃だった。

 

「いい銃だ。でも、使い方が荒い。あまりグリップで相手を殴らないほうがいい」

 

「ご忠告どうも」

 

返事はしつつも、幼い同居人が言ったアドバイスに内心驚く。調子が悪いからと、男はいつも使用するこの銃を家に置いてきたのだが。この子どもは、それを勝手に修理するばかりか、どんな使い方をしているのかも当ててみせたのだ。おおよそ、「温室で育ってきた」とは思えない。

 

「仕事は終わったのかな?」

 

「ああ」

 

会話は終わる。でもそれでこの同居人は満足なようで、修理した銃をテーブルに置くと冷めたヌードルを食べ始めた。

 

「思うに、熱すぎるのは胃に良くない」

 

「そうか。温かい飯が食えるだけでありがたいと思うもんだが」

 

「それがウェイストランドという奴かな?」

 

「かもな」

 

どうでもいい事をベラベラとよく喋るとは思う。だが、男に不満はなかった。むしろ、自分にもまだこうして人と話せるだけの感情があるのだと気付かされる。

 

「ご馳走さま。やっぱり落ち着いて食べるのが一番だ」

 

「今日もまたあの新聞屋の娘と話していたのか?」

 

「うん。中々賢い子だよ、彼女は」

 

「あまり目立つことはするなと言ったはずだが」

 

「人は人と話して初めて自分を認識できるのさ」

 

男の言葉にもこの同居人は恐れない。そればかりか、軽口で返すあたり、男のことを知るものが見れば命知らずとも見て取れるが。この同居人は男の事を信頼していた。

 

「さて、ミスター。残念だが、もう時間があまり無いようだ。今日も彼がここに『飛んできた』」

 

修理してもらった愛用の銃を弄る手が止まる。しかしそれもほんのわずか。男は吊り下げていた銃を棚に置くと、修理した方のリボルバーを腰に下げた。

 

「そうか。近いうちに来るとは思っていたが」

 

「寂しいかい?」

 

「ふ、いや」

 

男は鼻で笑う。それを見て、同居人も子どもらしからぬ笑い方をしてみせた。

 

「ならいいんだ。あんたが悲しくなると、こっちも胸がしめつけられそうになるからね」

 

「冗談、お前はそんな感情豊かな奴じゃ無いだろう」

 

「どうかな?親に似て、実はパッションに溢れているかも。……冗談さ」

 

今度こそ、二人は笑う。しかし、それも静かなものだった。

 

親子でも、親戚でも無い二人。不気味な笑い声は、夜でも賑わうマーケットの騒音にかき消される。




まさかの知的化。彼は、私の調教に耐えることができるでしょうか。
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