Fallout4 Gunslinger of the Commonwealth 作:Ciels
第十九話 ケンブリッジ、BoS
足を潰されてもがいているグールの頭を拳銃で撃ち抜く。それから辺りを見回せば、あの残酷で哀れな核による被害者達は一人残らず物言わぬ死体と化していた。俺はアルマとドッグミートのコンディションをチェックして異常が無いことを確かめると、改めてこちらを警戒しつつも銃は向けてこないパワーアーマーの紳士に挨拶をした。
「危なかったな」
そう言うと、紳士は訝しむ表情は変えずに答えた。
「支援には感謝する。だが一体何者だ?」
感謝はされたが、かなり警戒されているのが言葉からも読み取れた。俺はアルマと一度顔を見合わせ、お互いの認識共有を図る。長年夫婦でいると、こう言う時にアイコンタクトだけで通じるものだ。
「Vault111から来た。あんたらは?」
「Vault111だと?聞いたことがない。それに、あの犬と分隊員を呼び込む動作や号令……素人とは到底思えん」
どうやら、彼は一方的に話すのが得意な人物のようだ。こういう奴は上官によくいた。自分の必要な情報だけ聞いて、こっちの問いには答えてくれない。
だが、今はもう古き良きアメリカは存在しない。だから、俺も単に受け身でいれば良いってもんじゃないのだ。
「こちらの質問には答えないのか?」
意地悪そうにそう尋ねれば、紳士はあぁ、と言って自分の非を謝る。
「すまない、こちらも少々立て込んでいてな。私はパラディン・ダンス。Brotherhood of Steel……と言っても分からないだろうが」
どうやら彼自身は悪人ではないらしい。自分の非を素直に認められるあたり、人間ができているのだろう。
しかし困ったな。知らない組織が出て来たぞ。俺はアルマに確認を取るも、彼女も知らないようだ。当たり前か、きっと核戦争後に発足した組織なんだろう。
「すまないな、俺たちもつい最近Vaultを出たばかりなんだ。ここは一つ、助けた借りにそっちの事を教えてくれないか?」
「ふぅむ……それを言われれば弱いな」
「T-60やエナジーウェポンを装備した組織なんて、戦前のアメリカ軍くらいだ。少しは興味がある」
パラディン・ダンスは俺の言葉に驚いたらしい。しばし驚嘆の表情で固まると、彼は言った。
「ほう。少しは知識があるように見える。こちらとしても、そちらの素性に興味はある。ならば、一先ず警察署の中へと入ろうではないか。話はそれからだ」
彼はそう言うと、後ろに控える負傷兵と女性の兵士に声かける。どうやら負傷していた兵士の状態は良くなりつつあるようだが、まだ回復には程遠い。そりゃそうだ、スティムパック打っただけじゃ傷は治るが体力は回復しない。
そう考えると、アルマは頑丈だと思う。本人に言ったら怒られそうだが。
「今、なんか失礼な事考えたでしょ」
「ウゥ〜」
ジト目で攻めてくるアルマとドッグ。クソ、この犬め、お前までアルマの味方するなよな。さて、俺たちも署内に入ろう。
署内は戦後からあまり手をつけられていないのか、散らかり放題だった。ただ電力はまだ供給されているから明かりには困らない。彼らは玄関のベンチ等を利用して休憩所を設置し、休息を取っているようだ。
数分して、色々落ち着いたらしいパラディン・ダンス達。今はヘイレンと呼ばれている女性兵士が、痛がりながらも軽口を飛ばすリース隊員に包帯を巻いている。
「警察署に前哨基地を構えるのは悪くない。防御もそれなりに硬いし、見たところ弾薬もあるようだしな」
足元に転がる弾薬箱を足のつま先で小突いて言う。
「ああ。加えて屋根に通信用のアンテナも備えてある。これは思わぬ恩恵だった」
「それで?パラディン様はどうして援軍も呼ばずにこんなところに?それに、あんたたち一体何者なの?」
アルマが壁に寄りかかって外を警戒しながら訪ねた。パラディン・ダンスはパワーアーマー用の中衣に備え付けられているフードを外すと、答えた。
「こちらの素性を話す約束だったな。だが、こちらとしても時間が惜しい。いつまたあの忌々しいグール共が攻め込んでくるかも分からないのだ」
「と、言うと?」
「うむ。屋上にあるアンテナを用いて本部と連絡を取りたいのだが、故障している。修理しようにも部品が足らんのだ」
すると、アルマは外の警戒をやめて話に本格的に加わってきた。どうやら技術に明るい彼女はパラディンの話に興味があるようだった。俺としても、通信機材は専門じゃないから彼女に任せるとしよう。
「電波が飛ばせないの?それとも電源が入らない?」
「いや、電源も入れば電波も飛ばせる。ただ、広域に飛ばせないのだ。それに送信出力も安定しない」
アルマは一瞬考えた後、一つの回答を出した。
「ディープレンジ送信機が壊れてるね。だからアンテナ本体は無事でも出力が足らないから広域に飛ばせないんだ」
そう言うと、ヘイレンがリースの治療をしながら言った。
