Fallout4 Gunslinger of the Commonwealth   作:Ciels

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第二十二話 パブリック・オカレンシズ、パイパー

 アルトゥーロの店で弾薬のみを購入し、先程の新聞記者であるヤバめの美人、パイパーがいるパブリック・オカレンシズへと向かう。いやぁ、ラーメンは食えるし弾は買えるしうちの商品が並んでるわで、良いことばっかりだ。

 店先では少女が台に登り、道行く人々にフリーペーパーを配っている。あの押し売り具合を見るからに、パイパーの血縁者だろう。

 

「最新号のパブリック・オカレンシズはもう読んだ!?シンスに関する記事が載ってるよ!」

 

 少女が半ば叫びのように宣伝しているので、俺も一部貰うことにする。

 

「一部貰おうかな、嬢ちゃん」

 

 そう声をかけると、少女は手にする新聞を渡してきた。その際台から落ちそうになるが、なんとかバランスを保つ……中々可愛い子だ。ロリコンではありません。

 その場でアルマと一緒に新聞を眺める。これは中々、記者を名乗るだけはある。しっかりと文章は練られているし、昔と比べても遜色がないくらいの出来だ。紙は少し荒いが。

 タイトルはシンスの真実。どうやらダイアモンド・シティで昔シンス絡みの事件があったらしい。なるほど、こうしてシンスは連邦において敵視されるようになったと。

 

「パイパーはいるかい?彼女に呼ばれて来たんだが」

 

 ざっと見て、少女にそう尋ねる。

 

「中にいるよミスター」

 

 彼女に礼を告げ、俺とアルマは中へと入る。ドッグはステイ、店先に待たせた。流石に人の家に入るときくらいは中に待たせる。渋った様子だが、アルマが言い聞かせるとしっかり待つもんなこの野郎。

 中に入ると、外装から想像できた内装が広がっていた。トタンや何かの外壁を繋げて作った家は、狭いが住むのには適している。そもそもこのご時世だ、贅沢は言ってられない。むしろ、サンクチュアリが出来すぎている。

 

「パイパー」

 

 コーヒーを飲みながら何かの本を読んでいるパイパーに声をかけると、よほど読書に集中していたのか彼女は驚いた様子で立ち上がった。そして強気な表情から生み出される笑みを持って、俺たちを迎え入れる。

 

「ああブルー達!よく来たね、ささ、座って!」

 

 そう言って彼女はボロボロのソファーを指差す。俺とアルマは顔を見合わせ、コーヒーを用意しているパイパーに質問した。

 

「ブルーってなんだ?」

 

「だって、そうでしょ?Vault出身って言ったら、あの青い服着てるじゃないか」

 

 俺たちは少しだけ驚きながら、

 

「どうして俺たちがVault出身だってわかったんだ?」

 

「だって、歩き方が違うもの。背筋はピンと立ってるし、歩き方もとてもウェイストランド人とは思えない。ほら、座ってよ」

 

 合ってるっちゃ合ってる。でもなパイパー、俺たちの姿勢が良いのは長い軍生活から来るものだし、歩き方だってそれに付随して得たものだ。正直Vaultは関係無い。ていうか、体感的に1日もいなかったしな、あそこには。

 何はともあれ、座ってと言われたんだから座る。二人で並んでソファーに腰掛けると、パイパーがカップに入ったコーヒーをこちらに差し出した。それを受け取る。パイパーは向かい側に座り、

 

「さて、早速取材させてもらっても良いかな?Vault出身者なんて早々取材できるものじゃ無いし」

 

 そう言うと、彼女は懐から手帳とペンを取り出す。こだわりがあるのか、ペンは中々質の良さそうな万年筆だ。

 俺はアルマと顔を見合わせる。お互い確認を取る、いつもの行動だ。

 

「いいぞ。そのために来たようなもんだしな」

 

 パイパーはにんまりと笑う。よっぽど取材できるのが楽しいのか。ちょっとした狂気だ。

 

「んじゃあまず旦那さんから。あ、夫婦だよね?」

 

「ああ」

 

「それじゃ。おほん、じゃあまずお名前は?」

 

 第1問目から、俺とアルマは若干困った。だって、俺たちはサンクチュアリ・シティの重鎮だし、ミニットメンを率いる幹部でもある。むやみやたらに名前を広められては困ってしまう。いや、なら最初から取材なんて受けるなと言われればそれまでだが。

 

「あんたには名前を教えるが、記事にはしないでくれ。あんまり名前を広められない立場でね」

 

 時代が変わっても同じか。仕事や役職のせいで表には出られない。まぁ、特殊部隊時代はもっと雁字搦めだったが。恐らく、アルマが元軍人で俺が教え子でなかったら、彼女に自分の仕事すら教えられなかっただろう。それほどまでに、JSOCや海軍特殊戦コマンドというのは闇が深い。

 パイパーは少し口をへの字にして考えた後、渋々了承した。

 

「俺はハーディ・カハラで妻がアルマ」

 

「どうも〜」

 

 アルマ特有の笑みで挨拶する。俺と違って彼女は人当たりが良いし、印象も違う。俺?コミュ障。

 パイパーはメモすると、

 

「それじゃあカハラ夫妻。Vaultではどんな生活を?」

 

 ああやっぱりそう来るか。そうは言っても俺たち氷漬けにされてただけだしなぁ。

 

「あー、パイパー。ごめんね、私たちVaultから来たのは間違ってないんだけど、色々あってほとんどあそこじゃ生活してないんだよね」

 

「え?そうなの?できればそこも詳しく聞きたいんだけど」

 

 でしょうね、仕方ない。ここは話しても別に良いだろう。あのVaultはもう存在しないと言っても過言ではないんだから。

 

「冷凍されてたんだ。核が落ちる直前にVaultに避難して、つい最近まで冷凍保存されてた。了承無しにな」

 

 あの時のことを思い出す。人を実験材料としか思っていない、あの胸糞悪い研究者共。そして、国。あれだけ国のために戦ったのに……まぁ、結果として生き残れたが。

 

「ってことは、実質200歳は超えてるってこと?すごいね、そうは見えないよ」

 

 突拍子も無い話にも、パイパーは真剣にメモを取る。 なるほど、ウェイストランドに暮らす人々は柔軟な思考をしているようだ。

 

「戦争が起きる前は何を?仕事とか、色々」

 

 戦争っていうのは、あの核が落ちた時の事を言っているのだろう。戦争自体はアラスカやら中東でしょっちゅうやってたしな。

 

「私は主婦しながら法律系の資格を取ってて、弁護士にでもなろうかなって思ってた所だったよ。ハーディは……うーん」

 

 アルマが言って良いか悩んでいる。核が落ちる前なら言っちゃいけなかっただろうけど……まぁ、もうアメリカ政府があるとは思えないし、別に良いだろう。

 アルマを手で制すると、答えた。

 

「軍人をやってた」

 

「へぇ、アメリカ軍ってやつ?空軍とか海軍とか、色々あったんでしょ?本で読んだよ」

 

 なるほど、彼女は勉強家のようだ。中々知識があるようで説明するのが楽だよ。俺は頷いて、

 

「海軍だったよ」

 

「階級は?」

 

「大尉。あと数年すれば少佐だっただろうね」

 

 さすがに少佐にでもなれば前線行かなくて住むと思ってた時代が僕にもありました。あの部隊では階級は関係ない。むしろ、責任は増えるし。実際、他の小隊で40台手前の少佐が前線に出て戦死してたってのを聞いた。

 

「へぇ、エリートだ!やっぱり、船とかに乗ってたの?」

 

「場合によっては。でも、地上戦が多かったよ。時期が時期だし、中国軍が中東やアラスカを攻撃してたから」

 

「海軍なのに陸にいるの?ふーん」

 

 何やら腑に落ちないといった様子で彼女は手帳に書き込む。まぁ、軍事に疎い人は海軍と言われれば船というイメージがあるんだろう。Sea, Air, Landの略であるSEALsにいれば、空から降下する場合もあるが。むしろ、アンカレッジではそっちの方が多かった。

 

「じゃあズバリ、ここに来た目的は?」

 

 パイパーが核心を突いてくる。

 

「「息子を探すため」」

 

 俺とアルマの声が重なる。打ち合わせなんてしていない、これが俺たちの目的だからこうなることは当たり前だ。その異様さに、パイパーはちょっとだけ引いた。

 

「えっと、息子さんがいないの?」

 

「ああ。誘拐されたんだ、クソ。まだ生まれたばかりだ」

 

 あの時の光景が蘇る。あのハゲ頭の男、そして撃たれるアルマ。何もできない自分。感情までもがフラッシュバックし、拳が痛くなるほど握りしめた。

 そっと、アルマが俺の拳に手を重ねた。暖かい、血が通った掌が、俺の心を温める。

 

「ひどい……ねぇブルー。あなたはその誘拐に、インスティチュートが絡んでいると思う?」

 

 俺は首を横に振った。

 

「分からん。情報が少なすぎる。ダイアモンド・シティに寄ったのはその情報を得るためだ」

 

 そう言うと、パイパーは何か心当たりがあるのか頷いた。

 

「なるほどね……よし、じゃあ最後の質問ね。あなた方夫妻は、今の連邦を見てどう感じますか?」

 

 今の連邦。昔の面影を残しつつも、ウェイストランドとまで呼ばれるようになってしまった、変わり果ててしまった愛する国。人々は日々生き残るために努力し、それを奪おうとする者もいる。その中で、弱き者を助けようと足掻く者もいる。

 俺は、今もサンクチュアリで指揮をとる友人の顔と言葉を思い浮かべる。

 

ーーところで将軍。将軍、厄介なことが……また居住地から……

 

 あれ?俺やたらとこき使われてね?いや、ダメだ、今はそのことを忘れろ。

 

「何もかもめちゃくちゃだが、それでもなんとか生き延びようと人間は必死になって生きている。それを見ると、少しは希望が湧くよ」

 

「そうだね。失ったものはもう戻らない。でもね、そういうものなの。だから、一からやっていくしかない……私たちみたいにね」

 

 それを聞いて、パイパーは笑顔を取り戻しながらメモをする。これが何かの役に立てば良いが。

 書き終えたパイパーは立ち上がり、腰を伸ばすと言う。

 

「さて!取材はこれでお終い!ありがとね、時間を割いてここまでしてもらって」

 

「いや、こっちこそコーヒーありがとう。それじゃ、元気でな」

 

 コーヒーを飲み干し、俺とアルマは家から出ようとする……が、なぜかパイパーもリュックサックを背負って付いてこようとしている。見送るならそのままの格好でも良いと思うんだが……

 

「なんだ、どっか行くのか?」

 

「うん。だって、情報が欲しいんでしょ?なら私が適任かなって」

 

「ん?」

 

「ん?」

 

 3人とも首を傾げる。

 

「まぁいいや、付いて来てよ。丁度こういうのに詳しい知り合いがいるんだ」

 

 そう言って俺たちを差し置いて家を飛び出すパイパー。何が何だかよく分からないが、手を貸してくれるらしい。

 俺とアルマは少しだけ困惑しながら、勝気でマイペースな赤い美人について行く。一体なんだってんだ。

 


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