「そうね。でも困ったことに、核が落ちた時の電磁パルスで使い物にならなくなってる。代えの物がどこにあるかも分からないわ」
急に俺とドッグだけ蚊帳の外だ。俺はドッグを手招きして暇をつぶすように首元を撫でた。もふもふしてて気持ちがいい。ジャーキーでも食うか?うまいか〜。
半ば不貞腐れるように犬と遊ぶ夫を他所に、妻は話を進めた。
「ならアークジェット・システムにあるはずだよ。あそこはロケットの開発全般を担当してたから、送信機くらいあるはず」
アルマが次々と解答を出す。俺は犬と遊ぶ。すると、どういうわけか兵士達の空気が悪くなった。彼らは顔を見合わせると、言う。
「それが事実なら不味いな。あそこはつい先日にシンスの部隊が展開していたぞ」
ダンスが聞きなれない単語を口にする。
「なんだシンスって」
バカみたいな顔で俺が尋ねると、彼は答えた。
「知らないのか?インスティチュートが生み出した悪魔の兵器、人造人間だ。奴らは生きている人間を見つけると、執拗なまでに殺しにかかってくるぞ。我々も幾度となく交戦した」
「ロボット?プロテクトロンみたいな?」
「機械であるということは共通しているが、質が違う。部隊を組み、的確に、目的を持って行動しているようだ」
俺は手を挙げた。
「インスティチュートってのは?大学か?」
「分からん。奴らがそう名乗っていることしか情報が無いが、かなりのテクノロジーを保有している組織であることは間違いない。目的も分からん」
ガービーよ、連邦の平和はまだ遠いようだ。次から次へと問題が転がり込んでくる。
俺は手を止めて立ち上がると、背負っていたライフルを前へと手繰り寄せる。
「あんたらが助けを呼ぶにはその危ないアークジェットの工場に殴り込まなくちゃならないって事か。ふぅん」
「あまり乗り気じゃなさそうだな」
当たり前だ。仕事でもないのに戦いたくはない。それに、こいつらのことだってまだ信用しているわけじゃないのだ。俺はアルマと顔を合わせる。どうやら、彼女は個人的な興味を含めて彼らに同行したいらしかった。
俺はため息をつきながら、しかしパラディンの古き良きアメリカ軍人らしさに免じて渋々頷いた。
「分かった。話に乗ろうじゃないか。あんたらの事は道中にでも聞く」
ケンブリッジ市街を抜け、パワーアーマーを着用したダンスを先頭にアスファルトを歩く。本当ならこんな見つかりやすい道路上は歩きたくないのだが、いかんせんパワーアーマーの駆動音はデカイ。シンスっていうのは軍用に近い音響センサーを備え付けているらしいから、いくら道を外れて進んでも音でバレてしまうだろう。ならば、新型のパワーアーマーを盾にして進んだ方がよっぽどいい……それが、俺達夫婦とダンスで出した結論だった。ちなみにドッグミートはお留守番。
「つまりなんだ、あんたらBoSは戦前のテクノロジーを収集して保存するのが使命だと?」
彼の後ろで周辺を警戒する俺が尋ねる。
「そうだ。行き過ぎたテクノロジーは正しく使わなければならない。誤った使い方をすれば、また先の大戦のような事が起きてしまうだろう」
「まるでそっちが正しいみたいな言い方だね」
アルマが少しばかり辛辣に言った。
「その通りだ。我々の目的は、無碍の民を保護し、そのテクノロジーで発展させることにある。これが正しいと言わずになんと言おうか」
「へぇ。そりゃすごいね」
アルマという人間は、自分が正しいと思い込んでいる人間が嫌いである。単に彼女の我が強いというのもあるだろうが、とにかく彼女はBoSという組織に対して良い印象はないようだ。
でも、俺としては共感できる部分もあった。
「我々の行動が気に入らないという人間もいるのは分かる。だが誤解はしないでほしい、我々はレイダーやスカベンジャーではない」
大義の名の下に行動を起こす。きっと、彼もその危うさについては認識しているはずだ。それでも、自らの使命を全うしようとする精神は、かつてのアメリカに似ていると言って良いだろう。だからだろうか、彼に共感しているのは。
しばらく進むと、ようやくアークジェットの工場が見えてきた。
「あれがアークジェットだ。あそこからはここ数日、高度な技術によってのみ発射可能な電波とエネルギーが検知されている。断定はできんが、おそらくインスティチュートが絡んでいると見て間違いないだろう」
ダンスが言う。ちなみに、今の彼はヘルメットをしっかりと被っていて、防御は完璧だ。俺とアルマは彼の後ろに密着し、正面からの狙撃に警戒する。ここまで密着すれば生身の俺たちは狙えないし、撃たれても彼が盾になる。
「本当によく訓練されているなお前達は。いったいどこでその技術を?」
「アメリカ軍だ」
「なに?エンクレイブか!?」
「なんだそりゃ。違う、俺たちはつい最近までVaultで冷凍保存されてたんだ。あんたからすれば、俺たちはタイムスリップしてきたに等しい。いいから、正面をしっかり警戒しろ。あんたのヘッドセンサーが頼りなんだ」
仕事モードに入った俺がそう注意すると、ダンスも渋々了承して無言になる。